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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神様少女「アマテル・アマネ」(読み切り版)

作者: 虚空

お久しぶりです。


虚空です。


今回は読み切りのオリジナル作品を書いてみました。


魔法少女物と日本神話を組み合わせてみました。


リハビリも兼ねています。


出来れば暖かな目で見守ってください!


ちなみにこの作品においての設定ですが、禍津神とは祟り神・悪神・疫病神など人に災いをもたらす神の総称としています。


他にも一部近代の神が登場しますがあまり気にしないでもらえると嬉しいです。

「ふぅ……これで終わり」


広い弓道場の中で私は部活で使う弓の入った箱を置き一息つく。


「イサナちゃん……今日も来なかったな」


私 神楽坂 天音カグラザカ・アマネは中学の時からの親友である 神薙 伊耶那カンナギ・イサナの事を心配していた。


彼女とは中学の時からの付き合いだが私は彼女の事を親友だと思っている。


「今日で1週間か……」


彼女と連絡が取れなくなって早1週間流石に不安ばかりが積もる。


「もう暗いから速く帰らなきゃ」


外を見回せば既に日は沈み辺りを闇が覆っていた。


私が鞄を背負い帰ろうとしたその時、


「ミ…ツ…ケタ」


まるで地の底から響くような掠れた声が聞こえた。


「え?」


天音が辺りを見回すと先ほどまでの道場ではなく闇が支配する暗闇の世界だった。


「うそ…何…これ?」


そして自分の目の前に存在する黒い靄から再び声が聞こえる。


「ミ…ツ…ケタゾ…アマテラス!!」


怨嗟の叫びをあげながら靄は天音に襲い掛かる。


「ッ!?」


天音はあまりの恐怖に眼を瞑ると同時に首から下げたペンダントから閃光がはしる。


「…ん…あれ?」


眼を開けると先ほどまでの闇の中ではなく光放つ美しい白亜の社と社へと続く池の水面に浮かぶ着物を着た美しい女性の姿があった。


『我が名は…天照』


艶やかな銀糸の髪と額にある太陽を象った黄金の飾り、曇りなき白磁の如き肢体の清冽な姿の天照と名乗る彼女の姿は…、


どこか自分とよく似ていて何故か初めて会ったような気がしない。


『妾の血をひく神子よ…汝の名は?』


天照は優しげな笑みを浮かべながら天音に問う。


「あ…天音です」


まるで幼い頃に聞いた母親のような暖かみのある声に天音は戸惑いながらも答える。


『ふむ…良い名だ…天音よ…先ほど汝に襲い掛かって来た者の名は禍津日…と言う』


天照は優しくも威厳のある口調で黒い靄の正体を語る。


「マガツヒ?」



『左様…奴らは禍津日神という穢れ神の欠片より産み出されし黄泉の尖兵』


「黄泉の尖兵?」


『詳しく教えてはやりたいが…今は時間が無い…天音』


「は…はい!」


『奴らの目的は人の絶望を集める事と光を闇に堕とす事だ…このままではお前は禍津日に殺される』


天照は驚愕の事実を告げる。


「何でッ!?」


告げられたあまりの事実に天音は叫ばずにはいられなかった。


『戸惑うのも無理は無い…そこに付け入るようで悪いがお前の着けているペンダントは神器・八咫鏡であり妾の力と分霊わけみたまが宿っている』


天照は申し訳なさそうに顔をしかめながらも説明を続ける。


『太陽神たる妾とその血を継ぐお前は奴らにとって最も忌むべき者』


「そんな…」


『だが妾の血を継ぐが故にお前が妾の依り代となれば妾の力を使い奴等を祓う事が出来る』


「依り代?」


聞いた事の無い言葉に天音は疑問を浮かべる。


『解りやすく言えば妾と汝が合体し妾の力を使う事じゃな』


「合体ッ!?」


『あくまで妾の力を使うためじゃから人格が変わったりはせぬよ』


天照は何でも無いかのように宣う。


『それにもしかするとお前の友も巻き込まれている可能性がある』


「イサナちゃんが!?」



天照の突然の言葉に天音は叫ぶ。


