冬虫夏草の採取
14/01/18に31,32話を改稿しましたので、まだ読んでおられない方はそちらを再度お読みくださいm(_ _)m
俺達は魔獣の森を順調に進んでいた。
森の中を進む間、ニーナが俺の右手を掴んできたり、それをクラリッサが注意してもニーナが手を離さないのにキレて俺に抱きついて二人が喧嘩になったとしても順調に森の中を進んでいるのだ。
「毒の巨人が来るわ~。」
エーリカが警告の声を上げ、後ろに下がり、アマネが前に出て剣を構える。
俺も剣を抜き前に出てアマネと前衛となりクラリッサとニーナはエーリカと共に後衛になるはずなのだが。
「きゃー、プルートさん怖い~。」
ニーナはそう叫んで俺にしがみついてくる。
クラリッサはそんなニーナを俺から引き離すか、対抗するかのように俺にしがみついてくるので、俺は前に出ることができないでいた。
大概の魔獣はエーリカの魔法一発で片がついてしまうので問題ないのだが、複数の強敵の場合はかなり苦戦を強いられることになる。
「ちっ、二匹いやがる。早々に片付けないと仲間を呼ばれるぞ。」
毒の巨人はオーガの亜種で、真っ黒な体と麻痺毒がある長い爪を持っている。
オーガと違い魔法に強く、ときどき仲間を呼び寄せたりする嫌な魔獣である。
「二人共、手を離してくれないかな?」
「えーっ」
「ニーナが手を離すまでヤダ。」
二人が言い争っている間にエーリカが氷の槍で毒の巨人を倒してしまった。
「もう、いい加減にしなさい。」
エーリカも二人をその度に叱るし俺も止めるように言うのだが、その場はそれで収まっても、魔獣が現れる度にその騒動が繰り返される。
結局、エーリカと俺が先頭を歩き、アマネ、ニーナ、クラリッサが後ろを歩くというフォーメーションになってしまった。
先頭を歩くことで、しがみつかれることは無くなったが俺は自分の尻尾に視線が集まるのを感じ、あわてて尻尾を体に巻きつけることになった。
森の中に入って五日目、木々の中を進むため距離感がよく掴めないが、かなりの距離を進んだと思う。
「そろそろ金剛甲虫の巣がある場所よ~。」
とエーリカが地図と地形を見比べながらそう言う。
「この先に地面にいっぱい穴があって、その奥に幼虫がいるのよ~。」
地球のカブトムシと異なり金剛甲虫は卵を産みっぱなしにするのではなく、孵った幼虫に餌を運んで育てるらしい。
成虫と違い幼虫はかなり弱い(と言っても普通の冒険者では倒すのも難しいらしい)、そのため成虫は地面に掘った穴の奥に卵を産みそこで幼虫を育てるのだ。
そして金剛甲虫はなぜか巣を同じ場所に作る習性がある。
金剛甲虫は魔獣の森ではかなり上位に位置する魔獣であるが、その幼虫は栄養価も高く、強さも親に比べれば問題にならないぐらい弱いため、他の魔獣にとっては格好の獲物らしい。
そのため巣を一箇所に集めなるべく親が留守にならないようにしているらしい。
「先ずは親がいるか偵察ね~。プルートお願いね~。」
偵察任務の為に今の俺は子猫モードだ。
人間より子猫のほうが金剛甲虫の注意を引きにくい。
子猫は用心のため学ランを着込みエーリカが言う巣のあたりを偵察に行った。
森をしばらく行くと大木の根元に穴が開いている場所が見つかる。
金剛甲虫の成虫が入っていくのだ、直径で五メートルはある大きな穴である。
子猫は注意深く辺りを見回し成虫がいないか調べる。
(いた)
幹の太さが二十メートルはあろうかという木の上に金剛甲虫の親が辺りを見張っていた。
金剛甲虫は雄も雌も巨大な槍のような立派な角を持っている。
それを武器に餌を狩るのだが、全長十メートルはある蟲の餌となる魔獣はどれだけ大きいのだろう。
他の木にも成虫がいないか確認した子猫は気付かれないようにエーリカたちのもとに戻った。
「親が一匹ね~。」
「エーリカ、夜まで待って入るのは?」
「夜は親が餌を持ってうじゃうじゃ集まるのよ~」
「じゃあ、一匹なら倒してしまうのは?」
「倒すだけならできると思うけど、騒ぎを聞きつけた親が集まってくるわね~」
俺達がなかなか良い案を出せない中、エーリカは何か余裕の顔をしていた。
「エーリカお姉さま、何か手があるのですね?」
「なんだエーリカ、作戦があるなら早く言えよ。」
ニーナとアンヌにせっつかれてエーリカはしょうがないと言った感じで作戦を話し始めた。
「まずわ、見張りの親を誰かが囮になって別な場所に引きつけてもらうわ~。」
「金剛甲虫に喧嘩をうったら他の親も集まってくるんだろ?」
「普通わね~。でもこのエーリカさん特製の臭い玉を使えば闘うこと無く引き寄せられるのよ~」
「何だ、そんな便利なものがあるのかよ。」
「出発に一週間かけたのはこれを作るためなの~。一つしか無いから大事に使ってね~。」
「使ってねって事はエーリカ以外が囮ということですね。」
「私じゃないと冬虫夏草があるかどうか判らないでしょ?」
