魔法実技での出来事
「根源たるマナよ炎の矢となりて敵を貫け~ファイヤ・アロー」
ジャネットはバトンを振り回して炎の矢を唱えた。すると彼女の目の前に全長20cm程度の炎の矢が出現した。炎の矢は的に向かって飛んでいくとその中心に命中し、的を焼け焦がした。
(おおっ、ちょっと変則的な振り付けだけど魔法がちゃんと発動しているな)
炎の矢を唱えた時のジャネットのバトンの振り方は、他の生徒とかなり違っていた。
「もう一つ、根源たるマナよ氷の矢となりて敵を貫け~アイス・アロー」
実技の授業は炎の矢か氷の矢のどちらかを発動できれば良いのだが、ジャネットは炎の矢に続けて氷の矢を唱えた。
彼女が唱えた氷の矢はちゃんと発動し、氷の矢は的に突き刺さってソレを凍らせた。
「さすがジャネット。炎の矢と氷の矢を連続で成功させたな」
「ああ、さすが魔術学校一の秀才だな」
「俺たちより小さいのにすごいよな」
学生達は2つの魔法を連続で唱えたジャネットを褒めちぎっていた。
それを聞いて、ジャネットは嬉しかったのか、ポーカーフェイスが緩んで少し鼻がピクピクとしていた。
(確かに他の学生とはレベルが違うな~)
「ジャネットさん、炎の矢と氷の矢を両方とも成功させるのはさすがです」
ノーバ先生はジャネットを褒めたたえた。
ジャネットは少し得意げな顔つきで生徒たちのところに戻ってきたのだが、クラリッサと子猫の横を「ふっ(笑い)」といった態度で通り過ぎていった。
(もしかして、俺たちを…クラリッサを挑発しているのか?)
もちろんクラリッサはそんな挑発に乗らないのだが、子猫はそんな態度にカチンと来てしまった。
「…次は、クラリッサさん、お願いします」
実技の最後の生徒としてクラリッサが呼ばれた。
「はい」
「みゃーみゃー」(クラリッサ、少し実力を差ってやつを見せつけてやろう)
ノーバ先生に呼ばれたクラリッサの肩に飛び乗ると、子猫はそう言った。
「どうして?」
「にゃーにゃーにゃー」(ジャネットの鼻をへし折りたくてね)
「分かった。どうすれば良いの?」
「みー、みゃんみゃんみゃー」(うーん、クラリッサにしかできないやり方を見せてやろう)
「効果の拡大?」
「なー」(それで)
「クラリッサさん、どうしたの? 後はあなただけですよ」
子猫とクラリッサが話していたので、不審に思ったノーバ先生がクラリッサに実技を早くするように促した。
「今、やります」
クラリッサは練習場に進むと杖を構えた。
「…根源たるマナよ炎の矢となりて敵を貫け~ファイヤ・アロー…2つ」
クラリッサが炎の矢を唱えると、目の前に二本の炎の矢が現れた。
「「「えっ?」」」
それを見た学生たちは驚きの余り皆口をポカーンと開けて固まっていた。ノーバ先生にいたっては杖を取り落とし、座り込んでいた。
二本の炎の矢は狙い違わず的の中心に突き刺さった。先ほどジャネットによって凍らされた的は瞬く間に解凍され、逆にプスプスと煙を揚げていた。
「おまけ。根源たるマナよ氷の矢となりて敵を貫け~アイス・アロー…2つ」
クラリッサは先ほどのジャネットと同じように今度は氷の矢を唱えた。もちろん二本の氷の矢を作り出している。
二本の氷の矢は煙を上げている的に当たると、ジャネットの時より大きく凍りつかせた。
「これぐらいかな」
「にゃー」(GJ)
子猫とクラリッサはハイタッチを交わす。
それに対して、他の学生とノーバ先生は、クラリッサのやった"魔法の効果の拡大"というテクニックに対して驚きのあまり声も出せない状況であった。
「ノーバ先生?」
腰を抜かしているノーバ先生にクラリッサが呼びかけると、彼は我に返って杖を頼りに何とか立ち上がった。
「く、クラリッサさん、素晴らしい。ええ、もうこれ以上ないぐらい完璧です…。どうやればそんなことができるのか…私にもわかりません」
だらだらと冷や汗を流しながらノーバ先生はクラリッサを褒め称えた。
「「「「すごーーーい。クラリッサちゃんすごいよ~」」」」
生徒で最初に我に返ったのは、クラリッサを助けてくれた女子生徒たち、アメリア、ベッキー、チャイカ、ドリスの四人であった。
彼女たちは駆け寄ってくると、クラリッサを取り囲んで次々と抱擁してきた。
そして、その女生徒達に遅れて他の男子学生も驚愕から開放されると、次々に叫びだした。
「うぉーーーー、すげーよ。あんな魔法見たことないよ」
「魔法の効果を拡大するなんて、理論上では可能と言われているけど、それを実践する人がいたなんて」
「もしかして先生よりすごいんじゃない?」
クラリッサが実演したハイレベルな魔法の実演に学生達は大騒ぎとなってしまった。
そして、クラリッサを取り囲んで学生達が大騒ぎしている間、ジャネットは唇をかみ締めながらクラリッサを睨んでいることに子猫とクラリッサは気付くことはなかった。
(あれ? 俺の実技ってすっぽかされた?)
教室に戻った所で、子猫は実技をさせてもらえなかったことに気付くのだった。
◇
次の授業は薬学だった。担当の先生は小柄な…どう見ても子供にしか見えない…少女だった。
「貴方達、何をやってたのよ。私の授業とっくに始まる時間なのよ?」
キーキーと叫ぶ声も台詞もまるで子供のようである。
彼女の名前はファミドといい種族は草原小人族である。子供のように見えるが実は四十代のれっきとした大人である。
大人なのに子供のように見えるという、某有名小説に出てくる○ビット(実はこの世界にも存在するらしい)にソックリであるが、何事につけ楽観的な性格の○ビットと違い草原小人族は勤勉で神経質な性格である。
そのため彼らは○ビットと同一視されるのが大嫌いらしい。
「すいません、ファミド先生。実技の授業で少しハブニングが有りまして」
学級委員長…18歳と一番年長の男子生徒…が先生に遅れた理由を説明する。
「ハプニング?」
「はい、今日編入されてきたクラリッサさんが実技で素晴らしい魔法の技を披露してくれたので、それで盛り上がってしまったのです」
「魔法の実技ですか…。ノーバ先生に後で文句を言っておきましょう。さあ皆さん、席について。授業を始めますよ」
ファミド先生はそう言って生徒たちに席に着くように怒鳴った。
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