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冒険者ギルドと依頼

クラリッサが道に倒れている男の子を助け起こすと、垂れた耳が可愛い犬獣人だった。


「大丈夫?」


クラリッサが尋ねるが返事がない。

胸には蹴られたのだろう大きな足跡がついており息をしていない。

もしかすると骨が折れているかもしれない。


「プルート、こっそり回復の奇跡をかけてあげて。」


クラリッサに言われるまでもなく、俺は回復の奇跡を唱えて男の子にかけていた。


「う、う~ん」


男の子は息を吹き返したのかもぞもぞと動き始める。

クラリッサはほっと息を吐き、男の子を通行のじゃまにならない道の端に寝かせると冒険者ギルドに駆け込んでいった。


「チョッ、待ってクラリス」


クラリスがギルドに入っていったので犬獣人の子供を預けられることになってしまった俺は、子供の面倒を見るかそれとも彼女を追いかけるかしばし悩んだ。


(クラリッサが珍しく感情的になっているし、追いかけたほうが良いか。)


子供が回復したことと、通行人のじゃまにならない所に寝ている事を見極め、子猫(おれ)はギルドに駆け込んだ。





ギルドの中は騒然としてた。

それがあの犬獣人の子供の件でそうなっていたのかクラリッサが入ってきたことによるものかと言われれば、クラリッサが原因なのだろう。


彼女は大柄な...身長二メートルは超えてんじゃないのか...冒険者と対峙していた。

どうやらその冒険者があの犬獣人を蹴り飛ばした犯人なのだろう。


「獣人風情が俺達の邪魔をするな。」


「あの子を蹴り飛ばしたならちゃんと謝ってください。」


「依頼を受けれないと言ってやったのに、纏わりついてくるあいつが悪い。」


クラリッサは冒険者に謝罪を求めて言い争っているが、彼はそれを全く取り合ってない。


「あの獣人の娘、ランベルト相手に無謀な。」


「”剛力”は子供嫌いで有名だからな、ヘタすると殺されるぞ。」


どうやらクラリッサの相手は二つ名を持つ冒険者らしい。

二つ名って厨二っぽい響だが、この世界では冒険者の格を示す一つの目安だ。

二つ名を持つってことはそれだけの腕を持つことを示すらしい。


「どけ、俺は忙しいんだ。」


「あの子に謝るまでどきません。」


そろそろクラリッサとランベルトとのやりとりが危険レベルに達してきている。

苛立ったランベルトがいつクラリッサに手をだすかわからない状況だ。

子猫(おれ)は周りを囲む冒険者達の足を避けつつランベルトの背後に回る。


「どけって言ってるだろうが!」


ランベルトがその豪腕を振り払う。

巨大な棍棒のような手がものすごいスピードでクラリッサを襲うが、クラリッサは余裕を持って紙一重で回避する。

街までの旅のあいだクラリッサはエーリカに体術について指導してもらっていた成果だろう。


(一日数十分の特訓であれだけの体捌きができるようになるクラリッサの素質が異常なんだけどね。)


「くっ、ちょろちょろと」


ランベルトが拳をかわされた事に少し苛立ったのか更にスピードを上げて右手を振り回す。

巨体の割にすごいスピードだ。

クラリッサも避けてはいるがだんだん余裕がなくなってくる。


(やばいな、ランベルト(あいつ)を止める奴はいないのか?)


俺が周りの冒険者達をみてもランベルトをはやし立てる奴はいるが止めようとする奴はいなかった。


ランベルトも小さな獣人の娘に良いように手玉に取られていると焦ったのか更に拳の速度を上げてきた。

クラリッサはだんだんと壁際に追い込まれてしまう。


壁を背にしてしまい避ける余地の無くなったクラリッサにランベルトは拳を振り下ろそうとした...が一瞬その体が固まる。

その隙を見逃さなかったクラリッサは床を転がるようにしてランベルトの股の間をくぐり抜けた。

繰り出されたランベルトの拳はギルドの壁をぶち抜いている。


(あんなのが当たったらクラリッサは死んでいたな。)


子猫(おれ)はそっとランベルトから離れてクラリッサに近寄っていく。


「プルート、助けてくれてありがとう。」


クラリッサには俺がランベルトに影踏みの魔法(シャドウ・タップ)を仕掛けていたを見抜いていた。

影踏みの魔法(シャドウ・タップ)は影を踏むことで相手の動きを止める魔法である。

影があることと影を踏む必要があることから殆ど使われる事がない呪文だが、呪文に抵抗することがほぼ不可能でどんな巨体の敵であっても止める事ができるという特性を持つ。

子猫(おれ)が使うのに良さそうだったので覚えておいたのだがちょうど役に立った。

興奮していた冒険者達は子猫(おれ)がランベルトの影を踏んでいたことなど気に留めていないだろう。





「騒がしいね。お前ら何をやってるんだい。」


ギルドの奥の扉が開き誰かが現れる。

床目線の子猫(おれ)にはどんな人が現れたか分からないが声からすると女性らしい。



「「「ギルドマスター」」」


周りの冒険者が口々に叫ぶのでどうやらギルドマスターが出てきたらしい。

子猫(おれ)はクラリッサに抱き上げてもらってようやく彼女の姿を見ることが出来た。


ギルドマスターと呼ばれた人は黒いマントですっぽり全身を覆い隠している、

身長は170センチほどで高いが細身でとても冒険者を取り仕切るギルドマスターのようには見えない体格だ。

マントから長い金髪がこぼれ落ちており、マントから覗く口元辺りとみると老婆ではなく若い女性...しかも美人のように見える。


(どこぞの女宇宙海賊そっくりだな)


