猫と神と呟き
02/16 協会->教会
「プルート、拗ねてないで出てきて。ほらー、あなたの好きなホットミルクよ~」
「子猫ちゃんごめんなさい全て私が悪いんです。この通りですから出てきてください。」
エーリカがホットミルクで俺を誘っている。
アデリーナは土下座を...この世界でもあるんだな...して謝っている。
しかし子猫は返事をしない....どうやらただの屍のようだ。
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アデリーナの作った薬を飲んで大事なものを失くした子猫は失意のまま籠に逃げ込んで毛布をかぶって不貞寝をしている。
エーリカとアデリーナが謝ってくるがそんなことでは俺の傷ついた心は癒やされない。
毛布の中でこっそり回復魔法を唱えてみたがやはり失った物は戻らない。
「でもヒールポーションであんな副作用が出るなんて普通有りないのよね~」
「エーリカ様が間違って失敗した薬の壺をプルートに飲ませたからですよ。」
「プルートが勝手に飲んじゃったんだもの、私のせいじゃないわよ♪」
そう、俺が男気を見せるために飲んだヒールポーションはアデリーナが一回失敗した物に再度魔法をかけたものだったのだ。
本来ヒールポーション生成の魔法に失敗した場合二度と魔法は成功しないのだが、何故か今回は成功してしまった。
しかし一度失敗した時点で効果不明なポーションになっていた薬は更にヒールポーション作成魔法を上書きされることで飲んだらあれが消えてしまう薬となってしまったらしい。
「解毒魔法や状態回復魔法をかけてみたけど治らないし、どうしましょう。」
「エーリカ様、精霊魔法の回復呪文は試されたのでしょうか?」
「精霊魔法の回復呪文は体力を回復するだけだから意味が無いわよ。」
「そうですか。」
「後は神聖魔法の全回復の奇跡なら直せそうな気もするけど、あれはかなり修行を積んだ神官でないと唱えられないらしいから、村の教会の神父様は唱えられないと思うのよね~。」
「…猫のために奇跡をお願いするのもどうかと思いますが。」
子猫の症状はどうやら高位の神聖呪文でないと治らないみたいだ。
俺はますます落ち込む。
こうなれば下級女神に頼むしか無いのか。
しかし下級女神に会えたのはエーリカの作ってくれたホットミルクを飲んで生死の境を彷徨った時の一回だけだ。
エーリカのさし出すミルクを飲めばまた会えそうな気がするが、さすがにエーリカのミルクに再び命をかける気はない。
俺が唸りながら女神との接触手段を悩んでいると、二人はどうやら神父様に奇跡が使えるかどうか聞くことで意見がまとまったらしい。
「プルート、じゃ村に行ってくるから大人しくしていてね」
二人は作成済みのポーションを村長に届けるついでに教会に寄っるつもりらしい。
帰りは夕方頃になるとのことでお腹が空いたら飲んでねとエーリカのミルクが置かれている。
俺はとりあえず不貞寝することにした。
◇
『えっ?』
俺が目を覚ますとそこは漫画喫茶の個室の様な部屋であった。
目の前にはディスクトップPCが置かれている。
『この黒いマンハッタンシェイプ、エックス六万八千って懐かしすぎだろ。』
俺は猫ではなく死ぬ直前の姿・服装で安っぽいリクライニングシートに腰掛けていた。
もしかして今までのことは夢だったのだろうか?
しかし立ち上がって個室から出ようとすると出口がなかった。
『これはやっぱり下級女神の仕業だろうな。まあちょうど連絡が取りたかったしエーリカのミルクを飲む手間が省けたな。』
再びリクライニングシートに座るとPCの電源が入り勝手に起動する。
モニターを見るとあのメーカが独自に開発したGUI-OSのエスエックス-WINが起動していく。
しかし立ち上がったアプリはなぜかWebブラウザであり、○witterのWrbページが開かれている。
『これはなにかつぶやけと言うことか?』
あの下級女神、まさか○witter始めたんじゃないだろうな。
俺はとりあえず
>@Eiji おはようざいます”
と打ち込む。
するとリロードするまもなく
>@GoddessOfCuriosity ”おはようございます。 ”
と返事が表示された。
>@Eiji ”下級女神は何をしてるんだ”
>@GoddessOfCuriosity ”貴方を観察していました。何しろ人間の魂が猫に転生するのは珍しいので。”
この下級女神め誰のせいで猫に転生したと思いっているのだ。
こっちは猫になって使い魔になり、挙句に大事なものを無くしたんだぞ。
>@Eiji ”誰のせいだ”
>@GoddessOfCuriosity ”それは置いておいて。”
>@Eiji ”置いておくな~”
>@GoddessOfCuriosity ”貴方の現在の状況は非常に興味深い...もとい、非常に深刻な状況です。このままでは一生アレは戻りません。”
興味深いというのはどういう事だ下級女神。
しかし一生このままというのは子猫の身体とはいえ♂として情けないというか非常に心細い。
なんとか元に戻す方法を聞き出さなければ。
>@Eiji ”アレを元に戻すにはどうすれば良いのだ。”
>@GoddessOfCuriosity ”上位の神聖魔法を使えば治りますが時間が経ちすぎると治らないかもしれません。”
>@Eiji ”エーリカの言っていた呪文か。近くに使える人はいないのか?”
