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子猫の帰還

深い眠りの中、俺は女神の声を聞いたような気がした


『...』


『女神か?何が言いたい』


『...………(助けて)


『何が言いたいのかはっきり言え』


『...彼女を助けてあげて。』


女神の声がはっきりと聞こえた瞬間、俺は眠りから目覚めた。


(確かに女神の声だった。彼女を助けてあげてって...クラリッサのことだろうな。女神はなぜそんなことを俺に伝えるんだ?)


しばらくぶりの女神からの通信が”クラリッサを助けてと”の短い内容だったことに俺は引っかかりを感じる。


(クラリッサと女神に何かつながりでもあるのだろうか?)


俺は女神の思惑がどこにあるのか悩んだが何も思いつかなかった。

あの女神のことだから大したことでも無いだろうと、俺は明るくなってきた空を見上げ大きくあくびをした。


「うん...」


突然目の間でクラリッサが身動きしたので俺はびくっとしてしまった。

彼女は子猫(おれ)を抱きかかえ子猫(おれ)は触手で彼女と俺を木に固定してる状態なのだ。

彼女の体温、息遣い、鼓動が俺に伝わってくる。

エーリカやアデリーナに抱っこされた事は何回もあるが、クラリッサに抱かれているこの状態はなにか違う。

今まで俺が感じたことのない安らぎを感じるのだ。

子猫(おれ)は彼女の寝顔を静かに見つめる。



「ふぁーぁ....プルートおはよう。」


ニャ~(おはよう)



5分ほどするとクラリッサが目覚めたので挨拶を交わす。

木の上で水と保存食だけの簡単な食事を済ませて木から降りる頃には太陽が明るく大地を照らしていた。

朝のこの時間は魔獣の気配が少なく一番歩きやすい時間帯なので俺達はさっさと川沿いに歩き始める。


歩きながら俺は村についた後クラリッサがどうするか聞いてないことに気づいた。


「多分あと少しで僕の住んでいた村に着くと思うんだけど、クラリッサは他に行きたい所があるの?」


「お父さんはなにか当てがあるようなこと言っていたのだけれど、私にはわからない。」


クラリッサは首を横に振りあてがないと俺に伝える。

彼女の両親の荷物は俺のポケットの中に入っているが、その中にも彼女を連れて行くべき所への情報はない。

せめてクラリッサが両親からなにか聞いていればよかったのだが、まあ聞いていないものはしょうがない。

エーリカなら彼女を無碍に扱うこともあるまい。

俺は彼女をエーリカのもとに連れて行くことに決めた。


「えっとね、クラリッサよく聞いてね。僕はエーリカって魔女の使い魔なんだ。彼女は君より少し年上の女の子で、彼女ならクラリッサを助けてくれると思うんだ。エーリカの所に君を連れて行って良いかな?」


「私にはわかんないけど、プルートがそう言うならそれでいい。」


思い切りが良いのか自棄になっているのかクラリッサは子猫(おれ)の言う通りにすると言い切った。

子猫(おれ)に心配されるってのもなんだが、彼女はあまり自分の事を考えていない気がする。

俺はその点が少し心配だった。




川沿いにしばらく歩いて行くと人が通って出来たと思わしき細い山道に辿り着いた。

俺はようやく人の気配のする場所まで辿り着いたことに安堵した。

ここまで来たら村の猟師とか僕を探していると思うエーリカやアデリーナに会えるのも時間の問題だろう。

その前にクラリッサには俺の様々な秘密について喋らないように釘を刺しておく必要がある。


「この道を辿っていけば村に行けると思う。」


「うん」


「で、村に着く前にクラリッサに言っておかなければなりません。」


「?」


「動物の言葉が理解る貴方だとすぐバレてしまうと思うのでここでバラしてしまいます。僕は魔女の使い魔ですが、それ以外にも”好奇心の女神”の神官でもあるのです。」


「”好奇心の女神”?」


聞いたことのない名前の女神にクラリッサは首をかしげる。


「はい、人間は今のところ誰もしらない女神です。信者は村にいる猫と森に住む猫と犬達です。」


「人間の信者は誰もいないの?」


「ええ、どマイナーな女神ですから。」


俺は”どマイナー”を強調する。


「このことは僕のご主人である魔女のエーリカさんも知らないことなので、秘密にしておいてください。」


「また村にいる猫達が僕のことを神官だと言ってくるのでその辺りはスルーしてください。」


「....うん。」


「この魔法の手(触手)や色々出てくるポケットも人間には秘密にしておいてください。」


「理解った。」


素直にクラリッサは子猫(おれ)の言うことを聞いてくれるので助かる。


(ここで嫌だと言われても困るからな~)


