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王都への旅:リュリュの秘密

 黒ずくめの男は、リュリュのペンダントに興味があるようでじっと彼女の胸元を見ている。


(お約束な展開だけど、ペンダントがリュリュの出生の秘密に関わってくるんだろうな。)


 子猫(おれ)はそう結論付けると、「にゃー(変身してくる)」と言って宿の廊下に出ると、人間形態に変身した。今からこの男を尋問する必要があるのだが、子猫のままで人前で喋るのは避けたいからだ。


 人間形態になり部屋に入ると、ようやくはっきりと目が覚めたリュリュが俺の姿をみて驚いていた。


「あの時のお兄ちゃん?なんでこんな所に。」


(驚いているのはいいけど、服は着てほしいな。)


 寝た時のまま、まだ下着姿のリュリュは目の毒だ。クラリッサに目で合図して、俺は黒ずくめの男に近寄った。俺の合図に気付いたクラリッサは慌ててリュリュにローブを被せていた。


「悪いが、此奴は俺が預かる。」


「誰だ貴様は。俺は…」


「マナよ彼の者を拘束せよ、パラライズ」


 突然現れた俺に男が驚いて騒ごうとしたので再びパラライズの魔法で麻痺させてしまう。


「クラリッサとやら、警戒を怠るなよ。」


 俺は"力の腕輪"で腕力を増幅して、男を抱えると部屋を出た。リュリュへの事情説明はクラリッサに丸投げだが彼女なら適当にごまかしてくれるだろう。


 尋問を宿の中でするつもりはない。宿の外に出て尋問できる場所を探したいのだが、一階はまだ人の気配がしていた。仕方ないので二階の廊下の窓から魔法の手(触手)を使って宿の外に降り立った。


 宿から少し離れた人が来そうにない路地に入ると、男の黒装束を剥いで(もちろん顔の部分だけだよ)、麻痺を解いた。

 出てきたのは銀髪ロマンスグレーのナイスミドルなおじさんだった。どう見ても盗賊や暗殺者にはみえない。執事服のほうが似合いそうなおじさんだった。


「…」


 麻痺を解いたのに男はまた黙秘している。


「悪いけど、彼女(リュリュ)を狙う理由を喋ってもらうよ。そうそう彼女を襲撃されるとこっちもたまったもんじゃないからね。」


「…」


 いい加減男の黙秘にも飽きてきた。どうしたらこの男は喋ってくれるのだろう。俺は何か口を割るネタがないか考えた。


(こういう時はキーアイテム、あのペンダントをネタにするのがお約束かな?)


「答えないなら、リュリュの持っているペンダントは俺がもらっていく。どうせあれが狙いだろ?」


「そ、それは…」


 予想通り、男は動揺した。やはりあのペンダントが必要なのだろう。


「喋る気が無いなら、君を此処に放置して僕はペンダントを奪ってどこかに捨てる。そうすればきっとリュリュは狙われなくなるだろうからね。」


「………ま、待て、あのペンダントが無いと…」


 ようやく男は喋る気になってくれたようだ。


「じゃあ、早くリュリュを狙う理由を教えてよ。」


「…判った。しかし喋る前に貴殿が何者かを教えてほしいのだが。あの子に害を及ぼす輩で無いとは思うのだが、違うのであれば…」


「…あの、立場がわかってる?話す気が無いなら僕は行くよ。第一リュリュを誘拐したのは君達の仲間でしょ?」


「…いや、そんな事をさせた覚えは…もしかして第二夫人の手の者が…。第一儂はあの子に危害を加えるつもりはない。逆に保護しようとしているのだ。」


 どうやら、この男とリュリュを誘拐させた者は別の陣営らしい。しかし、"第二夫人"とか保護とかあまりにも露骨なキーワードを連発している。


(このパターンは、リュリュはどこかの貴族のご落胤って落ちだよな? まあ、古代○トランティス人とか天○の城が出てきても困るけど、王道パターンすぎるだろう。)


