子猫とポーション
魔法の説明がしつこくて申し訳ないです。
設定するのが好きなのでちょっと暴走しました。
2014/02/02 文章の改行ルールを変えました。記述、言い回しを変え少し加筆修正しました。
ゴリゴリゴリゴリ
ゴリゴリゴリゴリ
ゴリゴリゴリゴリ
ゴリゴリゴリゴリ
「みゃー」
あまりの騒音に子猫は昼寝から目を覚まして叫んでしまった。
小屋の中ではエーリカとアデリーナが干して乾燥させた薬草をスリコギで粉末にしている。
ここ数日、二人は大量に採集した薬草をさまざまな薬にするのにかかりっきりだ。薬作りの作業はゲームの調合スキルとかで薬を作るといった簡単なものではなく、乾燥させて粉末にしたり絞って青汁にしたりとかなり地道な作業であり重労働だ。
「プルート、起きたの~。ちょっと五月蝿いけどこれで終わりだからがまんしてね~」
エーリカが作業を覗いている子猫に気付き声をかけてきた。猫の手も借りたいのだろうけど、子猫にはもちろんそんな作業は出来ないので見ているだけだ。
「エーリカ様、こちらの薬草の処理は終わりました。」
アデリーナが作業を終えて疲労困憊といった感じでテーブルに突っ伏した。
「なー」
アデリーナは疲れ果てているので頬ずり・撫で回し・ぐるぐる回転の三段コンボを食らう恐れが無い。恐る恐る近づいての頭をなでてやったら顔がデレデレになった。
アデリーナはショートカットした金髪と大きな青い目と少々のそばかすが残っている15歳の可愛い少女だ。エーリカと比べると身長も高く160cm以上はある。
薬を作る作業をする際に作業服っぽいオーバーオールに着替えるのだが、その時に見せるスタイルは15歳とは思えないぐらいナイスバディだ。
ちなみにエーリカは凹凸の無いお子様体型である。
子猫なので美少女二人の着替えを覗けるのは、かなりの役得ではあるが猫の身ではなんとも無いというか賢者モード全開である...orz。
アデリーナはエーリカの弟子として師従しているのだが、村一番の才女という肩書き通り、物凄く賢い。
エーリカが薬を一度作って見せるだけでその手順をすべて覚えている。
魔法を使わない薬であれば一人で作成することは出来るとのことだ。(本人談)
作るのに魔法を必要とする薬は、彼女がまだ魔法を使うことが出来ないので無理らしい。
魔法もエーリカに教えてもらうことになっており、将来は村で薬屋を開くのがアデリーナの目標だ。
ちなみにこっちの世界では魔法を使える人の数はそんなに多くなく1000人に一人いるかいないかだそうだ。アデリーナの住む村でも、使うことが出来るのは今のところ彼女のお祖母さんと教会の神父様だけとのことだ。
家事もでき頭も良い才色兼備のアデリーナの欠点は無類の可愛い物好きなところだ。
中世レベルの世界では現代とは違い可愛いものが身の回りには少ない。可愛い物の定番のぬいぐるみは貴族とか王族のお嬢様しかもっていない。ファンシーグッズなんてあるわけもない。。
おかげで身近な可愛い物=子猫が彼女の可愛い物の獲物となってくる。
隙あらば子猫を抱きかかえ、なでたり、頬擦りしたりとスキンシップを求めてくる。
俺としても本来ならアデリーナのような美少女とのスキンシップはWelcomeである。
ただ、彼女のスキンシップは子猫の体だと過激すぎる。お腹とか尻尾をなでられると気持ちが良すぎて気を失ってしまうのだ。
触るだけで女性を気持ちよくさせる男性の漫画を読んだことがあるが、アデリーナのおさわりはそんな作り話と等しいレベルにある。
このまま彼女になでられると、子猫は人間としての何かを失い猫のまま生きていくことに満足してしまいそうになるので、なるべく彼女からは離れるようにしている。
まだ人間に再転生することはあきらめてはいないからね。>女神さん。
「ふぅ、ようやく終わったわ~」
エーリカも作業を終えたらしく、薬草の粉末を壷に入れるとテーブルに突っ伏した。ちっちゃい体で頑張ったエーリカも子猫はよしよしと頭を撫でてあげる。
◇
二人がテーブルに突っ伏してダウン状態なので子猫は外出することにした。
扉は開けれないので窓から外に飛び出す。
日本で言えば5月の下旬ぐらいの気温で、雲ひとつ無い良い天気である。子猫はここ数日を近くの原っぱで過ごすことにしている。
