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第一話 勇者の旅立ち

初めまして、こんばんにちわ。

「ってことで二代目魔王を倒すぞ! ディアス!!」


 喜々としてそう叫ぶその少年は、俺にとって死神にしか見えない。

 何故、こんなことに?

 そう自分に問うても返ってくる答えは、わからない。の一点張り。

 俺をディアスと呼んだ少年の笑顔は俺の良心にグサリと刺さり、断りたくても断れない。もう流れに身を任せることにした。


「…っ…わかった! お前と魔王を倒せばいいんだな?」

「やってくれるのか!? ありがとう!!」


 その少年は俺の手を掴みブンブンと振った。痛い! 腕痛い!!

 はぁとため息をついた俺は、こうなった経緯を思い出す。





 確か何週間か前のこと、突如俺の家に手紙が届いた。


「ったく誰だよ…眠ぃ」


 朝早く届いた速達郵便。眠い身体を叩き上げ、郵便を受け取る。差出人は、俺と無縁のはず…というか会ったことも無い人からだった。


「はぁ!? 国王!?」


 俺がいるのはジェラール王国の王都の郊外…の人があまりいない村の外れの山奥。

 この村の住人は約百人程度という小さな小さな村。俺は元々優秀な魔法使いを生み出す貴族の出身なんだが、ある理由でここに一人暮らししている。それにもう俺は貴族ではなくただの魔法使いである。なのに、だ。国王から手紙とはどういうことだ? と思いながら、俺は手紙を開封した。


 内容は以下の通り。


【魔法使いディアスよ。

 其方を悪しき魔王を倒すべく派遣する勇者の仲間として任命する。

 直ちに王都に向かい勇者と合流せよ。

                 ジェラール国王】


 その他は何日以内に王都へ来るようにと言うこと。ということは、国王に会うわけだから餞別品を貰える。

 しかも、勇者の仲間! 勇者の仲間なら勇者御一行ということで、町の人に歓迎され飯も宿も用意してくれるだろう。今の俺はとても貧乏であり、宿の飯となると俺にとっては豪華な食事である。

 ジュルリと涎を口の中に抑えながら、王都へ出る準備を始める。


 王都へはここから歩きで三日程度。運良く商人の馬車に乗れたなら一日半で着く距離だ。少し遠く感じるが、これが俺たちの日常。まぁ、転移魔法を使えたら話は別なんだけどな。


「えっと三日分の食料と…調理器具。あとは…杖ぐらいだな」


 俺は生まれつき魔力が少ない。知識や技量があっても、魔力がなくては魔法は使えない。

 大体魔法使いの名家に生まれた子供は十歳まで育てられ、それまでに技量・魔力を見分けられる。そしてその何方かが…それとも何方ともが足りない場合は捨てられるのだ。まぁ何とも非道なやり方でしょう! って、話が逸れた。えー話したかったのは…えーっと、あ! そうそう! 杖だ! 技量・魔力共にパーフェクトな魔法使いは杖を使わなくても魔法を使える。本来杖はサポート。足りない技量や魔力を補ってくれる。しかし杖ごとに魔法の系統が違うので非常に使い勝手が悪い。が、杖を使わず魔法を使える者は魔法を一系統しか使えないので、他の系統を使うのには杖が必要なわけで…っと、また話が逸れそうに…とまぁ、俺には欠かせない代物だ。


「よし、完璧☆」


 目指せ! 王都!!


 目指せ! 勇者パーティの一員の魔法使い!


 ということで、俺は王都に旅立った。

 上手く商人を捕まえ、馬車に乗せてもらえた。一日半で、王都に着き勇者達と合流するために王城へと向かう。


「しかし、魔王退治か……」


 そう勇者と言えば魔王や、魔物。魔族の退治。………フッ、俺には無理だな。

 俺には勇者の仲間になるほど優秀でも強くもない。何せ魔力が無いせいで、精々中級魔法しか使えない。魔王を倒すとなると、上級魔法はとにかく特級魔法まで使わないといけない。わぁ俺、死にそう。


 そんな現実逃避してると、合流の場所へと着いた。と言っても城だけど。

 大きく白と赤で塗られた城を見上げる。周りの貴族達の建物でも十分にでかいのに、その比は比べようもなく城が勝っている。しかし、この城は他の国と比べるとかなり小さい方だと言うから驚きだ。

 デカイ城門の門番に話を付け、中に招かれる。この時「ようこそいらっしゃいました! 勇者様のお仲間である魔法使いのディアス様!!」と叫ばれ、周りの視線を一身に受けることになったのは余談だ。くっ! あの門番達めっ!


