冒険者登録と猫の秘密
「プルート、これ着てね~」
エーリカは自分の着替えのローブを持ってきてくれたので俺はそれを身に付ける。
エーリカのローブを着るのはサイズの合う服がそれしかなかったのもあるが後は女物ばかりなので着るのをためらったからだ。
ローブの下は裸なのでスースーするがさすがに女物の下着をつける度胸は俺にはないのでしょうが無い。
第一エーリカのものには尻尾を通す穴が無い。
エーリカの変成の魔法により人間の姿になったのだが、猫耳と尻尾がある猫獣人の姿だった。
エーリカは「おかしいわね~完全な人間形態になるはずなのに~」と魔法陣と睨めっこしながら悩んでいた。
兎にも角にも俺は久しぶりに二本足で歩けることに感動してた。
(視線が高いのは久しぶりだな~)
猫でも学ランを着れば二足歩行で歩けたが、やはり人間の形態で歩くのは猫とは違う。
しかもこの体かなりスペックが高いのか飛んだり跳ねたりとアクロバティックのような動きができる。
調子に乗ってはねていたらローブがめくれて”いやーん”をやってしまったけど...猫耳、尻尾付きの美少年ならOkだと思っておこう。
俺の外出準備が整うとイレーヌと俺、クラリッサはギルドに戻って冒険者登録を行うことにした。
「エーリカ、ではこの使い魔..プルートも冒険者に登録するんだな?」
「二人なら大丈夫よ。登録お願いね~。私はこの子を連れてお母さんの具合をみてくるわ~。」
「本当に良いのか。私は知らんぞ。まあ、エーリカがそう言うならお前たちはそれだけの実力があるのだろうな。」
生真面目な性格なイレーヌはまだ半信半疑なのかしつこくエーリカに念を押す。
エーリカは相変わらずのほほんとしてるが大丈夫と太鼓判を押してくれた。
実は俺は冒険者になれると聞いてかなり嬉しい。
ファンタジー世界でリアル冒険者になるってゲーマとしてはある意味夢だろう。
せっかく異世界に転生したのに猫になってしまった為に今までそのことは諦めていた。
それが叶うというのだから興奮するのも仕方がない。
「クラリッサ、プルート、ギルドに行くぞ。」
「はい」
俺は張り切って返事してしまった。
イレーヌに連れられ俺達はギルドに向かう道中クラリッサは嬉しそうに俺と腕を組んでくる。
いつも彼女に抱っこされていたので腕を組むぐらいはどうということはないはずなのだがなぜかドキドキしてしまう。
「クラリッサ、恥ずかしいから手を離して」
「いや」
クラリッサはますます体を密着させてくる。
周りからは猫獣人のバカップルに見えているのではないかと俺の顔は赤くなるのだった。
「イチャイチャしてないでさっさとついてこい。」
イレーヌに怒られながらギルドに向かう俺達だった。
何故かイレーヌさんの顔が厳しいのは俺達のせいではないよね。
◇
ギルドに戻ると
「ギルドマスター、何所に行っておられたのですか?執務室にお戻りください。」
ギルド職員が突然飛び出したギルドマスターを探していたのだろう近寄ってくる。
「アデリーナ?」「アンヌ?」
近寄ってきたギルド職員は俺とクラリッサがよく知っている人にそっくりであった。
「エッ? 私はアンネリースですが?」
どうやらまた非常によく似た別人らしい。
世の中には似た人は三人いるというがこんな身近にいるのはなにか神の作為を感じてしまう。
「お前たち知り合いなのか?」
「「「いいえ」」」
「私の知っている人にそっくりだったので。」
クラリッサがそう言うとイレーヌは納得したのか
「アンネリース、この二人を冒険者として登録してくれ。こっちは身分証明タグから作ってやってくれ。」
と彼女に支持を出してギルドの奥に去っていった。
「あの、お二人が登録なのでしょうか?」
どう見ても十代前半の二人が冒険者と登録するのは無理があるからだろう、アデリーナ・アンヌにそっくりな娘のアンネリースが心配そうに尋ねてくる。
「はい、イレーヌさんが仰った通り僕と彼女を冒険者として登録してください。」
冒険者として登録できると張り切っている俺は元気いっぱい答える。
「成人(15歳)していない子供の登録はおすすめできないのですが...?」
「イレーヌさんにお墨付きを貰ってますので大丈夫です!」
俺は心配そうに言ってくるアンネリースにギルドマスターのお墨付きということで俺は押し通す。
「...ではこちらに来てください。」
アンネリースは納得がいかないようであったがギルドマスターの命令でもあるのでカウンターで俺の身分証明書と二人の冒険者登録をしてくれた。
「ふたりともまだ最低ランクの初級:下のランクです。くれぐれも危ない真似をしないでください。」
アンネリースは心配性なのだろう俺達に念を押してくる。
◇
イレーヌはどうやら忙しいらしく顔を出せないというので俺達はエーリカの店に戻ることにした。
さすがにノーパン・ローブ姿でいるのは俺の精神が耐えられないので、帰りに大通りの店で俺の下着と服、靴を買うことにする。
クラリッサに服を選ばせると女物を薦めてくるので結局自分で全部選ぶ事になってしまった。
(クラリッサなぜふくれっ面なんだ。)
下着とズボンの尻尾穴は店で開けてもらった。
後冒険者になったのだから鎧ぐらいは揃えるということでクラリッサの分も含め柔革鎧を購入した。
ジャガンの街は冒険者ギルドがあるためかそう言った冒険者用装備を売る店が多い。
