ネム村とネズミ
少しシリアスで行きます
岩山に倒れていた少女は、ショートカットにした金髪といい大きな青い目や少々のそばかすが残っている顔だちといいアデリーナそっくりだった。
「なんでこんな所にアデリーナが...いや、違うわよね絶対」
「ええ、昨日ジム村でお別れした彼女が私達を追い抜いて此処まで来る理由がありません。」
助け起こした時にはこんな所にアデリーナがと思ったが、さすがにそれは無いことぐらい二人は理解っている。
よく見ると彼女は岩山をさまよっていたのか若干薄汚れあちこちに擦り傷を負っている。
傷自体はそう酷くないのだがこのままでは化膿してしまうので水で綺麗に拭いた後エーリカが精霊魔法の回復呪文を掛けて治してあげる。
「う、うん.....」
回復呪文をかけたせいなのか、アデリーナに似た少女が呻いて目を開けた。
「...お腹減った。」
少女の最初の一声で危うく俺達はズッコケそうになった。
どうやら彼女はお腹が空いて倒れていたらしい。
エーリカが鞄から堅パンと水を渡すとガツガツと平らげていく。
(この食いっぷりはアデリーナとぜんぜん違うな。)
彼女は五人前の堅パンを食べるとようやく満足したのかエーリカにお礼を言った。
「ふぅ、ごちそうさまでした。何所の何方か知りませんがありがとうございます。」
「いや、まあ堅パンぐらい良いのだけど、代金は払ってね~。」
エーリカの言葉に途端に顔が渋くなる少女。
「....すいません、今持ち合わせがないくて....村に戻ったら必ず払います。」
「村って貴方はネム村の人?」
「はい、私はネム村長の娘でアンヌといいます。」
「ネム村の村長さんに貴方みたいな娘さんがいたの知らなかったわ~。」
「私はしばらく前までジャガンの街にいたので...って、すいません貴方のお名前を聞かせて頂けませんでしょうか?」
「ああ、ゴメンなさい私はエーリカって言うの。あちこちの開拓村でポーションとか作っているのよ。この前までジム村に居たのだけれど今はジャガンの街に向かっている最中なの。」
「貴方がエーリカさんなのですか....噂はかねがね聞かせてもらっています。確か二年前にこの辺りの野盗を....」
「そんな噂信じないでよね~」
アンヌがエーリカの噂らしき物を話そうとしたらエーリカに必死の形相で止められた。
エーリカが喋るなとアンヌにプレッシャーをかけている。
俺としてはエーリカの噂を聞きたいのだが、何かエーリカの心の琴線に触れる内容なのだろうか。
「アデリ...失礼アンヌさん、貴方はなぜこんな所に倒れていたの?」
エーリカからのプレッシャに泣きそうになったアンヌを救うようにクラリッサが話題を変える。
「えーっとですね、村長が酷い熱を出してしまって、熱冷ましのポーションを作るための材料の薬草を取りに来たのですが見つからなくて...慌てて出てきたんで食料も水も忘れてしまって、それで此処で力尽きて倒れてしまったんです。」
「あんたね~この辺りに薬草なんて無いわよ。第一ネム村ならポーションの在庫も一杯あるはずでしょ?わざわざ薬草を取りに来る必要ないでしょうに。」
「それが、最近街と連絡がつかなくて...それに村人も高熱を出す人が多くてポーションの在庫が切れてしまって...」
まとめるとネム村では高熱を出す病気が流行中でポーションの在庫が無く、街からポーションを取り寄せようにも連絡がつかない状況だと....子猫でも理解るぐらい危機的状況じゃないですか。
「ありゃ、そんな大層なことになっていたのね~。」
エーリカは相変わらず緊張感がないな。
「アンヌさん、もう動けるなら一緒に村に戻りましょう。ポーションの材料もあるから私がポーションを作るわよ。」
エーリカが胸をドンと叩いて任せろアピールをする。
アンヌも食事をとったので動ける用になったと頷く。
俺達は問題のネム村に急いで向かうのだった。
◇
村に着くまでの間にエーリカはアンヌに村の様子、街と連絡がつかなくなった様子を聞き出していた。
それによると、村に病気が流行り始めたのは二週間前ぐらいからであり体力のない子どもや老人から病気にかかったらしい。
高熱は熱冷ましのポーションで治るのだがしばらくするとまた高熱がを出してしまう。
村にも医者は居たのだが病気の原因がわからず対処療法としてポーションを使うしか無いためポーションの在庫が一気に無くなってしまった。
村長はポーションの在庫が無くなりそうになり、慌てて街にポーション取り寄せの為に人を送ったのだが、いつまで待っても帰ってこず、更に追加で人を送っているのだがその人も帰ってこない状況らしい。
俺には病気の流行と街へ連絡がつかなくなったことが連動しているようにしか思えない。
