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「ここが食堂ですわ」


 メグが案内してくれた女子寮の食堂はまるで豪華レストランの様であった。まだ食事時ではない時間帯のため誰もいない。


「すごーい。こんな豪華な所で食事できるなんて、まるでお姫様見たい」


 リュリュがはしゃいでいるが、ここは寮生の為の食堂でありお付の人達は別な場所で食事を取るらしい。子猫(おれ)やクラリッサはここで食事を取ることができるが、リュリュはここで食事を取ることができない。


(まあ、俺もこんなところじゃ落ち着いて食事できないかもな)


 貴族令嬢のクラリッサは判らないが、元はしがない会社員で今は子猫の俺がこんな所で食事を取るのは精神的に無理である。

 後でお付の人達が食事を取る所を見せてもらい、余程のことが無い限り俺達はそちらで食事を取ることになったのは仕方が無いことだろう。


「今日の夕方にここでクラリッサさんの入寮歓迎会を開くとお姉さま達が仰っておられましたわ」


 メグがそう言って夕方には寮に戻っていてほしいと言う。


(まあ、寮ならありがちな展開だけど…貴族のお嬢様の歓迎会ってどんな感じなのだろう?)


 これが大学や会社の寮の歓迎会であれば壮絶な飲み会となるのだろうが、貴族のお嬢様達による歓迎会など子猫(おれ)には想像もできなかった。


「了解した。リュリュも出て良い?」


「ええ、これから一緒に寮で生活を共にされるのです。お付の方とこの()も参加をお願いします」


 メグはリュリュと子猫(おれ)にニッコリと微笑んでそう言った。





 その後メグは寮で案内してもらっていない場所(お風呂、遊戯室、談話室)を案内してもらった。

 この世界ではお風呂は贅沢なものである。水もそれをお湯にする燃料・人件費を考えると、温泉などの湯元がない限りはお湯を張った浴場などよっぽどの大貴族でも無ければ持っていない。古代ローマでお風呂が成り立っていたのは奴隷という安価な労働力があってこそである。


 しかし、この魔術学校の女子寮には大浴場があった。これは水を無限に出す魔道具と水をお湯に変える魔道具を使用したものであり、学校の女生徒であれば24時間自由に使えるとのことだった。お風呂に入るためにわざわざ寮にやって来る女子学生もいるらしい。


 遊戯室はカードやボードゲームなどがあった。将棋やチェスに似た物があったが、遊び方は軍人将棋に近い物だった。ただ、貴族の子女はあまりそう言った物をしないらしくここは使用人達が使っているとの事だった。


 談話室はソファーとテーブルがあり、カフェテリアが閉まった後はここで寮生たちは談話していることだった。


「クラリッサさんなら直ぐにお姉さま達に可愛がってもらえますわ」


 メグが目をキラキラさせてそう言うが、子猫(おれ)は可愛がってがどんな風なのか聞くのが怖かった。子猫(おれ)も近づくと碌な目に合いそうにないので夜は此処に近づかないようにしようと心に誓った。


 談話室には本棚もありかなりの本が置かれていたのだが、魔導書などの本ではなく物語が多かった。内容はまああまり語りたくないが、この世界にもBL系の本が有るということだけは理解した。


 お昼はメグと一緒にカフェテリアで取ることになり、その後でようやく俺達はメグから解放された。メグは嬉しそうに授業に戻っていった。





 午後からは特にすることが無いので、俺達は学園内を彷徨いて見ることにした。


「あの塔に登ってみたい」


 最初に何処を見て回ろかと思っていた所、リュリュがこの学園で一番高い…高さは50メートル程だろうか…塔らしき建物だを指さした。


(高いな~。何の為の建物なんだろう?)


 特に行く当てもなかったこともあり、あそこに登れば魔術学校の全貌が見渡せそうだということで俺達は塔に向かった。



 塔の入り口にはストーン・ゴーレムが見張りとして立っていた。塔に入るのに許可が必要なのかなと思ったがタグを見せるとすんなりと通してくれた。


「うぁー高いね~」


「リュリュ、身を乗り出すと危険」


(さすがに高いね~。ム○カじゃないが「見ろ人がゴミのようだ」って言いたくなるわ)


 途中に窓などが一切無く、直径10メートルの塔の中を螺旋状に上がっていく階段を登って俺達は最上階に辿り着いた。階段を登っている途中でリュリュが挫折しかけたが、塔の上から学校を見てみたいという気持ちが勝ったのか彼女は何とか登り切った。

 最上階は柵があり観光地の展望台(?)のように周りが見渡せるようになっており、魔術学校どころか王都も見渡すことができた。もしかすると王宮よりも高い建物かもしれない。

 見晴らしはとても良いが何故こんな塔が魔術学校にあるのか子猫(おれ)には判らなかった。


「あなた達は誰?」


 一頻(ひとしき)り辺りを見回してそろそろ塔を降りようかという時、俺達は塔に登ってきた女子生徒に誰何されてしまった。


「にゃっ?」(誰?)


「ん?」


「えっ、リュリュだよ?」


「…見たことのない人達ね」


 年齢は17歳ぐらいだろうか、燃えるような赤い髪を三つ編みにした女子学生は鋭い目付きで僕達を睨んできた。


「今日入学した学生」


「今日? こんな時期に入学なんて変わってるわね」


 クラリッサがタグを見せて学生だと言うと、女子生徒の目付きが少し緩んだ。


「この塔は登っちゃ駄目だったの?」


 リュリュが女子学生に睨まれて怖かったのか少し涙目になっていた。リュリュの顔を見て女子学生は少し申し訳無さそうな顔をした。


「ごめんなさい。怖がらせるつもりはなかったの。…この塔に登ってくる人って滅多にいないから…。別に塔に登る事は禁止されてないわ」


 目付きが普通になれば…いや、それでも少し目付きが悪いが…女子生徒は美人の範疇に入る少女であった。


「もう降りるから」


「みゃん」(お騒がせしました)


「もう降りてしまうの?」


 女子生徒は最初誰何してきたくせに俺達が塔を降りると聞いて少し寂しそうであった。だけど、クラリッサもリュリュも特に塔の上にこだわりはなく、登ってみたかっただけなので俺達はそのまま女子生徒と別れ塔を降りた。




 その後、図書館や運動場などを見学して夕方少し前ぐらいに俺達は寮に戻ってきた。寮には授業を終えた学生達がいて俺達に挨拶をしてきた。地方の男爵や子爵の子女が名前を言ってくるが、子猫(おれ)には覚えきれなかった。

 そんな貴族の子女たちにクラリッサは十歳の獣人の女の子らしからぬ態度で丁寧に挨拶を返していた。クラリッサは獣人だが、元は貴族の子女である。その辺りは小さいながらも両親に教えこまれていたようだった。





「みぎゃー」(お風呂は良いって~)


「駄目、歓迎会あるから綺麗にする」


「わーい、お風呂、お風呂~♪」


 夕方の歓迎会までまだ間があるので、クラリッサとリュリュはお風呂に入りたいと言い出した。子猫(おれ)は猫らしくお風呂はスルーする予定だったのだが、クラリッサに捕獲されてお風呂に連行されることになってしまったのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


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