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 小包に書かれた住所は、ティファナの郊外に広がる居住区の中でも中産階級の住民が多く集まるアパートの一つだった。オートロックの応対に出たのは、中年の太りぎみの男だった。

 部屋の前まで行くと、その男がドアを開けて二人を待っていた。

「貴方がサランドンさん?」

 王が男に確認すると、男はにやりと笑って、首を横に振った。それからIDカードを見せて、

「私は警察の者ですよ。残念ながら、サランドンさんは三日前に亡くなられましてね、お話しを伺えますかな?」

 二人は互いの顔を見合わせた。届けるはずの相手が既に亡くなっていたとは驚きだった。

 刑事はスミスと名乗った。巽がジャクソンの事を話すと、刑事はその小包を見せて欲しいと言った。

「これを、サランドン氏に届けるよう、頼まれたんですな?」

 刑事は小包を受けとると、(おもむろ)に包装紙を剥がして、中味を取り出した。箱の中には厳重にパッキングシートで覆われた陶器人形(ビスクドール)があった。

「預かったのは、これだけですかな? 他に何かありませんでしたか?例えば鍵とか……」

「鍵? ……いいえ、その小包を届けるよう頼まれただけですから。サランドンさんとも、一面識もないし……」

 巽は困惑したように応えた。

「そうですか、――いいでしょう」

 二人は刑事が勧めるままに、居間のソファに腰を降ろした。

「サランドンさんはどうして亡くなったんです? 刑事さんがいらっしゃるという事は、何か事件ですか?」

 王の問いに、刑事はさっと鋭い視線を投げたが、すぐに愛想笑いを作って、

「ええ――殺されたんですよ。サランドンは秘密組織(マフィア)の軍資金をまんまとかすめ取ったんですな。二万クレジット程。ドルで言えば、二百万ドルだ。北米地区の物価が下落しているのは御存知ですかな、我々にとっては大金ですよ」

「それが、この人形と関係が?」

「ええ。今だにその大金は出て来ていないんですよ。サランドンの奴、何処に隠したんだか……」

秘密組織(マフィア)の連中が持って行ったんじゃないの?」

 巽のもっともな意見に、刑事は首を振り、王は何故か咎めるような視線をくれた。

「奴らも今だに金のありかを捜していますよ。サランドンの相棒だった男も襲われました。彼が頼んだ運び屋も――」

「ジャクソンが?!」

「気の毒な事をしましたな」

 刑事は大した感慨もなさそうにそう言った。それから人形を隅々まで調べ始める。何もないと判断したのか、彼は人形を持った手を振り上げた。

 ガチャン、と音がして、その人形は粉々に砕け散った。

「なにするんだ?!」

 びっくりして大声を出す巽を、王は手で制して、人さし指を唇に当てた。巽は不満そうに王を見上げたが、おとなしくする事にした。

 刑事は割れた破片をがちゃがちゃとかき回して、何かを捜しているようだった。

「刑事さん……貴方が捜しているのは、何かの鍵、マネーカード、或いはデータチップのようなもの、ですか?」

 王は破片の一つを手に取り、落ち着き払って言った。

「何か見つけたのか?!」

「いいえ。何もないと思いますよ。――見て下さい」

 王は破片の一つを刑事に見せた。そこには青い色で×印のようなものが書いてあった。

「これはマイセンの印です。こう砕け散ってしまっては、詳しい事はわかりませんが、もし、アンティークの陶器人形(ビスクドール)の逸品なら、オークションで高値が出る事も珍しくありません」

「な……」

 刑事は言葉を失い、ぱくぱくと口を動かした。

 今割ってしまったその人形こそが、二万クレジットの物だったかも知れないのだ。勿論割れてしまっては一セントの価値もない。

「失礼ながら、刑事さん。貴方本当に刑事さんですか?……私はさっきの貴方の話を聞いていて、ある映画を思いだしましたよ。オードリー・ヘプバーン主演の映画『シャレード』は、ナチスの軍事資金を奪った元スパイの男の未亡人が、夫の残した遺産を狙う昔の仲間達に命を狙われる話でね。一人は警察当局の人間に成り済まして、彼女に近付き、金のありかを聞き出そうとするのです」

 滔々と喋る王の話に、刑事の顔色はみるみる変わっていった。蒼白から怒りの赤へ、と。

「動くな!!」

 刑事を名乗った男は突然、小型のレーザーガンを二人に突きつけて、言った。

「ばれちゃ、しょうがねぇ。おい、お前ら、こんな人形に二百万ドルもの値が付くもんか。本当は何か預かってるんだろう。金を出せ! 俺の金だ!!」

「ないよ、そんなもの」巽はしれっとして言った。「ところで充電切れてるよ、(それ)

「なに……?!」

 男が一瞬ひるんだ隙に、すかさず王がその長い足で男の手を蹴り上げた。

 宙を飛んだ銃を、巽は素早くひったくり、男に向けて構えた。

「動くな!!」

「ふ……そいつは充電切れだ」

 男が痛めた手を摩りながらそう言うと、巽はにっこりと笑って、言った。

「あ、それ嘘」

「なに?!」

 驚く男の首筋に鋭く手刀を入れて気絶させると、王は巽に向き直って、言った。

「幸星それ、安全装置がかかったままだよ。それじゃどっちにしろ撃てないよ。……君、銃使ったことないね?」

「ないよ、そんなもん」

 言うなり巽は、その銃を王に投げて寄越したのだった。



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