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小一時間もゲームを続けると、巽はすっかり男が負けた分を取り返して、別の店で一杯やろう、という話になった。
酒に弱い巽はジンジャーエールを、男はバーボンを注文した。
男はジャクソンと名乗り、ジャマイカから来たのだと言った。
「本当に、いいのかい? あんたが勝ったんだから、あんたのものなのに……」
ジャクソンは巻き上げられた分の金貨を目の前にして、そう言った。巽は無邪気に笑って、首を振った。
「なに言ってるの。元々あんたのお金をあいつらが巻き上げたんでしょ、セコイいかさまで! ――もう、ああいう連中にひっかかっちゃ駄目だよ」
「ああ……ゲームとなると、つい熱くなっちまって」
「熱くなるのは良くないね。幸運の女神は潔い者に微笑むものなんだよ。賭ける時も、降りる時も、スパッと、ね」
「タツミは随分慣れてるみたいだな。よっぽどいろんなカジノで稼いだのかい?」
「まぁね。十八の頃からイギリス辺りで遊んでたけど、この歳になって就職したよ」
「就職! 何処に?」
「カジノ。ディーラーになったんだ」
「あんた、とぼけた奴だなぁ!」ジャクソンはゲラゲラと笑った。「歳って、あんた幾つだ? 最初はてっきりローティーンだと思ったぜ」
「二十一歳」
ジャクソンは感心したように、巽をしげしげと眺めて、言った。
「東洋人っていうのは、わかんねぇな」
「ジャクソンは、どうしてこの町に? 観光?」
「ああ……いや、実は……人に頼まれてさ、この金もその前金で……――」
彼は、急にぎくりとしたように、黙り込んだ。
「どうしたの?」
ジャクソンの視線を追って、店の中を見回したが、衛星放送で、サッカーを観戦している集団が盛り上がっているだけだった。
「サッカー?」
「えっ……いや、なんでもねぇ。――なぁ……あんた、運が強そうだし、頼みたい事があるんだが……」
「頼み……? 何?」
ジャクソンはどこか緊張したような面持ちで、話し始めた。




