弟子 参上!
2014/01/26 文章の改行ルールを変えました。記述、言い回しを変え少し加筆修正しました。
ぐ~
子猫は派手にお腹がなって目覚めてしまった。
昨晩は子猫を蘇生したところでエーリカが力尽きてしまい、彼女は泣きながら寝てしまった。子猫も蘇生直後でそのまま力尽きて倒れるように寝てしまった。
テーブルに突っ伏してよだれを垂らしながら寝ているエーリカを横目に、籠からテーブルにそっと降りたつ。テーブルの上には昨日のミルクがまだあったが、空腹でもさすがにこれを飲むわけにはいかない。
(しかし単なるホットミルクでなんで猫が死にかけるんだろう?)
後でわかったのだが、エーリカは薪が足りず火が起こせなかったので、ミルクを炎の精霊を呼び出して温めたのだった。
ミルクは沸騰したが精霊のバランスがかなり火属性に偏っていた。体の弱った子猫に精霊バランスの崩れた物を飲ませたら倒れるのも当たり前である。
「みゃ~」
ふらつく足取りで、眠りこけるエーリカを足がかりにしてテーブルからなんとかリビングの床に降り立った。元人間の俺が子猫の体でうまく動けるか不安だったが、どうやら問題なく猫らしい運動神経が発揮できている。
ぐ~ぐ~
盛大に鳴り響くお腹を抱えて、隣にある台所の部屋に向かった。台所は燦々たる有様であり、とても食べ物を探せるような状況ではなかった。
昨日、隣から響いてきた音の原因を理解して子猫はリビングに戻った。
なんか食べ物がないかとエーリカのであろう鞄を覗いてみたが、人が殴り殺せそうな魔導書と着替えぐらいしかなかった。
エーリカを何とか起こして食べ物を準備してもらうか俺は悩んだが、昨日のミルクの惨状を考えると、こんどこそ死んでしまいそうな気がして、彼女のほっぺをふにふにしながら迷っていた。
「魔女様おられますか~。」
エーリカを起こすかどうか悩んでいた時にバンと家の扉が開けられた。子猫はびっくりしてテーブルの下に隠れてしまった。
そっとテーブルの下から覗くと、家に飛び込んできたのは16歳ぐらいの金髪をショートカットにした女の子だった。少しそばかすがあるけど目が大きく愛嬌のある顔立ちでかなり可愛い。
「エーリカ様~起きてください。私が今回の弟子です~。」
「うーん、後少し~」
少女がエーリカを起こそうと揺さぶっているが、彼女はなかなか起きない。
見たところ少女はエーリカの知り合いらしい、おそらく危険が無いだろうと子猫はテーブルからそっと出て彼女の足元に擦り寄った。
「みゃ~」
子猫は少女の足をカリカリと引っ掻いて空腹を訴えてみた。少女は子猫がいきなり出てきて驚いた様子だったが、出てきたのが子猫だと認識した瞬間……顔がとろけた。
「きゃー、子猫ちゃんだ~」
彼女は子猫を両手で抱きかかえると、頬ずりをして撫で回してぐるぐる回っている。いかん、彼女はに子猫とって危険な人物だった....。
空腹でフラフラな状態での過激なスキンシップは強烈で、子猫はそれに耐え切れず意識を失ってしまった。
◇
子猫は美味しいそうな匂いによって目が覚めた。また籠で寝かされていた子猫の目の前には適温に温められたミルクが置かれていた。
「あっ、子猫ちゃん目が覚めたのね~。」
エーリカが、子猫が目を覚ましたのに気付き抱き上げた。
「子猫ちゃんお腹が減ったでしょ~。今ミルクを飲ませてあげまちゅからね~。」
子猫を扱うときはなぜか赤ちゃん言葉になっちゃうのだろうか、子猫はそう思いつつ、エーリカがフーフーしているミルクに戦慄していた。
「はい、お待ちかねのミルクでちゅよー」
目の前にはスプーンに掬われたミルクがあった。これは飲んでも大丈夫なんだろうか、猫なのに冷や汗が流れた。
「エーリカ様、子猫ちゃんは温めたミルクを飲んでくれました~」
台所から先ほどの少女が問いかけてきている。どうやらこのミルクは彼女が温めてくれたみたいだ。子猫は安堵してようやくミルクにありつくことができた。
