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クラリッサの一日

短編です

 朝、太陽がまだ明るくなる前、空が薄く光っている時間に私は目を覚ます。

 私の名前はクラリッサ。十歳の猫獣人の少女だ。カーン聖王国の貴族の娘として生まれたのだが、色々あって今はラフタール王国でエーリカという魔女の助手として暮らしている。


 目を覚ますと私は四つん這いになり、手を足を突っ張って大きく伸びポーズをする。尻尾までピンと伸ばして体を伸ばすのだ。これは私が子猫だった頃からの習慣である。


 そう、私はもともと人間ではない。元は違った世界に生きていた子猫だったのだが、とあるドジな女神のせいで死んでしまい、クラリッサとしてこの世界で生まれ変わったのだ。


 伸びた後は寝間着を脱いで服に着替える。猫だった頃はこんな事はしなくてよかったのだが、人間とは面倒である。ベッドの布団を畳み、シーツを直すと私は顔を洗いに下に降りる。


 この家の一階は店になっていて、商品を置く店舗の部分と、リビング、台所がある。

 階段を降り、台所の勝手口から外に出て、井戸から水を汲み上げ顔を洗う。この洗顔という行為は、元猫だった私にはとても苦手な作業である。猫は顔なんて洗わないものだし、水が顔にかかるのは苦手である。

 顔を洗うとタオルでしっかり水気をとり、リビングに向かう。

 リビングには籠が置かれており、その中に三毛の子猫が寝ている。

 子猫の名前はプルート、私の可愛い恋人である。


「プルート、おはよう。」


 私の挨拶にプルートは尻尾をちょっと振って答え、また寝てしまった。また夜中に外を出歩いていたのだろう非常に眠そうである。

 プルートはエーリカの使い魔である。実はプルートも私と同じ世界から転生してきた。元は人間だったが、ドジな女神によって死んでしまい、こちらで子猫として生まれ変わったのだ。


 プルートが元の世界で死んでしまった原因に私が関わっているので、私はプルートに負い目を感じている。それに彼にはこちらの世界で助けてもらった恩も有る。私はその恩を彼に返したいと考えている。


 いや、これは全てプルートと一緒に居たいといういいわけなのだろう。一目あった時から私はプルートに心惹かれていたのだ。なぜ心惹かれるのか、私にもわからない。


 プルートに朝の挨拶をした後、私は買い物籠を持って外に出かける。朝食のパンやミルクといった物を朝市に買いに行くのだ。




 ジャガンの街の朝市は品揃えが豊富で色々な食材が手に入る。朝早く近隣の街から運び込まれた野菜や果物が並び、パン屋は焼きたてのパンを並べている。私は人混みをかき分けるようにして目当ての店に向かう。


「クラリッサちゃん、今日は良い果物入っているよ。どうだい?」


「クラリッサちゃん、今日はハムのいいところ持ってきたけど買わない?」


 顔見知りの店のおばさんやおじさんが私に声をかけてくれる。おすすめの食材を買い込み、パンとミルク、卵を買って店に戻る。


「今日はハムエッグとサラダ、パンは焼いたほうが良いかな。プルートは今日は猫のままだろうから、ホットミルクだね。」


 プルートは人間に変身できるので、食事も人間と一緒の物を食べるのだが、今日は猫のままで城に行くと言っていた。


「エーリカはまた徹夜かな?」


 エーリカは地下にある自室に篭って昼夜問わず魔法の研究をしている。ほっておくとずっと部屋に篭って食事も取らないので、食事の時間になると、私は彼女を呼びに行くことにしている。


 朝食を作り終えると、地下へと続く階段を降り、エーリカの部屋の扉をノックする。返事が無いのを確認し、中に入るとエーリカが部屋の中で倒れ寝ていた。


「また魔法の実験の途中で寝てしまったのですね。」


 私はエーリカを部屋の外に運び出し、リビングの椅子に座らせた。


「エーリカ、朝です。朝食も出来てますから起きてください。」


「はっ、実験は………あれ、もう朝~?」


「エーリカ、徹夜もほどほどにしてください。」


 プルートも起きてきたので、三人揃ってリビングで朝食を食べる。


「プルートは今日もお城に行くの?」


「うん、"本の妖精"達に持っていく物があるんだ。」


 プルートは金属で出来た小さな籠を見せてくれた。


「これはなに?」


「"かご式ネズミ捕り"だよ。ネズミを捕まえる道具さ。」


 プルートは時々変な物を作る。ネズミを捕まえるなら猫で良いのにと私は思ったが、プルートが自慢気に見せているから実は凄いものなのだろう。


 食事が終わるとプルートは城に向かい、エーリカは再び自室に戻って研究を始める。

 私は後片付けが終わると店番をする事になる。前はプルートも一緒にしてくれたのに、最近は出かけてばかりで一緒に店番をしてくれない。一人だとものすごく退屈だ。それは、この店にお客が来たことがないからだ。エーリカはなぜこんな店を開いているのだろう。


