ニーナの事情
14/01/18 31,32話と改稿させていただきます。
14/02/02 ルビミス修正
謎の集団に教われた貴族の馬車。
馬車は全焼し、生存者は絶望と思われたのだが、護衛の兵士は平然としている。
燃え尽きた馬車から出てきた貴族の少女はエーリカの知り合いであった。
ニーナは魔法の障壁だろう光の膜の様なものに包まれており、護衛の兵士も直接触れることができない。
光越しに見える彼女は長くきれいな金髪と、整った顔立ちのいかにも貴族のお姫様という可憐な少女であった。
歳は14-5といったところだろうか。
緑を基調とした豪華なドレスを見にまとっているの。
「エーリカ、また敵が襲ってこないとも限らない。一旦ここを離れよう。」
アマネが襲撃者が逃げ込んだ森を見張りながら言う。
護衛の兵士と俺達はアマネの言葉に従いその場を離れた。
馬が俺達の二頭しか残っていないことと次女とニーナを包んでいる光る膜が目立つので、布にくるんでアマネの馬に縛り付けて運ぶことにした。
三十分ほど移動して追っ手が無いことを確認して兵士と俺達は森の中に身を隠した。
護衛の兵士は森の中で四方に散らばり襲撃を警戒しておりニーナの側に居るのは俺達と護衛のリーダだろうアーノルドだけだった。
アーノルドはエーリカのことを知っているらしいが、俺達はただの冒険者だ警戒しなくて良いのだろうか?
そのことをアーノルドに尋ねると
「エーリカ様が噂通りのお方なら、お仲間であるあなた方も信用して問題ないと。」
と返ってきた。
エーリカはラフトル伯爵家の人に信頼されているらしい。
馬から下ろし布を解いてもニーナはまだ光の膜に包まれており、目覚める気配がない。
「これはなんなのでしょうか?」
「それはねラフトル家の血筋のものだけが使える光の精霊魔法よ~。魔法の名前は光の棺桶よ~。」
「棺桶? ではその娘は死んでいるのですか?」
アマネが何故かひどく慌てている。
「大丈夫、仮死状態になっているだけよ~。この状態なら中の人に危害を加える事が出来ないし、仮死状態のまま百年だって生きているのよ~」
なかなかすごい防御魔法らしい。
ただ、まもりは完璧だが中の人は何もできなくなるので、助けが来ない場合はおすすめ出来ない魔法らしい。
「プルート、その娘を落とさないように抱えていてね~。」
俺がニーナと侍女が入った光の膜を抱えると、エーリカは呪文を唱え始めた。
「血の盟約に従い我に彼の者の封印を解かさしめよ。」
呪文と言うより合言葉だったのか、言葉と共にエーリカがニーナに触ると光の膜は解除された。
「ん...お兄ちゃん...助けて。」
ニーナはうっすらと目を開けそう呟くと俺に抱きついてきた。
「なっ、プルートから離れて。」
ニーナが俺に抱きつくのを見てクラリッサが血相を変えて飛び込んでくる。
クラリッサは俺とニーナの間に割り込んできて強引に二人を引き離した。
ニーナは俺から引き離され、ぼんやりとしていたが、エーリカの顔を見るととたんに顔が引き締まった。
「エーリカ叔母様?」
彼女がそういった瞬間、俺の横を突風が通りすぎていった。
「ニーナちゃん、私のことはエーリカお姉さんと呼ぶようにいってるでしょ~。」
瞬間移動したのかと思えるほどのスピードでニーナに近づいたエーリカは彼女のほっぺをつまんで横に広げていた。
そんな状況に俺とクラリッサ、アマネは全く反応できていない。
「ひ、ひぃひゃいです。へーりふぁおば...おねへふぁま。」
ビョーンとほっぺを引っ張られてニーナが涙目になっている。
エーリカが手を離すと可哀想に彼女はほっぺが真っ赤になっていた。
「いきなりほっぺを引っ張るなんて酷いですわ、エーリカおば..お姉さま。」
「何回教えても覚えないニーナが悪いのよ~。」
睨み合う二人を俺達は生暖かい目で見つめていた。
そんな俺達にニーナは気付き、少し苦笑すると睨み合うのを止めた。
「はしたない所をお見せしました。私はニーナ・フォン・ラフトルと言います。名前からお分かりの通りラフトル伯爵の娘です。皆さんには危ない所を助けていただき大変感謝しております。」
ニーナは貴族の作法なのだろうドレスの裾をつまみ左足を下げて頭を下げ優雅に自己紹介をした。
「ところでエーリカお姉さま、私を助けてくださった皆さんをご紹介して頂けませんでしょうか?」
「そうね~自己紹介は大切だわね~。えーと、まず獣人の少年がプルートって言って、私の使い魔なのよ~。あとこっちの獣人の少女が私のお弟子「プルートの恋人」なのよ~。で最後に真っ赤な鎧を来ている派手な女の人がアマネさんで、パーティの盾役?。」
途中にクラリッサの妙な主張が入ったり酷い紹介をされたアマネが凹んでいたが、エーリカが皆の紹介を終える。
