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「ふぁぁー、おはようクラリッサちゃん」


「リュリュ、おはよう」


「にゃーん」(おはよー)


 リュリュは目を覚ますと、ベッドの上で伸びをした。そしてその後、起きている(・・・・・)子猫(おれ)とクラリッサに朝の挨拶をした。

 そして、リュリュは窓が壊れていることにようやく気付いた。


「あれれ~。クラリッサちゃん、窓が壊れてるよ?」


「にゃー」(そうだねー)


「リュリュ、貴方結構大物かも」


 昨晩、暗殺者の襲撃やその後の事件の検証という騒がしさの中で、リュリュはそれをものともせずベッドの中でぐっすりと寝ていた。子猫(おれ)とクラリッサはもちろん事件の後眠ることは出来なかったので、完全に寝不足状態である。


「みゃーみゃー」(リュリュも起きたし、朝食に行こう)


「そうね。朝食が始まっている時間だね」


 女子寮の朝食は、地球のホテルのようなバイキング形式であった。バイキング形式が嫌な人は自分の部屋に好みの朝食を運ばせることも可能だが、その場合は別途お金が取られるらしい。


 朝食の時間は、陽が明るくなってから最初の授業の予鈴が鳴るまでの間である。

 俺達が食堂に入ったのは陽が明るくなって直ぐの時間帯だった。こんな時間に貴族のお嬢様達はまだ寝ているだろうと思ったのだが、食堂にはメグを含め数名の寮生がすでに来て朝食をとっていた。


「みゃん」(おはよう)


「メグさん、おはよー」


「メグさん、おはようございます」


「クラリッサさん、リュリュさん、おはようございます。…昨晩は大変な目に遭われたみたいですね」


 あれだけ寮で騒いだのだから当然だろうが、メグは昨晩俺達が泥棒に入られた事をすでに知っていた。他の寮生も次々に俺達に「災難でしたね」的な言葉をかけてきた。


 「貴方達のせいで寮が騒がしく成ったのです。寮から出て行きなさい」とか言って、クラリッサとリュリュに突っかかってくる悪役系のお嬢様がいたらどうしようと思っていたのだが、それは俺の取り越し苦労だったようだ。


「クラリッサさん、お部屋に泥棒が入って来て怖くありませんでした?」


「ん、プルートがいるから、特に怖くなかった」


「私だったら、泥棒さんに遭ってしまったら怖くて気絶してしまいますわ」


「私もですわ。それで泥棒さんはどの様な方だったのでしょうか?」


「物語の様なお話ですわ。もしかして泥棒さんは素敵な御方…だったとか?」


 貴族の子女にとって部屋に泥棒が入るということは先ずありえないので、皆興味津々でクラリッサにその時の状況を訪ねてきた。


(お嬢様達、刺激に飢えてるな~)


 俺はクラリッサを質問攻めにする寮生の態度からそんな雰囲気を感じ取っていた。女子寮は鉄壁の警備を誇るため、男子生徒との逢引とかは難しく、そういった方面のでのスリルは全くない。


 そこに女子寮初の泥棒騒ぎである。これは刺激に飢えた女子寮生との格好の獲物であった。食堂に入ってきた寮生が次々とクラリッサの周りに集まり、一種のお祭り状態と成ってしまった。


「目を覚ましたら、逃げていったから。それに部屋が暗くて、どんな人が良く見えなかった」


「あら、残念ですわ」


 クラリッサは子猫(おれ)が作った泥棒の話をみんなに話していた。本当はクラリッサを殺しに来た暗殺者などと話したら、このお嬢様たちはパニックを起こしてしまうだろう。


(暗殺者の件について話せるのはトビアスだけかな~)


 子猫(おれ)はトビアスにクラリッサを狙う暗殺者について心当たりが無いか訪ねてみることに決めた。





 クラリッサが寮生の質問攻めに遭ったお陰で、俺達が朝食を終えるのに二時間ほどかかってしまった。そのため、女子寮から出るのがかなり遅くなってしまった。


「なーなー、みゃーん」(急がないと遅刻する~)