『妾はお前の身に付けている神器を通して現世を見る事が出来てなお前と同じく神の血をひく者の波動をあの娘から感じたのじゃ』


「イサナちゃんが…私と同じ?」


頭の中に彼女の姿が過る、


幼かった頃から自分を助けてくれた彼女を思い出す。


『可能性があるだけで…絶対ではないぞ?』


日常から突然の非日常へ、そして迫られる決断と驚愕の事実に彼女が選ぶ答は……、


「戦うのは…恐いです…でも…何も出来ずに終わるのはもっと恐いです!」


涙を浮かべ、身体を震わせつつも彼女は決意に満ちた強い眼差しで天照に応える。


『それが…汝の選択だな?』


「はいッ!」


暫し沈黙が続くが…、


『よかろう…汝の持つ鏡をを出しなさい』


天照の指示に従い天音は胸元の鏡を外し天照に差し出す。


『汝…我が言霊に従い邪を祓うかんなぎとなり魔を退ける事を誓うか?』


「はい」



『ならば…我が力を受け入れよ』


差し出された鏡に天照が触れたその時、


ー輝ー


天照の光を鏡が吸収し、突如掌の上に乗る程度の大きさであった鏡は全身を映す姿見程の大きさとなり天照と天音の間に立つ。


そして鏡の中に映る天音に変化が起こる。


「私が動いている?」


鏡の中の天音が手を差し出し誘う。


『それは私の力の塊であり…汝の写し身じゃ…手を触れ受け入れよ』


恐る恐る天音は鏡の中の自分と手を会わせる。


すると、


ー沈ー


まるで水面みなもの様に波紋を起こし、天音の手は沈み行き鏡の中へとその身を潜らせる。


「え…此処は?」



その風景は深い海の中の様でありながらも周りに浮かぶ泡がキラキラと輝き光溢れる幻想的な世界であった。


恐れないで…


「え?」


たとえどれ程暗く深い闇の中でもきっとワタシは貴女の味方だから…


突如聞こえてきた声の主の方を振り向くと、


「もう一人の私?」


私は貴女の血の中に眠る力…


貴女(私)と会えるのをずっと待っていた…


自分と同じ姿でありながらもその髪は雪のように白く、


小柄でまだ幼さを残す身体には巫女服と弓胴着を混ぜたような衣を身に付け、


胸当ての上には首から下げられた鏡のネックレスと白く大きなリボンでポニーテールに纏められた髪を持つ天音の姿がそこにあった。


「貴女が私の力…」


天音は意を決し、白の自分へと訴える。


「お願い! 私と一緒に戦って!」


天音の想いに白の天音は、


手を合わせて…


右手を差し出す。


「うん」


それに従い天音も右手を伸ばしお互いの掌が合わさる。


その瞬間、


「キャッ!?」


合わさった右手から何かが自分の身体へと流れ込む感覚を感じると同時に目の前の白の天音の身体が徐々に薄く透けていく。


「か…身体が!?」


大丈夫…私はあるべき場所へ戻るだけだから…心配しないで…


「でも!」


ありがとう…でも…これで私は貴女(私)の力になれる…


私は何時だってココにいる…


だから…呼んで! 私を!


白光纏衣びゃっこうてんい!『天照』!!」


その声は深海のように静かな世界に響き渡る!


それと同時に世界に亀裂が生じ砕け散る。


忘れないで…私は何時だって貴女の中(此処)にいる…


「忘れないよ…絶対に…」


世界が砕け視界が再び光に包まれた後に眼を開けると、


『戻って来たようじゃな』


目の前に天照の姿があり、自分の後ろを指差す。


それに従い振り向くと、


所々亀裂の入った姿見の中に映る自分の姿が見えた。


その姿は白の自分に似ていて、


黒だった髪はまるで雪のように白く染まり、大きな白いリボンでポニーテールに纏め。


身体は巫女服と弓胴着を合わせたような着物にコートの裾のように長い腰布は帯で止められ、ピッタリと腰から膝上までを覆うスパッツ。


肩口の布はなく二の腕辺りから手首まで伸びる白い袂、を小さな鈴の付いた飾り紐で結ばれており。


右手には指先から肘までを覆う紅を基本色として所々に白で装飾された籠手。


黒い胸当ての上には光を宿した鏡のネックレスが輝く。


右手に持つのは白木の梓弓。此処に神の力を受け継ぐ少女『神様少女』が誕生した!


