子猫 vs ネズミ
戦闘シーンって難しいです
子猫とクラリッサで大ネズミを退治することに決まった。
エーリカも参加したかったのだろうが、彼女には熱で臥せっている村人たちの為に熱冷ましのポーションを量産してもらう必要がある。
「私はどうすれば良いのでしょうか?」
「アンヌさんはご両親の看病とエーリカの手伝いをお願いします。」
アンヌには病気から治ったばかりの村長と奥さんの看病とエーリカのお手伝いをしてもらう。
だって、クラリッサだけなら俺の魔法やチート装備が使えるから余計な人は来てほしくないのだ。
さすがに今日は時間が遅いので明日から大ネズミ退治に入ることにする。
夕食は村長宅でアンヌが岩山での食料のお返しとばかりに豪華な食事を作ってくれた。
夕食後、今日の宿をどうするかで少し意見がわかれたのだが、エーリカは念の為に村長宅に泊まり、宿に向かうのは俺とクラリッサだけとなった。
アンヌが俺達の分も部屋を用意するといったのだが宿の部屋を既にに取ってあるので使わないのも勿体無いからと断った。
まあ、宿でクラリッサにアントンが送ってきた装備を試着してもらうという作業もあるしな。
宿に戻ると一階の酒場には二~三人の村人が酒を飲んでいた。
村の状況を考えると酒など飲んでられないはずなのだが、まあ逆に酒でも飲んでなきゃやってられないという人もいるのだろう。
部屋の鍵を貰いにカウンターに近づくと案の定酔っぱらいがクラリッサに絡んできた。
「見かけない顔のお嬢ちゃんだね~。」
「どうだいこっちで一緒に一杯やらないか。」
酒臭い息を吐きながら赤ら顔の男が酒をクラリッサに勧める。
(十歳の子供に酒を勧めるなよ。)
俺はもうちょっと近づいたら引っ掻いてやろうと思ったが
「おいジョン、酔っ払って子供に絡むな。それにその娘はエーリカさんの連れだぞ。」
宿の主人がそう言って酔っぱらいを静止してくれた。
エーリカの連れと聞いた瞬間ジョンと呼ばれた男はビクッとしてテーブルに慌てて戻っていった。
俺はエーリカが村人にどれだけ恐れられているのかを見た気がした。
(ほんと何をやったんだろう。)
クラリッサは鍵を受け取ると二階の部屋に上がったが子猫は酔っぱらいの話を聞くためにテーブルの下に潜り込んだ。
「ふーっ、魔女の連れだったのかよ。」
「可愛い娘だったのに実は....いや、今のは無しだ。」
「オメーらもそろそろ家に帰ったほうがいいぞ。」
宿の主人が酔っぱらいを追い出しにかかる。
「帰るっていってもな~。」
「さっきので酔が覚めちまったぜ。もう一杯エールをくれよ。」
「明日も仕事があるんだろ。そろそろやめなよ」
そう言いながらも宿の主人は男達に最後のエールを入れてやる。
「明日は陰気臭い倉庫番なんだよ。猫がいなくなってからネズミが多いからって人間が倉庫番とはたまんないぜ。」
「倉庫っちゃ、ザボンが倉庫で大きなネズミを見たって言ってたな。」
「あいつは臆病だから暗がりで見たネズミの大きさを見間違えたんだろ。」
「だな、大ネズミ見たって熱出して寝こむってどれだけ臆病なんだよ。」
どうやら大ネズミは倉庫に出たことがあるらしい。
いい情報を聞けたので、俺はテーブルの下からそっと出て二階に上がっていった。
明日はそこで待ち伏せてみよう。
二階に上がるとクラリッサが部屋の前で待っていた。
その前にはバルサが座っていた。
どうやら話をしていたらしい。
バルサは俺を見ると話しかけてきた。
「プルートさん、大ネズミを倒しに行くそうですね。」
「はい、猫達の敵を取ってやりますよ。」
「プロートさんは子猫なのに勇気があって凄いです。僕は...」
「僕は使い魔ですから。普通の猫のバルサさんはそれで良いんですよ。苦しくなったらまた僕が話を聞いてあげます。」
