彼女がチートでご飯がうまい
仕事でストレスが貯まると現実逃避したくなります。
小説書いてストレス解消できたら良いのですが....
今回は少し短めです。
私の名前はエーリカ、この辺りでは名前の知られた魔女なのよ。
通常魔法と精霊魔法を使いこなし、開拓村を回って低級回復薬などの薬を調合したりと大活躍して名声も上がりっぱなしなの。
おかげであちこちの年頃の男性から求婚されまくりで、逆ハーレムも夢ではない....。
実際はポーションの作成に忙しく年頃の男性とお知り合いにすらなれない毎日なのだけれどね..orz。
そんな忙しく恋人を作っている暇もないご主人様を尻目に私の使い魔である子猫が恋人を連れてきちゃったの。
森で死にかけていた子猫の彼を使い魔にして助けてやった御恩も忘れ、ご主人様より先に恋人を連れてきちゃうとは...なんと羨ましい、イヤ許せない使い魔でしょう。
だいたいプルートは生後二ヶ月の子猫なのに十歳の獣人の可愛い子を恋人にするなんてどれだけ女たらしなの。
アデリーナの話では村長宅にいるカリンという白猫もプルートにぞっこんらしく村に行くたびにスリスリしているらしいし、猫のくせに使い魔のくせに、リア充爆発しろなの。
はぁはぁ、少し興奮しすぎたわ。
プルートに恋人が出来たのはしょうがないとして、問題なのは連れてきた彼女、名前はクラリッサというのだけど、ご主人様の目の前でイチャイチャしすぎなのよ。
小屋に来てプルートを回復した後彼女に事情を聞いたら「プルートに一目惚れしたので彼女になりました。相思相愛なので一緒に暮らさせて下さい。」って堂々と彼女宣言するんだもの。
彼女は迷子になったプルートを助けてもらった恩があるからあまり強く言えないのだけれど、暇があればナデナデしたり抱っこしたりと私の目の毒だわ。
ここは年長者としてビシッと言わなきゃ。
だけど、獣人って猫とかと結婚するのありなのかしら....?
◇
クラリッサを連れて森から帰還してからエーリカの様子がおかしい。
子猫がクラリッサに抱っこされたり撫でられたりしているのをすごく怖い目で睨んでくる。
アデリーナは俺を撫でるクラリッサを羨ましそうに見ているがあんな目はしない。
自分の使い魔が他人になついているのが悔しいのだろうか?
たまにはエーリカにも甘えてやろうと子猫は思うのであった。
そういえばクラリッサの処遇だが、彼女はエーリカの小屋で一緒に暮らすことになった。
あの時、俺は彼女をかばって矢を受けたのだが、その時運良く俺を探していたエーリカとアデリーナ+村の狩人が一人と一匹を発見して、コボルトはエーリカの魔法で殲滅され、俺達はエーリカの小屋に運ばれた。
矢を受けて重症だった俺はエーリカの精霊魔法の回復呪文で全開したが二日ほど意識が戻らず、その間ずっとクラリッサが寝ずに看病をしてくれていたそうだ。
エーリカは途中まで看病してくれていたが徹夜に耐え切れず寝てしまったらしい。
クラリッサは俺が作った偽りの経歴、森に住む獣人の子供でたまたま俺を拾って飼い主に届けにきたという設定でエーリカに話したらしい。
若干その経歴にクラリッサによる修正が入っているらしいがそれがエーリカが子猫を睨む原因なのだろうか?
