冒険者たち
年末年始は少し話を進めたいです。
12/30 魔術師→魔法使い修正
大ネズミを退治を終えた子猫とクラリッサは報告のために村長宅に向かった。
村長と奥さんはまだベットから起きれる状態ではないため大ネズミ退治の確認は娘のアンヌにお願いする。
ベットで寝ている二人には俺がこっそり回復の奇跡をかけておいたので、今日の夜にはベットから出れる程度には回復するはずである。
あと、村長宅ではエーリカがまだ眠りこけていたのでそれを起こして村長宅の庭で退治したネズミを三人+一匹で検分した。。
ネズミの死骸を袋から出すと
「うぁー、でっかいネズミだね~。これをクラリッサちゃんた倒したの?」
アンヌが驚いてくれた。
「プルートが頑張ってくれたおかげ。私はサポートしただけ。」
「いやいや、子猫がこれを倒すのは無理っしょ。」
「魔法の痕も、喉の刺し傷もクラリッサがやったんでしょ~。プルートにできるわけ無いじゃないの~。あーあーあたしも戦ってみたかったな~。」
なにげにバトルジャンキーな発言をするエーリカであった。
「しかしこの大ネズミだけど見たことないわね。南じゃなく北の方にある山岳地帯にでもいた魔獣かしらね~。」
大ネズミはエーリカも見たことのない魔獣であったらしい。
エーリカは北の方にあまりいかないとのことだが、その理由は「寒いから」だそうだ。
最終的には大ネズミとネズミの死体は病気の感染源なのでエーリカの魔法で盛大に火葬にされ消し炭になってしまった。
大ネズミ退治が午前中で終わってしまったので俺達は村長宅で昼食を取りつつ今後の方針を話し合うことになった。
「昨日のうちに熱冷ましの薬を大量に作っておいたからこれ以上病人が増えなきゃ大丈夫だと思うのよ。大ネズミも倒したし後は普通のネズミの駆除と再感染に気をつければ良いと思うわ~。」
エーリカは一晩でジム村から持ってきたアーブ草を全てポーションにしたらしく、二百本以上の壺が村長宅にストックされている。
「では村の危機は当面回避できたということですね。エーリカさん、クラリッサさん改めてお礼を申し上げます。」
アンヌが改めてお礼を言ってくれる。
確かに村の病気という点ではこれ上悪化することは無いのだが、まだ大きな問題が残っている。
その点をエーリカがアンヌに尋ねる。
「後は街と連絡がつかない事だけど、今まで何人街に送ったの?」
「えーっと、村の雑貨屋の主人と息子と自警団の二人組が馬車で十日前に街に向かいました。その後村の自警団の若者が一人、馬で街に向かっています。」
「二組とも戻ってきてないのよね。」
「ええ、街までは時々狼や魔獣が出ますが自警団の二人が着いていってるので襲われてもなんとかなるはずです。後続の馬で向かった自警団員は馬の扱いも村一上手いし日中には街にたどり着くはずなので魔獣とかに襲われることは少ないはずです。」
「途中に予想外の魔獣に出会ったかそれ以外の要因があるのか....」
辺境であるこの辺りには狼や熊、コボルド、ゴブリンと言った魔獣が出没することがある。
しかし隣のジャガンの街が冒険者ギルドにそういった魔獣を退治する依頼を定期的に冒険者に出しており、ついこの前も街近辺の街道で魔獣の掃討が行われたばかりで、街へ向かった二組が魔獣に襲われる確率は低いはずだ。
「三組目を出すなら大人数で出すしか無いわね~。」
「そうなるのですが、今村は小麦の刈り入れが終わったところで村人はかなり忙しいのです。それに病気で倒れている人もいるので自警団を大勢出すのは難しいです。」
自警団は村の若い人間が持ち回りでやっている。
狩人や牧場や農家の青年がやっているので忙しい時期はなかなか人を集めることが出来ないのだ。
