選択授業とプラカード
四人娘の一人が、ドロシーと金髪縦ロールなお嬢様と名前がかぶっていることに今更気づいてしまいました。
ABCDで安直に決めたのがまずかった^^;
四人娘の方のドロシーはドリスと改名させてもらいます。
「そういうわけでじゃ。お前さんは、魔法実技と薬学の授業を免除、つまり受けなくて良いことになったのじゃ。」
午後、昼食を終えた俺達はトビアスに呼び出され、魔法実技と薬学の授業を受けなくても良いことになってしまった経緯を説明された。
「にゃー」(ちょっとやり過ぎたな)
「そう? あの程度は普通?」
子猫は、クラリッサの実力を見せすぎたと反省したが、クラリッサはそう感じていないようだった。
(ジャネットに対して、俺も少し意固地になってしまったな。おかげで先生が自信を無くしてしまったようだな。あんまりやり過ぎないようにしよう)
子猫は反省のポーズをとって、トビアスに魔法実技と薬学の授業の間クラリッサはどう過ごすのか尋ねた。
「みゃーみゃー」(その授業の間はどうすれば良いの?)
「そうじゃの。クラリッサちゃんにはここで儂が魔法を教えることにしようか」
「なー」(そっかー)
トビアスの返事を聞いて、取りあえずそれで良いかなと思ったのだが。
(クラリッサの方はそっちの方が実力が付くかな? ついでにドロシーに魔法でも教えるか…って肝心なことを忘れてたよ。本当はリュリュに魔術学校の授業を受けさるつもりだったんだ!)
俺は、リュリュが授業を受けられなくなることに気づいてしまった。
「にゃん?」(僕は授業を受けても良いのかな?)
「ん? お前さんは…まあ、授業を受けても良いじゃろ。あの二人が気にかけているのはクラリッサちゃんだけじゃからな」
「みゅー」(良かった~)
「プルート?」
それを聞いてクラリッサが顔をしかめた。
「にゃーにゃー、みゅー」(じゃあ、クラリッサは任せたよトビアス校長先生)
「え~」
クラリッサは子猫の決断に不満そうな声を上げた。
子猫はクラリッサの肩に駆け上ると、ほほをすり寄せながら彼女にささやいた。
「二つの授業の間だけだから、クラリッサ我慢して~」
「プルートと離れるの嫌!」
クラリッサは子猫の頭を撫でながら文句を言う。
「ここに入った目的は、リュリュの安全の確保と授業を受けさせ為だっただろう。それにドロシーに魔法を教えるって約束もあっただろ。トビアスに魔法を習うついでに彼女も一緒に魔法を習わせれば一石二鳥だよ」
「ん~」
子猫が説得するが、それでもクラリッサは不満そうであった。
「それ以外はクラリッサの言うこと聞いてあげるからさ」
「分かった。我慢する」
そう言って、クラリッサは子猫をギュッと抱きしめた。
◇
午後一コマ目の授業は算術だったのだが、それはトビアスに呼び出されたおかげで受けることはできなかった。午後二コマ目の授業は選択式となっており、生徒は自由に授業を選べる。
魔術学校の授業は魔術学校の授業は魔法実技や薬学だけではない。錬金術や歴史、地理、文学や音楽といった授業もある。
子猫とクラリッサは、選択式の授業として、地理を選択していた。
俺はこの世界の地理の知識は、エーリカの持っていた本に書かれていたおおざっぱな物しか持っていない。クラリッサもそんな教育は受けてなかったので、ちょうど良いと思って選択したのだ。
「このように、ラフタール王国は魔獣の森を挟んで南にカーン聖王国、ザム山脈を挟んで北にジャムーン王国、そしてラルトール川を挟んで東にゼノア王国と囲まれています。これらの三国とは…」
地理を担当するのは、大きな角と長い白髭を持つ山羊の様な顔をした老人であった。
この先生、名前はジーンギスというのだが、山羊獣人という種族で、年齢は180歳を超えており、魔術学校では二番目に高齢な先生である。
