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決闘

 邸からやってきた人物を見てジャネットとフレデリカは驚愕した。邸からやってきたのは、睡眠薬で眠っているはずのドロシーだったのだ。


「そんな、どうしてドロシー様が…」


 ジャネットは、決闘が始まろうという時に突然現れたドロシーに驚き、狼狽の余りその場にしゃがみ込んでしまった。


「そんな、確かに魔法薬(ポーション)は……」


 フレデリカも激しく動揺したのか、危うくドロシーに魔法薬(ポーション)を盛ったこと呟きかけた。


「ドロシー、目が覚めたの? …もしかして決闘は中止なの?」


 クラリッサは、ドロシーがやって来たことで決闘が中止になるのかと、安堵の溜め息を付いていた。


「間に合って良かった。クラリッサさん、ご無事で良かった~」


 ドロシーはクラリッサに駆け寄ると、無事を確認するかのように彼女を抱きしめ、そしてクラリッサの耳に口を寄せて小声で話しかけた。


「(クラリッサ、そのまま聞いてほしい。実はこのドロシーは、僕が変身した偽物だ)」


「(えっ? プルートなの?)」


「(うん。本物はまださっきの部屋で眠っている)」


 そう、邸からやってきたドロシーは、子猫(おれ)が魔法陣で変身した偽物だったのだ。


 使用人の部屋の屋根裏に潜んでいた子猫(おれ)は、侍女達を眠らせた。そしてドミニクに化けて、睡眠薬の盛られたケーキとお茶を客間に運びこんだ。

 その時点では、ケーキから睡眠薬を取り除いてドロシーを眠らせないようにしても良かったのだが、それでは結局ジャネットの問題は先送りとなってしまうと思い直したのだ。

 そこで決闘を利用して、ジャネットがクラリッサに二度とちょっかいを出さないようにしようと考えたのだ。


 客間で子猫(おれ)はドミニクとして給仕を行い、ドロシーがケーキを食べて眠り、ジャネットとフレデリカ、クラリッサが部屋を出て行くのを待った。

 予定通り客間に残された子猫(おれ)は、使用人部屋に戻ると、二人の侍女の口にケーキのクリームを付けてつまみ食いをしたことで眠ったように偽装も忘れない。そして、ドミニクを客間に運びこんだ。

 それらの作業を終えた後、子猫(おれ)はドロシーに変身し直して大急ぎで決闘の場(ここ)にやって来たのだった。


「(僕はドロシーとして(・・・・・・・)決闘に反対するけど、クラリッサは、ジャネットとの決闘を続けると言ってくれないか?)」


「(…了解)」


 そこまで小声で話すと、ドロシー(おれ)はクラリッサから身を離した。


「クラリッサさん、貴方とジャネットさんが決闘なんておかしいですわ。直ぐに止めて学校に戻りましょう」


「ドロシー、私は決闘は続けるつもり」


「何故ですの? 貴方とジャネットさんが決闘する意味など無いでしょう」


「意味はある。とにかく決闘は続ける」


「…そこまで仰るなら…もう止めません。では私は不正がないか、決闘を見守ることにしますわ」


「ドロシー、ありがとう」


 ドロシー(おれ)とクラリッサは、決闘を続ける方向で話をまとめた。

 ジャネットとフレデリカは、どうなることかと、ヤキモキしながら俺達の会話を聞いていたが、決闘を続けることになりホッっとした顔をしていた。


(ドロシーがいる状態で決闘を受けるって事は、勝つ自信があるのか? それともあの魔法陣、あれを使うつもりか。ドロシーなら仕掛けがバレないと思っているのかな?)


