魔術学校の生徒は...
猫に戻るとクラリッサ達の所に子猫は駆け戻った。
「お兄さん、どうしたの?」
「エイジは用事があったみたい。また会える…かも。」
リュリュはアダルトバージョンの俺が走り去ってしまったので、その理由をクラリッサに尋ねていた。
「ミャン」
子猫はクラリッサの足元に寄って猫のように(いや猫なのだが)体を彼女の足にすり寄せると、クラリッサは子猫を抱き上げてくれた。
「プルートも戻ったし、宿に戻る。」
「そうだね、新しい服に着替えてみたいね。」
二人と一匹は荷物を抱えて宿に戻った。
◇
俺達は宿に戻ったが、ケイロはまだ眠っていた。アマネの方は、子猫が差し入れた酒を途中で飲んでしまったのか、酒瓶を抱えて眠っていた。
「お昼はどうしようかな? お兄ちゃん起きれるかな~。」
リュリュはケイロを起こすかどうか悩んでいた。
トビアスはお昼すぎに魔術学校に来てくれと言っていた。俺としてはアマネかケイロのどちらかに付き添って欲しかった。
「アマネは多分起きない。ケイロさんを起こそう。」
アマネはお酒が入っているから起きることは無いだろうとクラリッサは判断したようだ。子猫もそう思ったので、リュリュと二人でケイロを起こすことにした。
「お兄ちゃん、起きてー。そろそろお昼だよ。」
「うう、後ちょっと寝かせてくれ~」
一晩徹夜したケイロは、まだ寝足りないのか布団に潜り込んでしまう。
(しょうがないな。)
子猫は布団から出ている足に爪を立てた。
「みゃ~」
「いてー。」
ケイロはベッドの上で跳ね起きた。
「引っ掻くなんて酷いな。クラリッサちゃん、その子猫ちゃんと躾けてよ。」
「お兄ちゃんが起きないのがいけないんだよ。」
「そう、早くしないと約束に遅れる。」
ケイロをたたき起こした後、俺達は宿の食堂で昼食を食べていた。子猫が引っ掻いて起こしたことに対しケイロが文句を言ったが、リュリュとクラリッサには取り合ってもらえなかった。
「う、それは昨日徹夜したんだからしょうが無いじゃないか。…ところでリュリュ、その服はどうしたんだ?」
二人に責められ分が悪いと思ったのか、ケイロはリュリュが着ている服の方に話題を変えた。食事の後魔術学校にお出かけということで、二人は買ってきた服に着替えていた。
「ん、エイジお兄さんに買ってもらった。」
「エイジお兄さん? 誰だそれは?」
「ん、とね。クラリッサちゃんのお兄さん?」
「違う、知り合いのお兄さん。私の服を買うついでだから気にしないでいい。」
「気にしないでって。こんな高そうな服を買ってもらって悪いよ。」
ケイロは生地や仕立ての良いリュリュの服を見て値段を想像したのだろう、それを知らない人から買ってもらったと聞いて驚いていた。
「リュリュ、何時も言っているだろ。人からタダで物を貰わないって。いいかい、僕達は孤児だけどちゃんと稼いで生活してるんだ。困っていないのに施しを受けちゃいけないんだ。」
これを聞いて子猫はケイロのことを見直した。
(ケイロ、ちゃんとした考えを持っているんだな。すごく立派な考え方だ。)
「ごめんなさいお兄ちゃん。私この服を返してくる。」
リュリュはケイロに怒られてシュンとなってしまい、服を返すと言って立ち上がった。
「ミギャ」
「リュリュ、そんなことしなくて良い。そう、それはプルートを護衛するために必要な物。」
クラリッサがケイロとリュリュを説得することになってしまった。
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「というわけで、魔術学校に溶け込むには服装が重要なの。だからリュリュがその服を着ているのは依頼の為。」
」
「う、依頼のためか。そう言われると、仕方ないのか? …やっぱりそれじゃ報酬が多すぎる。せめて依頼の報酬からこの服の代金の半額ぐらいは引いて欲しい。」
「それで良いなら、報酬から引いておく。」
クラリッサの説得によりリュリュに買った服を着ることにケイロは納得してくれた。