紹介の間ずっとニーナは俺の方を見つめてくるが、抱きついてきた時の「お兄様」と関係があるのだろうか。
「お姉さま、プルートさんが使い魔だとおっしゃられていたのですが、まさか人を使い魔にしたんですの?」
「やーね、そんなことするわけ無いじゃない。プルートはれっきとした猫よ~。」
「猫?」
「そう、子猫。ちょっと人間に変身してもらってるの。」
「そ..そうなのですか?」
「はい、僕は子猫です。今は訳あって人間に変身しています。」
「そんな、こんなにお兄さまソックリなのに...猫だなんて...」
俺が猫だと聞いて何故かニーナがショックを受けていた。
どうやら彼女はお兄様が好きなブラコンなのだろう。
きっとエーリカが俺を人間に返信させるにあたってニーナのお兄さんをモデルにしたのだろう。
「ところで、エーリカとニーナの関係は?」
「それはエーリカがうちのお父様の...」
「秘密なのよ~」
クラリッサの質問に答えようとしたニーナをエーリカがものすごく怖い顔で睨み、発言を遮る。
ニーナはエーリカをおばさまと言っていたことから考えると現ラフトル伯とエーリカが兄弟とかになるのだが、とても年齢が合わないので、「秘密」と言うからには何か特殊な事情があるのだろうと俺は勝手に納得した。
「アーノルドも皆を守ってくれてありがとう。」
「いえ、エーリカ様達が来られなければ危ないところでした。」
ニーナは護衛のものにねぎらいの言葉をかけていく。
「ところで、ニーナ様は何故こんな辺境で襲われてたのでしょうか?」
しばしの沈黙を破りアマネがニーナ嬢に質問した。
「父様がバーノル伯爵から子息との縁談を進められ、その候補として私が一人でバーノル伯爵の所に伺うところだったのです。そして今日バーノル伯爵領に入ってすぐに襲撃があり馬車に火の魔法をかけられました。とっさに私は光の棺桶を唱えたのですが...後は皆様の知っているとおりですわ。」
ニーナはバーノル伯爵との政略結婚の為にバーノル伯爵家に向かっている最中だったらしい。
その道中を襲われたわけだが、その犯人は誰なのだろう。
「ニーナ様、襲撃者は誰だったのでしょう?」
「心当たりが多すぎで分かりません、ただバーノル伯の臣下にはラフトル家との婚姻をよく思ってないものが多いと聞いておりますので、その方たちが雇ったというのが一番確率が高いかと。」
結局襲撃を仕組んだ犯人は想像するしか無いということらしい。
「いつか必ず犯人を見つけ、私を襲った事を後悔するような目に合わせてやりますわ。」
天に向かって誓う様に言うニーナは少し怖かったです。
状況の確認は終わったが、ニーナ達の処遇について俺達は悩んでいた。
普通に考えるなら縁談のためにバーノル伯爵のもとに向かうのが筋であるが、襲撃者が襲ってきたことを考えると、バーノル伯爵の元にこのまま向かうなど殺してくださいと言っているようなものだ。
さりとて、ラフトル伯爵の元に援軍を要請するとしても一月以上かかる。
バーノル伯爵の元に俺達が付いて行けば解決するのだが、今は冬虫夏草を取ってくる依頼の真っ最中であり護衛は無理である。
結局ニーナ姫一行はラフトル伯爵領に戻り護衛を増やして再度バーノル伯爵家に向かうことになった。
◇
「貴族のお姫様って言うからお高く止まったのを想像してたが、なかなか立派なお嬢様じゃあないか。」
いつも人を誉めないアマネがニーナを誉めていた。
確かに彼女は貴族のお嬢様の割りに気さくだったような気がする。
「ヤーネ、あれは猫かぶっているのよ。」
エーリカはそういうが、貴族同士ならまだしもたかが冒険者相手に猫かぶっている必要は無いと俺は思うのだが。
「失礼ですわエーリカおばさ...グハッ」
突然現れたニーナは最後まで台詞を言い終えることが出来ず、エーリカのボディブローを食らって悶絶していた。
「「「ちょっ!」」」
全員でエーリカに突っ込みが入った。
◇
悶絶状態から回復したニーナは
「お兄様の御病気を治す薬の材料なら私も一緒に取りに行きます。」
と、とんでもない事を言い始めた。
ドレスを脱ぎ、エーリカが出した町娘のような上下を着たニーナは、愛しのお兄様の為と張り切っている。
「護衛の人達はどうしたんですか?」
「みんな魔法で寝かせて来ましたわ。」
どうやらニーナは思ってた以上のお転婆(死語)さんだったらしい。
「バーノル伯爵家との縁談はどうするのですか?」
「あれは、最初から断るつもりでしたわ。」
どうやら元々ニーナは縁談に乗り気ではなく、逆に積極的なラフトル伯爵が無理やり彼女を送り出してたらしい。
