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冒険者との決着

冒険者達は林の中をゆっくりとネム村に向かって進んで行く。

エーリカ達に気付かれないようにするためか、子猫(おれ)でも普通に歩いて尾行できるほど歩く速度はゆっくりである。

谷から三時間ほど歩いたところで彼等は小休止をとり、スカウトが一人で街道の方を偵察に行く。


朝から歩いた時間を考えるとエーリカ達とそろそろすれ違う頃合いだ。


(そろそろ手を打たないとまずいな...)


俺はこのままじゃまずいと焦り始めた。




二十分ほどしてスカウトが戻って来た。


「彼女たちは街道を街に向かってゆっくり進んでいる。念のため此処でしばらく待って彼女たちが通りすぎるのを待とう。」


スカウトの報告に冒険者達は頷き、その場に腰をおろして遅めの朝食を取り始めた。


これは千載一遇の好機だ、子猫(おれ)は彼等から離れると街道に向けて走りだした。

スカウトが何か気づいた様だったがウサギが逃げた程度と思ってくれているのか特に追ってくる気配はなかった。




街道に出ると村の方に向けて道の側の草むらの中を進む。

十分もすると前方からエーリカ達が歩いてくるのが見えた。


駆け寄って行くとエーリカとクラリッサが子猫(おれ)に気づき両手を広げて待ち構えている。

どっちに飛び込むかというと当然クラリッサだよな。

俺がクラリッサの方に飛び込むと、エーリカが凄く落ち込んでしまった。


「あたしの使い魔なのに...ご主人様より恋人の方取るなんて...使い魔を解約してやろうかしら...」


orzの姿勢のままぶつぶつと何か呟くエーリカを尻目に俺はクラリッサに冒険者達の状況を伝える。

今は時間が惜しいからエーリカのご機嫌取りは後回した。


「村人は今のところ生きている。敵は4名、戦士、スカウト、魔法使い、盗賊?だと思う。今は林の中でエーリカ達が通りすぎるのを待っているのでうまくすれば奇襲できるよ。僕が案内するから着いて来て。」


「ん、理解った。」


クラリッサが子猫(おれ)が話した内容を落ち込んでいるエーリカに伝える。

話を聞くと落ち込んでいたエーリカが速攻で復活する。


「村人は生きているのよね?」


エーリカが真剣な目で俺を見つめて聞いてくるので頷く。


「なら手加減はしてあげるわ~。」


エーリカが荒木○呂彦チックなポーズで何か怖いセリフを吐いてます。




子猫(おれ)が先導しエーリカとクラリッサを冒険者達が休憩している場所に連れて行く。


クラリッサが気配を消しながら忍び歩きできるのはわかっていたが、エーリカが同じように気配を隠しながら着いて来れるのは予想外であった。

しかも彼女は魔法使いのローブというある意味隠蔽性の欠片もない装備で下生えの枝を折ることもなく、葉擦れの音すらさせずに歩いていく。


(クラリッサの隠形の素質も大概だと思ったが、エーリカも負けず劣らずだな。)