しかし店には子供向けの適当なサイズの革鎧が無く草原妖精用の出来合いのものを選ぶしかなかった。
「うん、これで冒険者らしくなったな。」
「うん、プルートカッコ良い。」
「クラリッサも似合ってるよ。」
二人で互いの皮鎧姿を褒めあってしまった。
買い物をしたお陰でかなり時間を潰してしまった。
店に戻るとすでにエーリカが帰っていた。
「「ただいまー」」
「おかえりー。いろいろ買ってきたわね。」
俺達は買ってきた服や鎧をエーリカに見せると
「良い店を選んだわね」
と褒めてくれた。
エーリカの方はウーテのお母さんを診てきた結果を話してくれた。
「あの子は街の北の方のスラム街に住んでいたわ。診察したけどお母さんはかなり重体だわ。今日明日どうにかなるわけじゃないけどこのままだと一年と経たずに死んじゃうでしょうね~。」
「そんな..。」
クラリッサの顔が青くなる。
「大丈夫、対処療法だけど薬も置いてきたしちゃんとした薬を飲ませれば回復するわよ~」
「それにはやっぱり冬虫夏草が必要なの?」
俺が聞くとエーリカは頷いた。
「冬虫夏草が無いとダメね。でもあの子良くそんな薬を知ってたわね。かなり上級な薬だったはずなんだけどね~。」
ウーテの母親を助けるためにはやはり冬虫夏草が必要なようだ。
しかし、エーリカがカッコ良いターンはそこで終了し
「それよりお腹すいたから御飯作って~。」
とクラリッサに夕飯をねだるエーリカはかっこ悪かった。
◇
子猫が人間形態になったので食事は3人分、クラリッサは俺が猫の時も好きだったシチューを作ってくれた。
そんな夕飯をみんなで食べている最中にエーリカが唐突に言い出した。
「そろそろプルートには話してもらいたいことがあるんだけどね~。」
「!」
俺はスプーンを持つ手を止めた。
エーリカは何を俺に聞きたいのだろう。
「だってさ~プルートって猫らしくないし、色々隠してるよね~。」
「僕は使い魔ですよ?ご主人様に隠し事なんてできるはずが無いじゃないですか?」
「普通わね。でも貴方を高級使い魔にしたのに全然パスが繋がってないのよ?私は貴方の居所すらつかめないのよね~。」
どうやらエーリカは高級使い魔とした時から僕を不審に思っていたらしい。
いつものほほんとしながらエーリカは僕を観察していたのだろうか。
「それにそのしゃべり方がすでに猫じゃないでしょ。普通猫が人間になったからって流暢に喋らないでしょ?」
確かに俺のしゃべり方は思いっきり人間の言葉遣いだった。
(うっ、確かに。語尾にニャ~とでも付けておけばよかったのだろうか)
「エーリカさんは今まで僕を監視してたのですか?」
「いいえ、だって居所もわからないのに監視もへったくれもないじゃない?」
(ということはエーリカに秘密が全部バレているわけではないのか。)
「猫のままだと話をするのも面倒なんで、プルートには人間になってもらったの。まあ何故か猫獣人になっちゃったけどね~」
「そうだったんですか。」
「そうそう、で何をプルートは話してくれるのかな?」
「そうですね....」
生半可なごまかし方ではエーリカの追求は逃れられない思った俺は意を決して秘密を話していく。
それに今までエーリカと一緒にいて彼女が悪人ではないこともよく判っている。
俺は、異世界で事故で死んで”好奇心の女神”にこの世界に送られ子猫に転生したこと。
ジム村で猫達と仲間になったこと。
森の洞窟で精霊人と知り合ったこと。
森ので攫われクラリッサと知り合ったことを淡々と話していった。
ただ、クラリッサがカーン聖王国の貴族ということはまだ秘密にしておいた。
俺が話す内容をエーリカとクラリッサはずっと黙って聞いていた。
「ふーん、プルート...それともエイジとでも呼べばよいの? 貴方も苦労したのね~」
俺の話を聞いたエーリカの感想はそれだけだった。
「今まで通りプルートで良いです。でも苦労したってそれだけですか?エーリカさんは僕のことが気味悪くは無いのですか?」
子猫にいい歳をした男の魂が入っているとなると気持ち悪いと思わないのだろうか?
「プルートは私が拾った時からそうなんでしょ? 今まで一緒に暮らしてきたんだもの。逆に面白いというか研究対象としてますます興味が湧いてきたわよ~。異世界のこととか精霊人とか聞きたいこともいっぱい有るしこれからも一緒にいましょうね~。」
エーリカは俺を見つめにっこり微笑んでくれる。
エーリカは俺の事を聞いても気味悪くも無く、逆に興味あると言ってくれ、そして今まで同じように一緒にいてくれるらしい。
「クラリッサはどう?」
「ん? 私は今のプルートの彼女。過去のことは関係ない。」
僕の問いかけにクラリッサは何事もなかったように答えてくれた。
俺は今まで秘密にしておいた事を打ち明けることが出来て心が軽くなった気がした。
「みんなありがとう....」
俺がエーリカとクラリッサにお礼を言おうとした瞬間、激しい痛みに襲われテーブルに突っ伏してしまった。
「あらら、呪文の効果がこんなに早く切れるなんて。もっと改良の余地があるわね~。」
しばらくして痛みが収まると俺の姿は子猫に戻っていた。
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