エーリカもそれは感づいているようだ。
ほとんど駆け足と言っていいほどの強行軍で俺達は村向かったので、本来の到着予定の夕方ではなく昼中(午後三時)ぐらいに村に着くことが出来た。
おかげで村に着くと子猫やクラリッサ・アンヌはへたり込んでしまったが、エーリカはまだまだ余裕という感じだった。
(普段のほほんとしているくせにどんな体力をしているんだよ、うちの魔女は。)
エーリカはへたり込むクラリッサと子猫を尻目にアンヌを引きずるようにして村長宅に向かっていった。
向かった村長宅では村長だけでなく奥さんも高熱で倒れていた。
どうやら村長を看病していて奥さんも感染したらしい。
状況を見てエーリカはクラリッサやアンヌに部屋に入らないように厳命し二人の治療に取り掛かった。
この時点で俺は村長宅では何もすることが無い。
エーリカが治療している間に俺はクラリッサを連れて村の情報収集に向かうことにした。
クラリッサには村人に病気や街と連絡が取れない状況の情報を聞いてもらい、子猫は村の動物、猫や犬から情報が得られないか聞いて回るのだ。
クラリッサは子猫を抱いて村の情報が集まりそうな場所、この場合は村の宿屋兼食堂・酒場に向かった。
そろそろ夕方なので一日の労働を終えた村人が集まっていると思ったのだが酒場はガラーンとしてた。
「プルート、病気が流行っているから村人は家でおとなしくしているでは?」
クラリッサに言われて納得がいったがこれじゃ村の情報が入手できない。
唯一話が聞けそうなのが宿の主人だったのでクラリッサに話しかけてもらう。
「なにか御用かね獣人のお嬢さん。」
宿の主人は暇を持て余していたのか積極的にクラリッサに話しかけてくる。
「ジム村からこちらの村に着いたのですが、部屋は空いてますか?」
「おや、そんな小さなお嬢さんなのにジム村から一人で来たのかい? 見てのように部屋は全部空いてるから好きな部屋を選んでくれて良いよ。そうだね一泊銀貨二枚で良いよ。」
ちなみに銀貨二枚は二千円ぐらいである。
「後もう一人私より年上のエーリカって女の子も泊まるので二人部屋でお願いしたいのですが....」
「二人部屋なら銀貨三枚と石貨五枚だな...ってあんたはエーリカさんのお連れだったのかい。」
「ええ、そうですが?」
クラリッサがエーリカの連れだと判ると宿の主人の態度がかなり良くなった。
「エーリカさんには世話になっているからね、銀貨三枚で良いよ。」
「...ありがとうございます。」
宿の主人の態度が良くなったのもエーリカの噂に起因することなのだろうか。
エーリカが何をやって噂になっているのか俺は本当に知りたくなってきた。
いや、まずは村の病気と街との連絡が取れなくなっていることの情報収集が先だ。
「ところで、部屋が全部空いてるってことは街のほうから誰も来ていないのでしょうか? それに村の中も何か閑散としていますがそれに原因があるのですか?」
クラリッサが宿の主人にストレートに聞いちゃったけどまあ隠すことでもないので良いだろう。
「ああ、それはね....」
宿の主人も話したかったのか俺達に色々聞かせてくれた。
宿の主人から聞けた情報はアンナから聞いたものとほぼ一緒だったが、追加情報として幾つか聞けたことがあった。
まず、病気が流行する前に冒険者風の男達がこの村に来ていたらしい。
ジム村に行って魔獣でも狩るのかと思ったいたら数日で街に帰っていったので宿の主人は不思議に思ったらしい。
次にその冒険者達が街に帰っていった後村で飼っていた犬や猫が行方不明になり始めた。
猫達が居ないので村ではネズミの被害増えて困っているとの事だった。
(その冒険者風の男達が怪しんだろうけど、それと病気がつながらないな~。後、猫や犬が行方不明って噂になるぐらいだからかなりの数がいなくなっているのか。)
俺が頭を捻っていると毛むくじゃらのペルシャ猫って外見の猫が宿の二階に続く階段を降りてくるのが見えた。宿の主人は猫が降りてきたのを見つけ
「こら、バルサ下に降りてくるなと言ってるだろう。外は危ないから二階に戻るんだ。」
と叱りつける。
彼はクラリッサに抱っこされている子猫を見ていきなり二階に駆け上っていった。
(凄く怪しいな)
俺は挙動の怪しい猫に話が聞きたかったのでクラリッサの抱っこから飛び降りて猫の後を追いかけ階段を駆け上がっていった。
二階に上がると追いかけてきた俺を見てバルサが慌てていた。
「追いかけてきてごめんなさい、僕はプルートといいます。バルサさんにちょっと聞きたいことがあるのですが....」
「ぼ、ぼ、僕は何も知らないんだな。こ、こ、この村で起きてることに関係ないんだな...」