俺の第一印象はそれだった。


「ランベルト、またお前かい。いい加減にしないとギルドを除名するよ。」


ギルドマスターは騒ぎの原因のランベルトを叱咤する。


「うるせー、ガキが絡んできたから躾けてやっただけだ。」


壁から手を抜きながらランベルトはギルドマスターに言い返す。


「あんたが躾けたらガキが死んじまうだろ。」


ギルドマスターはランベルトに近寄って彼を殴る。

頭ひとつ以上も小さい女性がどうやったら二メートルを超える大男を吹っ飛ばせるのだろう。

ギルドマスターに殴られたランベルトは吹っ飛んで壁にめり込んでしまった。


(ひぃー、バケモノが此処にもいるよ。)


辺りの冒険者も誰も声を出さず成り行きを見守っている。


「いてーよ、俺じゃなきゃ死んでたぞ。」


平然と起き上がってくるランベルトも大概だと俺は思う。


ランベルトはギルドマスターをひと睨みするとギルドを出て行った。

去り際に俺とクラリッサに向かって何かつぶやいていたがどうやら「決着を付けてやる」とかの類の言葉だろう。

少女と子猫(おれ)にどうやって決着つけるのか凄く謎だが、彼には気を付けたほうが良いとおぼえておく。




「お嬢ちゃん、うちのギルドの者が迷惑をかけちまって申し訳ないね。」


ギルドマスターはクラリッサが騒ぎの相手と思ったのか声をかけてきた。


「いえ、私こそお騒がせして申し訳ありません。」


みゃー(お気遣いなく)


俺達はギルドマスターに謝られ恐縮してしまった。


「それより外にさっきの人に蹴られた子供がいるので連れてきて治療をしたいと思うのですが...」


「そりゃ大変だ、さっさと連れておいで。」


ギルドマスターはクラリッサと慌てて外に出て行く。

男の子は動けなかったのだろう、ギルドマスターが彼を抱えて建物に入ってくるとそのまま怪我人を治療するための部屋に入っていった。

俺とクラリッサも着いて行く。




「まずは怪我の具合を見ないとね。」


手際よくギルドマスターは男の子の服を脱がせ蹴られた箇所を調べる。


「ん?蹴られた所が治療されてるね。あんたなにかやったのかい?」


どうやら俺がかけた回復の奇跡で傷が治っていることを見ぬいたらしい。


「えーっと、彼を助け起こして少し低級回復薬を飲ませました。」


獣人が回復の奇跡を唱えられるわけもないし、ましてや子猫が唱えたとは言えないので薬を使ったとにクラリッサはごまかす。


「ふーん、低級回復薬ね~。まあ、いいよそうしといてやる。」


ギルドマスターはそう言って診察を続けた。


「内臓が少しやられてるね。今から回復呪文(ヒーリング)を使うよ。」


ギルドマスターがマントのフードを外すと綺麗な長い金髪がこぼれ、予想通り切れ長の目の美しい顔が出てくる。

そして彼女の金髪の間から長い耳が覗いていた。


「エルフ?」


ギルドマスターはエルフの女性だった。


「エルフがそんなに珍しいのかい?」


ギルドマスターが苦笑いして聞いてくる。

俺とクラリッサは顔を降って否定する。

ギルドマスターがエルフだったから驚いたのだ。

エルフと言えば知的な種族というイメージがあったのだが、このギルドマスターは俺の想像するエルフのイメージからかなり外れていた。


(大男を殴り倒すエルフってなんか違うよな。)


ギルドマスターが回復呪文(ヒーリング)を唱えるとしばらくして男の子は目を覚ました。


「あれ、ここは?」


男の子は自分が何処にいるのか何をされたのか判らずにキョロキョロしている。


「ここはギルドの中だ。少年よギルドの者が乱暴をしてしまい申し訳なかった。」


ギルドマスターが頭を下げると少年は目を丸くして驚いている。


「綺麗なお姉さん、僕は少年じゃないよ、女の子だよ。」


どうやら俺達が男の子だと思っていた犬獣人の子供は女の子だったようだ。

ギルドマスターは綺麗なお姉さんと言われてちょっと照れている。


「少年...じゃなくてお嬢さんは何故ギルドに来たんだい?」


彼女が服を整えるのを待ってギルドマスターがギルドに来た目的を尋ねる。


「僕は薬草を探しに行ってくれる人を探しに来たの。」


そう言って彼女は銅貨数枚を差し出した。

何とかかき集めたのだろう錆や変形した銅貨で実際に使えるのかも怪しい感じである。

いやこれが新品の銅貨であってもこの金額では駆け出しの冒険ですら動かないだろう。


しかしギルドマスターはそんな彼女に暖かい目を向けて


「薬草を探して欲しいか。でどんな薬草だ?」


と言う。

どうやら彼女はこの依頼をギルドとして受けるつもりなのかもしれない。



「冬虫夏草って薬草なんだ。」


彼女がそう言うとギルドマスターの顔が凍りついたように強張った。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


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