メロスその後
群衆の割れるような歓声の中、王は我に返った。
(メロスを帰して良いのか?)
暗殺を企てた罪で死刑になりながらも、友人を身代わりにして数日刑を猶予されたメロス。
そして数日後、彼は約束を守り戻ってきた。
――処刑されるために。
そして、場の空気に飲まれるように口を開いた彼だが、為政者としての自分の行動をふと冷静になって反芻していた。
ここでメロスを放免にすると、次に私を暗殺に来た人間はどうしなければならない?
――前例に従うのが法。
ならば、次の暗殺者も友人を身代わりに立て、約束を守れば暗殺の罪は免除しなくてはならない。
もし暗殺が成功すれば、その時点で国家は転覆し、暗殺犯は英雄になり無罪となる。
――つまり、ノンリスクで王を暗殺し放題。
……確実に此れは やばくね?
冷静な為政者に戻った彼はトーンを落とし口を開く。
「これより、メロスの処刑を行う」
王の発言により、兵士達により縛り上げられ処刑台に引き回されるメロス。
無罪放免を信じていた群衆やセンティリヌスからどよめきが上がる。
「なぜですか!? 私は約束を守りました」
叫ぶメロスに王は答える。
「お前は約束を守った。
――だから私も約束を守り、親友でなくお前を処刑するのだよ」
王の完璧な理論にぐうのねも出ないメロス。
唖然とする彼に向かって王は更に続けた。
「暗殺は重罪だは。感動したと言っていちいち許していたら国は滅茶苦茶になってしまう」
合掌。
これが法治国家と言うものです。