「お母様も途中で逃げちゃいなさいと言っておられたし、こんな襲撃があったんだものお父様も諦めてくださるわ。」
「ハンナらしいわね~。」
ハンナはラフトル伯爵の奥方である。
「でもわざわざ危険な旅についてこなくても。」
「このまま護衛と領内に戻ったら、すぐにバーノル伯爵家にとって返すことになるわ。そっちのほうが危険だと思わない?」
確かに現状のまま縁談に向かったら暗殺される未来しか見えない。
「今は行方不明のままがよいかもね~。ディルクには私からも言っておくわ~。」
エーリカが反対どころかニーナが着いてくることには賛成らしい。
「エーリカおば..お姉さまがそうおっしゃってくれれば、お父様を聞き入れてくれると思いますわ。」
なぜかエーリカとニーナが手をガッチリと握り合っていた。
結局ニーナは俺達と一緒に冬虫夏草を取りに行くことになった。
「ニーナは魔獣の森に入ったことがある...わけはないか...」
「ええ、魔獣の森には入ったことはありませんわ。でも迷宮なら何回か護衛の者と入ったことがありますわ。これでも初級の中のランクですのよ。」
俺はニーナが着いてこれるか不安だったので聞いてみたが、意外とお転婆らしく冒険者のランクも持っていた。
「ニーナは精霊魔法と通常魔法を使えるから、後衛に置いとけば役に立つでしょ~」
エーリカによるとニーナには魔法を教えたことがあり、普通の魔法をだけでなく精霊魔法も使いこなせる逸材らしい。
◇
魔獣の森では、先頭がエーリカ、左右に俺とクラリッサ、真ん中にニーナ、最後がアマネといったフォーメーションで進んでいく。
アマネが先頭のほうが良かったのだが、冬虫夏草のある場所はエーリカしか知らずアマネは方向音痴ということからこのフォーメーションになったのだ。
先頭のエーリカは自作の地図を見ながら進んでいく。
俺がちらりと地図を覗いたら、子供のお絵かきのような地図であった。
(よくこれで進んでいけるな。)
俺は迷うんじゃないかと不安に思っていたがエーリカは森の中の目印をきちんと覚えており迷ってはいないらしい。
夕方頃に俺の変身魔法が解け猫に戻ってしまったこともありそこで野営をすることになった。
「本当に猫だったんですね。」
「にゃー」
ニーナがすごく残念そうな顔で子猫を抱き上げる。
さすがに伯爵家の姫と争う気はないのかニーナに抱きかかえられる子猫をアマネがうるうるとした目で見つている。
「でも人間になればお兄さまソックリの...エーリカお姉様、プルートがずっと人間のままで居れるように出来ないのですか?」
「なー」
ニーナは姿がお兄さんに似ていれば猫でも良いのだろうか。
「無理よ~」
エーリカの返事を聞いてニーナはガックリと肩を落とし、アマネは胸をなでおろした。
冒険者ランク初級の中を持っているとは言え、貴族のお姫様なニーナはすぐに森歩きで音を上げると思っていたが少し疲れた顔をするだけで最後まで歩ききった。
食事も簡単な保存食だったのに「こんなの食べたことありませんわ。珍しい味ですわね」と全部平らげた。
このようにニーナは意外にたくましいお姫様だった。
「だけどこれは我慢できませんわ。」
ニーナは毛布に包まって寝るということに不満を漏らした。
硬い地面で寝るというのは貴族のお姫様には辛いだろう。
しかし此処は我慢して貰う必要がある。
「私だけ見張りをせずにのうのうと寝ているなんて、そんな特別扱いは耐えられません。エーリカお姉さま、私にも見張りをさせて下さい。」
どうやらニーナは特別扱いしてほしくなかっただけらしい。
野宿をしたことのないニーナを先に持ってきたほうが負担が少ないという判断から、最初に見張りに着いたのは子猫とニーナであった。
ニーナは子猫を抱きかかえて焚き火を見つめていた。
「プルート、私ねお父様に縁談を勧められてとてもショックだったの。だって大好きなお兄様と別れ別れになってしまうもの。」
「ニャ~」
見張りをしながらニーナは子猫にポロポロとお兄様との思い出を語りだす。
「でもねお兄様が笑って私に良かったねって言ってくれるので断りきれなかったの。」
「ナー」
「でもお兄様の病気を治す冬虫夏草と私が取ってくれば、きっとお兄様も私のことを好きになってくれると思うの。」
「ミャー」
「ありがとう、プルートも応援してくれるのね。」
「ミャン」
俺とニーナの全然咬み合わない会話が見張りの当番の間ずっと続くのでった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。
14/01/18 31,32話と改稿しました。
ニーナの登場と性格描写に人死にのシーンを絡めるのが納得いかなかった私のわがままですm(_ _)m。