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SS「トビアスの個人授業」

「…待ってる」


 プルートは、リュリュに抱きかかえられて私から去って行く。しかし今の私にはそれを見送ることしかできない。

 本当なら追いかけて、リュリュからプルートを奪って抱きしめたいが、それはできない。


 だってプルートが、「クラリッサ、トビアス校長に魔法を習っておけば助かる。我慢してね」と、私にそう言ったのだ。

 プルートにそうお願いされてしまったら、もう私はそれに従うしか無い。


(プルート、早く私を迎えにきて…)


 私はそう願いながら、彼とリュリュをいつまでも見送っていた。


「………ちゃん。……リッサちゃん。…クラリッサちゃんや!」


 私の名を呼ぶ声がする。誰だか知らないが、プルートを見送るのを邪魔しないでほしい。ああ、プルートが角を曲がって見えなくなってしまった。


 プルートが見えなくなったので、私を呼ぶ声の方を向く。

 見ると、トビアスが呆れた顔で私を見ていた。


「ようやく反応しおったわい。クラリッサちゃんや、使い魔が気になるのはしょうがないが、しょせん猫じゃ。かまい過ぎると嫌われるぞ?」


「プルートは私の恋人。使い魔じゃない」


「恋人じゃと? …うーん、猫獣人は、猫も恋人にするのか。それは知らんかった」


 トビアスは、新しい知識を得たとばかりにうんうんと頷いた。

 猫獣人が猫を恋人に選ぶのか、私は知らない。だって私は自分以外の猫獣人と話をしたことがないんだもの。


「他の猫獣人(ひと)は知らない。でもプルートは私の恩人で、恋人」


「…ん、事情はよく分からんが、まあそれは良い。それより小屋に入ってくれぬか。今からお前さんに魔法を教える約束になっているからの」


「ん」


 私は小さくうなずくと、トビアスの後に続いて小屋に入っていった。





「さて、今からお前さんに魔法を教えることになるのじゃが、その前にどの程度魔法の知識を持っているか知っておく必要がある。そこでいくつか質問をするから、それに答えてくれんかの」


「分かった」


 私の魔法知識のレベルを調べるために、トビアスは様々な質問をぶつけてきた。


「魔法の発動体には何が使える?」


「杖などの発動体として処理された物。使い魔も発動体として使用可能」


「呪文は魔法の発動に必要か?」


「不要。呪文を唱えなくても発動可能」


 :

 :


 質問の内容は多岐にわたったが、エーリカの持っていた本に書いてあった事か、エーリカから教えて貰ったことばかりだった為、簡単に答えることができた。


「…うーん、困ったの~」


 質問を終えたトビアスが、困った顔をしている。もしかして私は、間違った回答をしてしまったのだろうか。


「間違っていた?」


「いや、全部正解じゃ。…クラリッサちゃんはどこで魔法知識を習ったのじゃ?」


「エーリカに習った。後、エーリカの持っている本は全部読んだ」


「やはりそうか。エーリカ先生から教育を受けて、本も読んだとなると、儂にはもうクラリッサちゃんに教えることが無いかもしれん」


 トビアスはがっくりと肩を落とす。


 魔術学校の校長であるトビアスだが、この国で一番魔法について詳しい知識を持っているかと問われると、「いや二番目じゃ」と彼は答えるだろう。

 そう、この国で一番魔法に詳しいのは、トビアスとクラリッサの先生であるエーリカだったのだ。


 エーリカは、開拓村を回るボランティアを行いながら新しい魔法についての論文やレポートを作成し、時々魔術学校に送っている。

 その論文やレポートの内容たるや、魔術学校の研究職員が理解し、実践するのに半年ぐらいかかる場合もある高度の内容だったりする。


「エーリカ先生が知らない新しく発見された呪文を教えてやれるが、…魔法理論については儂よりもクラリッサちゃんの方が進んでいるかもしれんの」


「そう?」


 エーリカに習ったことはそんなに難しいことだったのだろうかと私は思った。魔法理論より、プルートの好きな料理の味を覚える方が大変だった気がする。


「逆にエーリカ先生の最新レポートを読んだ事があるなら、それを儂に教えて欲しいぐらいじゃ」


「ん? 半年ぐらい前に書いていた奴なら覚えている」


「おお、それは本当か?」


「エーリカの部屋を掃除した時、床に散らかっていた論文だった。片付けるときに読んだ。確か『魔法陣と変身魔法の効果と持続時間についての考察』だった」


「おお、それならこの前エーリカ先生から送られてきた論文じゃ。しかし、後半部がかなり端折ってあって、儂も実践する事ができず困っておったのじゃ」


「エーリカは、全部書いてしまうと為にならないから、後半部はあえて端折ると言っていた」


「ぐっ。エーリカ先生は相変わらずじゃの~。…クラリッサちゃんは、論文の内容について理解しておるのか?」


「うん」


「…すまぬが、儂にそれを教えてもらえぬかの」


 トビアスが頭を下げてクラリッサにお願いしてきた。


「教えても良い。けど…」


「けど?」


「授業料をもらう」


「お金を取るのか」


「お金を持っている人からは、ちゃんと対価を得て良いとエーリカは言っていた」


「…さすがエーリカ先生の弟子じゃの。うむ、分かった対価を払うのじゃ」


 こうして魔法実技の時間は、先生と生徒の立場が入れ替わり、クラリッサがトビアスに魔法知識を教えるという時間となったのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


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