(ほんと真面目すぎるのも困るよな。)
子猫はヤレヤレという感じでその光景を眺めていた。
◇
お昼すぎ、トビアスとの約束通り俺達は魔術学校を訪れていた。
「にゃっ?」
クラリッサとリュリュの服装はTPOを考慮した物になっており、周囲の学生と大差ない服装のはずだったのだが、
「ニャイロニャー」
付き添いのケイロの服装まで気が回らなかった為、彼が注目されていたのだった。
(実際に学校に通うときにはケイロはいないからな。今は仕方ないか。)
ケイロのために注目を浴びつつ俺達はトビアスの居る小屋に向かうのだった。
黒い髪の女学生に案内されてトビアスの書斎に入る。僕達を待ちかねていたのか、部屋に入るとトビアスは書類整理を中断して立ち上がった。
「うむ、良く来たな。ん、あの女性はどうした?」
「アマネなら寝ている。」
「そうか、うむ、残念じゃな。」
トビアスは露骨にガッカリした顔をする。これだけ女学生に囲まれていてアマネにちょっかいを出すつもりだったのだろうか。
(トビアス、その歳でまだ現役なのか。真面目そうに見えても、やっぱりエーリカの弟子だな。)
子猫は少しガッカリした。でも魔術学校の校長を務めるにはそれぐらいの元気が無いとやっていけないのかもと思い直した。
「それより、寮はどうなったの?」
「おお、そうじゃった。丁度二人部屋が空いたので、お前たちにはそこに入ってもらうつもりじゃ。」
その二人部屋には地方貴族の娘さんが入っていたのだが、先週嫁ぎ先が決まったと魔術学校を退学してしまったそうだ。
「今から、案内してやりたいのだが…あそこは男子禁制での。…誰かおらんかの。」
女子寮はもちろん男子禁制で、校長といえど入ることはできない。だれか寮に入っている女子生徒に案内を頼む必要がある。
「はい、校長先生。何か御用でしょうか?」
現れたのは金髪縦ロールな女学生のドロシーだった。
「ドロシーか…だれか女子寮を案内できる者はおらんのか?」
ドロシーは女子寮に入っていないのだろう、トビアスは別の女学生がいないか彼女に尋ねた。
「そうですね、寮に入っている地方貴族の娘となると…あの娘でしょうか。少々お待ちください。」
ドロシーはそう言って部屋を出て行った。しばらくして俺達を案内してくれた黒髪の女学生を連れてきた。
「メグ、貴方は女子学生寮に入っていたわよね。」
「はい、お姉さま。」
「だめよメグ、私のことは、学校内ではドロシーと呼びなさい。」
「はい、おねえ…ドロシー様。」
「そう、良くできてよ。」
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二人の会話を聞いていると背景に花が出てきそうなぐらい百合百合しい会話であった。
(うわ、リアル百合きたわ。)
子猫は心の中で叫んでしまった。
「メグ、このお二方に女子学生寮を案内して欲しいのだけど、大丈夫かしら。」
「はい、ドロシー様。」
クラリッサ達は呆然とその光景を見ており、トビアスは何かうっとりとして見ていた。
「メグよよろしくな。これが部屋の鍵じゃ。」
トビアスはクラリッサとリュリュの入る女子寮の部屋の鍵をメグに渡し案内を言いつけた。
「はい校長先生。…もしかしてこの二人が女子寮に入寮するのですか?」
「うむ、そうじゃ。」
「では、私の後輩になるのですね。こんな可愛らしい妹が出来るなんて。嬉しいです。」
メグはクラリッサとリュリュが後輩になると聞いて目がキラキラと輝いていた。
「私のことはメグお姉さまと呼んでね。えーと、「クラリッサです。」「リュリュです。」…クラリッサちゃんとリュリュちゃん。」
(もしかして、魔術学校に入学したのは早まったかもしれないな。)
子猫はその光景を見てこの魔術学校の入学の先行きに不安を感じるのだった。
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