二人と一匹は林の中をそろそろと進み冒険者達が潜んでいる場所に近づいていくと、彼等は食事を終えヒソヒソと話をしていた。


「...薬の在庫はどれだけ...」


「いや、この鞄を売ったほうが...」


「その鞄を手に入れるのにどれだけ....」


どうやら何かで揉めているらしい。


魔法を使って一気に制圧するつもりなのだろうエーリカはクラリッサに目で合図して魔法の詠唱に集中し始めた。


「....」


エーリカは冒険者達に向けて眠りの粉魔法(スリープ・パウダー)を無詠唱で発動させる。



眠りの粉魔法(スリープ・パウダー)は術者が指定する位置を中心に半径5メートルに眠りを誘う粉末を発生させる魔法だ。

魔法使いの定番呪文で、これが唱えられることで初心者から中級魔法使いになったと言われる魔法である。

定番魔法であるため色々対応策がある魔法だが、不意打ちで高レベルの魔法使いが唱えればまず抵抗することは出来ない。



子猫(おれ)は冒険者達が目視できる場所まで林の中を回りこみ、クラリッサは念のためだろうか小剣を抜いて構えている。


「眠りの粉だと! みんな散らばれ。」


どうやら魔法使いが魔法の発動に気づいたらしく魔法の影響範囲から抜け出すことをメンバーに呼びかけている。

エーリカは某TRPGのへっぽこな魔法使いみたいに失敗することもなく魔法の発動を成功させており、その効果範囲から一瞬で抜け出すことなど出来ない。


子猫(おれ)が草むらからそっと覗いてみると冒険者達は逃げ出そうとした状態で眠り倒れていた。


みゃー(みんな寝てるよ)


子猫(おれ)が鳴くとエーリカとクラリッサがやって来た。


「ふぅ、殲滅なら簡単なんだけど捕まえるのは面倒だわね~。」


「エーリカさん、人は殲滅しちゃダメです。」


エーリカの不穏な発言にクラリッサが釘を指してくれる。

いや全くだ、どんな悪人であれ人が目の前で死なれるのは俺は嫌だ。


「クラリッサ、敵は叩ける時に叩いておかないと後で後悔することもあるから...今回は何とかなったけどね~こんなうまくいく状況って少ないのよ~。」


エーリカはそう言いながら手際よく冒険者達の武器を回収し鞄から出したロープで縛り上げていく。



そんな話をしていた俺達には油断があったのだろう、エーリカが最後に小柄な男...盗賊だろう...に近づいた時にそれは起こった。


盗賊はエーリカが近づくと突然起き上がり彼女に斬りかかったのだ。

どうやら彼だけはエーリカの魔法に抵抗して隙を伺っていたようだ。

少女二人で魔法使いのエーリカさえ倒せばなんとかなると思ったのだろう。


「エーリカさん!」


みぎゃ(危ない)


俺達の叫びが上がる中、彼女は盗賊の短刀に胸を貫かれたように見えた。

崩れ落ちるエーリカ...子猫(おれ)とクラリッサが駆け寄ろうとしたが悲鳴が上がったのは盗賊からであった。


「ひぃー、う、う、腕が~」


エーリカは盗賊の腕を決め彼を地面に引きずり倒し拘束してた。

エーリカに掴まれた盗賊の腕はあらぬ方向に曲がっており、折れていることが理解る。


「ほらね、油断すると危険でしょ~。」


ニッコリと笑いながらエーリカは盗賊を絞め落としたのだった。

俺とクラリッサはブルブル震えながらそれを見守るしか出来なかった。


(危険なのはエーリカさんです。)