なぜ原っぱに向かうのかというと、天気がいいからそこで昼寝をするとかじゃなくそこに居る魔獣と戦うためである。
わざわざ魔獣と戦う理由、それはこの前の鉄鋼蟷螂の幼生体との戦いで子猫が死にかけたからだ。
あの時にはエーリカに助けられたが、たかが鉄鋼蟷螂の幼生体相手に死にかけるぐらいの戦闘力しか子猫には無いのだ。
ス○ウターでスキャンされたら戦闘力2かゴミめと言われてしまうぐらい低いだろう。この世界ではどうやら危険と遭遇する機会が非常に多い。子猫だから弱いのはしょうがないねでは生きていけないと思う。
そこで俺はもっと強くなりたいと思い原っぱで魔獣と戦って強くなる決心をしたのだ。要するにRPGの基本レベル上である。
小屋から五分ほど歩くとサッカーコートぐらいの雑草が生い茂る原っぱに付く。
こんな近くに魔獣が居るかというと……魔獣の子供と言うか幼生体が居るのだ。青銅バッタ、大きくなると全長一メートル近くに昆虫の魔獣である。
原っぱには全長十~三十センチ程度の幼生体が何匹か生息しており、俺の手頃な訓練相手になっている。
レベル上の基本といえばスライムとかコボルトなんかだけど、子猫ではこれが精一杯の敵である。小さいといえ魔獣なので普通のバッタとは違い体当たりや噛み付きといった攻撃手段を持っており、身体も青銅と名前が付いているように結構硬い。
「みゃーお」
子猫は二十センチの青銅バッタの幼生体を見つけ戦闘態勢に入った。敵はこちらに気がついていないのかそれとも無視しているだけなのか熱心に草を食べている。
「みゃ」
子猫はジャンプ猫パンチから入る。
青銅バッタは食べていた葉っぱから叩き落とされてようやく戦う気になった。ギリギリと音を立てながら子猫に飛びかかってくる。
ここ何日か青銅バッタと戦いパターンを掴んできた子猫はそれを余裕で回避する。青銅バッタが再度こっちに向かって飛んで来るのを今度は側面から猫パンチで地面に叩き落とす。
倒すことはできないが飛びかかってくるバッタを避け、隙があればはたき落とすことができるぐらいまで俺はこの子猫の体を使いこなせるようになってきている。
そろそろバッタとの戦いも次のステップに移る必要があることを俺は感じている。
次のステップとは攻撃である。
青銅バッタは子猫に叩き落とされても何事もなかったように起き上がってくる。鉄鋼蟷螂の時に痛感したが、猫パンチは可愛いだけで魔獣の幼生体相手にすらダメージを与えることはできない。
爪で引っ掻いてもみたが青銅と言われるだけあって子猫の爪では傷すらつかなかった。
後、噛み付き攻撃もできるが、バッタに噛み付くのはちょっと嫌なので猫パンチと引っ掻きがメインの攻撃手段だ。
しかし、この2つの攻撃は青銅バッタの幼生体にすら通じない。
そこで次にどうするか、肉体言語が通じないなら魔法を使えば良いのである。
この前調べたところ、高級使い魔は主人が使える魔法を使うことができるとあった。しかしそれは主人が発動した魔法を使い魔に魔力を通して送ることで実現しているのであって、使い魔自身は単独で魔法を行使することは出来ない。
子猫は下級女神の加護のお陰で回復の奇跡を唱えることができる。神聖魔法が使えるということは俺には魔力があり、あとは呪文を発動することさえできれば魔法が使えるということだ。
実際、昨日の夜中に俺は初級魔法である"不可視の矢"が使えることを確認している。
「みゃみゃにゃー」
こりもせず飛びかかってくる青銅バッタを地面に叩きつけると、子猫は魔法を発動するために一旦距離をとった。
エーリカの魔導書に書かれていた魔法の行使と発動の原理をもう一度思い出す。
魔法を行使するのに必要な物、それは発動体と呼ばれる杖や指輪といったアイテムである。子猫はそんなものを持てないが、高級使い魔となった子猫の身体は魔法生物と言っても良いぐらいであり魔法の発動体として使用できる。
次に魔法の発動条件、これには呪文と手足の身振り・魔法陣といったものが必要である。
呪文に関しては実は詠唱が必要でないこと、そして本当に必要なのは魔法をイメージする事だということを俺は知っている。つまり魔法をイメージさえできれば人間の言葉を喋れない猫でも魔法を発動させる事ができるわけだ。
呪文の詠唱が不要だとわかったのはエーリカの魔導書の余白に書かれておりメモのおかげだ。
