転生した乙女ゲームの世界に別のゲームが混じり込んできた!ので、逆ハーレムルート途中放棄して魔物マスターめざします!
転生した乙女ゲームの世界に別のゲームが混じり込んできた!ので、逆ハーレム途中放棄して魔物マスターめざします!
「え?辺境の森に魔物がでるんですか?」
アリスは身を乗り出すようにして、魔術師長のカインに詰め寄った。
「ああ、非公開ではあったんだけどちょっと前からね。ようやく魔物を捕獲するための魔術具が完成して…」
「その魔物が、今日、辺境から王都に運ばれてきたんだ。危険だから魔術師棟にいるんだが…アリスも見に行くかい?」
そう続けたのはこの国の第三王子であるアラン殿下だ。
いつも魔術師棟にこもっているカインがめずらしく城に出てきているから何事かと話しかけてみたらそういうことらしい。
ちなみにアリスは城に行儀見習にきていた。
この国の貴族の娘たちは社交界デビューを済ますと、こうして滞在手形として城に行儀見習いをし、そのあいだ結婚相手を探したり人脈作りを勤しむことが慣わしだった。
アリスもこの口で、目の前にいるアラン殿下、カイン魔術師長の他に、騎士団の小隊長、宰相の長男、隣国の王太子から求婚を受けている真っ最中だ。
貴族としての爵位は伯爵だが貧乏、顔もまぁどちらかというと可愛いかな程度。全体としては中の上。その程度のアリスのまわりになぜそんなにイケメンが集まるのかと、他の人々は首をかしげて遠巻きに見ているが、アリスは別に不思議には思っていない。
なぜなら、ここはアリスが前世でやりこんだ乙女ゲームの世界だったからだ。
前世ゲーマーだった悪癖から目指すは難関の逆ハーレムルート!
ようやく全員のイベントを完了し残すは最終章、というところに、この魔物の存在という前世でプレイをしたゲームでは出てこなかった異分子が割り込んできた。
見に行くかと聞かれたら、見に行くしかない。
この異分子が今後どう逆ハーレムルートに関わってくるのかをアリスは確認しなければならないのだ。
「私も気になるので、是非とも連れていってください!
」
「のあああああっっつ!!!」
アリスは、いまままで被ってきた猫も逆ハーレムルートも放りなげるように奇声を発した。
結論からいうと、この魔物という異分子の登場は、アリスがこつこつ積み上げてきた逆ハーレムルートへの努力を一瞬で水の泡に帰したのだ。
前世でこのシーンを画面へだててみていたら選択をどこかで間違えたのだろうとロードボタンを押すだろう。
「アリス!?いきなりどうしたんだっ?!?」
「あぁ、アリスみたいなか弱い女性を魔物の前に連れてくるのはまずかったんじゃないだろうかっ」
「アリスを誘ったのは殿下ですよっ」
「ふぉぉおぉかわいあいい!!」
そこにいたのは、毛並みは黄色くて、ウサギみたいな長い耳にジグザグに曲がったしっぽ、真っ赤なほっぺたをもった魔物がいた。ぽっぺたからはかすかに放電してるかのようにピリピリと音を立てていた。
生まれてこの方魔物なんて見たことがないアリスだが、前世でこのビジュアルは腐るほど見てきた。
前世でこの魔物は、世界的に有名で日本中で愛された、ゲーム上のキャラクターだった。
その名もピカチー。
アリスはその魔物に駆け寄るとそのまま両手で力一杯抱き締めた。頬擦りもめいっぱいする。
後ろの二人はあまりのアリスのかわりようにおののいている。だが知るかっ!
「ピカチーだ、ピカチー!かわいいいいいいいいい!!!」
「ぴっ!!?ぴか、ちーーー!!」
ピカチーは驚いたのか、電気攻撃をしかけてくるがアリスの魔術属性は草タイプ。
効果はいまひとつのようだ。
アリスが満足して手を放す頃には、ピカチーはMPもHPも残り少なくなっていてテーブルの上でぐったりしていた。
「カイン、もしかして魔物の捕獲の仕方って、球体の魔術具使うんじゃないの??」
「あ、あぁ、球体の魔術具を魔物に当てると拘束魔法が展開されて捕獲できる。そして、その魔物が入った魔術具に持ち主の魔力をしばらく注ぎ込めば魔術具に仕込まれた服従魔術によってその魔物を使い魔にできる仕組みになっている」
カインはテーブルの上に突っ伏したピカチーを見て怯えている。確実に恋する男の顔は消え去っていた。
「ねぇ、アラン殿下?もしかして研究のために、これから辺境の森に魔物を捕獲するための方々を派遣するんじゃなぁい?」
「あぁ、魔物を研究しているオーキッド博士が有志を募集していたよ。なんでも博士が捕獲した魔物を使える人が良いらしい」
流石は王族。カインと違って声は震えてないし笑顔を向けてはくれている。だが、その笑顔は出会って間もなかった頃のよう。大衆に向けるものと同じ作り物の笑顔になっていた。
この数ヵ月で縮めてきた二人との距離は一気にふり出しに戻ったようだ。
だが、少しも寂しくない。ピカチーさえいればべつに男なんていなくても構わなかった。
「決めたわ!わたし、魔物マスターになる!」
魔術具で捕獲するのは魔力を持たない人間でも可能だが、拘束したあとに服従魔術となると持ち主にも魔力が必要だった。
そして、この国に魔力を持つものは少ない。その少ないうちの一人がアリスだった。
おあつらえ向きのこの展開にアリスは運命を感じずにはいられない。
「アリス…」
男二人は遠い目をしている。
「…私に出来ることがあったら言ってくれ」
「魔術師団からも支援はさせてもらう。頑張ってくれ…」
こんなに引きつつも優しい言葉をかけてくれるのは、仮にも一度は惚れてしまった相手だからだろうか。求婚したことをなかったことにして城から放り出したいだけとはなんて思わないでもないが。
まあこうして、アリスは逆ハーレムルートを放り投げて魔物マスターを目指す旅に出れることになった。
あこがれの、マサラ王都にさよならバイバイ、俺はこいつと旅にでる(ぴかちー!)だ。
それから何年か経ち…
アリスが作成したり考案したマモノ図鑑、分布図、色々な魔術具は、魔物トレーナー達の旅に欠かせぬものになっていた。魔物マスターにはなれなかったが旅を終えたアリスはオーキッドの後を継ぎ、次の世代の若者に捕獲済み魔物を配り、図鑑を配布し、旅へ送り出して魔物トレーナー時代を築き上げてきた。
そして、そのアリスの活躍の裏にはいつも王侯貴族、魔術師団、騎士団、隣国の支援があって、途中放棄した逆ハーレムルートへの頑張りも無駄ではなかったんだな、とアリスは思ったのだった。
end