「後クラリッサがカーン聖王国の元貴族であることも隠した方が良いと思います。もしかして追手とか来るかもしれませんからね。森の奥に住んでいた獣人の子供ということにしたいんだけど駄目かな?」


「プルートが言うならそうする。」


俺はクラリッサが村人やエーリカにあった際に話す内容を子猫(おれ)と会った経緯なども含め虚実取り混ぜて作り上げる。


(問題は服装だな。獣人の子供にしては服が高級すぎる。ここは精霊人(アントン)にお願いするか。)


お話を終えると俺達は山道を降りていった。





山道を降りていけば村にたどり着くと思っていたいた時期が俺にもありました。

子猫(おれ)とクラリッサは気配を消して森の草陰に隠れています。

目の前の村では犬達が活発に行動中です。

犬と言っても二本足で立って歩く犬です....そりゃコボルトだろうが。

脳内で一人ボケツッコミをしながら俺は自分の間抜けさ加減に呆れてしまった。


山道を降りていったがそれは人が作ったものではなくコボルト達が作ったものだったのだ。

道に落ちている毛とか匂い、足跡などを注意していればすぐに理解ることなのに俺は山道に出ただけで安堵してしまい注意を怠ってしまったのだ。


山道を進むと大勢の人間外の気配を俺は感じとった。

気配を隠して近づいてみたところそこはコボルトの集落だったのだ。

コボルト達は粗末な竪穴式住居の様な住まいを中心に暮らしているいるみたいで、全部で二十匹前後はいる。


(前に犬を使って猫を襲い洞窟を奪おうとしたのはこいつらだったのかな?)