どうやらエーリカは魔法の研究に熱心で、呪文を詠唱できないのに魔法を使う魔獣を研究することで呪文の詠唱が不要という結論に辿り着いたらしい。実際彼女は無詠唱で魔法を発動することもできる。
子猫はさすがに無詠唱での発動は出来なかったが、呪文を唱えるつもりでみゃーみゃー言っていたら発動することが出来た。
そして身振り手振りだが、これは魔法発動に必要な魔法陣の代用なのだ。
本来は魔法陣さえあれば魔法は発動し、身振り手振りは要らない。しかし戦闘などではいちいち魔法陣を描いているなど狙ってくれと言わんばかりで現実的ではない。
一節によると戦いの中で踊るように魔法陣を描いて魔法を発動させる一族がいたらしいがそんなのは例外だ。じゃ紙などに先に書いておけば手早く発動はできると思いつくだろうが必要な魔法陣を全て持ち歩くとするとすごくかさばって大変である。そこで考えられたのが魔法陣を身振り手振りで空中に描くと言った方法なのだ。
身振り手振りの動作を子猫が前足でやることは可能である。しかし猫が立ち上がって手を振り回して魔法を発動するのは非常に目立つ。
俺としては単独で魔法を使えることはなるべく秘密にしたい。自力で魔法が使える子猫などど注目を浴びてしまうと脱使い魔なんてできなくなってしまう。
そこで猫が不自然な動きをせずに魔法陣を描く方法を考えた。手足以外に子猫は長い尻尾を持っている。尻尾を使って魔法陣を描けば良いことに気づくのにさして時間はかからなかった。
「ナー…ミュー…みゅーみゅー…みゃお~ん」
尻尾を振り回し魔法陣を描きながら魔法をイメージする。
子猫はインビジブル・ボルトの発動に成功し、不可視の矢はは飛びかかってきた青銅バッタに命中した。ボンという音と共に青銅バッタの身体が弾け飛ぶ。ピクピクと震えなが地面に落ちた青銅バッタは二度と起きなかった。
「みゅー」
子猫は長い戦いに勝った。この勝利は小さな勝利だが、更に大きな戦いで勝利するための小さな一歩なのだ。
などど勝利の余韻を噛み締めながら子猫は原っぱを後にしようとしたが……何故か周りを三匹の青銅バッタに囲まれていた。
(あれ?)
どうやら青銅バッタは子猫を敵として認識していなかったらしい。食事の邪魔をするが倒されることも無いし威嚇程度の攻撃で逃げていくので無視して良いレベルの敵だと思われていたのだろう。
今日は奴らの中でも大きめの個体を倒してしまったため危険な敵として認識されてしまった。つまり魔獣のリンクの発動条件を満たしてしまったようだ。
そのため周りにいた複数の青銅バッタが子猫を排除するために攻撃を仕掛けてきたのだ。
当たり前だが複数の敵に囲まれた状態では魔法は隙が多すぎで使えない。青銅バッタの攻撃はゴルフボールをぶつけられるぐらいのダメージで、人間が厚めの服や鎧を着ていればほとんどダメージを受けないレベルの威力であるが、子猫にとっては痛い攻撃だ。
攻撃を避けることに徹していたが結局何回か攻撃を食らってしまった。
原っぱから出てしまうと青銅バッタのテリトリーから抜けだしたのか攻撃が無くなった。
小屋への帰り道で回復魔法を唱えたがダメージ全開とはいかなく、魔力が切れてしまったのか途中で魔法が発動しなくなってしまった。子猫はボロボロになりながら小屋への帰途についた。
◇
小屋ではエーリカ達が魔法を使ったポーション作成をしていた。
粉末にした薬草を蒸留水を入れた手のひらサイズの壺に適量入れてシェイク。最後に魔法陣の上において呪文を唱えることで低級回復薬の作成完了である。
作ってしまった薬は日持ちしないので必要時に作成するか、できたものに腐敗防止魔法をかけておくのが普通である。
エーリカが常時この村にいるならその都度作成するのが良いのだろうが、彼女は数年単位であちこちの村を渡り歩くので必要分を作り置きして村長に預けておくらしい。
しかし村長としてはエーリカ頼みの状況を何とかしたいらしく、今回はアデリーナという優秀な娘がいたのでエーリカに作り方を彼女に伝授することをお願いしたということだ。
「エーリカ様、呪文はちゃんと発音していると思うのですが、魔法が発動しません。」
「発音は適当でも良いの、魔法をイメージすることが大切なのよ~」
「イメージするって所が理解らないのです。」