 中に入ると赤い絨毯が次の扉まで敷き詰められており、両脇には階段が。その下には綺麗な花を植えられた水路があった。何とも単純な作りだろうか。と思うが、複雑過ぎても迷うので文句は言わない。

 案内人の兵士が此方です、と言って俺の前を歩いて先導する。案内されたのは応接室。先程の階段を右に登りすぐにあった。応接室の横にも部屋があり、よく見ると廊下はとても広かった。なるほど、さっきの水路の所は玄関みたいなものか。と一人納得した。

 兵士が扉をコンコンと二回ノックして扉を開けた。返事待たなくていいのか?と疑問に思ったが、それを聞くこともなく兵士がお入りください、と言うので言う事を聞き部屋に入った。そこにはもう、人が三人ほど座っていて一斉に此方を向いた。その内の一人が凄く睨みつけてくるのは気のせいと思いたい。


「此方が魔法使いのディアス様です。これで全員ですので準備ができ次第、王への面会を行いたいと思います。私は外にいますので、何かあれば呼んでください」


 そう淡々と述べ、兵士は出て行った。あんな冷静な兵士っているんだなぁと俺は思う。何せ一般兵なのにあの落ち着きようは以上だ。ん? 一般兵に見えるだけで、実はすごい将軍とかだったりして!?そんなわけないない、と手を横に振っていると一人の女性が話しかけてきた。


「君が魔法使い? よろしく!」


 握手を求めるように手を差し出してきた。勿論、俺は手を握って握手を交わす。その時によろしく、と返した。

 服装や装備から見るに弓使いだな。その子は深緑のマントを羽織っていて腰まであるTシャツ。それに短パンと短いブーツを履いていた。矢を入れた筒は腰からベルトにぶら下げていた。ふむ、典型的な弓使いだ。


「貴方が魔法使いですね? 私が勇者のエルアルと言います」

「エルアル…ですか、俺は魔法使いのディアスです。よろしく」


 エルアルと名乗った勇者は金髪だった。金髪は珍しい。てか、勇者って何かと金髪だよな…昔見た絵本にあった伝説の勇者も金髪だったような。

 エルアルは絵に描いたような整えられた顔立ちだった。短髪で緑眼、俺より長いスラリとして足。目付きは少し悪いがそれを差し引いても、イケメンの一言に過ぎる。うわぁ、勇者様ー♡とか言ってる女の子集団が目に浮かぶわ!!

 服装は白いふわふわのファーが付いたポンチョに長袖のシャツに七部、ブーツといった組み合わせだった。武具は小手と胸当てだけ。めちゃくちゃ軽装備だ。すぐに傷がつきそうだ。


 そうしている内にコンコンとノックが鳴った。すると、先程の兵士が入ってくる。


「準備ができました。皆様、王がお呼びです。王室の間へとお向かいください」


 それだけ言うと兵士は帰っていった。あれ? それだけ? 俺、王室の間とか知らないんですけど!?

と俺が嘆いている間、皆ぞろぞろと出て行く。どうやら皆場所を知っているようだ。俺だけ知らないとか何と言うか…悲しいな。

 仕方なくついて行くことにした。しかし、あの弓使い(名前聞くの忘れた)と勇者エルアル以外の女の人二人と自己紹介してない。

 一人は結構胸があるドジっ子僧侶みたいな感じだが、めちゃくちゃ睨みつけてきてる。応接間に入った瞬間からだ。痛い視線が痛い。

 もう一人は盾使い。そのずっしりとした身体付きは女の人とは思えないな。あ、いや太ってるわけじゃ無いんだ。妙に筋肉の付き過ぎかなってぐらいの…盾使いよりレスラーの方が似合ってる。

 と、俺が女性二人を観察(決して変な意味ではない)していると王室の間に着いたようだ。位置は、最初あった水路がある所で門から敷かれた絨毯を辿って行けばある扉の前だ。やっぱり、ここが王室の間だったらしい。何でわかってたって? だってこの扉、凄い装飾が施されてるんだよ。もう赤の宝石が光で反射して目が痛いのなんの。

 ギギィという鉄が擦れる音が響き渡ると、とても広い空間が現れる。赤が主体としたこの部屋の天井や壁は高級感溢れていて、床さえもそんなのだから踏んでもいいのか、と戸惑ってしまう。

 そんなこと構わずスタスタと歩くパーティとなる仲間には少し驚いてしまうが、出遅れるわけにもいかないのでついて行く。というか俺、ここに来てからついて行くっていう行為しかしてないような……気にしたら負けだ、うん。

 ザッと膝をついて首を垂れる。うん、ここまでは勉強した通りだ。俺は田舎ものなので貴族とか王の前でのマナーとかは知らない。なので家にある本とかで学んだのだが、マナーは合っているようだ。


