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王都への旅:野営地にて

 十六名の野盗を捕まえたが、全員を連れて村に向かうのは難しかったので、お頭を含め三人だけ連れて行く事になった。残りは蔦を使ったロープで縛られたまま放置されることになった。村に着いたら自警団に報告し引き取って貰う予定だが、それまでの安全は保証されない。

 一見非情な扱いに見えるが、本来は捕まった時点で問答無用で殺されるのが普通なのだ。こちらの方が温情ある扱いといえる。


 お頭を含め三人の野盗は、ロープで拘束された状態で荷馬車に引っ張られていった。


 トルネは野盗がこれほど計画的に自分たちの商隊を狙ってきた理由が知りたかったので、野盗のお頭に尋問をしていたが、詳しいことは何も判らなかった。


 野盗のお頭によると、自分達の根城にしている洞窟に二人組の男が現れ、明日高給な酒を積んだ商隊が単独でこの峠を越えるから襲わないかと持ちかけてきたらしい。二人では商隊を襲うことは不可能なので、自分達と一緒に襲撃をしてほしいと言ってきたということだ。

 二人は村で騒ぎを起こして商隊の出発時間を遅らせるからと野盗達に告げて去り、野盗達は半信半疑で峠で待ち構えていたら俺達がやって来たということらしい。


(二人組の狙いはこの商隊で確定か。しかし高給とはいえ単なるお酒にそれほど固執して狙う価値は無いと思うのだが?)


 子猫(おれ)は話を聞きながら今回の件に何かきな臭い物を感じ取っていた。


 野盗の襲撃のおかげで村に着く時刻はかなり遅くなり、商隊が村に着くと門が既に閉じられていたため、金を払って開けてもらうはめになった。

 自警団に野盗を引き渡すと案の定お頭には賞金がかかっており、それなりの報酬を受け取ることができたのでトルネは喜んでいた。





 翌朝、商隊は村を問題なく出発することができた。

 寝不足な子猫(おれ)は荷台の上で欠伸をしてゴロンと横になった。昨晩は、野盗のお頭の言葉が本当ならその二人組が村に無事に辿り着いた商隊の荷に何か仕掛けてくるかもしれないと思い、荷馬車を一晩中見張っていたのだ。

 結局その夜は何事も無く過ぎてしまった。おかげで子猫(おれ)は睡眠不足に陥っている。


 使い魔は、ご主人様から魔力(マナ)を貰うことで食事も睡眠も不要という便利な特性が有るのだが、エーリカから離れてしまった子猫(おれ)は睡眠と食事が必要な状態である。

 エーリカは、子猫(おれ)とのパスを繋げ直してご主人様の権利をクラリッサに譲渡することもできると言ったが、クラリッサはそれを断った。


「プルートのご主人様になったら恋人ではいられない。」


 というのがクラリッサが断った理由らしい。よくわからないが、子猫(おれ)は自前の魔力(マナ)で何とかやって行くしか無くなったのだ。野盗の戦いで魔法を沢山行使したが、エーリカが側にいた時と違いかなり消耗してしまった。休息を取ることで回復するが、今後はよく考えて魔法を使う必要がありそうだ。





 子猫(おれ)は猫のくせに仰向けに大の字になって空を見上げていた。

 地球と似ているようで全く違う空を見るのは面白い。この世界は球の内側といった特殊な構造をしているので、目を凝らせばかなり遠くまで見渡せる。夜になると反対側の大地の明かりが見えることすら有る。

 今は昼間なので反対側の大地は太陽の明るさにかすんで見えないが、それでも雲で太陽が隠れると、反対側の大地の様子が垣間見られる時がある。


(地球より大きいのか小さいのかよくわからないよな。空を飛べたら反対側に行けるんだろうか?)