「えーっとね、魔法で起きて欲しいことイメージするのよ~。こうマナが集まって薬になるというか~。あーっもうなんでわからないのよ~」
「そう言われましても....(泣)」
:
:
どうやらエーリカは感覚派の人であり教師として人に教えるタイプではないようだ。一方アデリーナも理屈を重視するタイプの人でこういったイメージするという曖昧な事をなかなか理解できないでいる。
魔力の有無よりも魔法をイメージ化することが難しいから魔法を使える人が少ないのだろう。
「清き力よ集まりて癒しの種となれ~」
アデリーナが呪文を唱えると壺から黒い煙がボンと吹き出した。どうやら失敗したらしい。
「…………」
アデリーナが凹んでいる。
「薬草が大量に手に入ったから少しぐらい失敗しても大丈夫~」
エーリカが再度チャレンジを促す。新しい壺を魔法陣に置いてまた呪文を唱えるアデリーナの目はかなり虚ろである。
「清き力よ~集まりて~癒しの種となれ~」
そろそろアデリーナの心がへし折れそうな感じで、呪文もいい加減になってきている。しかし今回は魔法陣上の壺に青緑色の光が集まり収束すると壺からは白い煙が立ち上がった。
「エーリカ様、今度は成功したのでは...」
「そうみたいね~♪」
「やったー成功しました~」
涙を流しながら喜ぶアデリーナをよしよしと撫でるエーリカ。妹が泣き虫なお姉ちゃんを慰めているみたいで和む。
「なー」
「プルートおかえりー。ってあなたボロボロじゃない何やってきたの~」
子猫がボロボロになって帰ってきたのを見てエーリカは駆け寄って抱きかかえる。
「みゃみゃー」
「またどこかで魔獣と戦ってきたのね~。あなたは子猫なんだから勝てるわけ無いでしょ。」
「みゅー」
「プルートって見栄っ張りんだから....とりあえず怪我を直さないとね」
エーリカが回復呪文を唱えようとして魔法陣の上のアデリーナが作った低級回復薬に気がついた。
「そうね、せっかくだからこれを使いましょう。」
「みゃっ?」
「どうせ誰かに飲ませて効果を試さなきゃいけなかったの。ちょうど良い感じに怪我してるし、プルートで効果を確認しましょう~。」
エーリカがとんでも無いことを言い始めた。いたいけな子猫に初心者作成の薬を飲ませるってどうよ。
「エーリカ様、さすがにそれは可哀想なのでは。」
「低級回復薬は足が早いからさっさと使わなきゃいけないの。後、最初に出来た物は作成者が自分で効果を試すんだけど、よくやるのは自分で怪我をしてから飲むことになるんだけど、アデリーナちゃん今から怪我する予定あるの?」
確かに低級回復薬の効果確認は、飲ませるのが一番であるが....この世界には鑑定魔法とか無いのだろうか、人体実験で効果確認とかかなり大変である。
「…子猫ちゃんに無理させるぐらいなら自分で試します。」
アデリーナはそう言って台所から包丁を持ってきた。包丁で指の先を切るつもりらしい。しかし自分で指先を切るのはかなり勇気のいる行為だ。アデリーナは指先に包丁を当てかなり躊躇している。
「ミャ」
子猫はエーリカの抱擁から抜け出すとテーブルの上に飛び乗りアデリーナ作の低級回復薬を前足で抱えた。
女の子が自分で自分を傷つけるのは性分に合わない。ここは子猫が飲むのが良いと思う。
「子猫ちゃん何をするの?それは私が飲むのよ。」
アデリーナが静止するが子猫は薬を一気飲みした。低級回復薬はドロリとした青汁のようなものすごい味わいで吐きそうになったが我慢して飲み終える。
体の奥から何か力が湧いてくる。ちゃんと低級回復薬になっているみたいで、回復魔法をかけた時のように体が薄く光って体の痛みが消えていく。
「ミャィトニャ~」
子猫は壺を掲げて某栄養ドリンク剤のCMのセリフを叫んでみた。
あれ、体から痛みが消えていくのと同時に股間のあたりがむずむずする......。視線を下に向けると大事な物が無くなっているのが確認できた。
今日、子猫は大事なものをなくしました....。
魔法の注釈:
魔法発動で呪文イメージと魔法陣が必要なのはソーサーラ系の魔法だけです。精霊魔法は精霊との会話ができればよく、神聖魔法は神に願いが届けば発動します。
お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。