表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/148

暗殺者と探偵猫

「くそっ、使い魔か」


 子猫(おれ)の唱えた明かりの魔法(ライティング)によって視界を奪われた黒尽くめは、めちゃくちゃに短刀を振り回していた。


(暗殺者? というにはちょっとお粗末な体捌きだな)


 目潰しを喰らったぐらいで動揺したり、その拙いナイフさばきからこの前リュリュを誘拐した"14人目の死神"とこの暗殺者は違う人物であることが良く判る。


「プルート?」


「みゃー? にゃっ、にゃー」(起きたの? 暗殺者が来たから気を付けて)


 クラリッサが騒ぎに気付いて起きたようだった。子猫(おれ)は、クラリッサに暗殺者に気を付けるように鳴いてけいこくする。そして、この暗殺者を捕縛すべく麻痺の魔法(パラライズ)を唱えた。


「みゃーにゃーにゅにゃー…」(マナよ彼の者を拘束せよ)


「使い魔が…連続で魔法を使えるのか」


 子猫(おれ)魔力(マナ)の高まりから魔法を唱えているのを察したのか、暗殺者はナイフを振り回すのを止めて窓の方へむかって駈け出した。

 魔術学校の女子寮の窓は、この世界では珍しく高価なガラスがはめ込まれており、雨戸とかはないため突き破って外に飛び降りる事が出来る。


(逃すか)


「みゃにゃにゃん」(パラライズ)


 窓を突き破って飛び出そうとした暗殺者に向けて呪文の最後のフレーズを唱え、魔法が発動した。


「にゃん?」(効いてない?)


 暗殺者に対し子猫(おれ)の唱えた麻痺の魔法(パラライズ)は発動したはずだった。しかし暗殺者は麻痺せずにそのまま窓を突き破って外に飛び出した。



「にゃー」(まてー)


 魔法が効かなかったことに俺は一瞬唖然としたため、窓から飛び出した暗殺者を追いかけるのが一瞬遅れた。慌てて窓枠に飛び乗って下を見たのだが、あの短期間でどうやって移動したのか、暗殺者の姿はどこにも無かった。





 襲撃の後、窓ガラスが割れた音に気付いた寮長のジュンコさんが部屋にやってきた。クラリッサはジュンコさんに、部屋に泥棒(・・)が入ってきたことを告げると、寮の中は大騒ぎとなってしまった。


 魔術学校の女子寮の警備体制は大げさと言ってもいいほどのレベルである。これ以上の警備体制を引いているのは王宮ぐらいであろう。そんな女子寮に泥棒(・・)が入ったのだ、大騒ぎにならないわけがない。

 女子寮の警備担当の女性兵士がやってくるわ、警備のゴーレムから夜の警備状況のデータを抜き出すために本来は入ってこれないトビアスが女子寮にやって来るわと大騒ぎとなったのだ。




 しかし捜査の結果、泥棒が入ってきた痕跡は寮内や庭からも見つからなかった。警備のゴーレムにもそんな記録は残っていなかった為、泥棒ではなく、「子猫(おれ)が寝ぼけて窓から出ようとして壊したのでは」と疑われた。


 そんな子猫(おれ)に対する濡れ衣に対して、クラリッサが断固とした態度で抗議をした。


「プルートはそんなことしません!」


「クラリッサさん、難攻不落、鉄壁の警備体制を誇る魔術学校の女子寮に泥棒が入ることは不可能です。それに泥棒の入った痕跡は全く無いのですよ?」


 警備の女性兵士は、もういい加減にしてくれという感じでクラリッサに告げた。


「ストーン・ゴーレムにもガーゴイルにもそんな記録が残っておらんのではのー。使い魔とっても猫じゃからの」


 夜中に叩き起こされてたトビアスは不機嫌そうであった。そのためさっさと帰りたいのだろう、窓のことは子猫(おれ)の粗相ということで片付けたいのだろう。


 ここで少し説明するが、普通ゴーレムは簡単な命令を聞くだけで情報を記録しておくことなどできない。しかし魔術学校のゴーレムはトビアスが作った特別製である。通常の物と違い、警備のゴーレムが感じ取ったことを記録しておけるのだ。ゴーレムが記録しているのは学校の生徒のプライバシーに関する情報もあるため、それを抜き出す事が出来るのは校長であるトビアスだけである。