少女二人で大の男四人を運ぶのは無理なのでどうするかもめた。

エーリカがそこら辺の木に縛って放置しましょとか言い出したのだが、それはクラリッサと俺が全力で却下しました。


結局村の雑貨屋が乗っていた馬車があることを思い出しそれを使おうということでエーリカが盗賊を締めあげて馬車の隠し場所を聞き出した。

馬車は村人たちが閉じ込められている洞窟の前にあるということなので、冒険者達の監視をエーリカに任せてクラリッサと俺は村人達が居る洞窟に向った。





冒険者達がキャンプしていた場所から谷に降りる小道があり、そこから洞窟がある谷底に降りて行く。

降りた先に洞窟というより谷に掘った横穴がありその前に馬車があった。

馬は近くの木に繋がれており水と餌も与えられていたのか元気でそのまま馬車につないでも問題が無いように見える。


「プルート、私馬車って扱えないよ。」


そういえば馬車を取りに来たは良いがクラリッサは馬車なんて運転したことが無い。

もちろん子猫(おれ)も自動車なら運転したことはあるが、馬車なんてのったことすら無い。


「「う~ん」」


二人して頭を抱えていたら


「そういえば雑貨屋さんがこれに乗っていただから彼を助けて御者をやってもらいえば良いのでは?」


「おぉ!」


クラリッサが良いことに気づいてくれた。

囚えられていた村人たちを助けにクラリッサと俺は洞窟に入っていった。





村人たちは薬の効果が切れたらそのまま起きて動けるように洞窟の奥に寝かされているだけであった。


「まだ寝てるね~。」


「うん、どうやらこれを嗅がされていたみたい。」


小さな陶器の入れ物の中でお香みたいな物が焚かれた跡がある。


「クラリッサは状態回復魔法(レストア)を唱えられる?」


「まだ習ってない。それに杖を持ってきてないよ。」


そういえばクラリッサは発動体を持っていなかったな、今度アントンに指輪とか何かアクセサリーっぽいもので作ってもらったほうが良いかもしれない。


「眠っているのが毒とかの影響じゃないと起きないのですが、解毒の奇跡(キュア・ポイズン)を唱えてみます。」


俺が解毒の奇跡(キュア・ポイズン)を唱えるとお香の成分は毒物扱いだったらしく村人たちが唸り始めしばらくすると全員目を覚ましてくれた。


「はて、なんでこんな所で私は寝ているのでしょう?」


「馬で街に向かっていたのになぜ。」


彼らはなぜ自分たちがこんなところにいるのか理解らず混乱していた。


「すいません、この中に雑貨屋のご主人はおられますか?」


クラリッサがそう言うと、でっぷりと太った四十歳ぐらいの中年が立ち上がった。


「私が雑貨屋の主人ユルです。ところでお嬢さんは誰ですか?」


「私はクラリッサ、皆さんとは初対面なはずです。魔女エーリカの連れといえば理解ってくださる方はおられますか?」


「エーリカ、あの魔女がもしかして私達を?」


エーリカさん、雑貨屋の主人に何をしたんだろう青くなってガクガク震えてるよ。


「私は村長さんの依頼によってあなた方を捜索していました。エーリカも同様です。」


「そ、そうなのですか。」


「ええ、今回あなた方が行方不明となっていた原因も解決しましたので、こうやって救助しに来たのです。」


クラリッサはこれまでの経緯をかいつまんで村人たちに話していく。


「では、街に行か無くても薬はあるんだね。」


「ええ、それより問題の冒険者達を村に連れて行くのに馬車をお借りしたいのです。」


「了解しました。」


街へ行く必要が無くなったので雑貨屋の主人が馬車を動かしてくれる事を了承してくれた。


洞窟を出て雑貨屋の主人と息子・自警団の二人とクラリッサと俺は馬車でエーリカの元へ、馬に乗っていた自警団はこの事件の報告のため街に向かってもらう。





谷を馬車で上りエーリカの元に辿り着く頃にはお昼になっていた。

エーリカ一人で四人も見はるのは大変だったのではと思ったのだが、冒険者達は観念したのかおとなしくしていたらしい。

というか全員顔が青ざめている。


「まさか、こんな少女が爆炎の魔女とは...」


「野盗の天敵がジム村にいるとは聞いたが...」


「紫の悪魔だとなぜ見抜けなかったのだ..」


「可憐だ...」


最後のは違うが彼らが呟いているのは全てエーリカの二つ名なのだろう。

自警団も雑貨屋の主人もエーリカにはビクビクしている。


馬車は荷物がない状態だったので冒険者達四名とエーリカ達まで乗ることが出来た。

自警団の二人は馬車の後を着いて来てもらうことにして俺達は村に急ぎ戻ることにした。




村への帰途の馬車の中で事件の概要となぜこんな事をしたかを冒険者達に尋問したエーリカが語ってくれた。


事の発端は彼らが引き受けた依頼に遡る。

彼らは冒険者ギルドから大ネズミの捕獲という依頼を受けた。

本来北の山岳地帯にいる魔獣の大ネズミが何故か南部のジャベロンの村に出没したためその原因を調査する為に捕獲するという依頼だ。


魔法使い(ジョナサン)は事前に調査して大ネズミがラット熱を感染させることと熱冷ましのポーションがそれに有効な薬であることを知ったので、最初に薬の材料であるアーブ草を採取を行った。

