襲撃
制服とメイド服を入手することができた俺達は宿に戻った。
宿に戻ると、アマネは部屋におらずどこかに出かけてしまったようだった。
「ねえクラリッサちゃん、さっきのお姉さんすごかったね~」
「何が?」
部屋でリュリュがエルナの事を何故か絶賛していた。
「だって凄い…胸だったのよ。私もあんな風になれるのかしら」
絶賛していたのはやはり胸の事だったようだ。リュリュの体形は年の割に幼い。15歳という年齢を考慮してもさすがにエルナに追いつくのは難しいと俺は思う。
「にゃー」
「あんなのは飾り。無くてもどうということはない」
クラリッサが俺を少し睨んで妙に力強く言い切った。クラリッサはまだ十歳、今は歳相応の体形であり、それほど気にする必要は無いと子猫は思っているのだが。
「えー、でも胸はあったほうが男の人は良いみたいだよ。ケイロお兄ちゃんなんて、あの人の胸ばかり見てたし」
(ケイロ…義妹に気付かれるほどガン見していたのか…)
確かにあの胸に目が吸い寄せられるのは男として判らないわけではないが、義妹に指摘されるほど見ているのは駄目だろう。
「プルートは違うよね」
クラリッサが俺を睨んでくる。もしかしてエルナに変身したことで俺が巨乳が好みだと思っているのだろうか。
「にゃん」
俺としては巨乳、微乳どちらでも問題ないのでそう答えたのだが…クラリッサにちゃんと伝わったのだろうか疑問である。なぜならクラリッサは子猫を捕まえると胸にギュッと押し付けて抱きかかえてきたからである。
「みゃん」
「…」
少し悲しそうな顔をするクラリッサであった。
◇
夕飯を宿の食堂でとり、そろそろ寝ようかという頃合いにアマネが帰ってきた。どうやら外で飲んできたらしく酔っ払っている。
「みゃん、みゃー」
「アマネ、お酒のんじゃ駄目」
「昨日も来なかったし、諦めたんじゃないの~」
明日からリュリュとクラリッサは魔術学校の寮に入る。もしこちらの動向を監視しているなら、今晩襲ってくる可能性が一番高いと子猫は考えている。
「ふぎゃ」
「そうだね、もしリュリュの行動を監視しているなら今日しかないよね」
「みゃーみゃーにゃー」
酔っぱらいのアマネに向かって俺は魔法を唱え始めた。
「ニャニャー」
子猫は状態回復魔法をアマネに唱えた。
本来毒や麻痺といった状態異常を清浄に戻す魔法の状態回復魔法であるが、実は酔っぱらいの状態を通常の状態に戻すことも出来るのだ。
かなり便利に思えるかもしれないが、この魔法を唱えるにはかなりの魔力が必要であり、それに酔っぱらいにこの魔法を唱えると嫌な副作用が有るため使われることはあまりない。
「プルート、あんた何をしたんだ~」
アマネは状態回復魔法によって酔いが一気に覚めた。そして真っ青な顔をして慌ててトイレに駆け込んだ。
(酔っぱらいにかけると物凄く気持ち悪くなるらしいんだよな。吐いたらスッキリするらしいけど)
トイレから出てきたアマネはスッキリとした顔をしていたが、直ぐにせっかくの酩酊気分を無くされてガッカリとした顔になった。
「プルート、酷いじゃないか」
「みやーん、みゃ」
「アマネが悪い。ちゃんと今日は護衛をして欲しい」
食って掛かるアマネをクラリッサと子猫で駄目出しをする。
「…チェッ、判ったよ」
もう少し何か言いたそうだったが、俺達二人に口論で勝てないと思ったのか黙ってしまった。それに言い争ってもお酒は戻ってこないし再び飲んでも子猫が強制的に酔っ払い状態を解除することになる。
◇
深夜、子猫は屋根の上に誰かが降り立った気配を感じた。
「にゃっ」
子猫はクラリッサの頬をプニプニと押して起こす。
「んっ?」
「宿の屋根の上に誰か居る気配があるよ。入り口はアマネとケイロがいるから…おそらく窓から入ってくるんじゃないかな」
クラリッサが目を覚ましたので、状況を説明する。
「判った。プルートはどうする?」
「ベットの下に隠れて待ち伏せるよ。クラリッサは相手が入ってくるまで寝たフリをお願い」
小声で打ち合わせを行い、子猫はベットの下に潜り込んだ。
…
(なかなか襲ってこないな)
屋根の上の気配は全く動きを見せなかった。子猫は何時襲ってくるのかという焦りを感じていた。そんな中子猫は更に小さな気配を窓際に感じた。
(えらく小さいな。ネズミかな)
その気配は窓際でとどまったいたが、突然その気配に魔力が集中するのを感じた。
(魔法!)