コボルトは繁殖力が旺盛で生まれて一月で成人してしまう為ほっておけばどんどん増えていく。

しかし魔獣が徘徊するこの森ではコボルトは捕食される側でもあるのでこの程度の数で済んでいるのだろう。


「静かにして山道を引き返そう。」


俺は小声でクラリッサに伝えると彼女は無言で頷き、一人と一匹は静かに山道を引き返す。



俺達が集落から山道を少し引き返したところで突然前の茂みからコボルトが二匹現れた。

後ろのコボルトの集落に気を取られすぎて前の気配を探るのがおろそかになっていたことに俺は舌打ちする。

クラリッサは俺以上の気配察知スキルを持っているが元々は素人なのでこういった場合は経験者...というほど経験もしていないのだが...の俺が気を配るべきだった。


コボルトは錆だらけの小剣を構え道を塞ぐように立ちはだかった。


「人間みつけたコボ」


「逃さないコボ」


「プルート、この犬の人達は私達を逃さないって言ってるよ。」


コボルトの言葉も理解できるのか律儀にクラリッサが通訳してくれる。

コボルト達は自分たちの集落を見つけた俺達を返すのはまずいと思っているらしい。

多分子猫(おれ)は無視されてしまうだろうが、クラリッサは見逃してくれないだろう。


「クラリッサは離れていて。僕が片付けます。」


クラリッサの前に子猫(おれ)は飛び出し身構える。


「兄貴、子猫が出てきたコボ」


「そんな可愛い子猫が何をするのかコボ」


コボルトは飛び出してきた子猫(おれ)の姿をみてバカにしている。


「不可視の矢よ我が刃となって敵を滅ぼせ~ インビジブル・ボルト》」


いきなり子猫(おれ)が放った不可視の矢はコボルトの一体に突き刺さる。


「ぐはっ、子猫が魔法を使うなんて馬鹿な...コボ」


「あ、兄貴、しっかりしてください。傷は浅いコボ しっかり~するコボ」


魔法を喰らい倒れるコボルトAをコボルトBが介抱している。

どうやら兄弟だったらしい。

しかし戦いとは非情なものだ、俺は再び不可視の矢を放ちコボルトBも倒してしまう。

倒し方がワンパターンな気もするが、子猫(おれ)では肉弾戦も出来ないからしょうがない。


「プルートすごーい。魔法も使えるんだね。」


クラリッサはコボルトを魔法で倒してしまった俺を称賛の目で見つめる。

そういえば彼女に俺が魔法を使えることを教えてなかったな。


「僕が魔法を使えることも秘密でお願いします。それよりもコボルトの集落に今の騒ぎが聞こえてないか不安です。急ぎましょう。」


俺の言葉にクラリッサは後ろを向き耳をぴくぴくさせる。


「なんか、ざわざわしている。誰かこっちにやって来るみたい。」


子猫(おれ)には感じられないが、彼女はコボルト集落の状況を感じ取ったみたいだ。

一人と一匹は山道を駈け出した。




最初に山道を見つけた場所まで俺達は走り続けた。

そしてそこで止まってしまった。

クラリッサの体力が続かなかったのだ。

後ろからは追手の気配がしておりどんどん近づいてくる。


(このままじゃ追いつかれるな。)


しかしここまで全力で走ってきた彼女は息が切れており一休みしないと持たない。

このままではコボルトたちに追いつかれれてしまう。

何か手を打たないと....


「私はもう駄目。プルートだけでも逃げて。」


クラリッサが自分を置いていけというが、そんなこと俺には絶対できない。

俺は意を決して力の腕輪の効力を最大にする。


「クラリッサ、悪いけど僕を抱きかかえてくれないかな。」


「プルートだけなら逃げ切れるよ。」


「大丈夫君を連れて逃げ切ってみせるよ!」


イケメンだったら歯がキラリと光りそうなスマイルで俺は彼女に言い切った。




森の中、子猫(おれ)とクラリッサは空を飛んでいた。

魔法で飛んでいるのではない、正確には木から木へ飛び移っているのだ。

クラリッサと俺をロープで結びその状態で魔法の手(触手)を伸ばしターザンよろしく移動しているのだ。

子猫(おれ)では魔法の手(触手)を使ってもクラリッサを抱えて歩きまわることは出来ないが、抱えて飛ぶことはできるのだ。


(ロープで結んだとろこが痛いし、力の腕輪で筋力上げたといっても子供を抱えて飛ぶのは辛いな。)


時間にして三十分程であったが木の上を高速に移動したおかげでどうやら俺達は追手を巻くことが出来た。

足跡も残していないし移動の形跡は皆無だから撒けたと思うことにし、地上に降りた俺は力の腕輪を最大にした反動の疲労から動けなくなってしまった。


「プルート、頑張ってくれてありがとう。」


そんな俺をクラリッサは抱きかかえナデナデしてくれる。


(はあ、なんか癒やされるわ~)


ぐったりとしている子猫(おれ)を抱きかかえクラリッサも休憩する。




十分ほど休憩し、あたりに追手の気配が無いことを確認してから俺たちは再び移動を始めた。

日もだいぶ暗くなりそろそろ木の上で休もうかという頃に俺達は再び山道を発見した。

今度は人の足跡もあり村の狩人が使っていることが確認できる山道だったので二人でバンザイ(やったー)してしまった。

後はこの山道を辿って村に帰るだけと思い気を抜いてしまった俺は学習機能がついていないのだろう。


シュッ


風切音と共に俺達の目の前に矢が突き立つ。


シュッ シュッ


また風切り音が聞こえた。

俺は飛んでくる二本の矢の一つがクラリッサへの直撃コースであることに気づき彼女を庇った。


「プルート!」


クラリッサの悲鳴が聞こえるが、矢が脇腹に刺さった俺は声を出すことが出来ない。

俺を抱きかかえてしゃがみ込む彼女に小剣を構えて近寄るコボルトの影が見える。


「クラリッサ逃げるんだ。」


俺は声を絞り出しクラリッサに逃げるよう言った所で出血のためか意識が薄れていった。

 :

 :

俺はこんな所で死ねない。

ここで死んだら転生できないじゃないか。

いや、そうじゃないクラリッサを彼女を助けないと。

 :

 :

何か爆発する音が聞こえる。

 :

「プルート大丈夫」

俺を呼ぶ声がする。

エーリカの声の様な気がするが幻聴かもしれない。

 :

 :








気が付くと俺は(寝床)に寝かされていた。

籠はテーブルの上に載せられ、テーブルに突っ伏すようにエーリカとクラリッサが眠っていた。


どうやら俺は助かったみたいだ。

エーリカの声を聞いたのは幻聴でもなく本当に彼女が助けに来てくれたのだ。

子猫(おれ)は小屋にたどり着いたのを実感し鳴いた。


みゃー(帰ってこれた~)


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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