 そんな風景を楽しみながらうとうととしていた子猫(おれ)をリュリュが見つけてちょっかいをかけてきた。


「猫ちゃんあそぼ~。」


 クラリッサより年上のはずなのにどう見ても言動は十歳以下の彼女は、子猫(おれ)を捕まえると無理やり彼女の膝の上に座らせた。


にゃー(やめてー)


 子猫(おれ)が抗議の声を上げるが、お構いなしにグリグリと頭を撫でたり尻尾を触ったりしてくる。頭は痛いだけだが、尻尾を触られるのはすごく困る。


みゃーん(尻尾はらめなのぉ~)


「リュリュ、プルートが嫌がっているから止めて。」


 危うい所でクラリッサの制止が入り、子猫(おれ)の貞操(?)は守られたのだった。





 それから五日、野盗や魔獣の襲撃もなく商隊は順調に街道を進んでいった。

 旅の間リュリュはクラリッサに魔法の効率的な使い方を教えてもらっていた。どうやらリュリュには明確な魔法の師匠がおらず、我流で魔法を覚えていったらしい。そのためかなり無駄の多い魔力(マナ)の使い方をしているらしい。


「ほら、魔法陣を歪んで描いている。だから魔力(マナ)を無駄に使う。」


「だって、クラリッサちゃんみたいに綺麗に円を書くのは難しいよ。」


「そこは練習有るのみ。ちゃんと描ければ今の倍は魔法が唱えられるはず。」


 意外とスパルタなクラリッサの指導にリュリュは頑張っていた。実際に魔法を唱えて魔力(マナ)を使ってしまうと荷物に腐敗防止魔法(プリザベーション)をかける事が難しくなるので、魔法陣の描き方|(身振り手振り)を重点的に教えている。


 傍から見ると妹が姉に勉強を教えている感じであるが、リュリュは至って真剣にクラリッサの教えを聞いている。その甲斐もあってか、リュリュの魔法の腕は少しは上がったようで、夕方に行われる腐敗防止魔法(プリザベーション)の魔法を唱える作業で、樽1つ分余計に魔法がかけられるようになったようである。





「今日はこの辺りで野営になります。先客もいますし安全だと思いますが、野盗の襲撃には十分注意して下さい。」


 トルネが指し示した林の中には、既に数組の商隊が野営の準備をしていた。付近に村も無いため街道を行く商隊は此処で良く野営をするのだろう、林の中は馬車が乗り入れた轍がいくつも残っていた。


 街道を進む場合において、どうしても一日では街や村に辿りつけない区間がある。そういった区間では商隊は街道の途中で野営するしか無い。野営を行う場所は魔獣の出没箇所や水場の有無などを考慮すると限られてくる為、野盗などに狙われやすいので一層厳重な警戒が必要となる。

 しかし、今回は複数の商隊が同じ場所に野営をしているので、護衛の数も多く、そういった場合は野盗は襲ってこない事が多い。


 共同(?)野営地には荷馬車が四台と何組かの旅人達が野営の準備をしていた。商隊の護衛の冒険者が既に周りを警戒していた。俺達の商隊は野営地の奥の方に荷馬車を停めて野営の準備を始めた。

 トルネは周りの商隊に知り合いがいるのかあちこちの野営地を回って挨拶をしてた。


「プルートこっち。」


 野営地の様子を荷馬車の上からきょろきょろと見回していた子猫(おれ)をクラリッサが呼んだ。ゴランとアマネもいるので、何か護衛の冒険者同士で話があるらしい。子猫(おれ)は荷馬車から飛び降りるとクラリッサのもとに駆け寄った。



「だから、こっちはもう見張りの割り当てを決めちまったんだよ。"赤い剣"は勝手にやってくれ。」


「そうか、判ったよ。だけどそっち側で何か起きても俺達は知らないからな。」


 ゴランと先に来ていた護衛の冒険者パーティのリーダらしき男が言い争っていた。どうやら見張りを共同でしたいとゴランが持ちかけたのだが、既に見張りの割り当てが終わっており断られたらしい。


「ゴランとボリスは相変わらず仲が悪いね~。」


 アマネがそう言って二人の言い争いを笑ってみていた。どうやらゴランとアマネ、言い争っていた冒険者…ボリスは顔見知りだったらしい。世間は広いようで狭い。こんな所で知り合いの冒険者に遭遇するのは珍しいだろうと思ったが、護衛を主にやっている冒険者は、同じルートを通る商隊の護衛を引き受ける事が多いので、この二人はよく顔を合わせているらしい。


