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赤い女

依頼を受けた次の日、俺はギルドの修練場でヴァレリーに剣の稽古をつけてもらうことにした。

今さら何故と言われそうだが、俺が勝てたのは魔法のお陰であり剣の腕はヴァレリーの方が上だからだ。

エーリカは一週間後に出発すると言っている。

それまでに俺は剣の腕を上げる必要があるのだ。


「まだまだ打ち込みが浅い。お前の持ち味はスピードだが単に打ち込んでいるだけじゃ魔獣は止まらないぞ。」


ヴァレリーのダメ出しを聞きながら俺は木刀を構え直し再度打ち込む。

人と闘うなら俺の剣と魔法の同時使用は相手の意表もつけるしかなり有効な手である。

しかし、魔獣と闘うにはそれだけでは足りない。

俺とエーリカとクラリッサの三人パーティで前衛を務めるのは俺だけだ。

俺が敵のヘイトを稼ぎ後衛二人が魔法で仕留める、そんな戦い方になるだろう。

その為に俺はもっと剣の腕を磨く必要がある。


「おいおい、いつからギルドは子供の遊び場になったんだい?」


俺が再度ヴァレリーに打ち込もうとした時にそんな声が後ろから聞こえた。

修練場の入り口に一人の赤い(・・)女が立っていた。


俺はテンプレな状況を期待したのだが、声をかけてきたのが女性だったので少しがっかりした。


声をかけてきたのは真紅の赤毛を長く延ばし、真っ赤に染められた硬皮鎧に身を包んだ若い...二十歳前後だろう...女だった。

カラーリング的には通常の三倍じゃなくて稲妻の方だななどとくだらないことを思ってしまう。

赤い瞳に赤い唇、目つきが鋭いのでややキツ目の顔であるが美人である。

冒険者らしからぬ白い肌、しかし戦士系であるのだろう腕や足の筋肉はしっかりと、しかし女性らしさをなくさない感じで付いている。

しかし俺の目が吸い付いたのは硬皮鎧を押し上げる胸のボリュームだった。


(で、でかい、FいやG....外国産?)


