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薬学での出来事(2)

 クラリッサはヨモウグ草の粉末とヨーナル草の粉末を一定割合で混ぜ合わせ蒸留水に溶かす。適度に混ざったところにリゲン草の粉末をひとつまみ加えて再度拡販すると、溶液の色が薄い黄色に変わる。


 低級回復薬(ヒールポーション)ぐらいであれば薬草の比率はあまり効果に影響を及ぼさないが、上級回復薬アッパーヒールポーションとなると、薬草の混合比率が効果の善ししに影響を与える。

 しかもその比率はそのときの気温や湿度に影響を受けるので、その都度変える必要があるのだ。


「…すごい、配合も目分量なのに完璧だなんて。それに手際がものすごく良いです」


 ファミド先生はクラリッサの流れるような作業内容に目を見張る。


「後は魔法で処理して終わり」


 クラリッサは溶液をつぼに詰めて子猫(おれ)が描いた魔法陣の上に置いた。

 そして魔法薬(ポーション)を作成するための呪文を詠唱する。


「マナよ、すべての力の源よ、癒やしの力となりてこの中に宿りたまえ~」


 呪文の詠唱とともに、中級回復薬ミドルヒールポーションを作った時と比べものにならないほどの魔力(マナ)が魔法陣上のつぼに集まっていった。


「クラリッサちゃん、あれだけの魔力(マナ)を制御できるの~」


「マジか。先生だって無理だろ」


「あんな魔力(マナ)を扱えるのは校長先生ぐらいじゃないか?」


 生徒達は魔法陣に集まった魔力(マナ)を見て騒ぐが、クラリッサの集中は乱れない。


「クリエイト・ポーション」


 呪文の詠唱を終えると、魔力(マナ)はすべてつぼに集約される。そして一条の赤い煙が立ち上った。


「にゃん」(成功だね)


「うん、快心のできだと思う」


 クラリッサはつぼを手に取ると、ファミド先生に渡した。


「先生、上級回復薬アッパーヒールポーションです」


「え、ええ。呪文は成功したようですね」


 ファミド先生はまるで宝石でも扱うかのように上級回復薬アッパーヒールポーションの入ったつぼを扱っていた。


「せ、先生。クラリッサさんの呪文は本当に成功したのでしょうか?」


 そんなことを言い出すのは一人しかいない。


「うにゃーっ!」(ジャネットか!)


 ジャネットが立ち上がって教壇に駆け寄ってきた。


「ファミド先生でも成功率が低い上級回復薬アッパーヒールポーションの呪文です。今日魔術学校入ってきた方が成功するなんて…。きっと何か別の魔法薬(ポーション)を作ってごまかしたんです」


 ジャネットはクラリッサが上級回復薬アッパーヒールポーションを作成できたことが納得できないようであった。


「ジャネットさん、でもクラリッサさんの呪文は成功していた思い…」


「確かめてください」


 ジャネットに強く言われて、ファミド先生は気圧けおされてしまった。


「そ、そうですね。ちゃんと上級回復薬アッパーヒールポーションができているか確かめる必要がありますね」


 回復魔法薬(ヒールポーション)の効果を試すには怪我人に飲ませるのが一番である。だがそう都合良く怪我人がいるわけがない。

 後残る手段としては、魔法薬(ポーション)を鑑定できる人に見てもらうという方法もある。冒険者ギルドや魔法薬(ポーション)を売り買いしている店にはそんなスキルを持つ人が常駐している。


「あれ、ファミド先生は魔法薬(ポーション)の鑑定ができるはずでは?」


「僕達の作った低級回復薬(ヒールポーション)をいつも鑑定してるじゃないですか」


 生徒達に言われるまでも無く、ファミド先生はすでにクラリッサの作った上級回復薬アッパーヒールポーションを鑑定し終えていた。つぼの中にある液体の色と香りはまさに上級回復薬アッパーヒールポーションの物であった。


「そ、それはそうなのですが…。少し、自分の鑑定が信じられないのです」


 ファミド先生は、クラリッサの呪文が成功し、上級回復薬アッパーヒールポーションができたことを認識していた。しかし彼女は、獣人のしかも十歳の少女が作成に成功したということを認めたくなかった。


「では、わしが鑑定してやろうかの」


「「「校長先生!」」」


 教室の窓の外(・・・)から声をかけてきたのは、魔術学校校長のトビアスだった。突然現れたトビアスにファミド先生と生徒達は驚いていた。もちろん子猫(おれ)も驚いていた。


「にゃにゃ?」(何故なにゆえ窓の外から?)


のぞき魔?」


「誰がのぞき魔じゃ。失礼なことを言うな。このクラスで異常な魔力(マナ)の高まりを感じたので見に来たのじゃ」


 トビアスはそう言いながら窓から教室に入ると、飛行魔法(フライ)を解除して床に降りる。


「昨晩泥棒が入ったことを考慮して、魔術学校の敷地内に魔力(マナ)を監視する魔法をかけておいたのじゃが、それにお前さんが使った上級回復薬アッパーヒールポーション作成の魔法が引っかかったのじゃ」


 トビアスはクラリッサを指さしながらそう言った。


「にゃるー」(なるほどねー)


「了解した」


「それで、お前さんが作った魔法薬(ポーション)はこれか?」


 トビアスはファミド先生が持っているつぼをひったくると、腰に手を当てて一気に飲み干した。


「こ、校長先生…そんな、もったいない」


 ファミド先生は「あーあー」という感じでトビアスが上級回復薬アッパーヒールポーションを飲み干すのを見ていた。

 彼女が勿体もったいないと言ったのは、上級回復薬アッパーヒールポーションは市場価格で金貨二十枚もするからである。間違っても一気飲みして良い物ではない。


「うーむ、まったりとしていて、それでいてコクのある味。喉を通る魔力(マナ)の感触と良い上物の上級回復薬アッパーヒールポーションじゃな。昨晩の徹夜の疲れがとれるわい」


 トビアスは、どこぞのグルメ評論家のような台詞せりふを吐くと、空になったつぼをファミド先生に返した。


「あ、あのー。校長先生。それでこの魔法薬(ポーション)は…」


 おそるおそるといった感じでファミド先生はトビアスに尋ねた。


「ちゃんと上級回復薬アッパーヒールポーションができておる。さすがエーリカ先生の弟子じゃな」


 天晴あっぱれといった感じでトビアスはクラリッサの頭をポンポンとたたいた。


「魔法陣はプルートが描いた」


「ほう! 使い魔のくせに魔法陣を描けるとは…お前さんもやるもんじゃな。」


「みゃーみゃー」(あれぐらい朝飯前だ)


 子猫(おれ)は自慢げに鳴いた。


「獣人の女の子に、ま、負けた…。薬学に青春を費やしてきた私の人生って…」


 ファミド先生はよろよろと床に崩れ落ちてしまった。


 それを見て


「うぁー。本当にクラリッサちゃん、上級回復薬アッパーヒールポーションを作っちゃったよ」


「あり得ねー。うちのお抱えの魔法使いだって作れないぞ」


 学生達が騒ぎ始めた。


 そんな中、


「そ、そんなのインチキよ。あたしだって、その魔法陣があれば上級回復薬アッパーヒールポーションぐらい作れるわ!」


(いや、それはお約束なパターンだろ)


 子猫(おれ)のそんな思いを余所よそに、ジャネットはクラリッサをまねて上級回復薬アッパーヒールポーションの調合を始めた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


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