「ちょっとまずいかも」


「クラリッサちゃん、待ってー」


 予鈴の鐘が鳴る中、俺達は教室に向かって全力疾走中であった。


(これでクラリッサがトーストを咥えて誰かにぶつかってフラグが立つかもしれないな。いや、そんな事俺は許さないけどね)


 そんなことを考えている子猫(おれ)を抱えてクラリッサは走る。そのスピードにリュリュは付いてこれず、どんどん差が開いていく。


「リュリュ、先に行くから」


 クラリッサは教室のある本館に向けて走るスピードを更に上げた。





「皆さんに、新しいお仲間を紹介するざます。クラリッサさん、プルートさん入って来るざます」


 魔術師のローブを着た30代の女性教師が俺たちを呼ぶ。彼女はミナセさん。この世界では珍しい三角レンズのメガネをかけた魔術科の三学年の女性教師である。スラっとした体型でメガネを外せば美人らしいのだが、このザマス口調(ざますは彼女の出身地の方言らしい)がネックで婚期を逃したということだ。


 学生の注目が集まる中、子猫(おれ)を抱えたクラリッサが教室に入る。教室は講義室のように教師がいるところが低く、後ろのほうが高く階段状になっている。

 生徒の数は二〇名。女子生徒五名に男子生徒が一五名であった。見たところ皆15歳~18歳という感じだったが、女子生徒で一人だけ12,3歳の少女がいた。


「あれ、獣人の女の子?」


「魔法使えるのか?」


「二人名前呼ばれたけど、一人?」


「昨日、二学年の実習で火炎弾(ファイアボール)を唱えた少女がいたって聞いたけど、あの娘?」


「子猫ちゃん可愛いー。もしかしてあの娘の使い魔かしら?」


 魔術科の三学年の生徒は、クラリッサを見て騒然としていた。


「静かにするざます」


 ミナセ先生が支持棒ならぬ短杖で黒板をバシッっと叩くと教室は静まり返った。どうやらミナセ先生はかなり恐れられているらしい。

 後で聞いたのだが、ミナセ先生は三学年を受け持つだけあって、炎の嵐(ファイア・ストーム)を唱える事が出来る高レベルの魔法使いらしい。授業中に騒がしい生徒にはチョークならぬ氷の槍(アイス・ジャベリン)が飛んでくるそうだ。もちろん氷の槍(アイス・ジャベリン)は本来の威力ではなく、チョークサイズの小さな物だ。


「クラリッサさん、プルートさん、自己紹介をするざます」


「私が、クラリッサです。それと、彼がプルートです。よろしくお願いします」


「なー」(よろしくー)


 クラリッサと教卓に登った子猫(おれ)が自己紹介をする。


「えっ? 猫が生徒なの?」


「そんなこと、ありえませんわ」


「でもミナセ先生が紹介したぞ?」


 子猫(おれ)が生徒と紹介されたことでまた教室が騒がしくなった。


(まあ、そうだよな~。俺も猫が生徒って聞かされたら驚くよな)


 トビアス校長から子猫(おれ)も生徒だと聞かされて素直に受け入れたミナセ先生のほうが特殊なのだ。


「静かにするざます」


 またバシバシと短杖でミナセ先生が黒板を叩くと再び教室は静まり返った。


「皆さん、お二人、いえ、一人と一匹ざますね。仲良く授業を受けるざますよ。…クラリッサさん、空いている席に座るざます」


 ミナセ先生に促されて、子猫(おれ)とクラリッサは空いている席…一番若い生徒の横に座ることになった。


「みゃーうにゃーん」(プルートだよ、よろしく~)


「クラリッサです、よろしくです」


「自己紹介は聞いた」


 隣に座る少女は素っ気無くそれだけ言って前を向く。

 年齢は12歳ぐらい、長い赤毛をツインテールにしている少し顔がキツ目の美少女である。他の生徒が魔法使いらしいローブ姿なのに、彼女はゴスロリっぽい黒い服装を着ている。


(ちょっと、ツンツンしている女の子だな。無理しているって感じだね。クラリッサと歳が近いから仲良くなれると思ったけど、無理そうかな?)


 そう思いながら子猫(おれ)は隣に座る少女をじっと見ていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


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