さらばジム村
内容的にこんなに尺を取る話ではないのですが長々と書いしまい少し反省しています。
「そろそろジム村ともお別れね。」
夕食を食べている最中エーリカが唐突にジム村からの旅立ちを言い出した。
もともとエーリカは薬の作成とアデリーナへの魔法修行が終われば次の逗留地に行くつもりだった。
しかし子猫が魔獣に攫われたことや、クラリッサという居候が増えた事でその機会をかなり先延ばしにしてきたのだ。
「次はどこに行くのでしょうか?」
「うーんとね、次はちょっと大きめの街なの。そこでポーションを売って小銭を稼がないとまずいのよ~。」
「世知辛いですね...」
クラリッサが子猫にシチューを”あーん”しながら呟く。
今日の夕飯はクラリッサ作山鳥のゴロゴロシチューで、美味しそうだったのでクラリッサにおねだりして食べさせてもらっていた。
シチューは熱いのでリアル猫舌の子猫が食べるためには当然フーフーが必要である。
そうやってクラリッサに食べさせてもらう子猫を見るエーリカの視線がかなり厳しいがそんな事にも慣れてきた。
ちなみにシチューに入っている山鳥はクラリッサが村の狩人から貰ったものである。
クラリッサは人付き合いにおいてもそのチート性能を発揮し、村の人と親しくってこのように農作物や狩りの獲物を貰ってくる。
「にゃーにゃー」
「お世話になった村の人に挨拶もしたいのですが、出発は何時になるのでしょうか?」
「そうね~んーっと、3日後かな?」
俺にはなぜそこで疑問形になるのかわからないのだが近々に村を出ることは理解った。
森猫や村の猫の皆にお別れの挨拶をしなきゃならないと思いつつ俺はシチューを食べさせてもらうのであった。
◇
翌日、小屋に迎えに来たアデリーナと共にエーリカは村長宅に向かった。
おそらく村から出て行くことを村長に伝えに行くのだろう。
クラリッサと子猫はお留守番だったので、この機会に森猫の洞窟に挨拶に行くことにした。
クラリッサの肩にピ○チュウ状態で載せてもらい俺は洞窟に向かう。
アデリーナとの特訓で体力をつけたクラリッサは最初に会った頃とは見違えるようにたくましくなった。
俺を載せたまま森の中を滑るように走り抜けていく。
大きな魔獣は気配を察知して避けて、小型の魔獣は俺が魔法や魔法の手に持たせた小太刀で倒していく。
この小太刀はアントンに作ってもらった子猫専用のもので、背中の上で構えていると某Z○IDSみたいになってしまう。
アニメのように大太刀になったり2つに分離できないかとアントンに聞いてみたら
「できるけど儂の美学に反するのじゃ」
と断られた。
アントン曰く武器はシンプルな方が良いらしい。
この小太刀はミスリルを芯にオリハルコン合金を使って作られたもので子猫が振り回しても大丈夫なぐらい軽いくせに切れ味は鋭い。
アントンにアイテムを頼むとこの小太刀やミスリル合金のナイフみたいにとんでもない素材で作ってくるが、この世界ではそういった素材がゴロゴロあるわけでは無い。
現にエーリカもそんな希少素材で作られた物は持っていないし、エーリカの蔵書の記述から考えると俺が持っているアイテムを売るととんでもない値段が付くだろう。
こんなアイテムをホイホイと作ってくれるアントン恐るべしというところなのだろう。
洞窟に到着すると突然獣人の少女がやって来たことに驚いたのか洞窟から大勢の猫と犬達が出てきた。
子猫はクラリッサから降りて彼女は大丈夫と猫と犬に伝える。
「獣人がやって来たって言うから慌てて飛び出してきたけど...」
「神官殿だったのか、びっくりさせないでくれ。」
サミーとカールが俺の姿をみて安心したように言った。
「すみません、驚かすつもりはなかったのですが...」
やっぱり彼女を連れて突然洞窟を訪れたのはまずかったかな。
此処の猫と犬達、特に猫達は自分たちを捨てた人間に良い印象を持ってない。
