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"妖精の森"の危機

改行の仕方を変えてみました。


「せっかくですから、"妖精の森"の危機についてお話しする前に、皆さんにはこの森の成り立ちについてお話したいと思います。」


 "妖精の森"の危機について聞けると思ったら、まずは成り立ちからとクリスティーナは、"妖精の森"の創世について語りだした。俺達は肩透かしを喰らってなんだかなーという感じだったが、エーリカだけは羊皮紙の束を鞄から取り出し聞いてメモを取る気まんまんであった。


「"妖精の森"のあるこの辺りは、もともと大きな森など無く荒野が広がっていました。当時のフェアリーは定住する場所が無く、レ・フェアリーなど小さな妖精達は魔獣や人間に怯えて暮らすしかなかったのです。そこで誰にも干渉されずフェアリー達が暮らしていける場所として森を作ろうと、フェアリーの御先祖様は思い立ったのです。御先祖様はこの地にやってきて木を植え、植物の精霊や木の精霊などに働きかけ大きな森を作り上げました。そしてマジックアイテム"迷宮作成のオーブ"を使い森を迷路にしたのです。迷路は魔獣や人が森に入るのを防ぎ、そして未熟なレ・フェアリーが間違って外に出てしまうのを防いでいます。こうして出来上がったのが"妖精の森"なのです。」


 クリスティーナはそこで一息ついた。


「そして皆さんに救ってほしい"妖精の森"の危機とは、森にかけられている"迷路の魔法"があと少しで解けてしまうことなのです。」


 森だけでは妖精たちの安全は守れない、"迷路の魔法"による迷路が有ってこその"妖精の森"ということは、俺にもよく分かる。それがないと魔獣や人間が訪れフェアリー達が安心して暮らせないだろう。


「"迷路の魔法"は何時頃解けてしまうのでしょうか?」


 ニーナがクッキーをつまみながら質問する。伯爵家令嬢にしては少しはしたないが、妖精の作るクッキーはとても美味しいらしく、アマネやニーナはリスのようにポリポリと食べている。子猫(おれ)にクラリッサが一つ取ってくれたが、猫の舌にはこのクッキーは甘すぎた。


「百年毎にかけ直しているのですが、今年がその百年目に当たるのです。多分後数ヶ月と言ったところでしょう。」


「"迷宮作成のオーブ"を使って"迷路の魔法"をグ・フェアリー達がかけ直しているということでしょうか?」


 俺の言葉にクリスティーナは頷く。


「"迷宮作成のオーブ"は我々の御先祖であるフェアリー・ロードが作ったアイテムです。フェアリー・ロードであれば一人で魔法をかけられるのですが、私達グ・フェアリーでは複数人が儀式を行ってようやく魔法を使えるようになるのです。しかし今この森にはフェアリー・ロードはおらず、グ・フェアリーも私一人しかいません。」


「つまり~今回は人手不足ってことね~。」


 今まで黙ってメモを取っていたエーリカがボソッと呟く。


 俺は今までの会話でグ・フェアリーとかレ・フェアリーとかの呼称に違和感を感じていたのだが、ロードが出てきて何か理解った気がした。


「すいません、話の腰を折って申し訳ないのですが、グ・フェアリーってもしかしてグレーター・フェアリーの略称でしょうか?」


「ええ、よくお判りで。フェアリーは、貴方達の様に増えるわけではなく精霊力があふれる泉に咲く花から生まれます。生まれたてのフェアリーは好奇心旺盛な子供のような性質ですが、数十年ほどすると繭となり私のような大きなフェアリーに生まれ変わります。小さいのも大きいのも皆フェアリーなのですが、区別するためにレッサー・フェアリーとグレーター・フェアリーと区別しています。ただレッサー・フェアリーとグレーター・フェアリーだと長すぎるのでレ・フェアリーとグ・フェアリーと略しています。グ・フェアリーから更に年月を重ねるとフェアリー・ロードになれると言われています。私は既に三百年ほと生きておりますが、未だロードになれる気配はありません。」


 俺の質問にクリスティーナは淡々と答えてくれた。俺は某ゲームのデーモンみたいなネーミングとなってしまったフェアリーの呼称を語る彼女の言葉に涙するしか無かった。


「私達を呼んだのは、その"迷宮作成のオーブ"を使うのに力を貸して欲しいってことですね?」


「はい、そこにいる精霊魔法を使えるお二人のお力を貸していただきたいのです。」


 クリスティーナはニーナの言葉にうなずき、エーリカとニーナに力を貸して欲しいとお願いしてきた。


「エーリカはどう思うの?」


 ニーナはメモをとっていたエーリカに尋ねると、エーリカはメモを取るのを止め考え込んだ。


「そもそも、なんでグ・フェアリーがクリスティーナさん一人なのよ~。」


「そ、それはですね、私より年上の方々が何名もおられたのですが、みんな"妖精の森"が退屈だと森を出て行ってしまったのです。」


 どうやらグ・フェアリーは代わり映えのしない"妖精の森"が嫌になって出て行ったみたいだ。田舎が嫌になって出て行く若者みたいなものだ。


「ところで、クリスティーナさんは何故僕達に手伝いの依頼をする気になったのですか?」


 普通であれば人間はフェアリーを狙う悪者だ。俺達にそんな気は全くないが、クリスティーナさんにはそれが理解るのだろうか?