これが魔獣の襲来とかなら村長権限で強制的に集めることも可能であるが、今回はまだ街に向かった人が帰ってこないだけで緊急招集をかける段階ではない。
「どうせ私達も街に行くつもりだったのよね~。なので街への連絡は私達がやることにするわ~。ついでに行方がわからない人も探してみるわよ~。」
エーリカが俺達街への連絡と行方不明の人たちの捜索もやるとアンヌに提案すると
「エーリカさんなら村の自警団十人前以上ですね。本当なら私も同行したいのですが、戦いになれば足手まといになりますので皆さんにお願いします。」
そう言ってアンヌは頭を下げ、俺達にすべてを任せてくれた。
村長の確認はとってないが、これで俺達がやるべきことは決まった。
「ところでエーリカさん達はいつ村を発たれますか?」
「早いほうが良いとは思うけど、クラリッサちゃんの疲れもあるから明日の朝かしら。」
俺達にとってネム村にはジャガンの街までの中継点だったので準備と言っても特に必要な物は無い。
しかし今日は大ネズミとの戦いもありクラリッサも俺も疲れているのではとエーリカが配慮してくれているのだろう。
「後、作っていただいたポーションの代金ですが....とても規定の料金はお支払いできないのです。」
アンヌがポーションの代金について払えないことを告げてきた。
街に薬を買い付けに行かせた者達にそれなりのお金を持たせた為、村の非常用の予算が尽きているらしい。
「ああ、気にしないで。今年は薬草が豊作だったから街でもかなり安く入手できたはずだし、後は私の手間賃だけだから一本銀貨一枚で良いわよ。」
「そ、それでは通常の十分の一の価格なのですが...本当にそれでよろしいのですか?」
「いいの、いいの、本当に私の手間だけだから。」
街でポーション売って小金を稼ぐとか言っていたのはどうしたと言うぐらい気前が良いのだがどうしたんだろう。
「エーリカさんはホント噂通りの方ですね。」
エーリカの噂って...また出てきちゃったよ。
俺のエーリカの噂に関する謎がまた深まるのであった。
昼食兼話し合いが終わると俺達は大量のポーションを村の医者の家まで運びこんだ。
届けた医者の家には十人ほど患者が寝ており、熱さましポーションとエーリカの回復呪文での治療が始まってしまった。
医者が
「実は村の教会にも何人か病人がいるのですが、そちらにもポーションを持って行っていただけませんでしょうか。」
と申し訳無さそうに言ってくるので、それはクラリッサが運んでいく事になり、そちらに俺も着いていった。
大地の女神を祀る教会には三人の患者がおり、治療にあたっていた神父までが感染したのか高熱を出して臥せっていた。
神父様は回復の奇跡を使えるのでそれを当てにして患者が運ばれたのだろうが、回復の奇跡では病気は治らないのだ。
甲斐甲斐しく病人の世話を焼くシスターが意外と巨乳系の可愛い人だったので子猫の立場を利用して甘えてその胸の感触を楽しませてもらった。
フカフカな胸に抱かれるのは子猫というか男のロマンだから仕方がない。
ただ、シスターに抱かれている子猫をクラリッサは睨んでいたので後でご機嫌を取っておかないとまずいかもしれないと思う俺であった。
神父と患者に熱冷ましのポーションを飲ませ、俺が回復の奇跡を掛けておいたので翌日には回復しているだろう。
巨乳シスターに見送られて教会を出た俺達は医者の家に戻り回復呪文を唱えすぎてヘロヘロになっているエーリカを回収し宿に向かった。
宿の下の酒場はまだ明るい時間帯ということもあり俺達しか客はいない。
エーリカは早めの夕食を取ることにして宿の主人にお勧めのメニューを聞いていた。
宿の主人はエーリカの顔を知っているのかビクビクしていたが、彼女の方は特に気にしていないというかアウトオブ眼中?