「いや、坊やの知り合いなら歓迎するよ。」
恐縮する子猫にサミーがそう言ってくれる。
「で、今日は何の用事で来たのかね。そちらの可愛い彼女を紹介しに来たのかい?」
「可愛い彼女って...私、クラリッサと言います。プルートとは親しくお付き合いさせてもらってます。」
カールの問いかけにクラリッサがちょっと赤くなって自己紹介をすると、二匹は驚いて俺を見る。
「ええ、彼女は動物の言葉が理解るんです。僕が迷子になった時に助けてもらって、今一緒に魔女の小屋で暮らしています。」
この会話では子猫とクラリッサがお付き合いして同棲している風にしか聞こえないのだが、猫と獣人でそんな関係になるはずが無いと思っている俺はそんな状態を理解していなかった。
「猫達の言葉が理解るなんて流石坊やの知り合いだね~。しかし坊やもこんな彼女と隅に置けないね。」
「神官殿もやりますな。」
「いや、彼女はしっかりしていますから。僕が逆のお世話になりっぱなしです。」
微妙に噛み合ってない会話を繰り広げる三匹であった。
話をしながら洞窟に入って行くといつもの子猫&子犬の集団がやって来ない。
どうやら子猫&子犬は人を警戒しているみたいだ。
「子猫&子犬達、彼女は僕の知り合いで、撫でてくれるのも上手だから大丈夫だよ。」
子猫&子犬の集団は最初は怖ず怖ずとしていたが、何匹が近寄って来てクラリッサが上手に撫でてくれるのを理解すると彼女に甘え始めた。
ついでに子猫にもスリスリしてくる....子猫&子犬と獣人少女によるモフモフ天国の完成である。
ひとしきりモフモフさせてもらった後、俺達は再びサミーとカールに会いに行った。
「実は魔女がジム村を出て街に引っ越すことになり、僕もそれに着いて行くことになります。また数年後に戻ってくるみたいですが、それまで森猫さんたちとはお別れになると思いますので、挨拶に参りました。」
「えっ、それは急だね。いつ引っ越すんだい?」
「二日後になりますね。」
「神官殿には此処に残って頂きたいのですが、使い魔の身では魔女に付いて行かざるを得ないのでしょうね。」
「あんたがいなくなると寂しくなるね。」
サミーとカールは俺がいなくなると寂しくなるという。
精霊人がらみで洞窟には結構来ていたからな、俺も子猫&子犬達と離れるの非常に寂しい。
やっぱりモフモフは良いものだからな。
俺が此処から去っていくのは決定事項なので、長の二匹とは”好奇心の女神”信者としてどうすべきかなどを話し合った。
定期的に祠にお祈りを捧げることや子供を新たに信者としていくことになるのだが、まあそこは二匹の好きに進めて良いと俺は言っておいた。
二匹との話し合いが一段落ついたので、俺は精霊人に別れの挨拶をするため洞窟の奥にむかった。
精霊人が居る部屋に入ると俺はアントンを呼んだ。
「アントンさん、お話がありますので出てきて下さい。」
:
「何用じゃ。」
クラリッサが居るのでアントンが出てこないかもしれないと俺は思っていたが、あっさりと彼は現れた。
「実は二日後に引っ越すことになりましたので、挨拶に参りました。」
「ふむ、何所に引っ越すのじゃ?」
「さぁ、僕もこの辺りの地理には詳しくないので。ご主人様はちょっと大きめの街と言っておられましたが。」
「ふむ、ところでその獣人は何者じゃ。」
「クラリッサといいます。プルートとお付き合いさせてもらってます。」
「儂の姿が見えて、言葉も聞こえるのか。此奴にに見つかって以来”姿隠しの魔法”のレベルを上げたのじゃがな。ふむ、興味深い獣人じゃ。」
予想はしていたがクラリッサもアントンを見ることが出来たようだ。
「んで、今日は引っ越しの報告だけじゃなかろう、何を頼みに来たのじゃ?」