「それは、彼女が今まで何度も"妖精の森"を通り抜けており、フェアリー目当てでこの森に来ているわけでわないことがはっきりとしているからです。それに彼女は森を抜けるのに精霊に道を聞くほど力が強い精霊使いです。彼女ならグ・フェアリーの代わりが務まると思ったのです。」


 クリスティーナはエーリカを指さしてそういった。どうやらエーリカが"妖精の森"を近道として使っていた為に目をつけられたらしい。

 俺達はジーっとエーリカを生暖かい目でみつめると彼女は目を逸らした。


「クリスティーナの依頼は聞いてあげたいけど、やっぱりタダってわけにはいかないよな。」


 アマネは冒険者らしく報酬の交渉を始める。


「ええ、もちろん依頼を成し遂げてくだされば報酬をお支払いします。ただフェアリーは人間の持つお金には興味がありませんからほとんど持っておりません。」


「それじゃ何を報酬にくれるんだい?」


「"妖精の蜂蜜"ってご存知でしょうか?それをお渡ししたいと思います。」


「"妖精の蜂蜜"?知らないね。大体、蜂蜜なんてそんな御大層なお宝なのかい?」


「人間たちはエリクサーと呼んでいるものと同じ物です。」


「「「!」」」


 アマネの報酬交渉にクリスティーナが提示してきた物はとてつもない物だったらしい。エーリカ、ニーナ、アマネがそれを聞いて固まってしまった。俺もゲームなどではエリクサーはかなりレアなポーションという記憶が有ったが、こっちの世界ではエリクサーとは死者すら蘇生可能な回復薬でとても値段など付けられない物らしい。


「エ、エリクサーって本当に~?」


「ええ、どうやって入手したかは教えれませんが、同じものです。それを一つ差し上げます。」


「「「やります!」」」


 俄然やる気になったエーリカ達はクリスティーナの依頼を受けることにした。


「引き受けていただき、ありがとうございます。"迷路の魔法"をかける為には満月の夜に儀式を行う必要があるのですが、次の満月は明日の夜なので、それまでこの花園で自由にお過ごしください。」




 俺達は明日の夜までレ・フェアリーが飛び交う花畑で過ごすことになった。

 エーリカは物珍しげにあちこち見て回っており、ニーナは花畑で何故か花かんむりをせっせと作っている。アマネはすることが無いので昼寝している。

 俺はクラリッサと共にレ・フェアリー達と話をすることにした。


「あーっ猫だー。」


「違うよケットシーだよ。」


「猫さん遊んでー。」


 レ・フェアリー達はまさに幼児と言っていいような連中であった。エーリカやニーナ、アマネは人間ということで怖がって近づかないのだが、子猫(おれ)や獣人であるクラリッサには遠慮なく近寄ってくる。


「髭を引っ張るのは痛いからやめてー。尻尾も引っ張らないで。」


 大勢のレ・フェアリー達に子猫(おれ)はひどい目に会っていた。幼稚園児にたかられる猫という感じで話をするどころではなかった。


「くっ、こうなったら。」


 子猫(おれ)はポケットからお菓子(あめ玉)を取り出し、"好奇心の増大"の奇跡を唱える。


「これを見るんだ~」


 "妖精の森"では神聖魔法は効きづらいと聞いたが、どうやら魔法はうまく発動したみたいでレ・フェアリー達は子猫(おれ)の持つあめ玉に好奇心が引きつけられたようだ。子猫(おれ)があめ玉を遠くに投げるとレ・フェアリー達はそれを追いかけて飛び去っていった。


「ふぅ、ひどい目に会った。」


 クラリッサに抱っこされて子猫(おれ)は一息ついた。


「面白い魔法をお使いですね。」


 そんな子猫(おれ)にクリスティーナが声をかけてきた。


「ええ、僕は好奇心の女神の神官もやっているので、神聖魔法も使えるのです。今のは好奇心を増大させて注意をそっちに向けさせる奇跡です。」


「好奇心の女神とは、聞いたことが無い女神ですね。」


「神官は僕一人だし、信者は猫と犬という()・マイナーな女神ですから。」


「でも、好奇心とはフェアリーにとってすごく相性が良い女神の気がします。レ・フェアリーはもちろんグ・フェアリーも好奇心が強いんですよ。お陰で"妖精の森"の退屈さに耐え切れず皆出て行ってしまったのですが...。」


