魔法の実力は?
「クラリッサさん、リュリュをお願いします」
「プルート、クラリッサ。何かあったら冒険者ギルドに連絡を入れておいてくれよ。そうすればあたいが何処にいても連絡はつくはずだから」
「お兄ちゃん、あんまり無理しないでね」
「アマネはお金を無駄遣いしないこと」
「にゃー」
魔術学校の門の側で俺達はケイロとアマネの二人とお別れの挨拶をしていた。
リュリュは涙ぐんでケイロとお別れしていたが、ケイロは後数日は王都にいる。どうせその間は心配になって魔術学校に顔をだすと思われる。
一方アマネの方だが、彼女は今後はどうするかまだ決めていない。冒険者ギルドで依頼を探すと言っているので、彼女との連絡は冒険者ギルドを通して行う事に決めていた。
冒険者ギルドには独自の連絡網が有り、定期的に各地の冒険者の登録状況を確認している。また冒険者は何処かに活動拠点を移動する時はギルドに報告するので、冒険者であればギルドに連絡を入れておけば簡単に連絡がつくという仕組みである。
◇
二人を見送ると、俺達はトビアス連れられて魔術学校の授業に参加することになった。
「まずはお前さん達の実力を見せてもらうとするかの」
そう言って僕達が連れて来られたのは魔法の練習場であった。そこでは丁度魔術科の二学年の生徒たちが魔法の実技を行っていた。
魔法科に学年の生徒たちの年齢は下は12歳ぐらいから上は18歳までとまちまちであった。魔術学校の入学年齢に制限は無いのだが、王都の有力貴族は12歳、地方の貴族や下級貴族は14-5歳から入学するそうだ。
ちなみに、魔術学校は、魔法科、普通科と二つの科に分かれている。
魔法科は文字通り魔法使いが魔法を覚える為にあり、魔法を使えるものだけが入学できる。
普通科は算術、国語、歴史、礼儀作法と魔法以外の学問を修学する場である。本来魔術学校は魔法科だけであったのだが、魔法が使えない貴族の子弟が修学の為だけに入学してくるケースが多くなったため百年ほど前に創設された。近年では裕福な平民が算術や国語などを学ぶ為に大金(なんと金貨五千枚と俺達の五倍のの入学料)を払って通っているケースも有る。商人たちにしてみれば、そこで貴族の子弟と自分の子供が知り合いになれるのだから大金を払ってでも入学させる価値があるのだろう。
子猫とクラリッサはもちろん魔法科に入学している。
「不可視の矢よ我が刃となって敵を滅ぼせ~インビジブル・ボルト」
修練場では生徒たちが攻撃魔法の初歩の不可視の矢を唱えていた。魔法科の二学年の生徒となればこの程度の魔法であれば誰でも唱えることが出来るようだ。
「ハァ、ハァ、一体校長先生、どうされたのですか。授業を視察されるとは聞いておりませんが?」
二学年の担任先生であろう風船の様にお腹が膨らんだ四十代の男性が俺達の方に駆け寄ってきた。体型を見る限り運動は物凄く苦手なタイプなのだろう、俺達の所までほんの二十メートル程走っただけで汗をかいていた。
「おお、クラーク先生授業中に済まぬな。今度この魔術学校に入る新入生を連れてきたのだが、魔法の実力を見てみたくての。悪いが少し場所を貸してもらえんか?│
クラークと呼ばれた男性教諭は、トビアスの後ろに立っている俺達を見るとため息をついた。ため息の理由は俺達の格好だろう。クラリッサは制服を来た十歳の獣人の少女であり、リュリュはメイド服を着ている。どう見ても魔法を使えるようには見えない。
「獣人が新入生? 魔法科じゃないよな」
「でもちょっと可愛いな」
「メイドが付いているということは、貴族? 獣人の貴族ってジャムーン王国辺りから留学?」
「獣人が魔法を使えるわけ無いだろ?」
「子猫を抱いているけど、もしかして使い魔?」
「子猫ちゃん可愛いな~」
クラークの後で生徒たちが俺達を見て色々話している声が聴こえる。