「勇者エルアルよ、よくぞここまで来てくれた。苦労させてすまぬ」

「いいえ、私にかかればここまでくるのに然程苦労はしませぬ」

「はっはっは、さすがだな」


 なんていう王と勇者の褒め合いが始まる。二人とも褒め上手なんだろう、きっと。

 その褒め合いが数分続くと、本題へと移った。


「三ヶ国同盟国際会議での話し合いの結果、それぞれの国から一人、魔王退治へと向かってくれる者を出すことになった。余の国からは、勇者を。アズルーニからは僧侶。メニタチアから盾使いを…」


 あれ? 俺は?? え、俺ここジェラール住みなんですけど?? あと弓使いは? という疑問が湧いたが、それは王の次の言葉で消えた。


「あとの魔法使いと弓使いは…抽選じゃ」


 思わず抽選かよ!! と叫びたくなったが、ぐっと堪えた。隣にいた弓使いも同じだったらしく、下唇を噛んでいる。弓使いとは仲良くなれそうだ。


「さて、改めて勇者となった其方にはこの神が創造したと言われる神剣を授けよう。代々王家に伝わる秘宝じゃ」

「はっありがとうございます」


 と言って鞘に収められたスリムな剣がエルアルの手に渡る。自分的に大剣とかデカイ剣だと思っていたのだが、そうでもなかった。非常に使いやすそうな剣だ。

 エルアルの手に渡った瞬間眩い光が広間全体に広がる。思わず目を瞑り腕を前に持ってくる。皆も眩しそうに同じ行為を、やっていた。しかし、それも数秒。収まったかと思うと剣が消えていた。これにはびっくりして、王様も驚きで目が見開いている。いや、目開き過ぎ! 怖いわ!


「け、剣はどこじゃ!?」

「心配ありません国王様。剣はここに」


 と言ってエルアルはシャツをめくる。いや何やってんだ! と思ったが、シャツをめくった先にあったベルトに何か引っかかっていた。よく見ると剣の形をしている。


「今の時代、よくある縮小魔法です。小さくしてベルトにかけて見ました」


 縮小魔法とは、物体を小さくする魔法である。魔力の消費があまり無いため、一般人でも使える優れものだ。縮小魔法を使えばどんなものでも小さくでき、魔法を解けば元に戻るので非常に便利! 勿論! 俺も杖を小さくして、エルアルみたいにベルトに下げている。

 じゃぁさっき何故エルアルに突っ込んだかって? だって縮小魔法かけるのに光出すなんておかしいしな、誰も縮小魔法かけたなんて思わない。


「そ、そうか…して、先程の光は?」


 お! 俺の疑問を王様がエルアルに言ってる!この王様、俺の疑問を即座に返してくれるよな。ありがたや。

 そう王様に質問されたエルアルはニコリと微笑み告げた。


「この神剣に憑依していた精霊が現れる際の光だったようで、先程話し合いをして私を持ち主と認めてくれたようです」


 急に“こいつ頭大丈夫か?”な言葉をつらつらと述べてきた。

 神剣に精霊が住んでいて? 精霊が出現したからあの眩い光が出て? その数秒間の間に話をつけたって? …うん、勇者的展開だね。

 俺が少し逃避していると、王様はそうかそうかと言って何度も頷いた。


「さすがは勇者。その剣に住んでいる精霊と会話したとは…それでこそ余が選んだ勇者じゃな! 其方を選んで良かったわい!」


 はっはっはと豪快に笑う王様。この人、器が小さいのか大きいのか全くわからない。

 王様は笑い終わると真剣な顔つきで言ってきた。


「さて…勇者達に魔王討伐の命を下す! 即刻、魔界に行き魔王を討ち取れ!!」

「「「はい!!」」」


 弓使いと俺以外が王様の命令にそう叫ぶ。急に言われたので反応できなかったし…俺は魔王を討ち取るだけの力が無いので、返事できなかった。弓使いは知らないけど。

 王室の間から出ると、大臣とその他メイド達がお金を渡してきた。一人金貨一枚。大金だ。ゲームとかだと三千とかだったりするからな。そう考えたら太っ腹だ。

 因みに金貨一枚十万ぐらいだったりする。銀貨は千円、銅貨は百円。結構王道な設定だ。白金貨なんて物もある、プラチナのことだ。

 それは置いといて、勇者の旅路に十万とか。すげーなと思いながらもポケットに入れる。

一度応接室に戻ると皆荷物を持つ。勿論。中身を確認してからだ。

 さて、これで準備は整った。


 俺たちは魔王退治の旅に出る。



ってことで、第一話です!

一話五千文字程度を目指しています。

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