「プルート、そろそろ寝る時間だよ」
「クラリッサ、怪我はもう大丈夫だからそんな過保護にしなくて良いよ。」
「ダメ、もうしばらくおとなしくして。」
子猫が意識を取り戻してから三日経つがクラリサは未だ俺を負傷者扱いである。
怪我自体はエーリカの回復呪文で完全に治っており動きまわってもなんともないのだがクラリッサは俺が動こうとするとすぐに抱き上げるし、食事もスプーンで飲ませようとする。
その度にエーリカに睨まれ、アデリーナは柱の陰でハンカチを噛みながら泣いているのですごく居心地が悪い。
そろそろこの状況を何とかしないとまずいかもしれない。
PS.温めるだけなのに彼女の作るホットミルクはなぜか美味しい。
◇
クラリッサがエーリカの小屋で暮らし始めてそろそろ一週間が経とうとしていた。
その間エーリカは俺に
「この小屋でイチャイチャ禁止」
とか
「抱っこ禁止」
とか訳のわからないことを言ってくる。
イチャイチャとかなんの事かわからないし、子猫が抱っこされるのは普通にありだと思うのだが何がいけないのだろう。
クラリッサにもあれこれ言っているみたいだが彼女は聞き流しているみたいだ。
おかげで最近ますますエーリカの機嫌が悪い。
アデリーナといえば家事の役割をクラリッサに取られエーリカの小屋でやることが少なくなり影が薄くなっている。
そう、クラリッサは貴族の子女の癖に意外と家事が上手である。
どうやら母親が「貴族であってもちゃんと家事をできる娘になりなさい」と家事を教えこまれたそうだ。
エーリカは致命的に家事が出来ない人なのでクラリッサにその点では頭が上がらない。
そうやってますますエーリカの機嫌が悪くなっていくのだ。
そんなある日の午後、暇そうに子猫を抱っこしていたクラリッサにエーリカはこう言った。
「クラリッサさん、暇でしたら魔法でも習わない?」
「にゃっ?」
「?」
子猫もクラリッサも突然のエーリカのお誘いにびっくりデス。
「当面の生活費頂いているのに家事までしてもらって私も少し貴方にお返しをしなければならないと思うの。クラリッサさんもプルートとイチャ...遊んでいるより魔法を覚えれば将来役に立つと思うのよ。」
顔を見合わせる子猫とクラリッサ。
これはクラリッサを忙しくして子猫と引き離すための口実なのだろう。
「みゃーみゃにゃー」
「プルートがそう言うなら。」
俺はエーリカの提案通り魔法を習ってみることを進めてみた。
魔法は才能が無いと使うことは出来ないのだが、俺の見立てではクラリッサは十分に魔法の才能があると思う。
なんというかエーリカやアデリーナに感じる魔法の匂いがするのだ。
それにクラリッサにはカーン聖王国から追手が来る可能性もある。
魔法を覚えれれば身を守る術となるだろう。
「エーリカさん、私魔法を習います。」
「んじゃ、今から始めるということで~」
エーリカは今から勉強を始める気満々で早速魔導書を広げクラリッサに講義を始めている。
そんな二人を見て俺はそっと台所に向かう。
帰ってきてからずっとクラリッサの監視状態だったので村や森に行けなくてストレスが溜まっていたので今のうちに台所の窓から外に出て森の洞窟へ行くつもりだ。
森の精霊人に渡したい素材とか作成を依頼したいアイテムなど頼みたいことが一杯あるのだ。
エーリカとクラリッサに気付かれずにうまく外に抜けだすと俺は洞窟に向け一目散に駈け出した。
◇
「そうじゃないのよ~」
俺が洞窟から戻ってくるとエーリカの叫び声が聞こえてくる。
そろそろ夕方なので午後ずっと魔法のお勉強をしていたようだ。
エーリカが叫んでるってことは魔法の取得に苦労してるのだろう。
台所の窓から小屋の中に戻り二人のいるリビングをそっと覗く。
テーブルの上には手のひらサイズの壺が置かれているのでクラリッサは低級回復薬を作る魔法を教えてもらっているのだろう。
「だから、魔法陣の中には壺を一つ置くだけで良いのよ。」
「まとめて作ったほうが便利。」
クラリッサが5本ぐらい壺を魔法陣において呪文を唱え始める。
「清き力よ~集まりて~癒しの種となれ~」
俺が読んだ魔導書には低級回復薬作成は一つずつ作るものだと書いてあった気がするが、豪快にもクラリッサは5本まとめて作成しようとしている。