「みぎゃっ、みゃー! みゃんにゃんなー」(俺は○パンじゃ、もとい犯人じゃない! 警備もできないゴーレムは役に立たないな)


 子猫(おれ)はトビアスに対しふてくされたように抗議したが、動物会話(スピークアニマル)の魔法を唱えていないトビアスには通じなかった。


「トビアス校長。プルートはエーリカ(・・・・)の使い魔。そんな事するわけない」


「ううぅ、そうじゃったな。しかし記録がー」


 トビアスは、エーリカの名前を出されると弱い。どうすればよいか彼は頭をかきむしっていた。




(こうなったら、名探偵○ナンばりに俺が自分の無実を証明するしか無いな)


 このまま女性兵士やトビアスに任せていても進展がないと判断した俺は、自分でこの部屋に侵入者が入ってきた証拠を探すことにした。


「プルート、どこへ行くの?」


「証拠を探してくる」


 クラリッサの抱っこから飛び出した子猫(おれ)は、一番証拠が残っていそうな庭に窓から飛び降りた。





(ガラスの破片が落ちている。此処にあいつが降りたはずだよな)


 いくら猫とはいえ、二階から飛び降りるのは危険である。子猫(おれ)落下制御フォーリングコントロールの魔法を使ってそっと庭に降り立った。暗殺者も同じように降りたはずである。


(だけど俺が窓から外を見た時、あいつは消えていた。あの一瞬でここから姿を隠すには…)


 子猫(おれ)はキョロキョロと辺りを見回して、窓から見下ろして死角になりそうな場所を探す。


(無いぞ…)


 あの暗殺者は体術が素人レベルであった。そんな人間が、今の場所から建物の影や植え込みの中に一瞬で隠れるのは難しい。もし隠れることが可能なだけの速度で走れば、地面にその痕跡が残るはずだが、地面にはガラスの破片以外足跡一つ無かった。


(もしかして地面に下りていない? となると…上か!)


 窓から飛び降りたと見せて屋根に上る。単純だが簡単なトリックである。子猫(おれ)も良く屋根の上に上がっているのに、人間が屋根の上に飛び上がるとは考えていなかったのは間抜けであった。


 周囲を見回して、子猫(おれ)を見ている人が居ないことを確認すると、魔法の手(触手)を伸ばして屋根に駆け上った。





(ようやく見つけた…)


 子猫(おれ)は屋根の上をくまなく探して、窓ガラスの破片を見つけた。普通屋根の上にガラス片があるわけが無い。窓を破った際に暗殺者の服に付いていた物だ。


 子猫(おれ)魔法の手(触手)を使い、二階の部屋に戻った。そこではまだクラリッサと女性兵士、トビアスが口論していた。


「にゃーん」(証拠を見つけたよ)


「本当。トビアス、プルートが証拠を見つけたって言ってる」


「証拠だと。本当なのか?」


 慌ててトビアスは動物会話(スピークアニマル)を唱えて子猫(おれ)と会話できるようにする。


「みゃん、みゃんみゃー」(屋根にガラスの破片が落ちていた)


「ふむ、ふむ。屋根の上にガラスの破片が落ちてたのか。確かにそんな所にガラスの破片が落ちている事はおかしいの。…しかし窓から飛び降りたお前がこの短時間でどうやって屋根の上に登ったのじゃ?」


「にゃー。みゃーみゃー」(ノーコメント。誰か屋根に上がって)


「判った。済まぬが此奴(子猫)を連れて屋根に上がってくれ」


「猫の言うことなど信用できるのか?」


 トビアスの要請に女性兵士が難色を示したが、学校の最高権力者(雇い主)には逆らえない。子猫(おれ)と一緒に屋根に上ることになった。




 屋根に上がるには、屋根裏部屋の小窓から出る必要がある。屋根裏部屋は普段誰も使わない部屋なのだがチリひとつ落ちていない。これは女子寮が経てられた時に精霊魔法でブラウニーを住み着かせたお陰で掃除が行き届いているのだ。お陰で犯罪捜査に付き物の手がかりが見つからないという事になってしまった。


 屋根に上がってガラスの破片を女性兵士に拾わせ再び部屋に戻る。




「確かにガラスの破片があったが、これが本当にこの窓のものか判らないな」


 ガラスの破片を見ても女性兵士は納得しなかったので、


「下の庭に落ちた破片を全て集めて、組み立てるのじゃ」


 と、トビアスに言われて女性兵士は半泣きで徹夜の作業をするはめになったのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