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第四話 二代目魔王の思惑

 魔界、魔王サタンが収める領地サータニビア。その中の中心部、魔王城。

 いつもは静かな魔王城だが、この日だけは慌ただしかった。それもそのはずだ、二代目魔王の継承式なのだから。


「彼が消えてかは早五日…早いものね」

「魔王様はお優しいですね。元天族の奴を処刑せず、追い出すなんて」


 先代魔王。初代魔王サタンは五日前追放された。罪は魔族の宿敵である天族で魔族になった堕天使、だと。

 天族は天空庭という空に浮かぶ島…つまり空島に住んでいる種族だ。神の使いとも呼ばれ、天使とも言われる。特徴は背中に生える純白の羽に頭にある黄金のリングだ。

 魔族の中には天族が堕落して転生した堕天使という種族も含まれるのだが、魔族と天族のどちらでもないその存在は両方の種族から忌み嫌われる。

 つまり、魔王は堕天使のくせに魔族と偽り魔王と名乗った。そういうことだ。

 魔族と名乗ることは間違っていないのだが、現実は無情だ。その追放した魔王がこの地を統治し、ありとあらゆる魔族を受け入れたのに、だ。


 事の発端は初代魔王が追放される何十年も前。それは何時ものように、何処かへ散歩に出かけていたサタンはある少女達を連れ帰ってきた。

 長い金髪にその頭から前へと伸びる黒い角がある少女と、淡い水色の髪に額に生えた二本の小さな角の少女達だった。歳は十歳にも満たず、六歳ぐらいに見えた。

 その日、魔王城は大慌て。薄汚れたその少女達を風呂に入れて汚れを落としたり、綺麗な洋服を用意したり、その子達の部屋などを手配したりと。


『魔王様っ!』

『兄様!』


 その数年後にはもう魔王と変わらないほど育った。

 魔族は人族よりも寿命が長い。その理由は魔族は生まれつき魔力が高いのだが、魔力は老化を抑える。魔力が高いほど、寿命が長いのだ。それは人族にも言えることだが、人族は生まれつき魔力が低く、鍛えると増えるが、魔力が寿命に影響するのは5歳まで。つまり、人族は規格外でもないと、長く生きれない。魔力が高いのは天族もであり、彼らも長い。

 しかし、彼女らは魔族でありながら魔力があまりなかった。すくすくと人族と変わらない成長速度で育っていったのだ。


『おー、大きくなったな。我と変わらない』


 そう言って微笑み、二人の頭を撫でるサタン。少女達は嬉しそうにその手を受け入れていた。

 魔王サタンは普通の魔族より魔力が多く、魔界一と言われるほどに魔力の底が見えないそうだ。そのおかげで、千年も生きる彼の体は十歳の少年のような姿のままだった。

 普通の魔族は千年は生きられたら長生きの部類にはいる。人族の寿命を×10してくれたら、わかりやすいと思う。


『ヴィリアス、ヴェルミル』

『何でしょう? 魔王様?』

『兄様? 何です?』


 それぞれの少女の名を呼ぶ。ヴィリアスはサタンを魔王様と呼ぶ、金髪の少女。ヴェルミルはサタンを兄様と呼び慕う、水色の髪の少女。

 彼女らは魔王を慕い、兄の様に思っていた。ただ兄と呼ぶのは一人だけだったが。ヴィリアスが言うには元々赤の他人が“魔王”であるサタンを“兄”という呼び名で慣れ親しんではいけない、ということだった。なんとも固い頭だろうか。


『後でお主達に、話があるんだ』

『『??』』


 二人は首を傾げるも、うん! わかった!と元気な声で了承した。

 その声にサタンは微笑むとよしっ! と言って精一杯二人の頭を撫でた。


(その後、魔王様が元々天族だってことを聞かされたんだっけ…)


 と昔の事を思い出し、ヴィリアスはクスッと笑う。


(私達は天族に両親を殺されかけたって言うのに…何故話したのかしら…? …いや、殺されかけたから…)


 徐々に真剣な顔付きになるヴィリアス。あの元天族の事がわからない。何を考えているのかも。彼女はそう思った。

 ヴィリアスは今はもう老化が止まり、二十代の姿でいた。どうやら彼女らの魔力が影響を及ぼしたのは、二十歳を過ぎてからであり、数十年経った今でもその時の姿のままだった。そして、その豊満な胸は見る者、人族魔族関係なく惹きつける魅力がある。