「...ありがとうプルート。」
そう言ってバルサさんは廊下の奥の部屋に消えていった。
部屋に入るとクラリッサに先ほどの酔っぱらいの話を聞かせた。
「じゃ、明日は倉庫で待ちぶせね。」
「大ネズミは猫を狙っているフシがあるので僕が倉庫にいたらきっと襲ってくると思う。あとこれを服の下に着てくれないか。」
俺はポケットからクラリッサ用の装備として体操着を取り出す。
「うぁー変わった服だね。下着なのかな?」
「っ...アントンさんから送られて来た装備の一つだよ。かなり防御力があるから着てほしいな。でもそのままだと目立つんで服の下に着ておいて欲しい。」
「理解った。一つってことは他にもあるの?」
俺はセーラー服も出して彼女にサイズがあっているか試着してもらう。
クラリッサてはセーラー服のヒダヒダのスカートが気に入ったみたいでくるくる回っている。
回ると下着が見えちゃうので体操着を下に着るように言っておく。
スカートの下がブルマーってがっかりするけど下着は見せちゃいかんよ。
俺はセーラー服&体操着ネコ娘を鑑賞させてもらって眼福であった。
しかし、いくらなんでも本当にこんな装備で良かったんだろうか、あまりにも目立ちすぎるよな。
今度アントンには変身アイテムでも作れないか聞いてみよう。
子猫の装備も着て見せたら「かっこいい」と感想をくれた。
試着が終わったので今日はもう寝ることにする。
子猫がもう一つのベットの上で丸くなろうとしたらクラリッサに強引にベットに引きずり込まれた。
じたばたと暴れたがクラリッサが放してくれないのでしょうがなくクラリッサのベットで一緒に寝ることになってしまった。
小屋に居た時は俺は籠があったのでクラリッサやエーリカとも一緒に寝たことはない。
まあ、子猫なので一緒に寝ても何かあるわけじゃないのだが、どうも女の子と一緒のベットで寝るってことが恥ずかしかったのだ。
クラリッサの胸にしっかりと抱かれて俺は身動きも出来ずじっとするしかなかった。
(十歳の割に胸が柔らかいな~)
クラリッサの胸の柔らかさにドキマギする俺であった。
そんな彼女の胸の中で彼女の吐息の音を聞く俺に眠ることなどできるわけもなく、眠らなくても大丈夫な使い魔の体質に感謝しつつベットの中でドキドキと一晩過ごした。
◇
翌朝早起きした俺達は朝食もそこそこに村長宅に向かった。
村長から倉庫で大ネズミを退治することの許可をもらう為とクラリッサが武器を持っていないのでそれを借り受けるためだ。
俺のポケットにはコボルトから奪った小剣があるがさすがにそれを使わせるのは問題があるのでエーリカから借りるつもりなのだ。
村長宅に着くとエーリカがポーションの壺に埋もれて倒れて眠っていた。
どうやら一晩中作り続けていたみたいだ。
もしかして俺達のネズミ退治に参加したいがために一生懸命作っていたのかもしれない。
アンヌとクラリッサで寝室のベットに寝かしつけておいて、俺達は意識の戻った村長に許可をもらい倉庫に向かうのであった。
結局クラリッサの武器は村長宅にあった小剣を借り後はエーリカの杖を借りることにする。
エーリカの杖はクラリッサが魔法の修行の時に使っているので取り回しは問題ない。
小剣の方は長さは40cmぐらいで短剣に近いサイズの物だ。
十歳のクラリッサが取り回すのはこのサイズが限界だと思い小さめのを選んだのだ。
村の外れ、畑に近い場所に倉庫はあった。
倉庫の前には昨日酒場でくだを巻いていた男が番人らしく立っている。
俺達の姿を見るとちょっと驚いていたが村長から大ネズミを退治するのに使うから許可を貰ったといったら喜んで中に入れてくれた。
少女に任せずにお前も中に入れと言いたかったがそれだと俺が何もできなくなるのでそこは黙っておく。