>@GoddessOfCuriosity ”...貴方が居る大陸では10人ほど居ます。しかし一番近い人でも村まで一月以上かかるでしょう。”
上位の神聖魔法を使えるとなれば神殿でもかなりの偉いさんだろう。
そんな人間が大勢いるわけもないし、こんな村までやって来るわけもないか。
しかし♂としてこのまま引き下がるわけにはいかない。
>@Eiji ”下級女神の神官に神託でも与えてなんとか使えるようにはならないのか?”
>@GoddessOfCuriosity ”私の神官というと貴方だけ...えっと神託ではそんな便利なことは出来ません。”
どうやらこの○witterもどきは女神は思ったことがそのまま書き込まれるみたいだ。
しかし、神官が俺だけって....本当にこいつは真っ当な女神なんだろうか?
>@Eiji ”神官が俺だけって、俺は下級女神の神官になった覚えは無いのだが?”
>@GoddessOfCuriosity ”貴方には加護を与えましたよね。よって私の神官の扱いになっています。ちなみに改宗は認められません。”
>@Eiji ”信仰選択の自由がないって酷いなおぃ。ブラック企業でも仕事をやめる権利はあるぞ。”
最近ではやめることも難しいブラック企業もあるみたいですがね。
>@GoddessOfCuriosity ”私の信者をやめると転生出来ませんよ。”
...神様、この下級女神酷いです。
>@GoddessOfCuriosity ”えっと、一応代案を伝えるために今回は貴方と連絡を持ったのですが。”
どうやら下級女神には代案があるらしい。
俺は少しホッとした。
>@Eiji ”代案があるならさっさと教えてくれ。”
>@GoddessOfCuriosity ”私の信者を100人集めて全員で私を称えるミサを行ってもらえれば奇跡を一度だけ実現できます。”
>@Eiji ”おいおい、神官が俺一人なのに信者100人集めろってどんな無理ゲーだよ。”
>@GoddessOfCuriosity ”では、貴方が私への信仰を信者100人分以上に高めてくれれば...”
>@Eiji ”絶対無理w”
>@GoddessOfCuriosity ”...”
俺はこの下級女神をこれっぽっちも信頼していないから信仰を高めろと言っても無理だ。
なら信者を集めるしか無いのだろうか。
信者を集める、そうなったら村人を勧誘するしか無いのか?
猫の俺が村人に
『にゃにゃにゃ~』
って語りかけても通じないよな。
ん?そういえばこの下級女神は何の女神なんだ。
今まで考えたこともなかったが信仰対象すら知らないのに信者もへったくれも無いよな。
>@Eiji ”ところで、下級女神って何の女神なんだ?”
>@GoddessOfCuriosity ”えっ?”
>@Eiji ”いや、俺は下級女神が何の女神か知らないし、聞いたこともない。”
>@GoddessOfCuriosity ”えーっとそれは必要なんでしょうか?”
>@Eiji ”必要だろ!”
何故か自分が何の女神かを隠したがる。
もしかして邪神とかだったらどうしよう。
>@Eiji ”もしかして女神といっても邪神…”
>@GoddessOfCuriosity ”失礼な、私は邪神などではありません。ちゃんとした女神です。”
うぉ、打ち込んでいる最中に勝手にリロードされて返事が来た。
かなり焦っているみたいだ。
>@Eiji ”信者獲得の為にも何の女神かちゃんと教えろ。”
>@GoddessOfCuriosity ”...理解りました。私が何の女神かをお教えします。”
>@Eiji ”もったいぶらずに早く教えろ。”
>@GoddessOfCuriosity ”私は【好奇心】の女神です。”
へ?【好奇心】って。
あまりにも意外な返事が返ってきた為俺の思考が凍りついた。
10秒ほどして、ようやく再起動に成功。
>@Eiji ”【好奇心】ってあの好奇心? 好奇心は猫を殺すの好奇心?”
