魔術学校の授業
「なぁーっ。みゃーみゃー」(ふぁーっ。退屈な授業だな)
子猫は大きくあくびをすると、机の上で丸くなった。
「うん、ちょっと期待はずれ」
クラリッサは子猫の言葉に頷くと、羊皮紙にメモを取るのを止めた。
魔術学校の授業、それも三学年の授業ともなればかなり高度な内容を教えていると思ったのだが、ミナセ先生の授業はエーリカの所で学んだ物でも初歩に当たる内容が多かった。
つまり、エーリカの元で魔法を学んだ子猫とクラリッサにとっては退屈な内容だったのだ。
後でトビアスに聞いたところ、二学年で不可視の矢、三学年で炎の矢または氷の矢を使いこなすことが生徒の目標らしい。
つまり魔術学校のカリキュラムはレベルが低かったのだ。
「このように、魔法陣を正しく描くことで魔法の威力は上がるざます。魔法陣は魔法を発動するのに必要ざますが、それ以外にもっとも重要な要素は何ざます? …誰かこれに、ジャネットさん答えるざます」
短杖を振り回して、ミナセ先生はクラリッサの横に座るゴスロリ少女を指名した。ゴスロリ少女、もといジャネットは立ち上がると質問に答えた。
「イメージが重要です」
「正解ざます。イメージができていなければ魔法は発動しないざます。皆さんは魔法を発動する際にイメージをしっかりともつざます」
(ようやくこのゴスロリさんの名前が判ったな。でもこの娘さっきから時々俺とクラリッサを睨んでくるんだけど…。理由は分からないけど、もしかして俺達嫌われてるのかな?)
ゴスロリ少女ジャネットは、時々子猫とクラリッサを睨んできたのだ。子猫は最初気のせいかなと思ったのだが、何回もこちらを睨んでくるので間違いではないと気付いた。
ジャネットは俺達を睨んで、子猫やクラリッサと目が合うとプィと顔を逸らすという事を授業中ずっと繰り返していた。
◇
ミナセ先生の魔法理論の授業は一時間半ほどで終わった。次の授業は魔法の実技である。
生徒は魔法の練習場まで移動するのだが、その間に三学年の生徒にクラリッサは囲まれてしまった。
「クラリッサちゃんは獣人なのに魔法が使えるってなぜ?」
「火炎弾唱えられるって本当?」
「この子猫は君の使い魔なの?」
「どこの出身?」
「恋人いる?」
とまるで地球の学校での転校生のように質問攻めに遭遇していた。
リュリュが魔法を使う獣人tのいうことで興味をそそられたのか、男子生徒がクラリッサを取り囲んだ。あまりにしつこいのでどうしようかと子猫とクラリッサが困っていると、それに気付いたクラスの女子生徒が男子生徒を遠ざけてくれた。
クラリッサを助けてくれた四人の女子生徒、アメリア、ベッキー、チャイカ、ドリスは王都に在住の下級貴族の子女だった。
「ごめんね。彼奴等デリカシーってモノが無いの。ところで、クラリッサちゃんはどこの出身なの?」
「私達でクラリッサちゃんを守ってあげるからね。ねえ、クラリッサちゃん彼氏いる?」
「ほんと、小さい子を取り囲むなんて駄目だよね~。ねえ次の実技で火炎弾を見せてくれないかな?」
「ねえ、耳と尻尾を触らせて~」
男子生徒の代わりに女子がクラリッサを質問責めにするのだった。
◇
女子生徒の質問攻めをクラリッサがあしらい魔法の練習場に着くと、そこでは疲れ果てた様子のリュリュが待っていた。
「クラリッサちゃん、子猫ちゃん、ようやく会えた~」
置いてけぼりを食らったリュリュは、本館で教室の場所が判らず、仕方なく訪れたことのある練習場で俺達を待っていたのだった。
「にゃー」(情けない)
「リュリュ、付き人失格」
「えーっ、だってクラリッサちゃん私を置いて行っちゃうんだものー。ひどいよー」
リュリュはクラリッサに取りすがって泣いてしまった。
子猫とクラリッサがリュリュを励まして、彼女が落ち着きを取り戻した頃合いで実技を担当する先生がやって来た。
実技を担当する先生はノーバという50代の男性教諭であった。
「にゃ、にゃーん」(で、でかい)
「大きな人だね~」
ノーバ先生は身長が2メートルを超える大男であった。強面の顔付きで、二の腕なんかはクラリッサの胴回りぐらいありそうだ。ローブを着ているが、どう見ても魔法使いというより両手剣を振り回している方が似合っている。
(○ナン・ザ・グレート時代のシュワちゃんを彷彿とさせるな~)
子猫はその厳つい姿に半裸で戦う無敵の戦士の姿を重ねていたのだが…
「そ、それでは実技の授業を始めたいと思います」
蚊の泣くような声でノーバ先生が授業の開始を宣言したのを聞いて、俺達はズッコケてしまった。
(って、お約束な展開か…)
他の生徒はクスクスと笑いながら俺達を見ていた。
「では出席簿順で魔法を唱えてもらいます。…アメリアさん、炎の矢か氷の矢を使ってください」
「はい、では炎の矢を唱えます。根源たるマナよ炎の矢となりて敵を貫け~ファイヤ・アロー………あれ?」
アメリアは杖を構え魔法陣を描きながら炎の矢の呪文を唱えた。しかし炎の矢魔法は発動しなかった。
「な~、な~」(魔法陣が出来てなかったね~)
「そうだね」
「ん、呪文は正しかったよね。ちょっと手の振りが変だったかな?」
リュリュにもわかったようだが、アメリアは魔法陣を正確に描けていなかった。
(魔法陣っても一筆書きで描けるほど簡単なんだけどな~)
その後、アメリアは何度か炎の矢を唱えたが、結局魔法を発動させる事ができず魔力が尽きてしまった。
そう、この世界の魔法は発動に失敗しても魔力を消費してしまう。
「魔力が少ないね。リュリュ並?」
「みゃん」(そうだね)
「えー、普通はあれぐらいだよ。クラリッサちゃんが変なんだよ~」
リュリュがプーッと頬をふくらませて抗議する。
(クラリッサは確かにチート級の魔力量だけど、リュリュは冒険者の魔法使いとしては魔力量が少ない方だから…。アメリア以外の人も同じような感じなのかな?)
その後、三学年の生徒が順番に魔法を唱えていったが、魔法を発動させることができたのは、ほんの数人だった。
「次、ジャネットさん」
「はい」
ジャネットがゴスロリ服を翻して練習場に立つ。どこにしまってあったのか、杖を服の下から取り出した。
「にゃっ?」(魔法少女?)
普通魔法使いが発動体として使用する杖は樫の木などの木材作られており、魔法使いの杖らしい形状である。しかしジャネットが取り出した杖はそんな形をしていなかった。
長さ70cmほどの原色を派手に使った色に塗られた杖は、先端の派手な飾りと相まってどう見ても魔法少女が持つようなバトンにしか見えなかった。
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