「この子たちが、新入生ですか? とても魔法が使える者達には見えそうにありませんが…」
クラークは、恐る恐るといった感じでトビアスに言った。
それを聞いたトビアスは、
「バカモン、何時も見かけだけで判断するなと何時も言っておろうが!」
と大声で彼を叱りつけていた。トビアスに叱りつけられたクラークはヘコヘコと頭を下げて謝っていた。
トビアスは十分ほどクラークを説教し、ざわついている生徒たちを「儂が、魔術学校校長のトビアスである!」と言って黙らせた。
(江田○平八かあんたは)
と子猫は内心突っ込んでしまった。外見がガ○ダルフにそっくりな癖に体育会系の乗りのトビアスだった。
「さて、いらん時間を喰ってしまったが、お前さん達の実力を見せて貰えるかの」
「理解った。でも杖を今持っていない」
「それなら儂の杖を使いなさい」
トビアスは早くしなさいと彼の持っていた杖をクラリッサに渡した。それを見て生徒たちが再びざわめく。
「獣人が魔法を?」
「あり得ないですわ」
「でも、校長先生が杖を渡したということは、本当に魔法を使えるのかも」
トビアスと生徒たちが見守る中クラリッサは呪文を唱え始めた。
「マナよ燃え盛る火の玉となりて我が手に集え…そして彼の者を焼き払え」
クラリッサが唱えたのは火炎弾の魔法であった。クラリッサの手に赤く燃え盛る炎の玉が出現し、彼女はそれを魔法の標的として置かれていた岩に投げつけた。
ちゅどーん
と漫画のような音を立てて炎の玉が爆発し標的の岩の一部を破砕した。
「おぉー」
それを見た生徒たちが驚きの声を上げた。そしてクラークの方はぽかんと口を開けて呆けていた。多分クラークにとって獣人が魔法を使えるというの異常極まりないことだったのだろう
「うむ、その歳で火炎弾を唱えられるとは立派だ。さすがエーリカ先生の弟子じゃ。」
トビアスは顎鬚をいじりながら感心していた。彼にとっては獣人が魔法を使うことは気にならないらしい。常識にとらわれない所は、さすがエーリカの弟子というべきだろう。
「今はこれが精一杯」
クラリッサはそう言ってトビアスに杖を返した。トビアスはその杖を今度はリュリュに渡した。
「えっ、私?」
突然杖を渡されたリュリュは、驚いて杖を取り落としそうになりお手玉をしていた。
「お前さんも魔法使い、それも冒険者だと聞いておる。生徒にお手本を見せてもらえないかの?」
「突然そんなこと言われても…」
「リュリュ、不可視の矢見せてあげて」
「…それで良いのかな~? クラリッサちゃんの後だとちょっと恥ずかしいんだけど」
「大丈夫、問題ない」
「ん~判った。唱えてみるね」
クラリッサがそう助言され、リュリュも諦めたのか魔法を使う気になったようだ。
「不可視の矢よ我が刃となって敵を滅ぼせ~インビジブル・ボルト」
リュリュが不可視の矢を唱え、魔法の矢が命中して岩が少しはじけ飛んだ。子猫から見ても、学生と比べリュリュのほうが詠唱速度も威力も上である。
「ふむ、詠唱も早く威力も出ておる。合格だな。お前たち今のが実践的な不可視の矢の詠唱だぞ、参考にするのだぞ。」
(なるほど、学生にはリュリュの魔法の方が参考になるのか。トビアスも考えているのだな)
子猫はそこでトビアスがリュリュに魔法を唱えさせた理由が判り、感心していた。
クラリッサの火炎弾を唱えられる学生はいないので参考にならないが、リュリュの実践的な不可視の矢の詠唱は学生たちの参考になっただろう。
これで魔法の実力は判ったので、俺達は寮に案内してもらえるのだろうと思っていた。しかしトビアスは子猫に向かってこう言ってきた。
「今度はお前さんの番だが?」
「にゃっ?」
トビアスは、子猫にも魔法を使って見せろと言ってきたのだ。
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