そして亀裂の入っていた鏡が音も無く砕けると破片全てが光の欠片となり天音の鏡へと吸い込まれていく。


すると鏡が輝きその姿を太陽を模した装飾を施された物へと変える。


『さて…そろそろこの世界も時間切れのようじゃな』


天照の言葉と共に世界に揺らぎが生じ薄れていく。


『力の使い方はもう知っているな?…こんな事でしか力になってやれなくてすまない…』


どこか悲しげな口調で天照は語る。


薄れていく世界の中で最後に天照は告げる。


『その身に宿した光で闇を祓え我が神子よ!』


白き世界が晴れ 目覚めた天音の目に写るのは、


『オォッ!…オノレェ!!』


光の壁にその身をぶつけながら呪詛の念を吐き出す禍津神の姿であった。


『恐れるな! その程度の闇など汝の敵ではない!』


その醜悪さに震えそうになる天音に天照が渇を入れる。


『汝の纏う神衣カムイはあの程度の穢れなど容易く弾く! その手に持つ弓で奴を射て!』


天照の言葉に従いその手に持つ白の梓弓アズサユミを構えると、


ー光 纏ー


弓が光を纏い己が何をするべきなのかを本能的に理解する。


天音が弦を引き絞るとそこに光の矢が生まれ、


『その矢は破邪の矢であり汝の意思そのもの さぁ放つのじゃ!』


天照の啓示を受け矢は放たれ鮮やかな一筋の閃光となり闇を貫く。


『ギャアァァッ!』


光に貫かれし闇はその姿を霧散させながらも呪詛の念を吐き出しながら告げる。


『アノ…オトコ…トイイ…キサマ…マデ…ダガワレラハ…ツネニキサマラヲミテイルコトヲ…ワスレルナ』


その言葉を最後に形を無くし闇に融ける。


「私…勝てたの?」


緊張が解けたのかへなへなと力無く床に座り込み辺りを見回す。


『ふむ…まぁ…及第点と言った所かの? ところで…時間は大丈夫か?』


天照に言われ道場の掛け時計を見ると、


「にゃ〜! ウソ! もう10時!?」


普段の門限の時間を既に大きく過ぎており、大慌てで自分の荷物を引っ掴んで駆け足で帰路へと着く天音であった。


そして大きな鳥居を潜り足音を起てないように忍び足で社の中にある日本家屋の玄関まで近付きゆっくりと戸を開ける。


「気づいて無い?」


天音はホッと一息つくが、


『そうでもないみたいじゃぞ』


天照の一言が天音を凍らせる。


「おかえり…天音」


天音はまるで錆びたブリキのようなギギギという音を鳴らしながら声のした方を向くと、


「随分と遅かったね」


神主の服装に身を包んだ男性が天音を笑顔で迎えるがその眼は笑ってはいなかった。


「お父さん…」


「遅くなるならせめて連絡くらいはほしかったかな?」


口調は優しいが僅かに怒気が込められていた。


『まぁ そう怒るな陽太よ…天音が遅くなったのは妾のせいでもあるのじゃ』


突如天音の胸元の鏡から光が溢れそこから2頭身で若干人形を彷彿させる姿をした天照が顕れる。


「貴女様はまさか…天照様でしょうか?」


突如現れた天照に驚くが神主としての本能がその小さな身から放たれる大きな力を感じ取りその正体を理解する。


『そうじゃ…まぁ厳密には天照の分霊じゃがな…今のこの姿の時はミニテルとでも呼ぶが良い』


「詳しい御話しは本殿で御伺いしても宜しいでしょうか?」


『うむ…案内を頼むぞ』


「はい…此方です」


天音の父が先導し二人は本殿へと案内される。


そして上座に座るミニテルは天音の父 陽太に語る。


『…と言うわけじゃ』


「まさか…天音が神子に選ばれてしまうとは…」


陽太は沈痛な面持ちで頭を抱える。


『すまぬな…妾としても愛しき神子にはこのような重荷を背負わせたくはなかったのじゃが…』


「天音の御役目…私が代わる事は出来ないのでしょうか?」