ちなみに一番高齢な先生は、錬金術を教えるエルフの男性教諭で、彼は300歳を超えている。
獣人は人間より短命な種族が多いのだが、山羊獣人は例外的に長寿な種族である。争いごとを好まず、知識を求めてさまようという種族であり、カーン聖王国を除く三国では学者として暮らしている者が多い。
「ジャムーン王国は、獅子獣人のレオパルド王家が統治していることは皆さん御存じでしょう。しかし一時期、大臣を務めていた灰犬獣人の陰謀によって、王家が断絶しかけました。しかし、辛うじて大臣の魔の手を逃れた王家の長男が灰犬獣人を打倒したということはあまり知られていません。これは…」
ジーンギス先生は地理だけでなく歴史の授業も受け持っているため、各地の歴史をちりばめた話をしてくれる。三国志や戦国武将などの歴史物が好きな俺にとってはとても楽しい授業である。
(でも、授業をとっているのが俺達とあと一人しかいないんだよな~)
地理の授業は人気が無いのか、授業を受けているのは俺とクラリッサ以外は男子生徒が一人だけだった。
後で聞いたのだが選択授業は、授業をとらないという選択肢もあり、大半の学生は授業をとっていないのだった。
(あの男子生徒、こっちを見てるよな~。確か名前はカーゴだっけ?)
カーゴは、ぼさぼさの黒髪とソバカスの浮いた顔で、王都では珍しい黒髪以外は目立つ容姿ではない。
今まで生徒一人きりだった授業に俺達が入ってきたので、カーゴは俺達が気になるのだろうが、こちらをチラチラと見てくる姿が少し鬱陶しい。
「…というわけで、ジャムーン王国の統治は現在安定しています。…どうやら時間のようですね。今日話したジャムーン王国の歴史は、図書館に蔵書があります。興味のある人は探してみてください」
(しまった、聞き逃してしまった…)
ジーンギス先生が授業の終わりを告げて教室を出て行く。俺はカーゴの視線に気をとられていて、ジャムーン王国の歴史話の最後の部分を聞き逃してしまった。
(しょうがない。図書館に行って本を借りるか)
「みゃっ!」(図書館に行こう!)
「分かった」
「?」
クラリッサは子猫の提案に賛成してくれたが、リュリュは子猫の言葉が分からないので首を傾げてる。
(そう言えば、明日からクラリッサと別行動することになるな。このまま俺とリュリュだけだと意思の疎通ができないからまずいな)
首輪の鈴を使えば人の言葉で話すことも可能だが、このアイテムのことは知られたくない。人に変身できることも絶対に知られたくないので、リュリュと意思疎通をする手段を何か考えなければならない。
(ミニ黒板と白墨でも使うか…そういえば、アントンに作って貰った便利アイテムあるじゃないか)
机の下に潜って、子猫はポケットからプラカードを取り出した。そして、プラカードを咥えて机の上に飛び上がった。
「猫ちゃん、どこからこれ持ってきたの?」
リュリュは子猫が咥えてきたプラカードを見てびっくりしていた。
「にゃー」(見てて)
子猫はプラカードを両手で保持して肩にかけた。そして魔力を通しながら念じると、『これは、まほうのアイテムです』とプラカードに表示される。
「えーっ、すごーい! これ魔法のアイテムなの?」
プラカードに表示された文字を読んで、リュリュは目を丸くして驚いた。
『これで、リュリュとおはなしできます』
「ほんとに? これクラリッサちゃんがやってるんじゃ無いの?」
『ちがいます。クラリッサではなく、ぼくがおはなししています』
「リュリュ、これは本当にプルートがやってる」
リュリュはなかなか子猫が文字を出していることを信じてくれなかったが、最後には何とか納得してもらえた。
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