今年はアーブ草が豊作でありパーティはかなりの量を採取したらしい。

その後大ネズミの捕獲を行ったのだが、パーティの女性の僧侶がこの任務の最中に大怪我を負ってしまい冒険者を引退せざるをえない状況になった。

実は怪我は高級な薬を使えば全快するらしいのだが、そんな金はパーテイにはなかった。


大ネズミの依頼の報酬も大金とは言えない額であり本来なら僧侶はパーティから去る事になるのだが、彼女が戦士(ヤコフ)の恋人だったために問題が起きてしまった。

彼女は戦士(ヤコフ)と別れるつもりだったがヤコフはそれを望まなかった。

そうなると大金を払って薬を入手するしか無い。


そこで知恵を出したのが盗賊(アリツ)だった。

大ネズミを使って村にラット熱を流行させ薬が無くなったところで自分たちが作った熱冷ましのポーションを高値で売り払おうという作戦だ。

当初戦士(ヤコフ)魔法使い(ジョナサン)もこの作戦に反対していたが、人死が出ないことや金工面がつかないことから最終的に二人もその作戦をやらざるを得ない状況になってしまった。


後は俺達の知っている通り、ネムの村に大ネズミを放ち街に向かう村人を拉致して村の薬が足りなくなるのを待っていたらしい。





村について冒険者達を自警団に引き渡すと俺達は事件の報告のために村長宅に向かう。


「そうですか、そんな事があったのですか。しかし村人たちが全員無事で良かったです。」


エーリカが事件のあらましを報告すると村長は村人の無事を喜んでくれた。


「エーリカ殿がいなければ村の被害が拡大したことでしょう。ありがとうございます。」


御礼の言葉とともに村長は報酬の入った袋を渡そうとする。


「ああ、報酬なんていらないわよ。その代わり彼等(冒険者達)の罪状を少し軽くしてあげてね~。」


「そ、それでよろしいのですか。薬の代金のこともありますし、報酬まで断られると...薬の代金も戻ってきたので村の財政的にも問題ありませんが....」


村長がエーリカが報酬を受け取らないことに驚いている。

俺もクラリッサもなぜ受け取らないのかエーリカの考えがわからず、首をかしげている。


「今回は誰も死ななかったし金銭的にも被害が少ないとなれば彼等の罪も軽くできるはずよね~。」


「ええ、そうですが...」


村長がエーリカの提案の意図がわからず目を白黒させている


「私も昔は冒険者やってたから知っているけど、冒険者って世間的にはアウトローってことでいつも白い目で見られているわ。今回も彼等がやったことは許されないことだけど、その原因となったのは人を助けるための依頼を受けたことだわ。だけど冒険者の中にはちゃんと人の役に立ちたいという志を持っている人もいるし、彼等も仲間が大怪我を負わなければこんな事件を起こさない、仲間思いの立派な冒険者だったと思うのよ。そんな彼等をできれば救ってあげたいと私はおもうのよ~。」


エーリカがまじめに長いセリフをしゃべっているので俺は驚いた。

エーリカがこれだけ冒険者達について考えているとは....彼女に対するちょっとダメ人間的な思いを俺は考えなおすことにした。


「エーリカ殿がそこまで言われるのなら私も微力を尽くします。」


「ありがとね~」





翌日、村長とアンヌが見送る中、俺達はジャガンの街へ旅だった。


そういえばアンヌとジム村のアデリーナがそっくりな件だが、これについてクラリッサに聞いてもらったところ、彼女の母親は従兄弟同士だったのでそれで似ていたのではと村長に言われた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


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