悲痛な面持ちで陽太は問い掛ける。


『すまぬな…妾も子を持つ身故に汝の気持ちは解る…じゃが先祖返りであり強大な力を秘める天音でなければ勤まらぬのじゃ』


血の繋がった己の子孫に重荷を背負わせてしまう事に罪悪感が伸し掛かり彼女の顔を歪ませる。


「天音…君はそれでいいのか?」


陽太は命の危険のある場所へと向かおうとする我が子に問い掛ける。


「本当は凄く…恐いよ…でも! 私は友達を…イサナちゃんを助けたいの!」


幼い頃から今までずっと自分を助けてくれた彼女。


恩人でもあり、あのクールな姿に憧れを抱いていた彼女の姿を脳裏に描く。


戦う事に恐れを感じつつも彼女は強い意思を秘めた瞳で父に想いを示す。


娘の瞳に強い意思の力を感じた陽太は、


「わかりました…ですが…天照様…不敬ではありますが何卒我が願いを聞き届けては戴けないでしょうか?」


本来ならば神に意見するというのは神主としては不敬にあたる行為だが、陽太は覚悟を決めた眼で天照に訴える。


『聞こう…』


「神職に就く我が身ではありますがどうか…娘の命を御守り下さい! 」


それは父としての真摯な願い、


人知れず続いてきた神々の戦いに神子として戦うのは神職に就く者としては名誉だが年端もいかぬ己の娘を戦場に出す事に躊躇わぬ親はいないだろう。


ならばせめて娘が無事に帰って来てくれる事だけでも願おう。


『確約は出来ぬ…じゃが出来る限り天音を護ろう』


天照は陽太の真摯な訴えと子孫への愛情に応える。


「ありがとうございます」


彼は深く頭を下げ、感謝を表す。


『天音…辛い事を押し付けてしまいすまぬが汝の力を妾に貸してくれるか?』


天照はその小さな写し身からは想像も出来ない程の力の波動を放ち天音の覚悟を問う。


「はい!」


天音はそれを真っ向から受け止め己の決意を示す。


『うむ…良い応えじゃ…よろしく頼むぞ天音』


天音の示した応えに天照は満足げな笑みを浮かべる。


そして彼女の戦いはこれから始まる。


禍津日神の欠片が人々の負の念を喰らう事によって生まれたマガツヒを初めとし、


時には堕ちた神や厄神を相手にし戦い、日の当たらぬ場所において弱体化してしまう弱点を突かれ苦戦するも天照の力を借り辛くも勝利していく。


しかしながら元々は学生と言う戦いとは無縁の身分であるが故に不覚を取る事となる。


その相手とは…、


「ふむ…確かに強大な力を宿してはいるが所詮は小娘か」


負の念の塊である禍津日が取り込まれた事によって祟り神と化した東京の守護神、平 将門だった。


「クッ!」


天音は距離をとり矢を放つが、


「フンッ!」


将門の振るう刃の一閃にて切り払われる。


「狙いが素直過ぎる故に分かりやすい」


上段に構えた刀を将門は降り下ろす。


ー剛ー


降り下ろされた刃は空を裂きその剣風を天音に届かせる。


「きゃあっ!?」


穢れを纏った刃を受け壁際へと追い込まれた天音は絶体絶命のピンチとなる。


迫り来る恐怖に眼を瞑る天音。


「ハッ!」


しかしそれは一人の乱入者によって阻まれる。


「ぬぅっ!」


金属どうしのぶつかり合う音と共に将門は退けられる。


「ご無事ですか天照様」


現れたのは蒼き衣に身を包む青年。


『あれは十拳剣トツカノツルギ須佐能乎スサノオか!?』


青年の持つ無骨な剣に驚く天照。


『久しいな姉上』


剣に嵌め込まれた宝玉から声が響く。


『わりぃけど話は後だ』


「真の力示せ神殺しの剣!」


青年の声に反応し十拳剣はその姿を巨大な剣へと変えて、


「ぬっ! グアァァッ!」


防御した将門の刀ごと切り裂き滅す。


「すごい…でも…」


何であんなにも悲しそうなんだろう?