 なんとなくリュリュの出生の秘密が見えてきた俺は、この男の話をじっくり聞くことにした。


「あの娘…名前はリュリュだったかな…はラフタール王国の

 「国王の隠し子?」

 ではない。子爵様の御落胤なのだ。国王様の御落胤であればもっと大事になっておる。」


「…そりゃそうか。じゃあ、子爵の御落胤が何故狙われるんだ?まさか跡取りがいないからリュリュを狙っているとかじゃないだろうな。」


「子爵様には五人の子供がおられるので、庶子でも無い子供が跡取りに選ばれることはない。あの娘が狙われるのは、ペンダントが原因なのだが…これ以上はお前には話せない。ただ、あの娘とペンダントがセットでないと意味が無いのだ。」


「ますますペンダントを捨てたほうが良い気がしてきたんですが。」


「いや、それでは子爵様が…ゲフゲフ、いやペンダントは捨ててはいかんのだ。あれがないとあの娘は殺されるやもしれん。」


「野盗をけしかけてきた奴は結構いい加減だったけどな。」


(うーん、いいわけも取ってつけたようだし、何か信じられないな~。)


「おそらく、依頼が正確に伝わらなかったんだろう。大事なのは娘とペンダントの組み合わせなのだ。大事なことなので何回も言っておくが、ペンダントと娘だぞ。」


(とりあえず、この男は子爵側の人間で、前の二人組を雇ったのは第二夫人って事で良いのかな? それでリュリュとペンダントのセットで双方が手に入れたがっていると。ここまではあっていると思うが、何か引っかかるな。)


 俺がリュリュの秘密に付いて悩んでいると、縛ってあったはずの男の手がするりとロープから抜けた。そして懐から小さな黒い玉を取り出すとそれを地面に叩き付けた。


「ウォッ、眩しい。」


 激しい音と光が炸裂し、俺は眼と耳を一時的に麻痺させられてしまった。

 そして俺の視力が回復した時には男の姿は消えていた。


(縄抜けと閃光玉って、忍者かよ。)


 激しい音が鳴り響いたので、辺りの住人が起きたのか、あちこちの家の窓が開き人が顔を出し始めた。このまま此処にいたら自分が不審者扱いされると思った俺は、魔法の手(触手)を使って手近な家の屋根の上に飛び上がった。


 屋根の上から辺りを見回しても男の姿は見当たらない。完全に逃してしまったようだ。


(とりあえず宿に戻るか。)





 変身が解けるのを待ってから俺は宿に戻った。

 窓の外から部屋を覗くと、クラリッサとリュリュが何事か話していた。多分俺のことを説明しているのだろうが、リュリュが微妙に興奮している様に見えた。


 クラリッサは俺が戻ってきたのに気付くと、リュリュを宥めて再び寝させることにしたようだが、興奮しているリュリュはなかなか寝付かない。


(しょうがないな。リュリュには悪いけど此処は…)


「……スリープ・パウダー」


 子猫(おれ)は窓越しに眠りの粉魔法(スリープ・パウダー)を唱えて、リュリュを眠らせてしまった。



「プルート強引。」


 窓から子猫(おれ)が入るとクラリッサはちょっと怒っていた。事情説明を全て彼女に投げっぱなしで出て行ったので、リュリュをなだめるのに苦労したのだろう。


「ごめん、男に逃げられちゃった。」


「プルートが無事なら良い。」


 それから子猫(おれ)はクラリッサに簡単におじさんから聞き出したことを話した。クラリッサの方はリュリュに俺(獣人形態)のことをリュリュが危ない時に現れる謎の獣人ということにしたらしい。そうしたらリュリュが何か舞い上がってしまって、クラリッサに俺の事に付いて問いただしていたらしい。


(少女の危機に颯爽と現れるって。タキシードとバラが必要になりそうだな。)


 そんな話をしている間に、外が明るくなってきてしまった。





 翌日、さわやかな顔をしたゴランと何かこう一皮むけた風のケイロがリュリュを迎えに来た。


(こいつらは~)


