二人のリベンジ
子猫が目を覚ますと夜が明けていた。陽の明るさから既に午前の半ば程になっている事が判る。
「あれ、みんなは?」
部屋にはクラリッサしか居なかった。
「朝食を食べにいってる。プルートも行く?」
どうやらクラリッサは、子猫が起きるのを待っていてくれたようだ。
(ほんまええ娘や)
「行くよ~」
あまり食欲は無かったが、子猫が食べないとクラリッサも食べに行かない雰囲気だったので、朝食を食べることにした。
午前の半ばということで、食堂は空いていた。そこでリュリュ達は遅い朝食を摂っていた。
「猫ちゃん起きたの~」
リュリュは昨日誘拐されかけたのに元気である。もっとも彼女はずっと寝ていた為、そのことは全く覚えていないのだろう。子猫に近づいて頭を撫でてくれる。
「みゃー」
「プルートとも今日でお別れか。寂しいな~」
クラリッサに抱かれている子猫を撫でまわすアマネだが、今日で護衛のお役御免となるためか少しホッとした顔をしている。
「クラリッサさん、本当に魔術学校に入ればリュリュは安全なのでしょうね」
ケイロは再びリュリュが誘拐されかけた事が精神的にきているのか非常に顔色が悪い。
「少なくとも、ケイロと居るよりは安全」
「なぁーなぁー」
クラリッサに即答されて、ケイロは落ち込んでしまった。そんなケイロの心情を判って判らずか、リュリュが頭を撫でて慰めていた。
◇
子猫とクラリッサが遅めの朝食を食べている間にアマネが宿を引き払う手続きをしていた。ケイロはまだ王都に滞在するのでゴランと共にこの宿に泊まるようである。
「リュリュ、ちゃんとプルートのお世話をするんだぞ」
「わかってるよケイロお兄ちゃん」
「クラリッサさんの言うことをちゃんと聞いていい子にしていろよ」
「もう、お兄ちゃん。もう子供じゃないんだからいい加減にして」
こんなケイロとリュリュの会話を聞きながら俺達は魔術学校に向かう事になってしまった。クラリッサは昨日買った制服を着ており、リュリュはメイド服を着ている。アマネとケイロは冒険者らしい姿であり、そんな四人が道を歩いている姿は目立つのか何か注目を浴びている気がする。
「危ない」
アマネがリュリュの袖を引いて後ろに引っ張ると、リュリュに体当りしそこねた男が地面に転がっていた。
「にゃん?」
男は慌てて起き上がると走って逃げいく。
「もしかして、今の男リュリュを狙っていたのか?」
ケイロが辺りを見回して青い顔をする。
「殺気は無かったから…おそらく物取の感じだったね」
アマネが辺りを警戒しながらそう言う。おそらくあの男はリュリュのペンダントをスリ取るつもりだったのだろう。
(盗賊ギルドなんだろうが、だんだん見境がなくなってきたな)
今歩いている街路は人通りも多く大人数で襲ってくることは無いと思うが、先ほどのように何か仕掛けてくる可能性は高い。俺達は、リュリュを守るようにして歩くことにした。
結局、魔術学校に辿り着く30分ほどの間に、リュリュに向かって突進してきた男が5人ほどいたが、アマネとクラリッサが事前に察知して、叩きのめしたり転ばせたりと全て撃退した。
「ふぅ、あんな見え見えの手段で襲ってくるとは思わなかった」
アマネが要人警護のSPの様にリュリュを庇いながら移動してる。
「でも、これだけ必死ということは魔術学院に入れないということだと思う」
(確かに、魔術学校内でどうにか出来るならこんなに必死に襲ってこないだろうな)
魔術学校の門とストーンゴーレムが見えてきた所で、俺達は8人の男達に行く手を阻まれてしまった。顔を見ると先ほど撃退した連中と昨日リュリュを拐おうとした二人だった。
(仲間に助けてもらえたのか。やっぱり兵隊の詰め所にでも放り込んでおけばよかったかな)
「手こずらせやがって」
「穏便に済ませようと思ったが…」
「そろそろ限界だぜ」
「俺達も後が無いんでな」
「強引に行かせてもらうぜ」
懐に手を入れて男達はジリジリと俺達に近寄ってきた。アマネも小太刀を抜く体勢で構え、ケイロはリュリュを庇っていた。多勢に無勢、このままではかなりやばい状況である。
(此処は俺の魔法で一気に片をつけるか)
そう思ってクラリッサから子猫は飛び降りた。
「お兄ちゃん」
「リュリュしっかり捕まってろ」
クラリッサとアマネが男達を何とか牽制して隙に子猫が魔法を唱えようとした…その時そいつはやって来た。
「ふんが~」
「えっ!」x8
門番であるストーンゴーレムが、某王子の配下の人造人間の様な叫びを声を上げ、男達に突っ込んできた。
ストーンゴーレムが男達を蹂躙している(文字通り踏み潰している)光景を、俺達はあっけにとられて見ていた。
(あら? 俺、魔法使わなくても良い?)