子猫は慌ててベットの下から飛び出そうとしたが、その周りをキラキラとした砂のような物が降り注いだ。
(眠りの粉魔法か!)
窓際の小さな気配はどうやら使い魔だったらしい。屋根の上の襲撃者は使い魔を通して部屋の様子を伺い、眠りの粉魔法を使ってきた。
子猫は慌てて体内の魔力を魔法を唱えるときのように高める。攻撃魔法は無理だが、眠りの粉魔法などの状態異常を引き起こす魔法は、体の魔力を高めることで抵抗することや効果を軽減することが出来る。
しかし眠りの粉魔法に子猫に抵抗することはできなかったようだ。そのまま子猫は眠りに落ちてしまった。
(はっ? どれくらい俺は寝ていたんだ)
子猫は目を覚ますとベットの下から飛び出した。
ベットの上ではクラリッサがスヤスヤと寝ている。リュリュのベットはもぬけの殻だった。
「なぅー」
子猫はベットに飛び乗ると、状態回復魔法を唱えてクラリッサを起こした。
「んん、プルートどうしたの? 屋根の上の気配は?」
目覚めたクラリッサは魔法で眠らされる前の事しか覚えていない。
「リュリュが攫われた。僕は後を追いかけてみる。クラリッサはアマネ達をお願い。」
クラリッサにアマネ達のことをお願いすると、子猫は窓から外に飛び出した。
魔法の手を使って屋根に上がった子猫は辺りを見回す。
(見当たらないか)
月を見ると深夜を少し回ったぐらいであり、子猫の感覚では寝ていた時間は十分ほどだと感じられた。辺りは人気も無く、かなり遠くに行ってしまったのか襲撃者の気配を感じることはできない。
(屋根の上にいた気配は一人だった。魔法使いだとすると、リュリュを抱えてそんなに遠くにはまだ逃れていないはず)
子猫は地面に降りると走りだした。
(人気のない所に向かっているとしたら…スラム街か)
子猫はスラム街の方に向けて走りだす。
(これじゃ遅いか)
地面を普通に走っていては遅いので、子猫は魔法の手を使い周りの家の軒や窓枠を掴んでターザン状態で移動を開始する。
「ミャッ ミャー」
何軒目かの家のバルコニーに着地したところで、そこでくつろいでいた猫を驚かせてしまった。
「驚かせてしまったようですね。ごめんなさい」
「何だお前は。子猫?なのか」
素直に謝る子猫を見て猫は目を丸くしていた。
「すみません、今急いでいるので。また今度謝りに来ます」
子猫はそう言って、魔法の手を使って飛び出そうとした。
「さっきも空を飛んでいた奴がいたが、最近は空を飛ぶのが流行りなのかね」
「な、なんだってー」
猫の呟きを聞いた子猫は飛び出すのを取りやめてその猫に詰め寄ってしまった。
「ウォ!びっくりさせるなよ」
「人が空を飛んでいたのですか? もしかしてその人は女の子と一緒ではなかったでしょうか?」
「あ…ああ、女の子は見かけなかったけど…毛布に包んだ、そうだな人間の子供ぐらいの大きさの物を持っていた気がするな」
「その人はどちらに向かって飛んで行きました?」
「うぁ、い、言うからその気色悪い物で俺を掴まないでくれ」
襲撃者の情報を得られると思ってしまった子猫は、魔法の手で猫を捕まえていた。
「ごめん、興奮してしまいました。今降ろします」
「ふぅ、ホント変なやつだ」
猫はやれやれといった感じでバルコニーに座り込んだ。
「それよりどっちに向かって行ったか教えてください」
「確か…あっちの方だな」
猫が指し示したのは王都の城壁の方向であった。襲撃者が空が飛べるなら城壁をこっそり超えることも可能だろう。
「ありがとうございます。今度お礼に生きの良いお魚でも持ってきます」
子猫はお礼を行ってバルコニーから飛び出した。
「魚は小骨があって嫌いだから、鶏肉にしてくれ~」
猫は飛び出した子猫を見送りながらそう叫んでいた。
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