「姉様…」

「あら、ヴェルミル。来てたのね」


 ヴィリアスの妹のヴェルミルは少し悲しい顔をしてヴィリアスを呼んだ。

 妹がそんな顔をしているにも関わらず、彼女は心配することもなく侍女のジェリーにお茶を入れるように支持した。

 カチャとテーブルに紅茶が置かれる。それを見届けたヴィリアスはありがとうとジェリーに微笑み、ヴェルミルを見た。


「さぁ、座って。紅茶が冷めてしまうわ」

「……いただきます」


 ヴェルミルは無言で座り、いただきますと言ってから紅茶を一口喉に通す。そしてカップを置いてから息を吸って、ジッとヴィリアスを見つめる。


「姉様、話が…」

「また、元魔王様の話? 大丈夫、殺してないわ。城外に追いやっただけ」

「そ、それじゃ兄様は…っ!」


 生きてることを嬉しく感じ、バンっと机を叩き身を乗り出す。おしとやかな姉に比べ、すぐ暴力に走る妹。これがこの姉妹の特徴である。

 はぁ、とヴィリアスはため息をつき、ジェリーと侍女の名を呼ぶ。


「こぼれた紅茶を取り替えて、それとテーブルクロスもね」

「畏まりました」


 すっと腰をまげ礼をするとジェリーはカップを持ち上げ、テーブルクロスを引く。そして新しいのに取り替えると、新しいカップに先程と同じ紅茶を入れ、ヴェルミルの前に差し出す。


「話は終わってないのよ、ヴェルミル? 大人しくしてちょうだい」

「う…ごめんなさい」


 ヴェルミルは魔力が少ないので魔法は使えないが、身体強化の魔法なら使えたのだ。元々力が強い分、それに上乗せした筋力は凄まじく、今ではこのサータニビアの中で一番強いのではないかと言われている。

 そしてその姉、ヴィリアスは力は強くないが同じく身体能力は使え、二番目に強いと言われている。しかし彼女の強みはそこではなく、頭にある。戦いでは彼女の考える策略が多いに役立ち、相手を圧倒する。しかも彼女は解析魔法をも持ち、策略や戦術、騙し合いについては彼女の右に出る者はいない。

 姉の戦略に妹の剛腕。この姉妹は二人で一つとも言われている。

 話が逸れた…。


「それから、どうなったと思う? 追い出した時から数週間は国内で暮らしていたらしいのだけれども」


 そこで話を少し切る。ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。

 ヴィリアスは一口紅茶を飲むとふぅと息を吐き、真っ直ぐヴェルミルを見つめる。


「…そこにいた国民に追い出されたらしいの…悲しいことに…」

「そう…姉様も大変なのだな…」


 ヴェルミルはヴィリアスがついている嘘も見分けられず、嘘の真実を受け入れる。

 ヴィリアスは元天族という噂を流し、サタンの居場所を徐々になくしていった。それはヴィリアスがサタンが元天族と知った時からであり、勿論これはヴェルミルには教えていない。只の噂だった話は、やがて尾びれがつき、泳ぎ回った。その話は城中に広まり、サタンを不審に思う臣下が増えていった。


 曰く、魔王の持つ漆黒の翼の他に小さい純白の翼が生えている…と。


 曰く、天族にしか理解できない言語を理解した…と。


 そして、五日前。ようやく願った事が起きたのだ。臣下がサタンに対する暴動を起こしたのだ。そして、ヴィリアスはその暴動を収めるために、サタンを追放するという提案を臣下達にし、その提案を受け入れた臣下達はサタンを追放した。

 それだけで良かったのだが、城外に追い出されただけだったのでヴィリアスの目的はこの国から追いやること。魔王の妹という肩書きを手に入れていたヴィリアスは国民達に元天族という話を流し、サタンは国民達の怒りを買い追い出される羽目になった。

 それだけでは飽き足らず、国内随一の魔術師に転移魔法をサタンにかけさせ、人間界の何処かにランダムに転送した。


 それが魔王追放の全貌である。主犯のヴィリアスは、国民や臣下達の信頼を得ており、誰もヴィリアスが魔王を追放するためにしたことは知らない。当然、我が妹でも。


「大丈夫、きっと魔王様は生きてるわ」

「そ、そうだな! あの兄様が死んだりしないよな!」


 パァアと立ち直るヴェルミル。騙されているとも知らずに、ヴェルミルは部屋を出て行った。

 ヴィリアスはそれを見届けるとクスリと笑い、紅茶を飲む。


(馬鹿な妹。追いやる様に仕向けたのは私だっていうのに…これからは魔族だけの楽園を私が創るわ)


 ヴィリアスは口角を上げる。それは妖艶な笑顔で、見た者は老若男女構わず見惚れてしまうほどの。


「魔王様、そろそろ」


 そう侍女のジェリーが頭を下げて告げてきた。そろそろ式の準備が整い、ヴィリアスの魔王就任のパーティが始まる。

 そしてこれはヴィリアスにとっての世界統一の第一歩。


「そうね、行きましょうか」


 カツンとヒールの音がなり扉が開く。


「さぁ、素敵な素敵な(ゲーム)の始まり」


 ヴィリアスが先ほど飲んでいた紅茶のカップは、ほんのり温かかった。





 宴はまだ、始まったばかりだ。






****





 ぞくっ!