「アマネ、ここに戻ってきていたのか。...邪魔をするなら出て行ってくれ。」


「イレーヌに修練場に行けって言われたんだよ。」


「マスターに?」


アマネはイレーヌ言われて此処に来たらしい。

アマネという東洋風の名前も少し気なったが、イレーヌに言われた来たというのが引っかかる。


「もう邪魔はしないから続けてくれ。」


アマネはそう言って修練場の壁にもたれかかった。

そのままの稽古を見ることにしたらしい。

俺はかなり居心地が悪かったがヴァレリーとの稽古を再開した。


稽古の風景を見つめるアマネの目は鋭かった。

なにが面白いのか時々笑っている。

三十分程すると


「坊や面白いね~」


アマネが口を挟んできたので俺は稽古を中断する。


「なにが面白いのでしょうか?」


「だってそれだけ身体が動くし、相手の攻撃の見切りもできているのに剣の腕だけは素人だよ。」


アマネに言われるまでもなく俺は剣の素人である。

体捌きは猫の時にクロスケ(黒猫)に鍛えてもらった成果が出ているが剣の方は誰にも教わっていない。


「だからヴァレリーさんに教えてもらっているんです。」


「そうかい....ねえ、坊や..」


「僕の名前はプルートです。」


「ふん、プルート、あたいと()ってみないか?」


アマネは俺と試合たいと申し出てきた。

俺はアマネの意図がつかめず迷った。


「ヴァレリーさんと稽古中ですので」


「そのまま稽古を続けてもなかなかものにはならないよ。あんたは急いで剣の腕を上げたいんだろ?なら実戦を踏んだ方が早いよ。」


実戦に勝る訓練は無しとは誰の言葉だったろう。

俺もそんな話は知っているが、実際に実戦を繰り返すのは難しい。

ヴァレリーはギルドの師範であり、教える対象は駆け出しの冒険者である。

そんな彼の教え方はある意味基本であり、そこから実戦をこなして経験値を積んでいくという物だ。

何ヶ月もかけていいならそれでも良いのだろうが、俺は後一週間で中級ぐらいの腕を身につけたい。


「貴方とならそれが出来ると?」


「ヴァレリーは優しいからね。」


「アマネ!」


ヴァレリーが叱咤するが、アマネは何処吹く風といった感じで聞き流す。

俺はだんだんアマネに興味が湧いてきた。

そこまで言うからにはアマネの腕は相当なものなのだろう。


「闘うとして武器は実剣ですか?」


「もちろんさ」


「アマネ、それは危なすぎる。」


ヴァレリーが慌てて静止に入る。

俺は猫の時に培った回避スキルには自身があり、アマネと一度勝負してみる気になってしまった。


「ヴァレリーさん、これを渡しておきます。いざとなったら使って下さい。」


ポケット(無限のポケット)から低級回復薬(ヒールポーション)を数本取り出し彼に渡す。


低級回復薬(ヒールポーション)がこんなに?」


俺がどこからそれを取り出したのか理解らずびっくりしたヴァレリーは落としそうになりながらも薬を受け取った。


「じゃ、アマネさん、実戦形式でやりましょう。少々の怪我なら低級回復薬(ヒールポーション)で治せますので思いっきりやりましょう。」


「いいね、ハンデはいらないってことかい?」


「ハンデがあったら実戦にならないでしょ?」


何かバトルジャンキー同士の会話になってしまったが、俺は戦いたいのではない、彼女と戦って得られる経験が欲しいのだ。


「危ないと思ったら止めるからな。」


ヴァレリーも諦めたのか審判役を務めてくれるようだ。


俺とアマネは修練場で五メートルほど離れて対峙する。

アマネは小太刀を両手に持ち、俺は小剣を右手にもって構える。


「じゃいくよ」


アマネはそう言って俺に襲いかかって来た。


アマネの剣技はいってみれば剣の舞だ。

くるくると回りながら繰り出される攻撃は鉄鋼蟷螂ジャイアントマンティスの鎌より鋭い。


「ホラホラ、手が止まってるよ。」


「くっ」


俺は次々と繰り出される攻撃に回避に専念せざるをえなかった。


一旦距離を取るために後ろに飛び退ったが、アマネはそんな動きにもやすやすと付いて来る。


(距離が取れないと魔法が使えない。)


そんな俺の思いを感じ取ったのかアマネは攻撃を止めて距離をとってくれる。


「坊やの隠しているモノ見せてみな。」


そんなアマネの挑発に俺は魔法を使用することを決めた。


「不可視の矢よ我が刃となって敵を滅ぼせ〜インビジブル・ボルト」


呪文を唱えながらアマネに突撃し、斬りかかると同時に魔法を解き放つ。


「なっ?」


アマネは不可視の矢の発動タイミングや軌道を見切ったかの様にサイドステップして俺に小太刀を叩きつけてきた。

かろうじて小剣で受け止めたがもう一方の小太刀の攻撃までは受けきれず胴体に食らってしまう。


「ぐはっ」


アマネが当たる寸前に刃先を変えてくれたおかげで俺は胴体を両断されず弾き飛ばされるだけで済むが、そこで血反吐を吐いて倒れてしまった。


「プルート!」


ヴァレリーが慌ててかけより低級回復薬(ヒールポーション)を飲ませてくれる。


「う、うっ」


薬が効き俺は立ち上がるだけの気力を取り戻すことができた。


「坊やは魔法が使えるみたいだね。でも何かやるってことが解ってりゃ躱すぐらいはできるさ。魔獣も思いがけない攻撃をしてくるんだ。それを躱せなきゃ冒険者としては長生きできないね。」


よろよろと立ち上がる俺にアマネはこともなげに言うのだった。


「そうですね、僕はあなたの意表を突いて魔法を使ったつもりだったのですが、あなたはそれを予想していたのですね。」


俺の言葉にアマネは頷く。

地力で劣る俺は今まで相手の意表を突いた戦いをしてきた。

そのためアマネの様に俺の想像を超える動きをする相手には手も足も出ない。

確かにヴァレリーとの稽古では学ぶことができない、実戦でしか得られない経験だろう。


「もう終わりにするかい?」


「いえ、もう少し続けさせてください。」


その後何度も俺は倒れたが、低級回復薬(ヒールポーション)を飲んでは起き上がりアマネとの実戦という名の特訓を受けた。

何が俺にそうさせたのか...男の意地なのか...アマネにかろうじて一撃を入れた後、俺は気絶して倒れてしまった。





俺が目を覚ますと周りが騒がしかった。

気絶した後にアマネが運んできたらしい。

騒がしいのはそのアマネとクラリッサが言い争っているからだ。


「だから、あなたは要りません。」


「いや、お前達だけじゃ不安だ。実際この坊やだけじゃ前衛が足りないだろ。あたいならその穴を埋められるぞ。」


「プルートをこんな目にあわせた人は信用なりません。」


「坊やが自分で頼んで着たんだからしょうがないだろ。」


二人の口論は延々と続く。

俺が目を覚ましたのに気付くとクラリッサが抱きついてきた。


「良かった。大丈夫だった?」


「う、うん」


なぜか執拗に俺に体をくっつけてくる。


「坊や、あたいがパーティに入るのは反対か?」


アマネは俺にパーティの参加の可否を聞いてきた。


「もちろん反対だよね」


先ほどの会話からも判るとおりクラリッサは大反対らしい。


「エーリカは?」


先ほどから会話に参加していないパーティリーダーを探したが、彼女はリビングに居なかった。


「エーリカは賛成だって。」


クラリッサがほっぺを膨らませ不満げな顔をする。


「アマネさんの冒険者のランクをお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「あたいかい?中級の上だよ。」


剣の腕前から感づいてはいたが、アマネは一流といっても良い冒険者だ。


「クラリッサ、彼女にはパーティに入ってもらおう、いや入ってほしい。」


クラリッサのほっぺがますます膨らんだ。


「はは、坊やならそういうと思ったぜ。」


アマネはそういって俺の背中をドンと叩いた。

その瞬間、俺は激しい痛みに襲われた。


(不味い、猫に戻ってしまう。)


のた打ち回る俺を見てアマネは呆然としていたが、俺が子猫に戻った瞬間その顔が溶けた。


「子猫ちゃんだ~」


つり目だった彼女の目が見事にタレ、とろけたような笑顔になる。

どうやら彼女は大の猫好きだったようだ。


クラリッサとアマネに前足を引っ張られ大岡越前裁き状態になり、前にもこんなことがあったよな~と思う俺であった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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