曇天
さっきまで降っていた雨が上がったらしい。雨の音が聞こえなくなった僕は窓の外を見る。やはり雨はが上がったみたいだ。しかしまだ外は暗い。なぜなら雲が空を覆い尽くしているから。僕は無意識のうちに溜息をついていた。やはり僕は雨より雲のほうが嫌いだ。雨は全てを洗い流してくれるが、雲はすべてを覆い尽くすだけで覆われているもの自体はいつまでも残ってしまうから。
ぼおっとしている僕に自分の部屋から出てきたらしい姉さんが声をかけてきた。買い物に行ってくるけど大丈夫?と。僕が大丈夫、と返すと、疑うように僕の顔を覗き込みながらもう一度、大丈夫?と言ってきた。まったく、本当に姉さんには敵わない。そして今度は、大丈夫じゃないけど行かなきゃいけないんだろ。だから早く行って早く帰ってきて、と返す。姉さんは分かった、とだけ言い、僕の頭を軽くなでて出かけていった。
ああ、本当に姉さんには敵わない。
僕が曇りの日を嫌いになった理由。それは両親を奪われたのが曇りの日だったから。僕が6歳、12歳年が離れた姉さんが18歳の時。僕は家で、大学が休みで家に帰っていた姉さんと二人で買い物に出かけた両親を待っていた。もうすぐ帰ってくるかな、とわくわくしながら僕が待っているのと対照的に姉さんは黙々と大学の宿題をやっていた。そんな時に突然鳴り出した家の電話。姉さんがでる。少し話した途端姉さんが突如崩れ落ちる。どうしたの、と声をかけると黙ったまま抱きしめられた。もう一度どうしたの、と話しかけると姉さんは体を少し離し僕の顔をまっすぐ真剣に見ながら言ってきた。父さんと母さんが事故にあって即死だった、と。
それからのことはあまり覚えていない。覚えているのは姉さんが大学を辞めて働き始め、家に戻ってきたという事だけだ。
ああ、感傷に浸りすぎて気分まで暗くなってきてしまった。他のことを考えよう。今日の晩ご飯は何だろうか。姉さんの作る料理は何でもおいしいから楽しみだ。そう思った瞬間、既視感を覚えた。何か嫌な感じがする。姉さんは大丈夫だろうか。そんな事を考えていると家の電話が鳴る。その電話にでる。
姉さんが、事故にあって、即死したらしい。
……ああ、やはり曇りは嫌いだ。