何故か青年の瞳には悲哀の色が浮かんでいた。


そして将門を倒した青年は天音の下へと向かう。


『久しいなスサノオよ』


『姉上もな』


お互いに神器を通して2柱の神は語る。


だが二柱の会話を邪魔する者がいた。


それは崩れゆく将門だった。


「我ら…禍津神の復活は…序章に過ぎん…我らが王たる…伊邪那美様は既に依り代を見つけ蘇っておられる…」



『やはり…此度の異変は母上が起こしたのか』


悲しげな声で呟く天照。


「憎き…伊邪那岐の血を引くイサナと言う…小娘を依り代とされたあの方が世界を闇で覆うのを見れぬのが残念だ!」


「待って! イサナちゃんの事を教えて!」


消えゆく将門に天音は声を荒らげ問う。


だが将門の身体が崩れ落ちると同時に黒い光を放ち、


「危ない!」


爆発を起こし凝縮された障気が天音を襲う。


「ッ!!」


襲い来る障気に身構える天音だが、


「グッ! ガァッ!」


青年が己を盾として天音を障気から護る。


青年によって弱められた障気は天音の神衣が弾くが、


「グゥッ!」



盾となった青年は障気に身体を犯され倒れ伏してしまう。


『天音! このままではこ奴は障気に蝕まれ死んでしまうぞ!』


「そんな!?」


『両手に光を集めこ奴の身体を覆え! 汝の能力で穢れを祓うのじゃ!』


「はい!」


天照の指示に従い自身の両手に光を集め青年を包むイメージを浮かべる事によって光は天音の意思に従い青年は光に包まれる。


『何も難しい事は無い、汝はこ奴を助けたいという意思を光に込めればよい!』


天照の啓示に従い青年を助けたいという天音の強い意思が青年を蝕む穢れを浄化する。


「う…何故…俺を助けた?」


障気から解放された青年は天音に問う。


自分が天音を助けたのは所詮義務感や打算から来るものであるのに対し、


光に包まれ時に自分に伝わって来た彼女の想いは純粋に自分を助ける事だけだった事に疑問を感じてしまう。


「貴方を助けたかったから…」


青年は天音の言葉に困惑すると同時に過去に失い冷えきってしまった自分の心が何か暖かい思いを感じそれを口に出そうとしたその時、


「相変わらず貴女は甘いのね…」


鈴の鳴る様な涼やかな声が響くと同時に辺りに凄まじい殺意と邪気が満ちる。


「イサナちゃん?」


声の正体は天音の親友であるイサナであった。


天音は彼女に近付こうとするが、


『天音! 其奴から離れよ!』


海音カイト! 嬢ちゃんを護れ!』



二柱の神が警告し青年…海音が天音の前に立ち、剣を構える。


艶やかな黒髪に鬼灯の模様の入った着物を着崩した彼女イサナはこの場にいる者達に殺意と障気を向ける。


「え? イサナちゃん? 何で?」


天音は自分に向けられる冷たい感情を理解出来ずにいた。


「光に生きる貴女には一生理解出来ないわ」


悲しげな瞳で天音を見るイサナ。


暗い闇色の空が僅かに薄れて行き日ノ出が近い事を知らせる。


「時間ね…名残惜しいけどこれでさよならね」悲しげな表情を浮かべながらイサナは背を向け天音から離れて行く。


「待って! イサナちゃん!」


離れゆく彼女を引き止めようとするが、


ー闇 纏ー


闇がその身を包み姿を消す。


「イサナちゃん…」


イサナが消えた場所を見つめ、天音は力なく腰を下ろす。


『天音…まずは一度戻り休むべきじゃな』


落ち込む天音を心配しつつもこれからの行動を天照は告げる。


『お主らも来い! 陽太には妾から説明し部屋を開けさせよう』


「わかりました天照様」


天照の指示に従って拠点へと移動し、


天照は陽太に事情を説明して海音に部屋を与える。


天音が用意された部屋へと海音を案内し、お互いに一息つき休息する。


「あの…何故貴方はそんなにも悲しい目をしているの?」


天音は最初に会った時から気になっていた事を尋ねる。


それは唯の興味本意などではなく彼女自身の優しさ故に気付いた海音の闇。


「……」


海音自身も天音の真摯な思いを感じ己の生い立ちを語る。


「俺は…神の器となるためだけに産み落とされた存在なんだ…」


彼の半生は神の器となりただ家の命令を聞かせ戦うだけの存在として造られたと言う。


物心も付かぬ幼き頃より母親より離され地獄のような修行を受け。


父親にはただ強く都合の良い道具としての生き方を強要させられ、今の自分は役目を果たすだけの人形としての価値しかないと海音は言う。


