冬虫夏草とギルドマスターvsエーリカ
連休なのでガンガン書いて更新したいですね。
「みゃーみゃー?」
俺の記憶が確かなら、昆虫の幼虫とかに寄生する植物だったはず。
地球でもレアな薬草ではあったが、ギルドマスターは冬虫夏草と聞いて明らかに顔をしかめた。
「お嬢ちゃん、冬虫夏草がどんなものか知ってるのかい?」
ギルドマスターが犬獣人の少女に尋ねる。
「んとね、お母さんの病気を治す薬なの。」
冬虫夏草はどうやら母親の病気を治すための薬の材料らしい。
「ギルドマスター、冬虫夏草って何ですか?」
クラリッサは知らなかったのかギルドマスターに訪ねている。
「冬虫夏草は昆虫型の魔獣の幼虫に寄生するキノコの一種でね...しかも寄生するのは金剛甲虫の幼虫だけだ。つまり凄く貴重なものだ。」
金剛甲虫名前を聞くだけで強そうな魔獣である。
俺はエーリカの本に書いてあった金剛甲虫を思い出した。
(たしか全長十メートルぐらいの金色の甲虫だっけ。幼虫でも三メートルはあったはず。三匹ほどいればドラゴンとも戦えるとか書いてあったような。)
「金剛甲虫は魔獣の森の奥地に生息しているから並みの冒険者ではたどり着くことすら難しい。」
これが、冬虫夏草と聞いてギルドマスターが顔をしかめた理由である。
「そうですか...エーリカなら持っているかも...」
クラリッサがボソリと呟いた言葉を聞いた瞬間ギルドマスターの耳がぴくりと動いた。
「いま、エーリカって言いましたね。」
ギルドマスターに両肩を掴まれガクガクとクラリッサは揺すぶられる。
「は、はい。私の魔法の先生で、プルートのご主人ですよ?」
「魔法、やっぱり紫の魔女エーリカなのね。この街に戻ってきてるならギルドに顔を出しなさいよ。」
興奮したのか更にギルドマスターはクラリッサを激しく揺さぶる。
「きゅうぅ~」
クラリッサはギルドマスターに揺すぶられすぎたのか目を回してしまった。
「貴方が、エーリカの使い魔ね。」
クラリッサが倒れてしまったので今度は俺が狙われている。
「すぐに彼女のところに案内しなさい。」
ギルドマスターは子猫を掴むと部屋を飛び出した。
「あの僕は?」
犬獣人の少女が問いかけると、
「その猫娘が気づいたら一緒に来なさい。」
そう言ってギルドを飛び出した。
「早く道案内しなさい。でないと今日の夕飯にしますよ。」
「みゃー」
ギルドマスターに脅され俺は道案内をする。
ギルトから店までの最短記録を作って彼女は店の前にたどり着いた。
「エーリカ、エーリカは何処にいるの。」
ギルドマスターは店のドアを蹴破って中に入ってく。
(むちゃくちゃだよこの人)
店について解放された俺は籠の中に潜り込んで頭を抱えている。
「見つけたわよ、エーリカ」
ギルドマスターがついにエーリカの部屋に突入したらしい。
「ちょっと、イレーヌ勝手に入ってこないでよ~」
「あんたね、久しぶりに街に来たのに顔を出さないってどうなのよ」
「だって行ったらあんたに会うじゃないの~」
「それが長年一緒に冒険した仲間にいう言葉なの!」
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壮絶な舌戦の後、エーリカとギルドマスターの二人はリビングでお茶を飲んでいた。
お茶はギルドから犬獣人少女を連れて帰ってきたクラリッサが淹れた。
どうやらエーリカとイレーヌは若い頃(ふたりとも若いと思うだが?)冒険者として一緒に活躍してたらしい。その功績でイレーヌはこの街のギルドマスターとなったらしい。
「で、エーリカ冬虫夏草は持ってる?」
「持ってないわよ~」
エーリカが冬虫夏草を持っていないことを聞き犬獣人の少女...名前はウーテ...は垂れた耳を更にペタンと倒してがっかりしている。
「そう、じゃありそうな場所は知ってるよね。」
「一応ね~」
「ほんと、お姉ちゃん」
ウーテがそれを聞き期待に満ちた目でエーリカを見つめる。
「エーリカ教えなさい。」
イレーヌがエーリカに場所を教えろと詰め寄る。
「教えても良いけど、誰が取りに行くの~?」
「もちろんお前だ。」
「い・や」
エーリカは即答で断る。
「あんたね」
イレーヌが怒りで肩をプルプル震わせている。
俺が思うにエーリカはどうやら生真面目なイレーヌをからかっているらしい。
「だいたい私に依頼して、報酬ってどれだけ出せるの?」
「う...それはだな、ギルドの予算は使えないから私のポケットマネーで...これぐらい」
そう言ってイレーヌは二本指を立てる。
「金貨二万枚?」
俺はエーリカが言った金額に仰天した。
金貨二万枚といえばおよそ二億円ぐらいである。
「そんなわけないだろう。」
「じゃ、二十万枚?」
