メイド服を買うの巻
俺達は、クラリッサの制服とリュリュが着るメイド服を買いに大通りに向かった。
制服は販売している店の事をトビアスに聞いていたので簡単に入手できた。しかしメイド服の方は何処で売っているのかなかなか見つからなかった。
「にゃーにゃー」
クラリッサの肩の上でキョロキョロと辺りを見回すが、メイド服を売っていそうな店がない。
「メイド服まで買ってもらうとか…リュリュは魔法使いなのに…やっぱり一緒にジャガンの街に戻った方が…」
後でケイロがブツブツと不穏な事を呟いている。そんなにリュリュに服を買ってやるのが嫌なのだろうか。
「プルート、あの店で売ってる」
クラリッサがある店を指さした。
「にゃーにゃー みゃっ」
クラリッサが指さした店に確かにメイド服らしきものが並んでいるのが見えたのだが、それ以上に女性物のインナーつまり下着が並んでいるのも見えた。
(これは又難易度の高い店だな)
クラリッサとリュリュは(年齢を考えなければ)問題ない。しかしケイロが入るにはあまりにも敷居が高過ぎる店であった。
「お兄ちゃん、あの店だって」
「…メイド服なんて。えっ、どの店。………」
リュリュも店に気付いたのかケイロに教えたのだが、予想通りケイロは店を見て固まってしまった。
(青少年にはちょっと刺激が強すぎる店だよな。さて困った、ケイロが入れないようなら又俺がアダルトバージョンになって…って男性じゃまずいか)
クラリッサとリュリュの二人ではまた店員に怪しまれてしまう。ケイロがあの店に入るのは無理だろうし、入ったとしても逆に怪しまれるだろう。
(どうするかな。アマネでもいればよかったんだが。…女性でこんな店に合いそうな人は誰が良いかな……彼女ならちょうと良いかな)
俺は昨日のように誰か付き添いの出来そうな人に変身することを考え、顔見知りの中で年齢的に合いそうな人物に思い当たった。
「変身してくるから、フォローお願い」
「ん、判った」
クラリッサの耳元でささやくと、俺は路地裏に駆け込んだ。辺りに人目がないのを確認すると、俺はポケットから魔法陣を取り出し変成の魔法を唱えた。
(しまった、これは失敗だ)
変身後、俺は致命的な過ちを犯したことに気付いたが、もう変身してしまったため後戻りはできない。俺は魔法を駆使してそのミスを何とか覆い隠すことにした。
「あら、クラリッサちゃんじゃないの。王都で会うなんて奇遇ね。…やーね、忘れたの私エルナよ」
「エルナさん、お久しぶりです」
俺が変身したのはラフトル伯爵家の長女エルナである。最初ニーナにしようかと思ったのだが、彼女は14歳でありこの店には少し早い感じがしたので、17歳のエルナに変身することにしたのだ。
「く、クラリッサちゃん、この方は?」
「エルナさん? 凄い…大きいね~」
ケイロは顔を真赤にしてエルナの方を見てくる。もちろん彼の視線はエルナの胸に釘付けだ。リュリュもエルナの胸をみて正直な感想を述べていた。
俺が変身したエルナは、17歳とは、いや人間としては思えないぐらいの爆乳の持ち主なのだ。
「私はエルナです。初めまして。クラリッサちゃんとはジャガンの街で知り合ったの。あなた達はもしかしてクラリッサちゃんのお友達?」
「「はい」」
ケイロとリュリュはもちろん俺の変身だと判らず頷いていた。
「そう。クラリッサちゃんと仲良くしてね。ところで、もしかしてクラリッサちゃんもあの店に用事が有るのかしら? あたしもあそこに用事があるんだけど…一緒に入りましょうか?」
「うん、お願い。ケイロはここで待ってて。リュリュ行きましょ」
エルナとクラリッサとリュリュは連れ添って女性向けの店に入っていった。
「いらっしゃいませ。当店には女性の為の様々なサイズの下着をとりそろえて…えっ!」
店に入ると若い女性店員が営業スマイルで近寄ってきたが、エルナの姿を見て顔が引きつった。いろんなサイズの下着を揃えていると言いたかったのだろうが、エルナのサイズの下着を揃えているわけがない。
「ん、この娘にあったメイド服が欲しい」
クラリッサはメイド服を指さしてそう言うと、店員は再び営業スマイルを浮かべ直した。
「こちらのお嬢さんがメイド服を着られるのですか?」