「そんなの…間違ってるよ」


天音は大粒の涙を流しながら海音の頭を自分の胸の中に抱き抱える。


「何故…貴女が泣く?」


己に起こった出来事を海音は理解できなかった。


「私にはこんな事しか出来ないから…せめて海音君の悲しみや苦しみを少しでも無くしたいの」


小柄で童顔な彼女だがそれには身あわない豊かな胸に海音の頭を沈ませ、自身の心音を聞かせる。


海音は戸惑いながらも懐かしい暖かさを感じながら枯れた筈の涙を流す。


この時から海音は天音に惹かれていくのだった。


そしてその日を境に二人は協力してマガツヒや禍津神を倒していく。


しかしそんな二人の前にかつてイザナミを殺した焔の神、加具土が禍津神として現れ神殺しの焔が二人を苦しめる。


絶望的な力の差に海音は禁じられた力である『神化』を使う事によって一時的にスサノオ本来の力を得て嵐を起こし加具土の焔を弱め、


神殺しの剣である十拳剣によって加具土の首を裂き倒す事に成功する。


しかし『神化』は人の身に余る神本来の力を使うために負担が掛かるだけではなく代償として使えば使うほど人ではなくなっていき、


最悪の場合はただの魔物と成り果てるか、新たな神の一柱になるという危険なものだった。


倒れ伏す海音を天音は介抱し力を送り込み回復させる。


その時加具土の亡骸から一欠片の黒い塊、マガツヒが現れ二人へと近づく。


「驚いた…まさか加具土まで倒すなんて」


マガツヒを介して聞こえたのはイサナの声であった。


「イサナちゃん!」


マガツヒから発せられた声に驚く。


「貴方達も大分力をつけたようだしそろそろ決着をつけましょうか」


彼女の声は冷たく淡々と告げる。


「三日後に起きる皆既日食の日に案内人を寄越すわ…私を止めたいなら来なさい…」


その言葉を最後にマガツヒは崩れ落ちる。


最後の言葉にはほんの僅かにだが天音の知る彼女の暖かさを感じさせられた。


「イサナちゃん…」


そして三日後に神社に現れたのは、


「君達が彼女の言っていた天照と須佐能乎かい?」


スーツに身を包み肩まで伸ばした黒髪の中性的な人物だった。


「あぁ 僕の名前は月詠ツクヨミイサナから案内人を任されたのさ」


月詠と名乗る人物は男と女どちらにも見え性別が判断出来ずにいた。


「あぁ ちなみに僕は男でも女でもあるよ 所謂『半陰陽』両性具有って奴だね だからさんでも君でも好きに呼べば良いよ」


そう言った後に日食が始まり辺りは徐々に暗闇に包まれる。


「さて…行きますか」


月詠は地面に手を向けると黒い穴が空く。


「さぁ 黄泉比良坂ヨモツヒラサカへとご案内だ」


臆する事無く闇へと月詠は飛び込み、天音達も慌てて飛び込むとそこにあったのは僅かな明かりを灯す暗い奈落へと通じる石の螺旋階段だった。


「少し歩くよ」


暗く思い雰囲気に加え辺りからまるで突き刺さるかのような殺気を感じる。


「ん? あぁ 気にしなくて良いよ黄泉醜女達が睨んでるだけさ 僕といれば襲われる事は無いさ…たぶん」


そこは断定してほしかったと二人は思う。


「彼女も複雑な生まれでね」


重い沈黙に耐えられなかったのか月詠は語り始める。


その内容はイサナに関する事であり、一見幸せそうに見えていた家庭だが実際はそうではなかった。


彼女の両親はお互いに政略結婚で無理矢理結婚させられ、そこに愛は無くイサナは生まれてから親の愛情を貰えず寂しい生活を送っていたようだ。


「まぁ 君と会えた事で人生が少し楽しくなったみたいだけどね」


だが再び彼女には不幸が襲い掛かる。


イサナの家は裕福であるが父親の経営方針のせいで大分怨みを買っていたのか、


イサナは誘拐され両親に様々な条件が突き付けられるが、全てを無視した事によって誘拐犯の怒りを買い。


イサナは欲望のままに汚され、殺された。


その時の絶望感や怒りが己の血に宿る神の力と同じように、


夫から見捨てられたイザナミがイサナの怨みを晴らす変わりに依り代となる事を約束させた事によってイサナは覚醒してしまう。


そしてその力をもって自分を棄てた両親を殺害し、その身をイザナミにまかせてしまったと月詠は語る。


「何故それを俺達に語る?」


海音は問うが、


「さぁね」


月詠は応えず。


「後は彼女自身に聞きなよ」


豪華な神殿を思わせる場所へと辿り着き、重厚な門が重音を響かせながら開くとそこには闇があった。


「じゃあね」


一言発した後月詠は姿を消す。