宿の主人によると今日のおすすめメニューは焼き魚とパン、野菜のスープであった。
この世界に着て初めての魚料理だったので俺は興味津々で料理を待っていた。
出てきた皿の上に乗っていたのはこの村の近くの湖でとれる秋刀魚に似た魚だった。
クラリッサが身をほぐすと脂がたっぷりのっており、かぐわしい焼き魚の香りといいまさに秋刀魚である。
この世界にきて初めての魚料理で懐かしい秋刀魚だったので俺はクラリッサにおねだりして食べさせてもらう。
秋刀魚は脂がのっておりとても美味しかったが、秋刀魚にはパンじゃなくてご飯そして大根おろしが必要だと思う俺だった。
宿の主人は給仕をしながらエーリカが何を言うかビクビクしていたが、彼女が疲れ果てて夕食を食べるとさっさと二階に上がっていったのを見てカウンターで安堵の溜息を漏らしていた。
翌日は起きると朝食もそこそこに宿を引き払って村長宅に向かう。
村長はすっかり回復しておりエーリカに感謝の言葉を延べて、次に行方がわからなくなっている街へ向かった人の捜査を正式に依頼してきた。
「報酬の方ですが、これほど村のために頑張ってくれた皆さんに申し訳ないのですが、村の現状を考えると金貨十枚しか出すことが出来ません。」
「報酬はいいから、任せておきなさい!」
村長の報酬があまり出せないとの言に、昨日アンヌと話は着いているとエーリカは快く引きうける。
「エーリカ殿、クラリッサ殿、ありがとうございます。もし他になにか御必要であれば出来る限り準備させていただきます。」
「すいません、昨日お借りした小剣ともしあれば短弓を頂けませんでしょうか。」
クラリッサは気にいったのか昨日使った小剣と後は単弓と矢を貰っていた。
俺には当たり前だが何もない...まあ猫だしな。
◇
村長とアンヌに見送られ俺達は村を発った。
ネム村からジャガンの街まで徒歩で4日程度、街道もジム村との間の道とは異なりところどころ石で舗装されたりしてそれなりに道として整備されている。
ジム村からの道のりと比べすごく快適にあ歩けるのだが、俺達は襲撃があることを警戒しなければならない。
俺がクラリッサの肩に乗ってキョロキョロしていると
「プルート、あんた警戒しすぎ。村からまだちょっとしか離れて無いんだからまだ大丈夫よ~。」
とエーリカに言われてしまった。
「どの辺りで襲ってくるのでしょうか?」
クラリッサが心配そうにエーリカに尋ねる。
彼女的には襲われるのが確定事項であるのだろう。
俺もどこかで村の宿にいた冒険者風の男たちが襲撃してくると予想している。
「そうね~、多分村と街の間にある谷が一番危険かしら。あそこは視界も悪いし隠れる場所も多いからね~。」
エーリカの話ではネム村とジャガンの街の間には大きな谷があるらしい。
村から徒歩で二日の距離にあり街と村のほぼ中間に位置するその谷はこの街道一番の難所であり雨が降ると川の水量が増えて通行止めになってしまう。
川の周りには木が生い茂っているので待ち伏せするにはうってつけであろう。
徒歩や馬車で街に向かう場合は水場ということもあり野宿する人も多いので魔獣や野盗もそこで襲ってくることが多いらしい。
襲撃される場所がわかっていれば警戒しながら進むことも無いので、俺達は出来る限り急いで街道を進んだ。
そのお陰でその日の内に道のりの三分の一を消化することが出来、このペースで行けば明日の昼頃には谷に到着する予定である。
街道が草原から林に入る辺りの岩陰で今晩は野宿をすることになった。
「さすがに今晩はプルートだけじゃなくて私達も交代で見張りをしないとね~。」
襲撃の危険性があるのでさすがにエーリカも人の見張りを立てることにしたらしい。
子猫がいるだけじゃ襲ってくださいって言っているようなものだしちゃんと人が見張ったほうが良い。
「最初はあたしが見張るから、クラリッサが後半ね~。」
エーリカずるいぞ、見張りは後半のほうがきついのにと俺が抗議したが通じませんでした。
「あと、プルートは一晩付き合ってね。」
移動中は相変わらずクラリッサに抱っこされている俺は当然一晩中起きて見張りです...。
見張りの間エーリカは何事か羊皮紙に書き込んでいた。
俺が気になって覗くと
「大ネズミと病気のことについて書いてるのよ~。」
と猫の俺に説明してくれる。
エーリカが研究熱心なのは知っているが、開拓村を回ってばかりで発表する場がないので聞いてくれる人が欲しかったんだろう。
できれば子猫じゃなくてクラリッサあたりに聞かせてやれと言いたいが、彼女は新しい魔法を覚えることや使い方に関することには熱心に聞くが、エーリカのやっているような魔法の研究的なものはあまり興味がないらしい。
エーリカの大ネズミの分析を聞いているうちに見張りの交代時間が来てしまった....辺り警戒してないよ俺達。
クラリッサが見張りに代わると彼女は子猫を抱っこしそのまま撫で続ける。