確かにこのパーティで冬虫夏草を知っているのはエーリカだけだ。
つまり他の人が囮をやるしか無い。
「みゃー?」
「プルートだったら見つからずに金剛甲虫に接近してこの臭い玉を使えると思うのよ~。」
「子猫ちゃんにそんな事させられない」 「危険ですわ。」 「私がやる。」
エーリカが子猫が囮といった瞬間、他の三人から反対意見が飛び出す。
「やーね、プルートには危険は無いわよ~。臭い玉に釣られても攻撃してくる訳じゃないのよ~。」
「「「でも」」」
「にゃーん」
子猫の一言でエーリカの作戦を決行することに決まった。
◇
無数にある穴の中から冬虫夏草のある穴を探し出すには大地の精霊と生命の精霊、そして植物の精霊の力を感じる必要があるらしい。
エーリカはその力を感じることができるが、一人で全ての穴を見回るとすると時間が掛かり過ぎる。
そこでニーナの出番である。
彼女も優秀な精霊魔法使いであり、エーリカのように精霊の力を感じ取れるのだ。
エーリカがニーナを連れて行くのに賛成するわけだ。
子猫は、先ほど見つけた金剛甲虫の所に気配を隠しながら近づいていった。
まあ、見つかっても子猫など幼虫のおやつにもならない小物だから無視されると思う。
「これを引っ張るんだっけ?」
米軍の対人手榴弾の様な形をしている臭い玉に付いているピンを引き抜く。
(爆発したりしないよな)
ピンを引き抜くと臭い玉から肉の腐ったような匂いが漏れ出す。
「ミギャー」
子猫は鼻を前足で押さえ魔法の手で身体から離して持った。
「ミッ」
匂いが届いたのか金剛甲虫が子猫方を向いて鳴く。
「着いて来いよ」
金剛甲虫動き出すのをみて俺は森を走りだした。
「戦わなくて良いって言ってたのに~。」
子猫は叫びながら森の中を駆けまわっていた。
臭い玉に惹かれた金剛甲虫は、木をへし折りながら飛んでくる。
確かに戦わなくても良いのかもしれないが、逃げ回るのは命がけであった。
臭いとか言っている余裕もなく、臭い玉を口に咥え魔法の手をフルに使って森の木々の中を縦横無尽に飛び回ることでなんとか金剛甲虫の突進をかわし続けた。
◇
「さて、プルートが親を惹きつけている間に冬虫夏草を探すわよ~。」
「急ごう。」「急ぎますわ。」「エーリカ早く!」
エーリカ以外はものすごく焦っていた。
「ニーナはアマネと組んであっちから穴を調べてね~。植物と大地の精霊に生命の精霊が少し混じった感じがしたらそこに冬虫夏草があるのよ。」
「理解りましたわ。アマネさん、行きますわよ。」
「幼虫も時々顔を出すから気をつけるんだよ~。うかつに傷つけると親を呼ぶからね~。」
相変わらず緊張感のないエーリカである。
「クラリッサは私とこっちから探すわよ~。」
二手に分かれての探索が始まった。
◇
「もう、無理無理無理~」
子猫は追い詰められていた。
匂いの元が動きまわるのに気付いた金剛甲虫は角を使って木を切り倒し、俺の行く手を阻み始めたのだ。
木がなければ魔法の手を使って飛び回ることができない。
後は地面を走るしか無いとなると、子猫では逃げ切るだけのスピードは出せなかった。
子猫は金剛甲虫の突進を紙一重で躱すと臭い玉を力の限り遠くに投げた。
金剛甲虫はしばらく辺りの匂いを嗅いでいたが、投げた臭い玉を嗅ぎつけたのかそっちに飛んでいった。
「ふぅ、助かったのかな。とりあえずエーリカの所に戻ろう。冬虫夏草が見つかっていると良いんだけどな。」
子猫は破壊しつくされた森の中を駈け出した。
◇
「エーリカ、なかなか見つからないね。」
「おかしいわね~。冬虫夏草は確かにまれにしか幼虫に寄生しないんだけど、これだけ巣が有れば一つぐらいはあるはずなんだけどね~。」
エーリカ達は未だ冬虫夏草を見つけることができていなかった。
「無いとしたら?」
「別な巣を探さなきゃいけないんだけど、そんなの何年かかることやら...困ったわね。」
「精霊以外に何か特徴は無いの?」
「んー...寄生された幼虫は死んじゃうから匂いが違うかもね。でも犬でもそんな匂いをかぎわけられないと思うわよ~。」
「プルートが心配だから、頑張ってみる。」
クラリッサは穴の匂いを嗅ぎ、違った匂いがする穴を探し始めた。
「見つけた、多分この穴。」
クラリッサが匂いで見つけた穴は倒れた樹の下にあった。
どうやら幼虫が死んで放棄されたものらしい。
「確かに冬虫夏草っぽい精霊の力を感じるわね~。」
「潜って取ってくる。」
「クラリッサじゃちゃんと採取できないわよ~。私が取ってくるわ~。」
そう言ってエーリカが穴に潜っていった。
クラリッサが待っていると
「きゃーっ」
悲鳴をあげながらエーリカが穴から飛び出してきた。
「どうしたエーリカ。」
エーリカが飛び出した穴から小柄な金剛甲虫が後を追うように飛び出してきた。
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