◇
満腹になった子猫は籠でまどろみながらエーリカと少女の会話を聞いていた。
少女の名前はアデリーナと言うらしい。アデリーナは、この小屋の近くにある村の村長の孫娘らしい。
彼女の村は、代々魔女の小屋の弟子をすることになっており、その際には村で一番頭の良い娘が選ばれる。今回は村長の孫娘のアデリーナが選ばれたとのことだ。
エーリカは、数年毎にこの小屋に訪れ、村人たちのために薬の調合や魔法を使った仕事をしてあげているらしい。
「おばあちゃんに聞いたとおり、エーリカ様は家事が下手なんですね。」
「えーっ、私ちゃんと家事出来るよ~。ちゃんと猫ちゃんのためにミルクも温めたし~。」
「普通ミルクは精霊魔法で温めませんよ。」
「だって此処に来たばかりで薪が無かったし~、猫ちゃんはお腹が減ってそうだったからしょうがないじゃないの~。」
「精霊魔法で料理するなんて聞いたこともありません。」
アデリーナはエーリカの弟子なのだが、身長と話し方から、アデリーナお姉ちゃんが妹のエーリカを躾けているみたいな感じである。子猫はほっこりしながら二人の会話を聞いていた。
時刻はそろそろお昼らしくアデリーナは昼食の準備のために台所に、エーリカは荷物の整理を始めた。
鞄からはどう見ても鞄に収まりそうにない大量の本がとり出され、リビングの本棚に並べられていく。アレがゲームとかである無限のバックとか言うアイテムなんだろうと子猫は検討をつけた。初めて見る魔法のアイテムに子猫の視線は釘付けであった。
荷物の整理を終えると、エーリカは白墨を取り出しリビングの床に何か書き始めた。子猫はエーリカが何をしているのか興味がわき、そっとテーブルの上から覗いた。
エーリカは床に大きく魔法陣を描いていた。ドジっ子のくせにエーリカはてきぱきと精巧な魔法陣を描いていく。
「さーて、これで終わりだわ~。」
エーリカは魔法陣を書き終えると、彼女の身長と同じぐらいの長さの杖を鞄から取り出した。
「猫ちゃん、こっち来て。」
呼ばれたので子猫はテーブルから降りて恐る恐る魔法陣に近づいた。
「魔法陣は踏んじゃダメよ~。」
エーリカは危うく魔法陣を踏みそうになった子猫を慌てて抱きかかえると、リビングの床に書かれた魔方陣の中央に下ろした。
「あなたと使い魔の契約したのになんか繋がり(パス)が不安定なのよね~。だからもう一度契約の儀式をやり直してみましょ~。」
「みぃ」
どうやらエーリカは俺との使い魔契約の儀式をやり直す気らしい。使い魔の契約を解いてもらいたい俺としては非常にまずい状況だ。
「みゃっみゃみゃー」
「あら、猫ちゃんも喜んでくれるのね~」
俺は使い魔を辞めたい旨を必死で訴えてみたが、案の定エーリカには通じていない。本来なら使い魔は主人と意思疎通できるハズなので本当に子猫とエーリカには使い魔のパスが通じていないみたいだ。
どうしたら彼女と意志を通じさせることができるのだろうか。辺りを見回すと先ほどエーリカが魔法陣を描くのに使っていた白墨が目に入った。
鳴いてダメなら書いてみよう。子猫は飛び出して白墨を握り……猫の手じゃ握れない……しょうがないので口で咥えて必死に字を書き始めた。
咥えた白墨は苦かったがなんとか”ぼくはじゆうになりたいです”と描き上げた。
「こら猫ちゃん、いたずらしちゃダメよ~。後、白墨は食べられないからね~。しかしあなたいっぱい落書きしたわね~」
エーリカは白墨を取り上げると描き上げた子猫のメッセージを無慈悲にも消し始めた。
俺はひらがなで書いてもこっちの人には読めないことに気がついた。当然俺はこの世界の文字など知らない...orz。
「とりあえずここで大人しくしていてね~。マナよ彼の者を拘束せよ、パラライズ」
エーリカは麻痺の魔法で子猫を麻痺させる。そのため全く身動きができなくなってしまった。こんなかわいい子猫に麻痺の魔法を使うとはエーリカ様マジ鬼畜です。