「海音君…私行くよ」


天音は強い力を秘めた瞳で海音を見る。


「わかった」


海音も覚悟を決めて、二人は闇の中へと飛び込む。


「来たのね…」


闇を抜けた先には崩れた社を思わせる場所があり砕けた玉座に腰掛けるのはイサナ。


すっと立ち上がるイサナの姿は紫を基本とし鬼灯の紋様の入った着物を身に纏い。


顔には幾何学的な紅い紋様が刻まれ、背後には黒炎がゆらゆらと幽鬼のように揺れる。


そして反転した黒い瞳孔に鮮血の如き紅い瞳が二人を睨む。


「さぁ…始めましょうか」


「イサナちゃん! 私は…」


戦いたくないと言おうとしたが、


ー黒 炎 襲 来ー


黒炎が天音を燃やさんと迫る。


「ハッ!」


迫り来る黒炎を海音が切り裂き、


「戦って君の想いを伝えるんだ!」


天音を叱咤しつつも励まし前に立ち迫る黒炎を切り捨てる。


「イサナちゃん! 受け取って私の想いを!」


闇の中で力を制限されようとも天音はただ直向きに想いを伝えるために戦う。


「起きろ!『草薙』!」


かつて闘神スサノオによって討たれた蛇神『八岐大蛇』より生まれし『草薙の剣』から八つの頭を持つ大蛇が現れ頭上へと炎を吹く。


「力を借りるよ!」


炎の塊が擬似的な光源となりそこから光を取り込み矢を放つが、やはりこの闇に閉ざされた世界では主たるイサナに分があり二人は徐々に押され始める。


「ならば!」


「海音君 ダメ!」


海音がやろうとしている事を天音は見抜き止めようとするが、


「ウオォォッ!」


海音は止まらず膨大な神力を纏い嵐を纏った二刀でイサナを切り裂く。


「ガハッ!」


だが力に耐えきれずに崩れ落ちる海音。


「キャッ!」


イサナの傷口から溢れ出した闇が天音を取り込み、天音は反射的に目を塞いでしまう。


「ここは?」


目を開けると暗い空間に天音が存在していた。


私は貴女のように優しく なれない…


突如声が響き渡る。


私はただ誰かに愛された かった…


天音の前に幼いイサナの姿を挟んで激しく言い合う彼女の両親の姿が写し出される。


「これは…イサナちゃんの記憶なの?」


その映像を皮切りにイサナの記憶と思われる映像が闇の中に浮かび上がる。


天音は彼女の抱える怒り・憎しみ・悲しみを知り涙する。


すると背後から、


「貴女と私は違う…だって私はこんなにも汚れているのだから…」


重く暗いイサナの声が響く。


貴女が振り向くとそこにはまるでヘドロの塊のような悪臭を放つ人型の塊があった。


それはイサナ本人であった。


「これが私…こんなに汚れているのよ! 私は貴女と違う! 私は! 私は!」


闇の中に彼女の慟哭が響き渡る。


そんな彼女へと天音はゆっくりと近寄り、


「え?」


優しくそっと抱きしめる。


ヘドロの様なものは障鬼の塊であり天音の身体を侵し肌を焼くが、


天音は気にする事無くイサナを強く抱きしめる。


イサナは天音の取った行動を理解出来ずにただ立ち尽くす。


「汚くなんかないよ…どんな姿になってもイサナちゃんは私の大切な友達だよ」


と暖かな笑顔で応える。


「天音…」


「貴女の苦しみを私は知らない…だから私にも貴女の重荷を一緒に背負わせて」


まるで聖女の如く、または子を想う母の如き笑顔で彼女は応える。


すると、


ー光 宿ー


イサナの身体に光が宿り彼女を蝕んでいた障気を消し去ると同時にイザナミとの繋がりが断たれる。


そしてイサナの姿は天音と似た装束へと変わる。


その時まるで地の底から響くかのような声が聞こえる。


「おのれ…お前までもが私を裏切るのか!」


その声の招待こそが黄泉津大神『伊邪那美』であった。


「ならば私を拒む全てを闇に染めてくれよう!」


その言葉を最後に天音達を包む闇は晴れ、社が姿を現す。


「無事だったか天音!」


膝をつく海音が息を荒げながらも天音の安否を気遣う。


その時社が砕けた闇は更に濃度を増し、砕けた足場が辺りに浮かび上がる。


ー顕 現ー


それと同時に姿を現す者がいた。


女性の形をしてはいるが所々が腐り落ち、所々から骨が見えさらに骨の腕が背中から生えた化け物だった。



下半身は巨大な蛇でその中央、巨人の胸部にどこかイサナに似た美しい女性が埋まっている禍々しい姿だ。


そして巨人の背後からは障鬼と黒炎が吹き出し、世界を穢していく。


この時天音は『神化』を使う覚悟を決める。


『よかろう』