>@GoddessOfCuriosity ”連呼しなくても良いじゃないです。その好奇心です。”
うむむ、下級女神だから光や闇、太陽や月と言った主神クラスじゃなくても、知識とか音楽とか美の女神とかいろいろあるだろうに....依りにもよって【好奇心】の神とか、俺には全くどんな神様か想像がつかない。
>@Eiji ”また微妙な神様来たな~”
>@GoddessOfCuriosity ”微妙と言わないでください。好奇心がなかったらどれだけ困ると思っているのですか?”
>@GoddessOfCuriosity ”人間は好奇心があるから猿から進化して人間になったんですよ。”
>@GoddessOfCuriosity ”文明も知的な好奇心がなかった進歩しませんよ!”
>@GoddessOfCuriosity ”それなのに誰も好奇心を信仰しないなんて酷いとは思いませんか?”
なんか女神が必死になっている。
好奇心が否定されることは自分の死活問題なんだろう。
しかし普通の人は【好奇心】の神が存在するとは思わないだろうな。
こりゃ信者が少ないわけだ....って本当にいるのか?
>@Eiji ”微妙と言って悪かった。しかしお前を信仰している人って本当にいるのか?”
>@GoddessOfCuriosity ”ちゃんといますよ。好奇心を持っていない人なんていませんから。ちゃんといます。”
いや、好奇心を持っているのと信仰は別物だろう。
普通神様の信仰って困っていることとか頑張っていることに対して啓示を与えたり奇跡が起きたりすることで発生すると思うが、【好奇心】ではそんな機会があるわけも無いと予想が付く。
どちらかと言えば【知識】とか【学問】の方が信仰対象になりえるだろう。
>@Eiji ”まあ、落ち着け。好奇心の女神様の状況は理解した。”
>@Eiji ”問題は、どうやって猫が信者を集めるかだ。”
猫では信者を集めるのは難しい、そこが問題だ。。
>@GoddessOfCuriosity ”そこは子猫の努力と根性と知恵と勇気で頑張ってください。”
ぐはっ、使い古されたフレーズで丸投げしやがった。
ホント好奇心の女神様は使えないな。
>@Eiji ”いや、しかし俺は猫だし喋ることも出来ないのにどうしろと。”
>@GoddessOfCuriosity ”その愛らしい姿で信者を獲得してください。”
そりゃ子猫が愛らしいのは俺も同意するが、子猫が「みぃー」とか「はにゃーん」とか鳴いて可愛がられても信者は増えんぞ。
>@Eiji ”猫が神官として何か信者が増えそうな奇跡は起こせないのか?”
>@GoddessOfCuriosity ”神は信者が増えることでより強く世界に奇跡を及ぼすことが許されるのです。”
>@Eiji ”つまり?”
>@GoddessOfCuriosity ”信者が少ない私は世界に大きな奇跡を及ぼせません。”
>@Eiji ”だよな。”
どうやらこの世界の神々は世界に奇跡を起こすのに信者の数や信仰の強さが必要という制限を設けているらしい。
神々はその気になれば簡単に世界に奇跡を及ぼせるらしいが、多くの神々が勝手にそれをやると世界は崩壊してしまう。
そのため信者数や信仰の強さで制限をかけているとのことだ。
>@Eiji ”ちょっとぐらい奇跡を起こしても良いんじゃね?”
>@GoddessOfCuriosity ”無理無理!貴方を転生させたことも実は問題視されてるんです。”
>@Eiji ”えっ?”
それは初耳だ。
>@GoddessOfCuriosity ”転生者で信者獲得を狙ってるんじゃないかと言われてるんですよ|(泣)”
俺は自分が置かれた困難な状況に頭が痛くなってきた。
>@Eiji ”もう諦めるしか無いのかなorz まあ猫ハーレム作るつもりも無いからアレなくても....”
>@GoddessOfCuriosity ”勇者よもう諦めるとは情けない。”
>@GoddessOfCuriosity ”私の信者を増やすため...貴方の身体を戻すために諦めず頑張ってください。”
好奇心の女神よ本音をダダモらしするのはやめてくれ。
俺のやる気がどんどん減っていく。
>@Eiji ”疲れたので寝る。”
>@GoddessOfCuriosity ”もう落ちられるのですか?”
>@Eiji ”落ちるよ。”
>@Eiji ”最後に聞きたい。女神よまさか○witterやり始めたのか?”
>@GoddessOfCuriosity ”あっちの世界に行ったらやりたかったのですが、事故のせいで機会を逸してしまったので。”
>@GoddessOfCuriosity ”雰囲気だけでも味わおうかと...”
>@Eiji ”....”
俺はPCの電源を切りリクライングシートに身体を預けた。
どうすれば信者を増やせるのか、もっと別な手段は無いのか。
それよりも根本原因である使い魔からなんとか抜けだす方法を考えるか。
俺の思考は千々に乱れまとまることはなかった。
○witterの呟きライクに書いた部分が読みにくいかなと懸念しております。
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