ドラマで隠し事を持っている人物が主人公に問い詰められた時の様に、二階の廊下の隅でガクガク震えながらバルサは裸○大将みたいな口調でしゃべりだす。
いや、それって自分は何か知ってるってことと同義だよ。
体格にしても子猫の数倍はあるのに俺に追い詰められるってこの宿の主人に家猫として大事に育てられすぎたんだろう。
「別にバルサさんに何かするわけじゃありません。僕はこの村で起きていることについて貴方が知っていることを話して欲しいのです。」
「ほほ、本当に何もしないの?」
「ええ、神に誓って。」
「猫は神なんて信じないよ。」
「こう見えても神官なんですけどね。じゃあ、僕は魔女の使い魔なので魔女にでも誓いましょうか?」
「使い魔...ひぃぃぃ、僕も使い魔にされちゃうのおぉぉ」
この猫は少し被害妄想気味だな。
俺はこういった時に便利な神聖魔法”精神鎮静の奇跡”を彼にかけてやった。
:
:
「本当に神様の神官なんだね。」
バルサは魔法が効いたのか落ち着きを取り戻し、裸○大将みたいなしゃべり方ではなくなっている。
これが彼の本当の状態なのだろう。
「僕に全て話してください。」
これじゃ懺悔を聞く神父みたいだなと思いつつも俺はバルサの告白を聞く。
「だいぶ前だけど此処に冒険者風の男達が止まっていたんだ。僕は冒険者って奴を初めて見たからどんなことをするのかこっそり覗いていたんだ。そしたら奴らはこの部屋で小さな鞄から大きなネズミの入った檻を取り出して何か相談してたんだ。」
「何を話していたか覚えていますか?」
おそらくその相談していることが冒険者達の本当の目的なんだろう。
俺はバルサにその内容を覚えているか聞いてみたが彼は首を横に振る。
「僕は人間の言葉はあまり良くわからないんだ。これでポーなんとかが必要になるだろうとか言ってた。」
ポー何とかってポーションのことかなと俺は想像する。
「数日すると冒険者達はこの宿を出てったんだけど、それから村の猫が居なくり始めたんだ。僕はこの宿から外に出ないんだけど時々外の猫が遊びに来てくれるんだ。そいつが最近村で大きなネズミのバケモノが猫や犬を襲ってるって言ってたんだ。僕はそれが冒険者達が檻に入れて持ってきた奴だと理解ったけど彼にそのことは言えなかったんだ...。しばらくしたら彼も来なくなっちゃって...」
なるほど、冒険者たちがこの村に大きなネズミ型の魔獣を置いていったのか。
猫は犬達はそれに襲われて殺されているに違いない。
「この件に関して君が何も悪くないことは僕が保証するよ。」
「...ありがとう、君に全て喋って少しスッキリしたよ。」
バルサはスッキリした顔になり子猫にお礼を言ってくれた。
一階に降りるとクラリッサと宿の主人がまだ何かお喋りをしていた。
俺はクラリッサに「エーリカの元に行くよ」と伝えて宿を出た。
村長の家に行く間に俺はバルサから聞いたことをクラリッサに全て伝える。
クラリッサからエーリカに伝えて対策を考えてもらおう。
「問題はその大ネズミがどこに居るかなんだよな~」
「ネズミだから餌のあるところじゃないかな」
ネズミを取るための作戦をクラリッサと打ち合わせしつつ村長宅に急ぐ。
村長の家につくとエーリカは治療を終えリビングでアンヌとお茶を飲んでいた。
村長夫婦は熱冷ましのポーションで熱も下がり回復に向かっているとの事だった。
クラリッサは宿でバルサから聞いたことを脚色を加えて主人から聞いたようにエーリカに伝える。
「大きなネズミか~そうなると病気はラット熱ってことに違いないわね。」
「ラット熱?」
「ネズミから感染する熱病で発症すると人からも伝染るわね。高熱が出るけど熱を下げれればすぐに回復するわ。でもこの病気は何回も感染するから大本を叩かなきゃダメね。」
「大元って大きなネズミですね。」
アンヌがそう言っていかにも嫌って感じで身体を抱きしめる。
女の子ってネズミが嫌いな人多いよね。
「そうよ。でもネズミ捕まえるのって大変なのよ~」
「ネズミを捕まえるのは猫の役目...」
打ち合わせていた作戦通りクラリッサが俺を押すと、エーリカは俺を見て
「プルートじゃ無理でしょ。」
と言った。
まあ子猫だし犬も殺すようなネズミには本来なら勝てないが、
「プルートには囮をやってもらって私が倒す。」
俺は囮でクラリッサが倒すことでこの作戦をエーリカに承認させるのだ。
「結構危険だけど大丈夫?」
「ナー」
俺がやれるよと鳴いてネズミを退治する作戦の決行が決まった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
連休中に全部書ききれなかったですorz
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