お風呂
「気持ち良い」
「ぽかぽかして、気持ち良いよね~♪」
「みぎゃ」(熱い)
寮の大浴場に俺達は入っていた。クラリッサとリュリュの二人は気持ち良くお湯に使っていた。しかしクラリッサに抱きかかえられてお湯に使っている子猫はお湯の熱さにグロッキー気味であった。
人間だった時からシャワー派だった俺は、猫になってお湯に浸かるという行為が更に苦手になっていた。人間が丁度良いと感じるお風呂のお湯の温度は毛皮を持っている子猫にとって熱すぎるのだ。
「猫ちゃん、お風呂苦手なの?」
「プルート、暴れない」
お風呂から出ようとジタバタしている子猫をクラリッサがぎゅっと抱きしめる。リュリュが立ち上がるが、お湯と湯気が仕事をしていないので色々見えてしまっていた。
しかし子猫はそんな眼福&幸せ感触を楽しむ余裕が全くなかった。
できればお風呂には人間形態に変身して入りたかった。まあ、変身してお風呂に入っても身体の汚れが落ちるかは疑問なのだが…。
◇
「猫ちゃん綺麗にしましょうね~」
「みぎゃー」(泡が目に染みる~)
当然お風呂に入るからには身体も洗うことになる。ちなみに泡立ちは悪いが石鹸はこの世界に存在しているが、これも貴族ぐらいしか使えない物である。
クラリッサはさすが元貴族令嬢であり石鹸を使ったことがあるのか上手に泡立てて身体を洗っている。
冒険者のリュリュは当然石鹸を使用したことが無く、ブクブクと泡立つ石鹸が面白いのか子猫を盛大に泡立てて、子猫は、石鹸が目にしみて酷い目に遭っていた。
「あら、クラリッサさん?」
「お嬢様、はしたのうございます」
子猫が泡地獄にハマっている時、大浴場に二人の女性が入ってきた。声と会話の内容から貴族の令嬢とそのお付の女性のようであった。貴族の令嬢はクラリッサの事を知っているようだった。
(この声はたしか…)
「猫ちゃん、流すよ~」
「みゅっ!」(冷たっ!)
突然冷たい水をかけられて子猫はブルブルと身体を振るわせた。水で目に入った石鹸が流され、子猫は視界を確保することが出来た。
「にゅーみゃん」(やっぱりドロシー)
大浴場に入ってきたのはお蝶○人…もとい、ドロシーだった。お付の三十代ぐらいの女性も一緒に入ってきている。お付の女性は湯浴み着のような物を着ているが、ドロシーはタオルで前を隠すことすらしていなかった。
「…みゃー」(…凄い)
さすがお蝶○人…スタイルも完璧であった。
子猫の周りの女性のスタイルは…エーリカ、クラリッサもリュリュも幼児体型、アマネはスタイルは良いが腹筋が割れている…だった。それと比べてしまうと失礼なぐらいにドロシーはナイスバディであった。
ラフトル家の魔乳母娘程ではないが、ドロシーの胸はDカップはある。彼女のたわわな果実はプルプルと揺れていた。子猫は男としての本能なのか、それとも揺れ動く動く物に注意を引かれてしまう猫の本能なのか…多分その両方なのだろうが、ドロシーの胸に視線が釘付けとなってしまった。
しかし、そんな幸せな時間も子猫がドロシーの胸を凝視しているのに気付いたクラリッサによって終わりを迎える。
「プルート、見ちゃ駄目」
子猫はクラリッサにタオルで目隠しされてしまうのであった。
そんな子猫とクラリッサの遣り取りをみて、ドロシーは微笑む。そして、お付の女性にお湯をかけて身体を清めザブっと湯船に飛び込んだ。
「ふぅ~、寮のお風呂は気持ち良いですわ。生き返りますわね~」
ドロシーはセリフが少しオヤジ臭かった。
「…お嬢様、公爵家令嬢としてその態度は…」
「あら、此処では身分は関係無いというのが不文律ですわ」
「そういうことではありません(泣)」
お付の女性はドロシーの奔放な態度に困っているようだった。そんなお付の女性の苦悩を他所に、女性のドロシーは呑気に鼻歌を歌いながらお風呂を堪能していた。
(ドロシーって公爵家の令嬢だったのか。さすが縦ロールだけあるな)
縦ロールと公爵家はあまり関係ないが、なんとなく子猫はそう感じてしまった。
◇
「うにゃーん」(タオルは取ってくれ~)
「駄目、ドロシーがお風呂に入るまで取らない」
子猫はタオルで目隠しされ、クラリッサに抱きかかえられてお風呂に再び浸かっていた。
ドロシーは浴槽から出て身体をお付の女性に身体を洗ってもらっていた。子猫はそんなドロシーの姿が物凄く気になるのだが、クラリッサがタオルを外すのを許すわけもなく、悶々としているのだった。
ドロシーが再びお湯に浸かると、ようやくクラリッサはタオルを外してくれた。
(あれ、湯気とお湯が仕事している…それにお湯が少し熱くなってきたかも…)
先ほどまで仕事をサボっていた湯気だが、何故か今は湯気が程よく立ち上っておりお湯も少し濁り始めていた。それに少し良い香りがしてくる。
「少しお湯が熱くなってきたね~」
「ハーブの香りもしてきた?」
「にゃーっ」(熱い~)
そんな風に俺達がお湯に浸かって騒いでいる所をドロシーはチラチラと見ている。もしかして俺達が騒いでいる事が問題なのかと思ったが、特に注意してくるわけでも無かった。
(気になるな~)
子猫がドロシーの視線を気にしていると、彼女は意を決したかのように俺達に近寄ってきた。
そして、
「これから寮の女子生徒がお風呂に入る時間ですの。そこで一旦お湯を沸かし直しているのですわ。それにお湯が少し濁ってしまったのは、香りを付けるためにハーブをお湯に入れたことによるものですのよ」
と、ペラペラとお風呂の解説をしてくれた。
(もしかして、ドロシーはクラリッサとお話をしたかったのか?)
ドロシーは公爵家のお嬢様である。そんな超が付く上流の貴族と一緒にお風呂に入ってくれる人は、いくら女子寮が貴族の子女でも格が違いすぎていないのだろう。
ドロシーもこんな時間帯に入りに来るのは、自分がお風呂に入っていると寮生が入りづらいと判っているからで、そのため一番混雑する時間をずらしていると思われる。
クラリッサとリュリュはそんな事を知らないのでたまたまドロシーの入浴時間に入ってしまったのだ。
「へえ~。そうなんだ~」
リュリュはドロシーの解説に感心していた。それに気を良くしたのかドロシーはお風呂に付いて色々薀蓄を語りだしてっしまった。何故かクラリッサも興味津々でその話を聞いてしまっている。
(お前は古代ローマ人かよ)
子猫は熱いのを我慢してドロシーの風呂話を聞かされることになってしまったのだった。
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