図書館で…
『としょかんにいきましょう!』
プラカードでリュリュと意思疎通が可能となった子猫は、図書館に行くことを二人に提案した。
目的は、地理の授業で聞き逃した部分を調べるためである。
("好奇心の女神"の信者を増やす必要があるからな~。もっとこの世界のことを知っておかないと)
俺はクラリッサのために"好奇心の女神"の信者を増やすことは忘れてはいない。そのためにもこの世界のことをもっと詳しく知る必要があると考えている。
「えーっ、図書館なんて本だらけでおもしろくないよ~」
リュリュは魔法使いのくせに本好きではないようで、プーッとふくれた顔をする。
『まほうのほんもあるとおもいますが?』
「リュリュ。魔法使いなら本をちゃんと読むべき」
「えーっ、魔法はクラリッサちゃんから教わる~」
駄目な娘さんであった。
その後、子猫とクラリッサに説教されて、リュリュは渋々と図書館に行くことを渋々承諾した。
◇
警備員&司書代わりの古木巨人にタグを見せて俺達は図書館に入館した。
魔術学校の図書館は、ラフトル伯爵の書庫に勝るとも劣らない規模であった。
王都にある魔術学校の図書館である。ラフトル伯爵の書庫と違い趣味の本は少なく、学術系の本が大量に書架に整然と並んでいた。
雑然と本が並んでいたラフトル伯爵の書庫とは違い、ちゃんと整理されているらしいが、目的の本を探すのは初めて来た俺達にはかなり大変な作業であると感じた。
(ここにも、本の妖精とかいないかな? 彼等がいれば本を探すのが楽なんだけど…)
大量の本を見て子猫はラフトル伯爵の書庫にいた本の妖精のリプラ達のことを思い出していた。
「本が一杯~。かび臭い~」
リュリュが大量の本を見て叫ぶ。
『リュリュさん。しずかにしてください』
こちらの世界でも図書館は静かにするべきだろうと、子猫はリュリュを窘めた。
「でも人が少ない」
クラリッサが館内を見回してそう呟く。
魔術学校の図書館ということで、勉学に励む生徒が多数とは言わないがそれなりにいると思っていたのだが…。
『これだけですね。みんなほんがきらいなのかな?』
子猫が片手を上げる…つまり、図書館内には5人しか生徒がいなかったのだ。
後は白衣のような服を着た…研究員らしき人が二人だけだった。
『あれは、カーゴくん?』
本を読む生徒の中に見知った顔を子猫は見つけた。
「さっきの地理の授業にいた子だね~」
リュリュが子なんて言うが、カーゴは16~17歳なので、彼女より年上の少年だ。ぼさぼさの黒い髪の毛で、身長も170cm以上ある。
カーゴが読んでいる本は…さっきジーンギス先生が紹介していた本、つまり子猫が読みたかった本であった。
(ちぇっ、読みたかったけど今は無理か~。ああ、でも俺は猫だから横から覗いても…)
子猫はリュリュの腕から飛び降りると、カーゴが座るテーブルに駆け寄って飛び乗った。
図書館のテーブルは、一度に10人ぐらい座れそうな大きな物なので、子猫が飛び乗っても問題ない。
カーゴは子猫がテーブルに飛び乗ったことにも気づかずに真剣に本を読んでいた。
(さて、どの辺りを読んでいるのかな?)
猫は意識しなくても忍び歩きをしてしまうが、子猫は更に気配を消してカーゴに近づいていった。
そして横からそっと本を覗く。
(おお、ちょうど読みたかった所だ~)
子猫が近づいてもカーゴは本に集中しているのか、全く気付いていなかった。
カーゴがページをめくる。
「にゃーにゃー」(ああ、そこもうちょっと読みたいんだ)
「うぁっ、何でこんな所に猫が。…痛って~」
思わず子猫は鳴いてしまった。そこでようやく子猫が覗き込んでいたことに気付いたカーゴは、慌てて立ち上がろうとしてひっくり返ってしまった。
「プルート、脅かしちゃ駄目!」
「うにゃーん」(ごめーん)
「大丈夫だった?」
リュリュがひっくり返ったカーゴの様子を心配そうに見ているが、彼の怪我はせいぜいこぶを作った程度である。
「君達は、さっき地理の授業に出ていた…魔術科の転入生?」
クラリッサとリュリュを見たカーゴは、俺達が誰なのか気付いたようだった。
「そう」
クラリッサが肯定の意で頷く。
「この子猫は、君の使い魔? 図書館に猫を連れてきちゃ駄目だろ」
カーゴは、テーブルの上の子猫を見て文句を言ってきた。
「プルートは、私の使い魔じゃなくてエーリカの使い魔。ついでに恋人」
「なー」(おいおい)
相変わらずのクラリッサの紹介に子猫は肉球で突っ込みを入れた。
◇
「へー、この子猫は本が読めるのか~」
『よめるよ~。でもぺーじをめくるのはにがて~』
子猫が本を読むと聞いてカーゴは感心していた。しかも地理や歴史の本が読みたいと言うと、その手の本がある場所を教えてくれた。
「それに、この白い板のような魔法のアイテム、猫と話ができるなんて凄いね。どこで手に入れたの?」
カーゴは興味深そうにプラカードを見つめていた。
『エーリカからもらった~』
精霊人のアントンに作ってもらったなどとは言えないので、エーリカから貰ったことにして誤魔化した。
本を読みながら、子猫はカーゴ自身についていろいろ話して貰った。
彼のフルネームは、カーゴ・サーワガ。王都で地方との流通業にかけて一、二を争うサーワガ商会の三男だそうだ。
商家の生まれということで、本来なら実家の手伝いをしながら商いを学ぶ所だが、彼には魔法の才能があった。
商会に出入りしていた魔法使いにその才能を見いだされた彼は、商会の役に立つ魔法使いになるべく魔術学校に入学させられたのだった。
「本当は、商人になっていろんな所に行きたいんだけどね~」
カーゴは魔術学校に入ったが、実のところ魔法使いなどになりたくないと話してくれた。
「商会付きの魔法使いなんて腐敗防止魔法をかけるためにいるようなモノだからね。魔法使いになったら、王都でずっと商品に腐敗防止魔法をかけるだけで、商隊を率いて地方都市に行くことなんて許してもらえないだろうね」
俺達が最初にリュリュ達と知り合ったときのように、商品に腐敗防止魔法をかけるための魔法使いの需要は多い。輸送だけじゃなく、倉庫に保管するときにも腐敗防止魔法は重宝される。
そう言ったことから、カーゴは腐敗防止魔法が唱えられるようになることを期待されていた。
(カーゴ君は魔法使いになりたくないのか~。取りあえず、クラリッサやリュリュにちょっかいを出してきそうに無いからよしとしておこう)
『それは、たいへんだね。ぼくはネコだからきらくでいいにゃ~』
カーゴの身の上は子猫にはどうしようも無いことなので、お気楽な猫のフリをしておいた。
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