いや気持ち良いのですがこれじゃ子猫は寝てしまうぞ。
睡魔と闘いながら彼女の撫で回しを堪能していると、突然その手が止まった。
「誰かこっち見てる。」
俺も誰かがこっちを伺っている気配を感じている。
林の奥に気配はするのだが、襲ってくる様子は無い。
「そのまま気づかないふりしててね、僕が林の中を偵察してくるよ。」
「プルート危ない」
「大丈夫、彼奴らきっと猫なんて気にしないよ。うまく言ったら相手を尾行してどこに拠点を構えているか調べてくるから戻ってこなくても心配しないでね。」
そう言って俺はそっとクラリッサから降りると草陰や岩陰を伝いながらその気配のもとに忍び寄っていった。
後ろでクラリッサがかなり心配した顔で見つめていたが着いてくるとか言わずにじっとしていてくれる。
気配の主はクラリッサとどうやら寝ているエーリカに注意が向いており、子猫が近づいてきていることに気づいてはいない。
見たところ男は革鎧をまとい背中に長弓と矢筒、腰にククリナイフといった狩人っぽい格好をしている。
冒険者としたら弓が主体の戦士、いや偵察に来てるってことはスカウトだろう。
少女二人なのでそのまま背中の弓で襲ってくるかと思ったがスカウトは偵察だけでそのまま引き上げていく。
迂闊な攻撃をして警戒させるぐらいなら目的地でみんなと襲ったほうが成功率が高いと判断しているのだろう。
かなり手練の冒険者に思える。
当然引き上げていく彼に俺は気配を隠しながら着いていった。
スカウトらしき男は林の中を谷に向けてかなりの速度で走っていく。
これが何もない草原であれば子猫はあっという間に置いて行かれただろうが、林であれば魔法の手で木を使って高速移動できるので何とか着いていける。
夜明け頃に彼は谷を見渡せる場所でキャンプしている仲間のもとに辿り着いた。
俺は近くの草むらに隠れ彼らの会話を聞くことにした。
キャンプには戦士風の男とローブを着込んだ魔法使いっぽい男、そして戻ってきたスカウトの三人だけだった。
行方がわからない村の人達は見当たらない。
聞き耳を立てているとスカウトが戦士に偵察してきた結果を報告するの聞こえた。
「ヤコフ、村から新たに街に向かう者が来た。」
背の高い戦士風の男の名前はヤコフらしい。
彼はチェインメイルを着こみ腰には長剣を下げている。
「そうか、今度は何名だ?」
「十歳ぐらいの獣人の少女と十五歳ぐらいの少女の二人だ。」
「フランツ、本当に少女が二人だけで、護衛も無しに街に向かっているのか?」
魔法使いが驚いたようにスカウト風の男...フランツというらしい...に尋ねる。
「うむ。村でも見かけたことが無いしもっと奥の村から来たのだろう。」
「この前魔獣討伐があってこの街道の危険が減っているとはいえ、少女二人で街に向かうなどありえん。彼女たちは囮だろう。どこかに自警団の奴らが隠れているはずだ。」
魔法使いが冷静に分析してくる。
まあ、エーリカとクラリッサは囮というか本隊なのだがそんなことは彼らには理解らない。
「いや、近くにそんな気配はなかった。」
「彼女らも襲うか?」
魔法使いが嫌そうに提案する。
「もう十分だろう。彼女たちはそのまま街に行ってもらい、俺達はネム村に戻ろう。」
ネム村に戻る?
俺は彼らがなぜ村に戻るのか理由がわからなかった。
「捉えていた村人はどうする。始末するのか?」
フランツが村人の処遇について戦士に聞いている。
村人はどこかに捕らえられており、生きているみたいだ。
俺は彼らが殺人を犯していないことに少し安堵した。
「おい、無抵抗な村人を殺すのか?」
魔法使いがフランツの発言に怒っている。
「俺も殺したくはない、しかし...」
「ジョナサンの魔法で眠らせて捕まえた後、エドが薬で眠ったままにしているから顔を見られているわけじゃない。そのまま薬が切れるまで洞窟に置いておこう。」
ヤコフの発言で村人は放置されることに決まった。
彼がこのグループのリーダなのだろう。
「アリツを呼んでくる。」
フランツが谷に降りていく。
村人が囚われている洞窟はどうやらこの下の方にあるみたいだ。
しばらくするとフランツは革鎧を着込んだ小柄な男を連れて戻ってきた。
見たところ人数が少なめだが冒険者のメンバーはこの四名らしい。
彼らはキャンプの後始末をするとスカウトの先導のもと街道を外れ林の中を進んでいく。
おそらくエーリカ達を迂回してネム村に向かうのだろう。
このままではエーリカ達と入れ違いで彼らは村に戻り何かしようとしている。
それを阻止するにはエーリカたちと合流しなければならないのだが、そうすると彼らを見失い村で対決することになるだろう。
ネムの村で彼らと戦闘になると村に被害が出てしまうかもしれない。
どうすればよいのかわからないまま子猫はそっと彼らの後を尾行するのであった。
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