「アントンさんには隠し事が出来ませんね。実は僕と彼女の装備、つまり鎧などを作って欲しいのです。見ての通り子猫と獣人の少女ですから冒険などには出ないのですが、この前のように魔獣などと戦わなければならないことが起きないとは限りません。その時魔法や武器で戦えるとは思うのですが、防御面があまりにも貧弱なのでなんとかしないとまずいと思いまして。」
俺はアントンに俺とクラリッサの装備の作成をお願いする。
「...そうじゃな、娘には革や金属の鎧は重そうだし丈夫な服を作った方が良いと思うのじゃが?」
「ええ、それで構いません。重い鎧より丈夫な服の方が彼女にはあっていると思います。無理なお願いを聞いていただきありがとうございます。しかし今回のお願いのお礼はちょっと準備できそうにないのですが...。」
「いや、お前さんにはこの洞窟のことで大きな借りがあるのじゃ。気にしなくて良いのじゃ。儂もお前さんの発想で作るアイテムが新鮮で楽しんで作ってたのじゃ。」
「そうですか、でもお礼無しというのも僕の気が済みませんので、今度この村に来た時に美味しいお酒をおみやげに持ってきます。」
「それは期待しているのじゃ」
精霊人はそのドワーフらしい見かけを裏切らずお酒が大好きである。
体格が小さいだけに総量は少ないが人間に換算すると樽ぐらいは平気で飲んでしまう。
子猫は買い物が出来ないし、もともとジム村では村人が飲む程度の量しか酒を生産しておらず販売していなかった。
引っ越し先は大きめの街らしいので酒も普通に売っているだろうから、クラリッサに頼んで買ってもらおう。
装備は明日の夜にはできているとの事だったので取りに来ると言ったらポケットに送ってくれると言われた。
(今までわざわざ洞窟に取りに来てたのに、そんな機能があるなら送ってもらえばよかったなぁ~。直接あってアイテムの機能を説明する必要とかあるからしょうがなかったんだろうけど、先に言って欲しかったな。)
俺はそんな隠し機能があることにちょっと憤慨したがまあアントンの作るものだしそれぐらいの隠し機能はあって当然なのだろうと納得することにした。
(送れるということはもしかして逆も可能?)
俺からアントンへ物を送れるか聞いてみることにした。
「もしかしてアントンさんに無限のポケット経由でアイテムを送ったりできるのですか?」
「そうじゃな.....できるとは思うが、お前さんが旅立つまでにその機能を追加するのは無理じゃな。」
「そうですか。」
こっちから送る機能をつけるには残念ながら時間が足りないらしく、俺はがっかりした。
俺の方からもアントンに物を送ることができたらすごく便利なんだが。
「アントンさんからプルートのポケットに物を送るのはできるんですよね。」
「うむ」
「それは距離が離れると難しいのでしょうか?」
「いんや、距離は関係ないのじゃ。まあ多少魔力を使うがかなり長距離....試したことはないがこの”神の方舟”の反対側にいても届くと思うぞ。」
「それなら、新しく機能をつけた物が完成したらプルートのポケットに送って、新しいのに付け替えて古い方を送り返せば良いのでは?」
「「おお!」」
俺は諦めかけていたが、クラリッサがあっさりと解決策を出してくれた。
「確かにそうすれば解決じゃな。うむ、新しいのができ次第送っておくぞ。」
「僕もお酒とか素材とかアントンさんに送ります。」
子猫とアントンはガッチリと握手して別れた。
◇
夕方になってエーリカが帰って来て
「明日、村長宅でお別れのパーティを開くらしいのよ。クラリッサも来る?」
とクラリッサに聞いてきた。
「.....」
クラリッサが俺に無言で出欠の確認を求めてくる。
一緒に暮らし始めてからクラリッサは何かにつけ俺に判断を求めてくる。
頼ってくれるのは嬉しいが、クラリッサにもっと自立して欲しい。
子猫は頷いて参加するように促す。
「私も村の人達にお別れの挨拶をしたいです。」
旅立ちまでに村の猫達にもクラリッサを紹介したかったのだがしょうが無いな。