倉庫の中は麦もどきが入った袋が積み上がっており薄暗くカビ臭い。
あちこちにネズミの足あとがあり、袋もところどころ齧られたのか破けているものが見受けられる。
齧られた大きさは通常のネズミサイズで目標とする大ネズミのサイズではない。
俺達は更に倉庫の奥の方に進んでいく。
倉庫の入り口と反対側の壁にたどり着くと床に茶色い跡がついており子猫の鼻には血の匂いが嗅ぎ取れた。
「どうやら猫達はここで襲われたみたいですね。」
「そうみたいだね、どこかにネズミの出入りする穴があると思うんだけど見つからないね。」
「簡単に見つかるなら村の人がとっくに見つけてるよ。さて、ここで僕が囮になるからクラリッサはどこかに隠れていてね。」
「了解。気をつけてね。」
俺はクラリッサから飛び降りると学ランに着替え血の跡のある辺りをウロウロし始める。
クラリッサは手近な積み上がった袋の影に隠れ気配を絶っている。
そうやられると俺でもクラリッサがいる場所がわからなくなるのだが....。
時々ネズミを見つけそれを成敗して袋に放り込む。
そうやって二時間ぐらい倉庫をウロウロしてたらいきなり天井から大きな影が降ってきた。
(油断した)
天井から襲ってくるとは思ってなかった俺はその攻撃を避ける事が出来ず大ネズミの体当たりを食らってしまう。
「プルート!」
「僕は大丈夫それより魔法を。」
普通の鎧なら子猫は全身骨折するぐらいの衝撃であったが装備のおかげかダメージは打ち身程度で済んでいる。
天井から降ってきたのはカピパラを一回り大きくしたぐらいの大ネズミだった。
ネズミにしては前足の爪がかなり長く、後ろ足で立ってたりするので普通のネズミが大きくなっただけの動物じゃなく魔獣なのだろう。
「キュィイー」
一声鳴くと奴は小麦袋の塔を駆け上がり天井の梁に駆け登って行き、クラリッサが唱えた不可視の矢は外れてしまう。
身が軽いといってもクラリッサに梁まで登るといった真似は出来ないので、俺が魔法の手を使って上に登る。
梁の上で子猫と大ネズミが対峙する。
突然目の前に子猫が現れて大ネズミは驚いたが、どう見てもウェイト差十分の一以下の子猫で大ネズミが負ける状況ではない。
大ネズミもそう思ったのか口を歪めあざ笑うかのように不気味な声で鳴く。
「残念だが、お前程度には殺られないよ。」
俺は小太刀を片方の魔法の手に持たせ残りを天井に引っ掛け飛び上がる。
大ネズミには俺が消えたように見えただろう。
俺を見失って戸惑う大ネズミに小太刀を振るって切りつけ左前足を切り飛ばず。
「ギュエェエー」
血潮をまき散らしながら大ネズミは梁から転げ落ちていく。
下では待ち構えていたクラリッサが不可視の矢を解き放ち大ネズミに突き立てていく。
俺も上から不可視の矢を唱え、動きの止まった大ネズミの喉に小太刀を突き立てた。
大ネズミはしばらくピクピクとしていたがやがて動かなくなりこれでネズミ退治は終了である。
病原菌を撒き散らすような大ネズミを素材として持ち帰るのは嫌だし、討伐の成果として見せる必要もあるため大ネズミを袋に入れクラリッサが倉庫の外に引きずっていく。
外にでると番人の村の人が袋の中身をみて腰を抜かしていた。
「本当に大ネズミっていたんだな。」
「これが村の病気の元凶。後はネズミを始末するだけ。」
「さすがエーリカさんの連れだな。」
「ん、この子のおかげ」
クラリッサに抱っこされている俺をみて村人はどう見ても無理があるだろうという顔をする。
大ネズミ退治が終わったので後は街との連絡が取れない原因の調査と宿にいた冒険者達を見つけ責任を取らせないとな。
子猫なのに冒険者みたいな事やってるなと俺は思ってしまうのであった。
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