招き猫の様な形で麻痺させられた子猫は再び魔法陣の中央に置かれた。
「みゅーみゅーみゅーみゃー」
「少し我慢していてね。えーと高級使い魔の呪文は~」
子猫の抗議の声に耳も傾けず、エーリカは使い魔の呪文を唱え始める。
(やばいこのままでは本当に使い魔にされてしまう、何とかしないと。)
俺はこの状況の打開策を必死に考える。
じっと魔法陣を見る。最初に使い魔にされた時には魔法陣はなく、今は魔法陣がある。エーリカには踏まないでねと言われた。
魔法陣を何とかすれば良いに違いない。問題はどうやって魔法陣に手を出すかだ。麻痺の魔法で体はピクリとも動かない…ん?しっぽが少し動く。頑張るとしっぽで魔法陣に触れることができた。
「………に於いてこの者を我が使い魔として……」
エーリカの呪文がかなり終盤にかかってきている。子猫は必死にしっぽを動かし、魔法陣の一部を消した。
「…その名はプルート汝は我が使い魔なり!」
エーリカの呪文の詠唱とともに魔法陣が光はじめ、その輝きが子猫に収束し光の柱となった。
(間に合わなかったのか?)
光が収まり魔法陣は床から消えていた。
「さーて、呪文はうまく言ったと思うけど、子猫ちゃんの具合はどうかしら~。高級使い魔の呪文は名前を付けなきゃいけないので名前を勝手につけちゃったけど、子猫ちゃんは気に入ってくれるかしら~。」
『子猫ちゃん、あなたの名前は”プルート”よ~。』
突然、子猫の頭にエーリカの声が聞こえてきた。
「みゃっ」
どうやら呪文は成功し、パスが完全につながってしまったらしい。ついでに俺の名前もプルートとなったみたいだ。
「プルート、こっちに来てお座り~。」
エーリカが子猫を呼ぶ。俺はエーリカの命令に従わなければならない気がして、エーリカの前に行き座った。
(やばい、なんか強制力が出てきている。)
「よしよし。よくできまちたね~」
成功して嬉しいのか、エーリカが赤ちゃん言葉になっている。
「次はお手よ~。」
この世界でもあの動作はお手と言うらしい。前足(手)が俺の意思に逆らってお手をしてしまいそうになる。 俺は精神力を振り絞ってお手をしないように頑張る。なにせお手の後に来る言葉があまりにもお約束だからだ。
「あれ、お手ができないの~。」
頑張る子猫。
『お手』
エーリカは頭のなかに直接お手を命令してきた。その命令についに俺の精神力は尽き、お手をしてしまう。
このままではエーリカがあれを言ってしまう。
俺は必死に鳴いた。
「にゃーにゃーにゃーにゃーにゃっ」
「じゃチ○チ○」
想像通りの言葉がエーリカから出てしまった。精神力が尽きてしまった子猫はポーズを取りおえると、あまりの恥ずかしさにダッシュで台所に逃げてしまった。
◇
「あれ猫ちゃんどうしたの?」
台所ではアデリーナが昼飯を作っていた。俺はアデリーナの顔を見つめ、
「みゃみゃーにゃみゃーにゃーん」
通じないのは理解っているが俺は訴えずにはいられなかった。
「プルート、なんで逃げるの~」
エーリカが子猫を追いかけて台所にやってきた。
「エーリカ様、この子の名前はプルートに決まったんですか?」
「ええ、良い名前でしょ~。高級使い魔の呪文もうまく言ったみたいだし、いろいろやらせてみているんだけど逃げちゃったの~。」
「へー、どうしたんでしょうね。子猫ちゃんどうしたの?」
アデリーナが子猫を抱きかかえて顔を覗き込む。目を合わせて首をこてんと横に傾けたら……アデリーナの顔がとろけた。
子猫は、アデリーナの頬ずり・撫で回し・ぐるぐる回転の三段コンボを喰らい目を回してしまった。その横で何故かエーリカも目を回してふらふらしてる。
「みゅーーーー」
子猫とエーリカはぐるぐる渦巻き目の状態で気絶してしまった。
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