「リュリュが着るんだよね」
「そうね、この娘が着るのよね」
店員はリュリュの身長や体型を見て、何着かメイド服を奥から持ってきた。どうやらメイド服はある程度サイズを揃えて在庫を持っているらしい。
「この娘にあう服が有るのかしら?」
「王都には貴族のお屋敷が多うございます。そのため急なメイドの補充という話もありますので、当店ではそういった需要にお答えするためにある程度のサイズの服を準備しております」
店員はエルナの質問にスラスラと答えてくれた。
貴族中には気まぐれでメイドを取り替えるといった我儘な人もおり、そんな急な人員増減に対応するためにメイド服も直ぐに手配できるように店は準備している。しかもサイズが下は十歳から上は60代までと幅広く揃えてあると教えてくれた。
(十歳のメイドとか貴族は恐ろしいな。)
「こちらはレイモンド男爵様やダニエル士爵様のお屋敷のメイド服です。またこちらはトラバーヌ公爵様のメイド服です。どちらもベースはこの服で、襟や袖の飾りの追加とスカートの長さを調節して変化を付けさせて貰っております」
「へー、そうなんだ」
メイド服はどうやらベースとなる服をカスタムして各貴族の家の仕様にするようだった。俺は今日学校で見たメイド達の服装を思い出して、その内幾つかがこの店の物であったことに気付いた。
「よろしければ、こちらのお嬢さんがお仕えになる貴族様のお名前をお聞かせ願いますか」
(名前って…どうしよう。ラフトル伯爵って言ったらまずいよな。うーん)
エルナは店員の質問に悩んでしまった。
「えーっとね、リュリュは猫ちゃんのお世話をするんだよ」
空気を読まずにリュリュが本当のことを言ってしまう。おかげで店員の顔が再び引きつってしまった。
「ごめんなさい。実は雇い主の貴族がこの娘に猫の世話をさせるつもりらしいの。だから…猫の世話だし、あまり飾りが多いと不味いから、素体の状態で服を仕立ててもらえるかしら」
慌ててエルナはそう言い繕った。
「はあ、猫の世話係ですか、さすが貴族様ですね」
店員は妙に感心していた。
その場を何とかごまかしたエルナは、メイド服を予備も含めて二着注文した。メイド服の丈は概ね合っていたのだが、ウエストなど若干の手直しが必要だったので服の引取は明日ということになった。
「この娘達が引き取りに来るみたいだからよろしくね」
そう言ってエルナは立ち去ろうとしたのだが、
「あの、お嬢様少々お待ちください」
女性店員がエルナを引き止めた。
「えっ、何かしら?」
「申し訳ありませんが、お嬢様のそのサイズの下着を当店では準備出来ておりません。ご参考までにサイズを測らせていただけませんでしょうか?」
「えぇっ。それはちょっと困ります」
「いえ、当店は女性の下着では全てのサイズを取り揃えているという自負が有りました。しかし、悔しいことですがお嬢様のその…胸を考慮した物はございません。どうか当店の今後のサービス向上のためにその胸のサイズを測らせて下さい。もし測らせていただけるのであれば、当店でお嬢様の下着を無料で提供させていただきます」
これがもし男性であればぶん殴って出て行くところだが、うら若い女性店員(実は店長だったのだが)ではそうすることも出来ず、エルナは困ってしまった。
(うむ、困った。どうしたものか)
実は今のエルナは服を着ているわけではなく、服を着ているように見せる魔法をかけているのだ。つまり実はマント一枚で彷徨いているのだ。これは俺がそんな趣味だからではなく、エルナに変身したあとで彼女の胸のサイズにあう服が無いことに気付き、こうなってしまったのだ。
いくら魔法でごまかしていても、あちこち触られるとその不自然さにでバレてしまう。
「どうかお願いします」
店員が最後には土下座してきてしまい、俺はその必死さに負けてしまった。
◇
「ありがとうございました。明日には下着を揃えておきますので、ぜひ受け取りに来てください。」
魔法を駆使して危機を回避したエルナは、下着と服を一式入手することができたが、又何か男として大事な物を失った気がしたのだった。
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