 クリスティーナが寂しそうに笑う。


「どうですか、貴方も好奇心の女神を信仰してみませんか?」


「フェアリーが神を信じる?今までそんな事考えたこともありませんが?」


 やっぱりフェアリーが神を信仰するというのは無茶なのだろうか。しかし信者を増やすためにもここは押して押して押しまくるしか無いと俺は言葉を続ける。


「今のままだから、新しいことがないから皆森を出て行ったのですよね。そんなフェアリーを減らすには新しいことを、今までやっていなかったことをやってみるといったことが必要だと思うのです。そこで今まで神を信じなかったけど、今度は信じてみるとか有っても良いと思うのですが?」


「……そうですね、今のままでは百年後に"迷路の魔法"をかけるグ・フェアリーがいないかもしれません。何か新しいことを初めて見ても良いかもしれません。」


 クリスティーナはなにか吹っ切れたような感じになった。


「プルートさん、女神を信仰するってどうやれば良いのでしょうか?」


 俺は新たな信者を獲得することに成功したようだ。俺はクリスティーナに信仰の何たるかをレクチャーし、レ・フェアリー達にも教えを広める事を提案した。寺付属やキリスト系の幼稚園と言った感じでレ・フェアリーを教育できないかと思ったからだ。クリスティーナは信仰がそんなことに使えるのかと驚いていた。





 夜、夕食を作っているとクリスティーナやレ・フェアリー達が物珍しそうに近寄ってきた。フェアリーはお茶やお菓子を食べるが、基本的に食事は花の蜜といったもので済ませるため、俺達が作る料理は珍しいものらしい。

 パンやスープといった食材を物珍しげに眺めるので、エーリカは鞄からフェアリー達をまかなえるぶんの食材を取り出し、食事を振る舞うことにした。

 レ・フェアリーが小さいとはいえ、その数は百人以上いたので巨大な寸胴鍋を取り出しそれでシチューを作ることになった。


「いい匂いですね。」


「おいしそ~」「うまそー」「お風呂みたい」


 レ・フェアリーが匂いを嗅ぎつけて近寄ってくるが、鍋に落ちそうな者もいてかなり危ない。

 子猫(おれ)は鍋に落ちそうになったレ・フェアリーを魔法の手(触手)で拾い上げていた。


 人数分の皿が無いので、レ・フェアリーには葉っぱで作った簡易のお皿でシチューを食べてもらった。初めて食べる人間の料理に彼らは満足し、食事のお礼に夜空をダンスしてくれた。

 フェアリーの羽は薄い燐光を放つため大勢のフェアリーが夜空を舞い踊る光景は幻想的であった。俺達はそんな光景をうっとりと見つめていた。





 次の日は朝からエーリカとニーナはクリスティーナに儀式の内容を教えてもらっていた。儀式と言っても"迷宮作成のオーブ"に精霊を集めて"迷路の魔法"を発動させるだけなのだが、エーリカが精霊を集めるのに以外と苦労してた。エーリカが得意とするのは火の属性魔法なので精霊も火の精霊を操るのが得意なのだ。しかし"迷路の魔法"は土と木・風の精霊だけを集める必要があるため苦労している。


「土と木の精霊は地味だから苦手なのよ~。」


 そんな失礼なことを言っているとますます土と木の精霊が寄ってこない気がするのだが、お昼すぎにはうまく集めることが出来るようになっていたみたいだ。



 その日のお昼は今度はフェアリーたちがシチューのお礼に料理を作ってくれることになった。


「よいしょ、粉をふるい終わったよー」


「フライパンを準備してー」


「バターは何処にあるの~」


 レ・フェアリー達が一生懸命パンケーキを作ってくれる。小さい体に合わせた小さなフライパンで焼かれたパンケーキは一口サイズの小さいものであったがそれにかかっているシロップが絶品で合った。

 エーリカやニーナ、アマネは言うに及ばす、クラリッサまで黙々と食べていた。

 ちなみに妖精のパンケーキとシロップはいくら食べても太らないとクリスティーナが言ったので彼女達はお腹がはちきれるまで食べてしまった。





 夜になり、夜空に満月が煌々と光る中、"迷路の魔法"を唱える儀式が始まった。クリスティーナとエーリカ、ニーナが"迷宮作成のオーブ"を取り囲み精霊を集めている。

 一時間ほどで力がたまったのだろう"迷宮作成のオーブ"が光を放ちそれが森に広がっていった。それは昨日のフェアリーダンスに劣らない幻想的な光景であった。


「綺麗」


 あまりそういったことに関心を示さないクラリッサの口から感嘆の声が漏れる。





 儀式も成功し"妖精の森"の危機は去った。

 翌日の朝、クリスティーナやレ・フェアリー達が見送る中、俺達はフェアリーの花畑を後にした。もちろん"妖精の蜂蜜"をもらうのは忘れていない。

 クリスティーナが花園から直接森の出口をつなげてくれたので、花園を出るとジャガンの街に近い森の外に出ていた。


「さーて、ジャガンの街に冬虫夏草を届けるわよ~。」


 相変わらずのほほんとしたエーリカの掛け声の下、俺達は街に向かって進み始めた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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