天照もそれを受け入れ神器である鏡と分霊である自身の持てる全ての力を発現させる。


すると闇の世界に光が生まれた。


そして天音の纏う神衣がその力に相応しきものへと変わる。


美しい紅白の長い丈の着物に光放つ太陽の紋様が輝き、


額には陽を象った装飾品が黄金の光を放ち、背後には金色こんじきの日輪が浮かぶ。


そして三枚の白き羽衣がまるで翼のよう揺蕩う。


「天孫降臨『天照大神』!」


今此処に神話の再現が成された。


天音が手を前に出すと今までとは違い光が集まり弓を形作り、イサナと共に構える。


だがそれを阻止せんと巨大な黒炎と八つの雷が二人に襲い掛かる。


「天音!」


イサナが天音を庇おうとするが、


「大丈夫」


天音は臆する事なく応える。


「ウオォォォッ!」


最後の力を振り絞った海音が気合い一閃と獣の如き咆哮を上げ二振りの刃を振るい炎と雷を切り払う。


崩れ落ちる中、強い意思を宿した瞳で二人を見つめ「後は任せた」と目で語り倒れる。


二人は海音の強い意思を受け番えられた矢がそれに呼応し巨大な槍の様な形へと変わる。

そして矢から放たれる光は全ての闇を祓うかの如く金色に輝き、世界を照らす。


「「これが私達の覚悟と想い!」」


矢は解き放たれ一筋の輝きとなり真っ直ぐにイザナミへと向かう。


「その程度で私を討てると思うな!」


まるで巨大な城門の如く展開された闇色の障壁が光の矢を防ぐ。


「「負けるもんかぁぁぁッ!」」


二人の声が重なり矢は更に輝きを増し、障壁を貫きイザナミを穿つ。


「たとえ…どれほど闇を拒絶しようと…終わる事は無い…」


息も絶え絶えにイザナミは告げる。


「私を拒絶する世界と…あの人を許さない」


その言葉を最期にイザナミは闇の中へと散る。


「ごめんなさい…でも…私は貴女の事が好きだったわ…親に棄てられた私の事を受け入れてくれた貴女の事が…」


閉じられた瞳からは大粒の涙が流れ落ち、零れた雫が闇へと融けていく。


「皆で一緒に帰ろう」


と天音は言うが、


イサナは首を横に振り否定の意を示す。


「なんで!?」


天音が問おうとしたその時、


「イサナちゃん! 身体が!?」


イサナの身体が徐々に光の粒子となり始めていた。


「私はあの時既に死んだ存在…そして死者だからこそ私はイザナミの依り代と成れた…けど彼女から解放された今は逝くべき処へ逝かなければならないの」

皮肉にもイザナミから解き放った事によって彼女は再び死を迎える事となってしまった。


「そんなの…嫌だよ!」


泣こうとする天音をイサナは儚くも綺麗な微笑みを浮かべ、


「悲しまないで天音…貴女のおかげで私は綺麗な姿で逝ける…今生で逢えたのだからきっとまた来世で逢える筈よ」


身体の殆どが光と成る中で望みを告げる。


「だから…せめて私の大好きな貴女の笑顔で私を見送って」


イサナの願いに天音は応え優しい日の光の様な暖かな笑顔で彼女を見送る。


「ありがとう」


天音へ礼を告げると同時に彼女の側に立つ海音に向かい、


「天音の事お願いね」


と告げ海音は強い意思を秘めた瞳で応える。


そして、


「またね」


儚い笑みと共に彼女は光へと還っていく。


「う…うわあぁぁぁぁっ!」


泣き崩れる天音を海音は抱きしめると共に決意を新たにし、二人は元の世界へと戻っていく。


そして時は経ちその後も色々と問題はあったが二人は共に力を合わせそれを乗り超えて行く。


それからまた時間が流れたある日の二人の両手には幼い子供の手と共にあった、


そしてその黒髪の女の子の姿はどこか彼女を思わせる姿であった。




「ねぇ お母さん お父さん」


女の子は二人の前に進み、


「ん?」


「どうしたの?」


『約束守ってくれてありがとう』


その言葉と同時に彼女の姿重なる。


「また逢えたね…」


「どうしたのお母さん?」


女の子が涙ぐむ天音に抱きつき問う。


「うぅん…今日は良い天気だね『イサナ』!」


「うん!」

ここまで読んでいただきありがとうございます!


かなり久しぶりに書いたので不安な部分が多いですが何卒暖かな目で見守ってもらえると嬉しいです。


この作品は読み切りですが連載版の方はもっと濃い内容にしたいです。


これからも応援よろしくお願いいたします!

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