第三話 初めての邂逅
三話更新です
「まいったな〜。迷子だよ」
ガサゴソと茂みを掻き分け進む。飛ばされたのは森の中。しかも何処かわからず俺は途方にくれていた。
「せめて…場所がわかれば…」
って! 俺魔法使いじゃん!
自分が魔法使いのことに思い出し、カバンから魔法の書を取り出す。俺がまだ貴族の家から追い出された時にこっそり持ち出した本だ。え? 盗んだなんて人聞きの悪い、少し借りてるだけだ。返すつもりはないけど。
この本は初級魔法から特級や神級まで載っている。所謂、魔法の辞書だ。あ、ついでに説明すると、魔法は一番簡単な初級から、中級、上級、最上級、特級、伝説級、古代級、神級とある。因みに武器もこんな感じでランク付けされる。そしてエルアルが持っている勇者の剣、もとい神剣は名の通り神級に含まれる。しかしエルアルも大変なモノ貰ったよな…。あ、あの中に居た精霊って大精霊!? …考えるのやめよう。
神級は五千年に一つしか存在できないと言われている。まぁ、ジャンルごとに、だけど。つまりあの剣はこの世に一つしかなく、また神級魔法の使い手も一人しかいない。そして鎧やローブなどの神級装備もあるが詳しくは知らない。
「えっと、地図を表す魔法があったはず……確か情報魔法…」
あった、あった! これだ!
俺は見つけた魔法の詠唱を始める。初めての魔法なので上手くいくかわからないが、中級なので俺の範囲内だ。成功すると思う。
「古代より我々を支えし大地よその姿を現し我を示せ『アースインフォマー』」
何ともよくわからない魔法名だが、成功した。俺の目の前と言っても地面と並行になるように現れた地図。紙ではなく、グラフィックで形成されたようなその魔法はこの世界全土を表していた。
その中の青い点が俺で、緑がパーティ仲間、橙色がその他人間や獣人、赤が魔物を表している。と魔法の書に書いてあった。
「“パーティの位置を特定”」
《検証します……パーティ【勇者一行】が見つかりました。拡大しますか?》
まぁ何だか機械的な地図。魔法か? これ…。ま、いいや。
俺は頼む、と言うと地図は了解しました、と言って拡大してくれた。場所は…まだ王都の近くらしい。その緑の点の周りには何もないのでどうやら、戦闘はとっくに終わっているようだった。
「“パーティまでの距離”は?」
《検証します……パーティ【勇者一行】までの距離は約十キロです》
………十キロってどのくらいだっけ…えっと百センチ一メートルで…千メートル、一キロだっけ?
ってそんなことはいい! 十キロ!? 歩いてどのくらいの距離だろう…。疑問に思い質問してみた。
「“パーティまで何日”かかる?」
《検証します……パーティ【勇者一行】までの日数。移動手段を答えてください》
「“徒歩”」
《徒歩での移動でかかる日数は24分の10日です。つまり一日もかかりません》
あ、そうか…。一キロ一時間という計算だ。行けなくともない。それほど飛ばされていないことがわかった。俺は歩き出す。勿論パーティに向けてだ。元都会生まれの田舎育ちだ、足腰には自身がある。
「ってか、地図に質問する必要なかったじゃん…」
十時間か…ちょっと希望持ててきた。
茂みを掻き分け、広い草原にでる。よかった。少し心が軽くなる。あんな狭い場所にいては魔物に襲われたとき対処がしにくい。俺は魔法使いなので、細かい攻撃には向いていない。どちらかと言うとドカン! と広範囲攻撃が魔法使いの極みだ。
しかし、だ。さっきから魔物に出くわさない。なぜだろう?