 ボリスはゴランと同じ位の二十代半ばの黒髪で黒い目と東洋人ぽい顔立ちの男で、ゴランとは違ったタイプのイケメンである。ボリスのパーティのメンバーもまたかという顔で見ているので、毎度の出来事なんだろうと子猫(おれ)は納得した。


にゃーみゃーじゃれあってるだけだね


「そうなの?」


 子猫(おれ)の評価にクラリッサが不思議そうな顔をする。


なー(放っておけば良いよ)


「判った。」


 延々と言い争っている二人を残して、双方のパーティの面々はそれぞれの野営地に戻っていった。




 夕食を食べた後、見張りの順番と人の割り当てを行うことになったのだが、人員の割り当てで一悶着おきることになった。ゴランが順番と人員の割り当てを決めたのだが、それを聞いてアマネが怒ってしまったのだ。


(あれだけアマネに袖にされていて、自分とペアにするかな?)


 子猫(おれ)が呆れている中で、年長者のツェッタが人員の割り振りを決めてゴラン以外はそれで納得した。

 見張りの順番は最初がアマネとクラリッサ、次がツェッタとベーズ、最後にゴランとケイロの三交代と決まった。リュリュはクラリッサがやるなら自分もやると言ったが、荷物の樽に腐敗防止魔法(プリザベーション)の魔法を唱えたら魔力(マナ)が切れてしまい、疲れ果ててそのまま寝てしまった。





 アマネとクラリッサの見張りは特に問題なく過ぎていった。子猫(おれ)は二人にかわるがわる抱っこされながらも野営地をずっと見張っていた。

 猫の俺は見張りの順番に割り当てられていないが、今晩はずっと起きて荷馬車を見張るつもりでいた。野盗を俺達にけしかけた二人組はあれ以来現れていないが、この野営地は何か仕掛けるのにうってつけの場所だ。俺の野生の感(・・・・・)が今晩何か起きると告げていた。


「プルート、何か考えてる?」


「うーん、今晩何かありそうだな~って思ってる。」


「これだけ護衛の冒険者がいる所にわざわざやってこないと思うけどね。」


 アマネは二人が諦めたと思っているらしい。確かに五日も何も無かったし、二人が現れた村からはかなり離れてしまった。普通なら諦めたと思っても良いと思う頃合いである。


(あれだけ手の込んだ事をする連中がそんなに簡単に諦めるかな~。)


「クラリッサは、何かあったらリュリュを守ってあげてね。」


「ん、判った。」


 そんなやりとりが有ったが、アマネとクラリッサの見張り番は無事に終わった。

 二人の次はツェッタとベーズの見張り番である。


「ベーズ、最近調子はどうだね?」


「…………」


「そうか、まあゴランの相手は大変だろうが、頑張ってくれ。」


「…………」


 :

 :


 子猫(おれ)は荷馬車の上で二人の見張りの会話を聞いていたが、ツェッタがベーズに話しかけてもベーズは全く返事も返さない。しかしツェッタはそれでも彼の顔色(?)から何か読み取っているのか会話を続けていた。


(そういえば、ベーズって自己紹介以外で喋ったのを聞いたことないな。ベーズ無口すぎるだろ。)


 そんな調子でツェッタとベーズの見張り番も問題なく過ぎていった。

 最後はゴランとケイロの見張番である。兄貴と弟と言った感じの二人だが、会話の中身もかなりそれっぽい感じであった。


「ケイロ、お前も妹の面倒ばかり見てないで…そうだな、今度王都に行ったらいい店連れて行ってやるよ。」


「ゴランさん僕はそういった女性とのお付き合いは…」


「堅いこと言ってないで、お前だって興味があるだろ。」


「はぁ…まあ、それはそうですが…」


(ゴラン、青少年にそんなことを教えるなよ。)


 子猫(おれ)のツッコミが入る中、ケイロはなし崩し的に王都の綺麗なお姉さんがいる店に連れて行かれる約束をさせられていた。


(うう、俺もいってみたいなその店。)


 そんな中、野営地に突然魔獣が乱入してきた。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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