 襲撃者のおかげで睡眠不足の子猫(おれ)はすごくむかっ腹が立ったが、まあそこは大人の対応ということで二人の手をひっかく事で許してやることにした。


「イテッ!此奴何しやがる」


「痛い、なんで僕まで引っかかれるんですか?」


「昨日、リュリュを狙って宿に賊が来た。」


「「なんだってー」」


 ゴランとケイロの叫びが宿に響いた。





 商隊の出発時間が迫っているので、リュリュの件は朝食を取りながら話し合うことになった。アマネは結局商隊の人と一晩中飲み明かして、二日酔いでダウンしていた。参加者は子猫(おれ)とクラリッサと"赤い剣"のメンバーとなった。

 宿の食堂で朝飯を食べつつ、昨日あった事をクラリッサが説明する。ただ、リュリュが子爵の御落胤ということは言っても信じてはもらえないだろうし、今ひとつ信頼性にかけるので内緒にしてある。


(ツェッタぐらいには言っても良いかもしれないけど、猫と十歳の少女の話をどこまで聞いてくれるかな。)


「なぜ、リュリュが狙われるんだ。」


「お兄ちゃん、大丈夫今度も獣人さんが助けてくれたの。きっと次も助けてくれるよ。」


 ケイロは自分が遊び歩いていた晩にリュリュが襲撃されたので、ショックのあまり青い顔をして落ち込んでいた。リュリュはそんなケイロを慰めていたが、それではケイロが役に立たないと言っているも同然で、ますますケイロが落ち込んでいた。


「しかし、ケイロとリュリュを仲間にして半年ほどだが、今までそんなことは無かったんだぜ。なんで今頃そんな奴が現れるんだ?」


 ゴランは理由が判ら無いという感じで頭をかきむしっていた。ベーズは当然としてツェッタも黙っているのを子猫(おれ)は不思議に思って見ていた。



 結局、朝食の時間では襲撃の説明と状況確認しかできなかった。商隊の出発時間が来てしまったので、話は一旦そこで中断となり、続きは王都に着いてからとなった。


「今日の夕方には王都に着きます。最後のひと踏ん張りです頑張りましょう。」


 トルネの掛け声とともに商隊は出発した。商隊のメンバーは昨日かなり飲んだのか、二日酔いの者が多かった。トルネも二日酔いなのか顔が青かった。今いる街から王都までは徒歩で一日の距離であり、道中に野盗が出ることもなく平坦な道が続くのだから商隊の皆の気が緩むのも仕方がない。


「おそらく、王都に着くまでは何もしてこないだろうね。」


「そうだね。街道だと人の目が多いからね。」


 俺達の商隊は王都に向かう商隊や旅人に囲まれている。こんな状況で襲ってくることはあり得ないだろう。リュリュが魔法の使いすぎで寝ている間に子猫(おれ)とクラリッサは王都に着いたらどうするかで話し合っていた。



 冷たい言い方をするなら、リュリュ達とは護衛の依頼を一緒に受けただけの間柄で、後は"赤い剣"のメンバーにまかせてしまうのもありなのだ。しかしここまで事態に関わっているし、リュリュは悪い子ではなく助けてあげたいという気持ちもある。クラリッサもリュリュと仲良くなったのだ、彼女もリュリュを助けたいと思っているはずだ。


「クラリッサはリュリュの力になりたい?」


「うん、でもプルートが嫌なら…」


「いや、僕もリュリュの力になってあげたいよ。だけどね僕達だけじゃ難しいかなと思うんだ。」


「エーリカはいないから、アマネに?」


「うん、アマネにこの事を相談して、彼女の考えを聞いてから決めることにしよう。」


「了解。」


 とりあえずアマネの意見を聞いてからということで、子猫(おれ)とクラリッサは昨日の睡眠不足を補うために荷台で眠りについた。




 その頃、アマネは一晩中飲み明かして寝不足な上に二日酔いな状態でふらふらと歩いていた。


「気持ち悪い~。馬車早い~。誰か助けて~」


 そんな彼女を同情するものはいないので、必死で馬車に付いて行くアマネだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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