そう呑気に考えていた時、俺が出てきた反対側の森からこの草原へと出てくる人影を見つける。背丈は十代前半か一桁…とにかく俺よりも年下で子供だ。
「こんな所に子供……っ!!!」
気になって目を凝ら子供し姿を見る。外見は男。つまり少年であり、毛先に白色のメッシュが入ったような癖のある黒髪。白が基調の口元を覆うような服に黒色の線。長袖で腕が見えないが、左腕から黒い何かが覗いている。短パンから伸びる足は膝まであるブーツに包まれていた。
そして、特徴的なのは頭の横から伸びている黒い二本の角。これは彼が人間でないことを表し、そして人ならざるものは魔物。魔物の人型は魔族と呼ばれ、弱くても町を一人で跡形もなく壊してしまうという。
それはいい…今の俺には彼が魔族ってだけでも危機的状況なのに、彼から漏れる魔力は遥かに俺を上回り、もしかすると宮廷魔法師までも足音に及ばないほどの強大さが未熟な俺にも伝わってきた。
相手の魔力を知り強さを図ることは熟練の魔法使いがやっとのことでできることだ。そんな熟練の魔法使いでもないし、ただのしがない中級魔法までしか使えない魔法使いである俺に伝わってくるほどだ。相当の魔力だろう。ほら、証拠に俺の足がガクガクである。
相手がこちらの存在に気づいた。
ヤバイ。
本能的にそう思った時にはもう、その魔族の少年は俺の前に迫っていた。
****
お腹すいた。とアディルはお腹を抱える。人間界に飛ばされてから早五日。適当にふらふらと歩いているものの魔界の“ま”の字も見えない。
アディルは魔族だ。食事は必要とせず魔素を体内に取り込んでいれば問題ない。しかしここは人間界。魔素量が少なく取り込むにも限界がある。魔族は取り込む魔素が足りないと魔物や動物を食べて足りない分を補給する。植物でも可能だ。
「最近、そこらへんに生えてる植物しか食べてない気がする…」
本来、魔素は地面から漏れ、周りの生物に影響する。動物は無意識ながらも魔素を取り込み体内に保管する。魔素を取り込んだ動物は足が速くなったり力が強くなったり、知能が上がったり…時には成長速度が変わったりする。そんな動物達が魔素を取り込みすぎると、今度は魔物に変化してしまう。例がオークや狼達だ。元がただの豚や狼、犬だったのだが、魔素の取り込みにより何らかの影響を及ぼしたのだろう。
魔素の影響は動物だけではなく、植物達にも及んでいた。例がポーションを作る薬草やトレントなど。トレントは魔素を浴びて魔物へた変化した古い木達のことである。
そんなわけで、最近アディルが食べているという植物はレイミ草というポーションの元になる薬草だ。それも上級ポーションが作れるような。
もったいない! と言うものもいるだろうが彼はお腹が空いているのだ。少しは許してあげてほしい。
「そ、草原! 植物食べ放題!!」
ここは魔の森。魔界にあるのでもないのに人間界にしては濃い魔素濃度なのでそう名付けられた。ここで育つレイミ草は偶に特級ポーションになり得るものもあるという、上級レイミ草ばかり。
そう、つまりアディルが見つけた草原の全てがレイミ草! まさにポーションの楽園! …と言っても過言ではない。
「あれ? 人? 人だ!」
前方に見えた人影。アディルより高く少し細っぽい男もこちらに気づいたようだ。
そのことに歓喜してアディルは全速力でその男の前に出た。
「友達になれるといいけど」
そんな心配をするなら、さっきから空腹と人を見つけたことに対する歓喜で溢れる魔力を抑えてほしい。一部の小動物などは泡を吹いて倒れている。そのかわりレイミ草達がイキイキとし始めたが。
「こんにちは! 食べ物ある!?」
きゃっきゃと喜びながらその男を見るが、足が震えていて顔面が引きつっている。アディルは不思議に思い、その男の目の前で手を振る、呼びかけるなどするが反応がない。
アディルはしょうがない、と言ってすぐそばに生えているレイミ草を食べる。草なので味は変だが、空腹が満たされて行くので満足している。
もしゃもしゃとレイミ草を食べながら男が回復するのを待った。
****
目の前に来たと思えば、すぐそばに座って草を食べ始めた魔族の少年。
いや、何してんねん! と突っ込みたかったが、生憎まだ足がプルプルしてる。さっきより魔力がマシになったが、俺にはキツイのが変わりない。
なんとか魔力を抑えてほしい…。
「ま」
「ん?」
「そ、の…魔力を、ぉさ…ぇ、てほ…しぃ、ん…だが」
何とか口にして伝える。さすがに足もプルプルで口下手になってると情けないったらありゃしないな。
魔族の少年はきょとん?としてから、自分の魔力を確認したようだ。慌てた様な様子で溢れる魔力を引っ込めた。
その瞬間ヒュッと喉に酸素が伝わるように感じた。無意識のうちに呼吸を止めていた様だ。
「ごめんごめん、人と出会えたことが嬉しくて」
「あ、そうすか」
めちゃくちゃフレンドリーな魔族だ。あれ、魔族って一回見たことあるけど出会ったら即戦闘みたいな戦闘狂のイメージしかないんだけど。ニタァって笑うのが怖くて…本でしか見たことないけど。偏見だっただろうか?
「んで、お主は食べ物持ってるか? 我、お腹が空いて空いて」
喋り方がおかしい…。普通、“我”とか“お主”とか使う喋り方ならお爺さん口調が代表的だ。ほら、語尾に“じゃ”をつけるやつ。
だけど、この少年は一人称と二人称はお爺さん口調だけど、他が年相応の口調だ。この喋り方だと、チャーリーみたいな“僕”が自然だろう。
「持ってるけど? 鹿肉の燻製」
この世界では、豚や牛、鹿などの燻製が保存食として用いられている。この世界に来た時、燻製の肉があることに驚いたものだ。酒のつまみには最適だなと思いながら、チーズの燻製焼きなどもしたものだ。あの頃は楽しかったな…。
「燻製?」
おや? 知らないのか?