「ど、ドロシー様、クラリッサさんも決闘を続けるつもりです。どうかこちらにて決闘をお見守りください」


 そう言って、フレデリカはドロシー(おれ)を訓練場の外に連れ出した。


「クラリッサさん、がんばってくださいね」


 ドロシー(おれ)はクラリッサに


「猫む…いえ、クラリッサさん。てっきり決闘から逃げ出すものと思ってましたが…私、貴方を見くびってましたわ」


 ジャネットは、決闘の開始に備え杖を構えながクラリッサを見据えた。


「勝てる戦いから逃げる理由は無い」


 対してクラリッサも杖を構えジャネットを睨んだ。


「双方準備は宜しいですね。…では、決闘を開始します」


 フレデリカが誓約書を掲げ、決闘の開始を宣言した。





(クラリッサがジャネットを瞬殺して終わりだと思ったんだけどな~)


 決闘が始まって三分ほど経過したが、子猫(おれ)の予想に反してジャネットは善戦していた。





「マナよ深き眠りをもたらす砂となりて舞い踊れ~スリープ・パウダ…」


「不可視の矢よ我が刃となって敵を滅ぼせ~インビジブル・ボルト」


 クラリッサが眠りの粉魔法(スリープ・パウダー)を唱えるタイミングにかぶせて、ジャネットは不可視の矢(インビジブル・ボルト)を唱えた。呪文の完成はジャネットが一瞬早く、クラリッサは呪文の詠唱を中断して不可視の矢(インビジブル・ボルト)を跳んで避ける。


「クッ、ちょこまかと」


「…マナよ深き眠り……」


「…不可視の矢……」


 再び呪文を唱え始めたクラリッサに対し、ジャネットも呪文を唱え始めた。




 このように戦いは、クラリッサが魔法を唱えるのに対して、ジャネットがそれを遮るようにして魔法を唱え、クラリッサが魔法を中断するという展開で進んでいた。


(今回のような魔法使い同士のタイマンの戦い方に慣れているみたいだな)


 ドロシー(おれ)は、ジャネットが戦いになれていることに驚いていた。


 今回の決闘は、魔法のみを使用した戦いと決められている。しかも相手を殺さずに無力化しなければならないとう制約が付いている。

 様々な攻撃魔法は有るが、相手を殺さずに無効化するという魔法は意外と数が少ない。例えば、氷の矢(アイス・アロー)炎の矢(ファイヤ・アロー)などは威力がありすぎて、使うことはできない。

 不可視の矢(インビジブル・ボルト)眠りの粉魔法(スリープ・パウダー)といった威力が無い、又は相手を殺さない魔法を使う必要がある。

 また、低威力の不可視の矢(インビジブル・ボルト)でも、下手な場所に命中すれば死んでしまうことがある。そのため、手や足と言った致命傷とならない箇所を狙う必要が出てくる。


 魔法だから簡単に狙いが付けられると思っている人がいるかもしれないが、魔法も万能では無い。剣や槍、弓と一緒で、魔法も正確に狙いを付けるならそれなりの訓練が必要なのだ。


 クラリッサはジャネットに比べて、魔法の威力は遙かに上で、様々な呪文も使いこなし、魔法の効果の拡大というたぐいまれな素質も持っている。魔獣や盗賊との戦いといった実戦経験もある。しかし今回の様な、魔法を精密に使うといった戦いは経験したことは無かった。


 一方ジャネットは、恐らく魔法の教師であるフレデリカが教えていただろうか、このような戦いに慣れていた。相手に魔法を唱えさせてからそれを邪魔をする魔法を唱えたり、自分と相手の位置関係から、ギャラリー(この場合はフレデリカやドロシー)を背後に背負って魔法を唱えられなくするといった、地味な戦法を確実にこなしていく。


(ジャネットは魔法少女のような外見のくせに、詰め将棋のような戦いをしやがる。クラリッサが普通の魔法使いだったら負けていたかもしれないな。…だけど、このままなら、最後にクラリッサが勝つよな~)


 何故このままならクラリッサが勝つか。それは魔力(マナ)の差である。ジャネットの魔力(マナ)保有量は確かに常人より上ではあるが、クラリッサの魔力(マナ)保有量はその上を行く。

 戦いはクラリッサが魔法を唱えて、それをジャネットが邪魔をするというパターンとなっており、二人は同じだけ魔力(マナ)を消耗している。このままの状態であれば、魔力(マナ)の持久力が上であるクラリッサが勝つことは自明の理である。


(そろそろフレデリカが何か仕掛けてくるはずだが…)


 フレデリカは、じっと二人の戦いを見つめていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


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