 突然背筋が凍った気がした。誰かに狙われているのか、はたまたこの周りの気温のせいなのか…アディルにはわからなかった。

 さっきのは気のせいだ、と決めつけディアスの方を向く。まだ凍ってる。あのままだと危ない。そう思い、アディルはディアスの元に駆けつけ氷を素手で割る。


「……っ! すーはー…死ぬかと思った…」


 両腕、両膝ついた体制で彼はそう発言した。まぁ、凍りついたら死ぬと誰でも思うな、とアディルは納得して、心配の言葉を投げる。


「大丈夫か?」

「大丈夫じゃない…足が凍傷の傾向があるし…」


 そう言って彼は杖を出現させた。何処から出たのかわからないアディルは驚き、目を見開く。


「我が魔力を得て、人に癒しを『キュアヒール』」


 そう唱えると杖から魔力が放出させ、足にまとわりついた。すると驚いたことにみるみる治って行くではないか。

 ディアスはよし、と呟きふぅと息を吐いた。


「治癒魔法覚えててよかった…」


 その言葉にアディルは顔を顰める。聞いたこともない言葉があったからだ。しかし彼にもそれと似たような言葉が思い当たり、ディアスに聞いて見た。


「魔法…? 魔術の間違いじゃ?」

「ん? 魔法だけど?」

「…え?」

「え??」


 すると二人とも困惑し、話ができなかったのでとりあえず落ち着いてアディルはディアスの話を聞くことにした。


「魔法はさっきみたいなことで、決まった詠唱を唱えて魔力を用いて具現化させることだよ。その魔法を使うのが魔法使い。そして熟練の魔法使いなら杖とかいらないけどな」


 そう言ってディアスは杖を見せてきた。その杖は緑色の宝石が嵌め込まれ、周りに枝と葉がまとわりついている物だった。

 なるほど、とアディルは思った。


「此方で言う魔術がそちらでは魔法って言うのかー…」

「アディルの国は、魔界はどうなんだ? 一緒か?」


 フルフルと首を横に振った。似ているが一緒かどうかと言われれば、違う。


「我らでは、魔術と呼びその、詠唱…とやらは使わなくて、代わりに魔術陣って言う陣を展開して魔術を使うんだよ」


 へぇ、とディアスは頷いている。やはり魔術師(魔法使い)にとって新しい魔術や魔法は興味深いらしく、目をキラキラとさせ聞いたり話したりする。魔法使いや魔法使いは何処でも研究肌っぽいようだ。

  

「どうやってその魔術陣のを展開させるんだ?」

「それは詠唱と同じように、魔術陣を理解するんだ。そしてその陣をその効果を頭に浮かべて、魔術の名前を言ったら発動する」

「結構、大変だな」

「その分、魔法より詠唱がないからすぐ発動できるよ」


 そりゃそうか、と言ってディアスは納得する。

 すると、アディルの背後からグルルルゥと言う声が聞こえた。唸り声、つい先ほどまで聞いていたのと同じ声だ。


 今更だが、先程ディアスが凍っていた理由を話そう。

 アディルと魔王退治をすることが決まったディアスは情報魔法『アースインフォマー』で近くの村か街を探すことにした。


《ニール村が約一キロ先にあります》


 一キロというと一時間ぐらいだ。とりあえずそこに行こうとなった二人は、魔の森の中を歩いていた。しかしさすが魔の森、アディルが魔力を引っ込めた時から好機と思ったのかことごとく襲ってくる。その度にアディルが蹴飛ばしていたが。

 そして順調に進んでいると思った矢先急に地面が凍りついた。


『グルルルルゥウ』


 そんな唸り声が聞こえたので、目の前を見ると背中から氷が生えている狼がいた。水狼(アクアウルフ)の上位種、氷狼(アイスウルフ)だ。氷魔法を得意とする魔物である。

 始めての上位種にディアスは驚き固まり、アディルは冷静に蹴り倒そうと思ったが氷の壁に阻まれ攻撃できなかった。そこで氷狼が吠えると、氷の地面が盛り上がり此方に向かってきた。アディルは軽々と躱すが、ディアスは今だ固まったままなので対応に遅れ、直に攻撃を喰らいその攻撃の効果なのか氷に囲まれ凍りついた。

 ディアスは少し分が悪いと思い、一旦離れて氷狼が去るのを待った。そして数分経つと、凍りついたディアスには興味無いのか去っていった。

 ここでアディルの背筋が凍る。


「ディアス、お主どうする?」

「…どうするも何も……」


 アディルもお手上げなのか、肩をすくめてディアスを見る。

 ディアスはBランクの氷狼と戦う意思も実力も無いので…戦うというと選択肢はない。それでは、


「逃げるしかないじゃん!!」



思ったより二代目さんの場面が短かったので次回出番だったはずの氷狼さんが出てきてしまった…。

話の大まかな構成はできているんですけど、それを話に起こすというのは難しいです。自分の語学力も試されるし…。

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