つばさの生えた少女と不注意な鳥
ある時代のある町にリーニという名前のつばさの生えた少女がいました。つばさは切っても次の日には再び生えてくるので、リーニは毎朝つばさを切りおとすのでした。
ある雨の日のことです。
いつものようにリーニがナイフでつばさを切り落とそうとしていると、自室の窓に一羽の鳥が降り立ちました。
「やあやあ、はじめましてお嬢ちゃん。つばさが濡れてへとへとなんだ、どうかきみの部屋で休ませてくれやしないかい?」
掲げられた鳥の両腕はぐっしょりと水に濡れています。リーニが窓から中に入れおやつのビスケットを差し出すと、鳥は嬉しそうに啄ばみました。
「おお、これはありがたいね。それにしてもきみはもしやその、背中にある立派なつばさを切ろうとしてやいなかったかね?」
リーニが頷くと、鳥は目を丸くさせました。
「おお、なんとおそろしいことを!………さてはきみ、そのつばさで飛んだことがないのだろう? 一度でもあるならばそれがどれほど素晴らしいものか分からない筈がないからね」
そういうと鳥は空を飛ぶ喜びを語りだしました。身を切る風の冷たさ、青い空に白い雲、眼下に広がる町並み……。情感たっぷりに唄いあげた鳥は自慢げにリーニを仰ぎます。しかし鳥の期待に反してリーニの反応は冷めたものでした。
「そうなの。でも、わたしは別に飛ぼうとは思わないわ」
「なぜ!」
「なぜ?今の生活にじゅうぶん満足しているもの」
少女の言い分を鳥は理解できませんでした。裏切られたとばかりに鳥の腹の底から腹立たしさが湧きだします。
「せっかく教えてやったのに、なんて分からず屋な娘なんだ。そうか分かったぞ、おまえのそのつばさは、ほんとうは動かせやしないのだろう? ふん、出来損ないは地を這っていればいいさ」
そう言い捨てて鳥は窓から飛び立とうとしました。しかし鳥はなにかにぶつかり、衝撃で転げ落ちました。鳥が出ようとする直前、リーニがぴしゃりと窓を閉めたのです。
リーニは床の上で目を白黒させている鳥の首をつかみあげ、不愉快そうに言いました。
「わたしはね、雨に濡れて大変だと訴えるあなたをかわいそうに思ったから部屋に入れてあげたのよ。それなのにひとに散々文句をつけたかと思えば、挙句出来損ない扱いするなんて、一体何様のつもりなの」
「 わたしはなにも間違ったことなど言っていないさ。飛べないおまえは鳥未満のできそこないじゃないか」
「ええそうね、わたしは鳥じゃなくて人間だわ」
少女の冷え切った声に良からぬ空気を感じ取ったのか鳥はばたつきだしましたが、少女は鳥の首をキュッと締めました。
「あなたみたいな恥知らずな鳥は焼き鳥にしてしまいましょう」
鳥がわめくのも無視し、リーニは鳥を丸焼きにして食べてしまいました。意外にも美味しかった鳥の肉に溜飲を下げたリーニは記念にと毟った羽のひとつをペンに仕立て、部屋に飾っているということです。