男達も懐から短刀を出して反撃するが、もちろんストーンゴーレムにそんな物が通用するはずもなく、あっけなく全員倒されてしまった。
ストーンゴーレムは手加減していたので、男達は重症は負っているかもしれないが全員生きていた。倒した男達は、ストーンゴーレムが学校の門の側にある詰め所の様な場所に運び込んでしまった。
「フォッフォッフォッ、危ないところじゃったの~」
○ルタン星人の様な笑い声と共に魔術学校の門からトビアスが出てきた。
「にゃー」
「助かった」
「あのストーンゴーレムを作ったのは儂なのじゃ。異変があれば直ぐに連絡が来る。久しぶりに路上で騒動があるとアヤツから連絡が有ったので、遠視の魔法で覗いて見たらお前さん達が襲われていたところだったのじゃ。慌ててアヤツに助けるように命令したのじゃが、怪我がなくてよかったの」
ヒゲを撫でながらトビアスはカッカッカッと豪快に笑った。
◇
「ところで、何故お前さん達はあんな奴らに襲われておったんじゃ?」
トビアスの書斎で僕達はタグを受け取っていたが、そこでトビアスに襲われていた理由を尋ねられてしまった。
「うにゃ~」
子猫は、トビアスにリュリュが何者かに狙われている事を話して良いのか迷っていた。最初にトビアスに話しておけばよかったのかもしれないが、もしリュリュが狙われていると判ると魔術学校へ入学を断られるのではと思ってしまったのだ。
「それは、リュリュが狙われているため」
「みゃん」
子猫が悩んでいるというのに、クラリッサはあっけなくトビアスにリュリュが狙われていることを喋ってしまった。
◇
「なるほどの~。そういう理由じゃったのか」
クラリッサはトビアスにリュリュが狙われていることを説明したのだが、彼は特に動じること無くその話を聞いてくれた。
「それで、リュリュがプルートの付き人として魔術学校に入るのは…」
「いや、問題無いじゃろ」
「「えっ?」」「にゃっ?」
あっさりとトビアスがOKを出すので子猫はズッコケそうになってしまった。ケイロとアマネも驚いて開いた口が塞がっていない。
「この学校には貴族の子女が多数通っておる。まあ、付き人が狙われるというのは珍しいが誘拐騒ぎなど日常茶飯事とは言わんが良くある。その為にこの学校は過剰とも言える警備体勢が敷かれているのじゃ」
正面の門にはストーンゴーレム、女子寮にもゴーレムやガーゴイルなど人間と違い油断しない警備が配置されている。それ以外にも目につかない所に様々な警備やトラップが仕掛けられており、悪意を持った第三者が進入することはほぼ不可能とトビアスは自慢する。
(警備が凄いのは判ったけど、なにか引っかかるよな)
トビアスが了解してくれたのでリュリュは心置きなく魔術学校に付き人として滞在することができる事になった。
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