 最近は退屈を紛らわすために、エーリカから魔導書を借りて読んでいる。おかげでいろんな呪文を覚えることができた。午前中は魔導書を一冊読み終えることが出来た。




 昼食はプルートの教えてくれたマヨネーズって調味料を使ったサンドウィッチという料理を作る。パンを切ってマヨネーズを塗って、ハムや野菜、チーズを挟むだけの簡単な料理だけど、ものすごく美味しい。手で持って簡単に食べれるので、実験をしながらでも食べれるとエーリカも絶賛している。


 簡単に昼食を済ませ再び店番に戻る。ご飯を食べた後はものすごく眠くなる。子猫の頃は眠くなったらすぐ寝ていたが今は店番中だ、寝るわけには行かない……………Zzzz。


「クラリッサちゃん、おすそ分けなんだけど?」


「えっ!」


 どうやら私は眠っていたらしい。近所のおばさんが作りすぎた根菜の煮物をお裾分けに来てくれた。ありがたくいただき、お返しに低級回復薬(ヒールポーション)を一瓶渡した。


「あらあら、そんなに気を使わなくても良いのに。」


「売れ残りですから、お気になさらずに。」


 薬を持っておばさんとが店を出て行く。どれだけ寝ていたのだろう、外を見るとかなり暗くなってきていた。

「ああ、夕飯の用意が…。」


 私は慌てて買い物に出かける準備を始めた。店を戸締まりしている最中にプルートが帰ってきた。


「クラリッサ、今からお買い物?」


「うん、夕飯が少し遅くなるけど良いかな?」


「今日は僕が作るよ。いつも店番ありがとうね。」


 プルートが店の中で人間に変身して一緒に買物に出かけた。


「あれ、クラリッサちゃん、今日は彼氏と買い物かい?」


「いつの間に…最近の子は早いね~。」


 店のおじちゃんやおばちゃんの冷やかしの声に照れるプルートの左手を私はしっかりキープする。そうして二人で仲良く買い物を終え、店に戻った。


「あれ、アマネ?久し振りだね。」


 店の前では真っ赤な鎧を着込んだ女戦士がウロウロしていた。


「ああ、良かった。店が閉まってて困ってたんだ。」


「最近見かけなかったけど、何処に言ってたの?」


「ちょっと、依頼を受けて遠く行ってたんだ。それより何か食べさせてくれないか。お金が無くて…。」


 依頼から帰ってきてお金が無いとはどういうことなのだろうと、私は不思議に思った。


「そうだね、今から作るからアマネも手伝ってくれるなら食べさせてあげるよ。」


「もしかしてマヨネーズ作るのかい?」


「うん。」


 アマネはマヨネーズが大好きなのだが、作るのが面倒なこともよく知っている。


「うう、食べたいが、あれは手が疲れるんだよな~。」


「ハンバーグも作るから、ね。」


 結局アマネはマヨネーズ作りを手伝うことにした。プルートと二人っきりで料理ができると思ったのに、残念。


 食事の準備が整い、エーリカを自室から…また倒れていたので…運び出して、少し遅目の夕飯を四人で食べる。


「へー、王都まで行ってたんだ。」


 アマネは依頼で王都まで行ってきたらしい。


「護衛の任務受けたのに無一文ってどうしたの~。」


「ちょっと、運が悪くてね。」


 どうやら賭け事にハマって擦ってしまったらしい。呆れた人だが、冒険者にはこういった人も多いのだ。


 食事が終わり後片付けを終えると、プルートが猫に戻っていた。人に変身している時間を調整できるようになったらしい。





「プルート、背中を拭いて。」


 寝る前に濡れたタオルで体を拭いて清めるのだが、背中をプルートにお願いする。プルートは照れながらもちゃんと拭いてくれる。お返しに私もプルートの体を拭いてやろうとすると、彼は逃げだした。


「ちょっと、クラリッサ、自分でやります。」


「私がやるの!」


 私はプルートを捕まえると丁寧に拭いてあげた。


「うう、もうお婿さんにいけない。」


 泣き崩れるプルートを胸に抱いて私はベッドに向かった。


「今日は一緒に寝よう。」


 私はプルートを抱きかかえて眠りにつく。彼のぬくもりが心地よい。


 私は今幸せである。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


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