「肉を煙と熱で焼いたものだよ。少しクセがあるが、酒のつまみには最適だ」
特にビール。この世界にもビールはあって、麦酒と呼ばず、麦酒と呼ぶ。
「酒? 人間界はわからないことだらけだな」
「…そりゃ文化も違うだろうな。で、いるのか? いらないのか?」
「いるっ!!」
鞄から取り出しヒラヒラと見せびらかせながらそう聞くと、少年はバシッと俺の手から燻製を奪いもぐもぐと食べ出した。
こう見てるとただの子供の様に見えるが、先程の魔力といい…頭に生えている角といい。はっきり言って魔族だ。それも上位の。
魔族の上位は魔人。そして魔人の上が魔神だ。ややこしい。魔族にも王様というのが存在する。領地を持ち民を持っている魔族を魔王といい、魔神と同クラスの強さを誇る。つまり、魔王は領地を持っている者で、魔神は領地を持たずふらふらとしている放浪者と言えばわかるだろうか?
そして、今回最も勢力を広げて来ているのがサタンと言う魔王。因みに勇者が倒す魔王もそいつだ。魔王は大量にいるが、穏便派もいれば過激派もいる。はっきり言って人間とそう変わらない。
「美味いっ!」
「だろ?」
てなわけで、俺はこの少年が魔人だろうと思っている。だって、あれだけの魔力だぜ?普通の魔族じゃぁない。
「ところで、お前。魔人か?」
「? うん、つい最近魔神になったよ?」
そっか、やっぱりか…。そうじゃないと説明つかない。
取り敢えず俺は少年の正体を知ってホッとする。魔人と言っているが、話し方からは普通の子供にしか見えないので一応害は無いと思う。
「そっか…じゃ? 名前は?」
いつまでも魔族の少年じゃ寂しいもんな…。あ、魔人の少年か…。
「ん? アディルネウス=サタン」
「へぇ、アディルネウス=サタ…ん?」
今聞き捨てならない事を聞いたような。何だって? サタン?? サタンってあの今世間を騒がしている魔王? いやいやいや偶々だろう…よし、考えるのは放棄しよ…。
俺はスルースキルを覚えた。
「??」
「いや、何でも無い」
俺はこの少年が本当にサタンだと知らずに…というか否定して、少年ーーーアディルネウスに何故、こんな所にいるのかを聞いた。
「追い出された」
「へ?」
「いや、追い出されたと言うより追放かな」
「元々どこに住んでたんだ?」
「魔王城。けど最初、現魔王に魔王城を追い出されたけど、国内にいたんだ」
要するに何かしたのか? こいつ…。そんな悪い様には見えないけどな…。
魔族は大体魔王に従順だ。決して逆らわず付き従う。つまり絶対王政。アディルネウスもその一人に入りそうだが。
「けど…国内で過ごしてると急に魔族達の態度が変わって…」
なるほど、それで追放。予想に過ぎないが、その魔族達は魔王にこいつは危険だとか言ったんだろ。言動と魔王が言ったことが全く違っても、魔王が正しい、魔王様の言う通りにすれば幸せだ、とかで周りが見えなくなったのだろう。全く魔王は怖い。
「そっか…で、どうすんの?」
話を聴き終えて、俺はそいつに問うた。何と無く聞いて見たかったのだ。この魔族の少年が同じ種族に裏切られ、当てもなく。母国にも帰れない。そんな少年はこれからどうするのか、聞いて見たかった。え? S? 聞き捨てならないなぁ、俺は(自称)ドSだ!!
「…どうしよ…取り敢えず、我を陥れたあの魔王を倒したいな」
「え! 倒すのか!?」
ただの魔人がっ!? 魔王を!?
俺は驚いて問いただすときょとんとした顔でコクリと頷いた。どうやら自分が負けないと思っている様だ。
「うん。あの口から“ごめんなさい”という謝罪の言葉を聞きたい」
お、おう。見た目とは裏腹に随分としっかりしてるもんだ…。やっぱり魔族って人間と寿命が違うんかね。
「けど、人間界に疎い…だから…お主と行動を共にすることにする」
……え?
アディルネウスは燻製の鹿肉を頬張りながら、チラチラと此方を見る。これは…俺に言ってる?
「できれば、魔王城まで着いて来てほしいんだけどな」
……ぱ、ぱーどぅん?
本当に俺に向けての言葉だったらしい…。
「嘘でしょ?」
「嘘じゃない」
いや、そこは嘘って言えよ!!
まぁね! いいんだけどさ! 元々目的が魔王だったしさ!!
けど、魔族と行動を共にするとか! バレたら処刑モノだよ!!
そんな感じでどうやって断ろうかとうんうん唸っていたら、アディルネウスが罰が悪そうにボソッと何か呟いた。
「やっぱ…ダメか……これで本当に路頭に迷っちゃうな…」
迷子だったらしい。あー聞き取らなければ良かった。俺の良心が痛む。けど、断る! まっぴらごめんである!!
「俺でよければ、付き合うよ」
あれ? おれ何て言った?
心と反対の言葉が俺の口から出たことに気づくのは…あと数秒ほど…。
そしてその言葉に嬉々としてお礼の言葉を叫びながら俺の腕を掴んで振る少年を見るのも…あと数秒。
ファンタジー転生王道ものは大抵、チートで回りが驚きすぎて意識を失うぐらいのチートっぷりですが、今回ディアスはその驚く側ってことですね。驚きすぎて思考停止するぐらいに。
でも、ディアスだって主人公!後々、チートにはなっていきますよー!主人公ですもの!
※アディルネウスの服装を少し変更しました。