「何故増える。金貨二十枚だ」
イレーヌがテーブルをバシバシと叩いてエーリカの無茶な要求を突っぱねる。
「金貨二十枚って子どもの使いじゃないのよ~」
金貨二十枚は二十万円ぐらい。
金額を聞いたエーリカもテーブルをバシバシ叩いて反論する。
テーブルがギシギシ言い始め、俺はいつ崩壊するかハラハラしている。
「最悪、金剛甲虫と戦わなきゃいけないのよ~」
「お前なら余裕だろう...紫の魔女」
「金剛甲虫を一人なんて無理だからね~。前衛がいないと魔法を唱える暇もないわよ。」
「じゃ、私が前衛を...」
「ギルドマスターのイレーヌが冒険に出てどうするのよ。」
「くっ...それはそうだが、家のギルドに金剛甲虫を相手できるほどの奴は...奴は子供嫌いだから...」
どうやらジャガンのギルドには金剛甲虫を相手にできるほどの手練がいないみたいだ。
「金剛甲虫相手だと中級の上か上級の下ぐらいないとダメね。で、そのランクの冒険者が金貨二十枚で動くかしら?」
「....」
俺が後で聞いたところ冒険者ランクは初級、中級、上級、特級と分けられており、それぞれに上中下に細分される。
中級の上か上級の下の冒険者とは一流~超一流のランク付けになる。
「それに、本当の依頼主はこの子なんでしょ? 何故貴方がそこまでこだわってるのかしら。」
「そ、それは家のギルドのメンバーがこの子に暴力を振るったので、可哀想になって...」
「イレーヌは相変わらず直情型ね。そんなんじゃあんたのギルドの冒険者が可哀想でしょ~。...」
エーリカに論破されていくイレーヌはだんだん意気消沈していく。
十分後、エーリカに精神的にボロボロにされたイレーヌが鳴きながらテーブルに突っ伏していた。
「エーリカ酷い。」
クラリッサがイレーヌの頭を撫でて慰めながらエーリカを非難の目で睨んでいる。
「ちょっとやり過ぎちゃったわね~。ごめんねイレーヌちゃん。」
エーリカも少し反省しているのかイレーヌに謝る。
「しかし、この子には冬虫夏草が必要らしいのだがどうすれば良いのだ?」
イレーヌが少し立ち直ったので、どうするか話し合いを始める。
「そーね、まずはお母さんの病状を見てあげて、本当に必要か見てみないとね~」
「必要だったら?」
「まあ、私が行っても良いけど条件があるのよ~」
「条件? 私にできることなら何でもやるぞ?」
「そう安請け合いしない。えっとね、この子たちを冒険者に登録して欲しいの~」
エーリカは子猫を抱っこしているクラリスを指さす。
「この少女か? まだ成人していない子供を冒険者登録するのは違法ではないが勧められないぞ?」
「大丈夫、この子にはそれなりに仕込んであるから。あと、この子もお願いね~」
エーリカは子猫を指さす。
「猫?」
「そう、私の使い魔のプルートちゃん。この子も登録して欲しいの~」
何故か意味深に俺を見つめてくるエーリカ。
「は?」
イレーヌがポカーンとしている。
俺もあまりの事に唖然としている。
クラリッサは平然としているが何故だろう。
「使い魔とはいえ、猫は冒険者にはなれないのだが?」
イレーヌの反論は当然だろう。
「だよね、猫じゃ冒険者にはなれないよね。プルートこっちに来て~」
エーリカに呼ばれた俺はクラリッサから飛び降りエーリカに近づく。
子猫を抱きかかえたエーリカは何所から取り出したのか巨大な皮紙を取り出す。
「これはねワイバーンの皮膜から作った皮紙よ~」
広げられた皮紙は畳一畳分ぐらいで、大きな魔法陣が描かかれていた。
子猫はその真ん中に降ろされる。
(なんか嫌な予感しかしないのだが。)
杖を持ったエーリカが呪文を唱え始める。
「……………マナよ集まりて彼の者の姿を変成せしめよ。シェイプチェンジ」
子猫の体に光が収束する。
俺は突然体がねじれるような痛みに襲われもがき苦しむ。
「プルート!」
クラリッサが駆け寄ろうとするがエーリカに制止される。
光が収まるとそこには十三~四歳の男の子が立っていた。
「どうなったんだ?」
俺は自分の手を見る。
それは最近見慣れた肉球ではなく人間の手になっていた。
「どうやら成功した様ね~。此処しばらく閉じ籠もって研究していた甲斐があったわ~。」
どうやらエーリカの魔法により俺は人間の姿になったらしい。
「プルート...」
クラリッサが何故か赤面して手で顔を隠しながらも指の隙間から俺を見つめている。
「ん?」
よく見ると俺は裸で仁王立ちしていた。
「はわぁぁ~」
俺は何かよくわからない叫び声を上げて大事な所を手で隠そうとするが...ああ、やっぱりアレはありませんでした...orz。
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