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刑事をかたった男は、ティファナの市警に引き取られた。
王と巽の二人も事情を聞かれて、一通りの話を、今度は本物の刑事部長に話した。
「では、その陶器人形が、サランドンが奪った二万クレジットだったというわけですか」
立派な顎髭を生やした初老の刑事部長は、さも残念そうに言った。
「私も、最初はそう思ったんですけどね」王はそう言って、くすりと笑った。
「……あの人形はマイセンでも、まだ新しい物だったと思います。――映画の話をしていて、思い出したんですが……」
王は言いながら、懐から綺麗に折り畳んだ紙を出して見せた。例の小包を覆っていた包装紙だ。
「切手ですよ」
「切手……? 何です、そりゃ?」
「昔のICチップみたいなものですよ。ところがチップと違ってデザインが豊富なので、今でもコレクターズアイテムの一つとして人気があるんです。ここに貼ってある切手は余程古い物のようなので、多分、相当な値が付くことでしょう」
「こんな紙切れがぁー?」
巽の驚きに、刑事部長もううん、と唸った。
「サランドンも考えたもんですな。恐らく、連中が捜していたように、マネーカードや貸金庫の鍵なんかでは、すぐに見つかってしまうと思ったのでしょう。――しかし、結局は命を落とす事になってしまうとは……皮肉なもんですなぁ」
「とにかく、この切手はそちらに渡しておきます。秘密組織の仲間もスミスの証言で捕えられるでしょう?」
王の問いに、刑事部長は力強く頷いた。
「勿論です。我々も全力を尽くします」
「ありがとう。それを聞いて安心しました」
王がいつもの愛想良い微笑みを見せると、初老の刑事部長ははっとしたように彼を見つめた。それから急に頬を赤くしたかと思うと、目を逸らしてわざとらしく咳払いなどしてみせた。
王の美貌が成せる業である。
そんな刑事部長の様子を気の毒に思ったのか、巽は王を諌めるように鋭い視線を投げた。
王は自分の所為じゃないとばかりに、高々と眉を上げただけだったが。
「――ところで」刑事部長は気を取り直して、言った。「よくあの男が偽の刑事だとわかりましたね?」
「彼が嘘を付いているのは、すぐわかりましたよ。スミスという名も偽名でしょう。それに、ティファナはメキシコ地区側の町。サンディエゴとは自治境の問題であまり仲もよろしくない。そんなところで起きた事件をアメリカ人の刑事が捜査しているのは、ちょっとおかしいでしょう。クレジットをドルに換算して話すところもね。こちらの自治区の通貨はペソですから」
「なるほど……言われてみればそのとおりだ」
刑事部長は賞賛の眼差しで王を見つめた。
型通りの事情聴取が済むと、二人はすぐにホテルへ帰された。
巽はソファに座って、ベリージャムとクロテッドクリームを思う存分塗たくったスコーンを頬張っている。王はとっておきの紅茶を煎れながら、巽に聞いた。
「そういえば、どうしてあの時、あんな事を言ったんだい?」
「あんな事……?」
「充電が切れてるって」
「ああ……だって、一瞬隙が出来るかと思って。そうすればあんたがなんとかすると思ったから。実際そうだったじゃない」
「そうだけど……」
王はなんとも言えず珍妙な顔をした。自分を信頼してくれる巽の気持ちは嬉しかったが、一歩間違えば、二人とも危なかったかも知れないのだ。
だが、そんな危ない事はするな、と言っても、気にするような巽ではない。
王は肩をすくめ、嘆息した。
「まったく……君って人は、根っからの勝負師だよ」
「ありがと」
そう言って、にっこりと微笑う。
巽のその人なつこい笑顔に、ついつい甘くなってしまう王なのだった。
おわり。
タイトルはオードリー・ヘップバーン主演映画より拝借しました。あとは作中でジェームズ・王も語っている通りですので言わずもがなですね。
余談ですが、ジェームズの母親はかつてハリウッドスターでした。ジェームズは母親の影響で古い映画が好きという設定です。ジェームズの両親の話はまた別の機会にでも。
お読みいただきありがとうございました。