俺も一緒に行って途中で抜けだしてカリンや村の猫に挨拶しよう。
「みゃーん」
エーリカにスリスリして着いて行きたいとおねだりする。
「プルートも行きたいの?...あんたも村長さんの猫にお別れの挨拶がしたいのね。アデリーナ、プルートも連れて行って良いよね?」
「はい、エーリカ様の使い魔ですし問題ないかと。皆さんが来られるなら明日は宴の後村長宅に泊まってそのまま出発されたらどうでしょうか?」
「それで良いならあたしは構わないわよ~。」
ということで明日はパーティのあと村長宅でお泊りして村を出発することになった。
翌日は朝から引っ越しの準備である。
まあ、準備と言っても荷造りなどはなく、アデリーナとクラリッサがリビングの本棚の本とかエーリカの寝室に散乱している羊皮紙をかき集めて鞄に無造作に放り込んでいくだけの簡単なものだ。
大量に集められた薬草もアデリーナによって鞄に詰め込まれ引っ越しの準備は午前中で終わってしまった。
無限のバックのチートさがよく分かる引越し準備だよな~と力仕事では猫の手にもなれない子猫は籠で暇を持て余していた。
◇
午後は小屋の戸締まりをし荷物を持って村長宅に向かった。
村長宅に着くとすでにパーティの準備が整っており俺達が到着するとそのままお別れパーティが始まった。
村長の挨拶やら色々イベントがあったが子猫は興味が無いのでクラリッサに抱っこされながら寝ていた。
よく考えるとアデリーナの父である村長も始めて見た気がするのだが...まあ子猫には関係ないやで俺は済ませしまいました。
しばらくクラリッサに抱かれてパーティ会場で食べ物を貰っていたが隙をみて外に連れだしてもらう。
外にでるとカリンが待っていた。
「坊や村を出ってっちゃうんだね~。」
カリンが俺にスリスリしながらそうつぶやく。
「使い魔ですし、魔女に着いて行かないとね。」
「坊やがいなくなると寂しくなるね~。」
「森猫さんとも付き合いが出来たようですし、これからもっと賑やかになりますよ。」
「まあ、賑やかにはなったけど、坊やはあたいがドキドキするような事をしてくれそうで見てて楽しかったんだよね~。」
「....またこの村に戻ってきますよ。」
「いい雄猫になって戻っておいで。」
カリンと共に向かった厩舎には既に村の猫達が全員集っていた。
皆に挨拶したいだろうとカリンが猫達を集めておいてくれたみたいだ。
「皆さん、僕はこの村を離れますが、”好奇心の女神”の信者として森猫さんたちと仲良くしてあげてください。」
「「「「お勤めご苦労様でした。また村に戻ってきてください。」」」」
(ハモるのは良いけどお勤めってそれじゃヤクザの出所だよ。)
俺は村の猫達と別れの挨拶を交わしていく。
それが終わる頃には夕方になっていた。
村長宅に戻るとパーティはすでに終わっており、酔いつぶれたエーリカをクラリッサとアデリーナが介抱していた。
クラリッサも少し酔っており、エーリカも復活しそうに無いので俺達はそのまま客室に入って寝てしまった。
深夜お腹のポケットがムズムズしたので探ってみるとアントンから頼んでおいた装備が届いていた。
一式という割には色々入っていたのでびっくりしたが、彼なりの選別だったのだろう。
◇
翌朝、村長をはじめアデリーナや村人達が見送るなか俺達は村を出発した。
今まで通ったことのないジム村の反対側の門を抜け次の村への道のりを歩き出す。
アデリーナは門まで見送ってくれたが彼女ともそこでお別れだ。
門を出てしばらくすると後ろで
「「「「「!にゃーん《また来いよ~》」」」」」
猫の大合唱が聞こえてきた。
振り返ると村の猫が門の側に集まっている。
子猫は手を振る代わりに尻尾を大きく振り、そして前に進み始めた。
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