エーリカですら出来ない事をクラリッサができるはずもないと俺は魔法が失敗するのを想像していた。
しかし魔法陣上の5本の壺にそれぞれ青緑色の光が集まり収束すると壺からは白い煙が立ち上がり魔法が成功したことが理解る。
「だから、なんで成功するのよ~。」
「魔法はイメージが大事です。5本分のイメージと魔力を込めれば成功するし、した。」
エーリカがジタンダを踏んでいる横でクラリッサがキメ顔で成功の秘訣を語っている。
俺もあんぐりと口を開けて固まってしまった。
あっ、部屋の隅でアデリーナが丸まっていじけている。
「あっプルート、クラリッサったら酷いのよ~。」
俺を見つけたエーリカが俺を抱き上げクラリッサの魔法勉強の結果を愚痴ってくる。
エーリカは獣人である彼女に魔法が使えるはずはないと思っていたみたいだ。
別世界の人間である俺や人間から偶然生まれた獣人であるクラリッサは知らなかったみたいだが、獣人は魔力を持っていたとしても魔法は使えないらしい。
そんな彼女に魔法を教えようとしたエーリカも大概だが、クラリッサは予想を超える素質の持ち主だった。
クラリッサは魔法の基礎をエーリカから一通り聞いたあと魔法薬の作成を行ったらしい。
アデリーナがさんざん苦労して成功した低級回復薬作成を彼女は初回から無詠唱で行って成功させたらしい。
エーリカは基本がなっていないというが、俺としては魔法のイメージという基本がしっかりしているから無詠唱でも魔法が成功しているのではと思うのだが。
そしてクラリッサは一壺だと効率が悪いので複数本同時に低級回復薬作成を行うことを独自に始めてしまい、今五本まとめての作製に成功したということだ。
「エーリカさん、魔法は成功すればそれで良いのです。」
クラリッサがそう言いながらエーリカから子猫を奪い取ろうとする。
「基本が重要なのよ~」
エーリカも子猫を離すまいとする。
子猫は二人から引っ張られて見事な大岡越前裁き状態となってしまった。
「ミギャー」
子猫が必死で叫ぶと二人は手を離し俺は床に墜落した。
少し打撲を追ってしまった俺にクラリッサは作った低級回復薬を飲ませてくれる。
うーん、まったりとしてコクの有る甘い喉越し。
アデリーナの作った薬とは格段の差がある出来栄えだ。
その後エーリカが魔法を教える度にクラリッサはそれを瞬く間に覚え応用まで使いこなすほどの魔法の才能を見せつけた。
さすがにエーリカと同等の高レベルの魔法は使えなかったが、これも経験を積んでいけば使えるようになるとのことだった。
これにより俺はクラリッサが魔法に関してもかなりチート体質であること認識せざるを得なかった。
◇
クラリッサが魔法の習得でそのチート体質を見せつけている間アデリーナは影が薄かった。
薄過ぎでこのままフェードアウトしていくかと思ったが彼女は意外としぶとかった。
「クラリッサさん、私と体力づくりしましょう。」
なんかエーリカと同じようなことをアデリーナも言い始めた。
アデリーナはそのナイスバティを見せつけるようにクラリッサに話を持ちかける。
確かにアデリーナは村と小屋を毎日走って往復しているのだからそれなりに体力があるのだろう。
それに比べクラリッサは十歳の子供らしい体つきであり、外にあまり出させてもらえなかったらしく体力はあまりない。
森の中で一緒に行動した時も子猫より先に息が上がっていた。
体力もつけておいたほうがいざという時に役に立つのは当たり前だ。
「みゃーみゅにゃー」
「プルートがそう言うなら。」
俺との受け答えもエーリカの時と一緒だな。
クラリッサはアデリーナと一緒に村まで走ったりして体力増強を始めた。
最初のうちはアデリーナとクラリッサの間には大きな差があったのだが、一週間も続ける内にクラリッサはアデリーナに走りで追いついてしまった。
更に一週間経つとアデリーナはクラリッサについて行けなくなってしまった。
「チートってずるいね」
「プルート、チートって何?」
「クラリッサは気にしなくて良いよ」
彼女のチート体質に隙はないのだろうか。
俺はなぜ女神が彼女を助けろと言ったのか理解ったような気がした。
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