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サバイバルは楽勝? ヒロイン登場

誰がアデリーナやエーリカをヒロインだと言った。

真のヒロインは今から登場するのだ...

子猫(おれ)が墜落死しなかったのはギリギリで”落下制御フォーリングコントロール”を唱えられたおかげである。

落下制御フォーリングコントロールは術者の落ちる速度を任意に変更できる呪文である。

ただ落ちるのを制御するだけなので空も飛べないし落ちる場所も選べないという欠点があるが崖から落ちた時とかトラップの落とし穴に落ちた時にはかなり有効な魔法である。

俺は呪文により落下速度を落として眼下に広がる湖の側の草むらに軟着陸した。

呪文の効果時間ギリギリだったのか最後は1メートルぐらいの高さから落ちるように着地した。

子猫(おれ)だけならなんとか無傷で着地できたのだが鋼蜻蛉スチールドラゴンフライの胴体に掴まれたままだったので受け身も取れず、落ちた時の激しい衝撃を受けて気絶してしまった。



かなり日が暗くなり空が夕暮れの薄明かりに光りだした頃になってようやく俺は意識を取り戻した。

体の節々が痛かったが回復の奇跡を唱えると痛みが消えたのでどうやら軽傷で済んだらしい。

まだ俺を抱えている鋼蜻蛉スチールドラゴンフライの胴体から魔法の手(触手)を使って脱出する頃には辺りは真っ暗になっていた。


俺が辺りを見回すと鋼蜻蛉スチールドラゴンフライはかなりの距離を飛んだらしく全く見覚えの無い場所であった。


「困ったな~野宿とかやったこと無いんだけどな~。」


俺は人間であった時はどちらかと言えばひきこもり体質で家でゲームとかしている方だった。

そのため野外キャンプとか登山とかそういったアクティブなイベントに極力参加していないためこんな状態ではどうすれば良いのか知識が全くない。


「まず、水と食料の確保か、できれば火も起こしたいが道具がないな。魔法でそこらの枯れ木をもやすか....あれ、水とか食料って今まで俺はミルクしか飲んでないぞ?」


そう、俺は使い魔になってからミルクしか飲んでいないのだ。

しかも酷い時には数日間ミルク無しの時もあった。


「そういや使い魔は食事なしで良いんだっけ...すげーサバイバルチートだな。」


水、食料、その他道具一切なしでサバイバルするのはかなり難しいというか不可能に近い。

そんな状況なら人であれば積んでしまうのだが、俺は使い魔なので食事の必要がない。

毛皮があるから服いらずで保温性もバッチリ...よく考えるといつも全裸なのかorz...と人間よりもサバイバルにはかなり有利なことに気づく。


「遭難したら救助を待てと読んだ気がするが...。多分エーリカやアデリーナ達は俺を探してくれるだろうがこんなところまでやって来るのにどれだけかかるかわからないよな。やっぱり自分で行くしか無いか。」


子猫(おれ)は自分の足でエーリカ達のもとに帰ることを決断した。





三日月が空でぼんやりと光っている。

人間だったら灯りが必要なだろうが子猫(おれ)はこの薄明かりでも普通に見えるので灯りは必要ない。

出発前に俺は鋼蜻蛉スチールドラゴンフライの残骸を魔法の手(触手)に持たせたナイフを使って解体しポケットに収めることにした。

精霊人(アントン)から魔獣の死骸は色々なアイテムの材料になるので持ってきてほしいと言われたのを思い出したからだ。

子猫(おれ)では爪と牙を使っても魔獣の解体は難しいのでよく切れるナイフをアントンから譲り受けた。

そのナイフは切れ味が悪くなったら刃を折って後ろの穴に入れると自動的に更新されるという、替刃が不要な点を見れば本当に100均のカッターナイフにしか見えないものだ。

アントン謂わく刃の材料はミスリル合金性で簡単には切れ味が落ちることはないとのことだ。


ミスリルってファンタジーじゃ定番のレア金属で高価なものだと思うのだがそれをカッターナイフに使ってしまう精霊人の考えに俺は頭を抱えてしまった。

精霊人はある意味技術者バカの集団であり、彼らは作ることのみに意義を見出しそれを自分たちで使いこなさない。

自分たちが使用する以外のアイテムは技術を悪用しない相手を厳選して渡すらしい。

そんな精霊人がアイテムを作ってくれるということは俺が悪用しないと信頼している証なのだが、自分が聖人で無いことを自覚している俺はすごく心苦しく感じている。


作業を終えた子猫(おれ)は帰り道を探すべく湖の周りを一周することにした。

探すのは湖から流れ出る川である。

エーリカの小屋は丘陵地帯の森の外れにあり、川下にあるのは明らかだ。

闇雲に森をうろつくより川沿いに下っていくのが正解だと俺は思ったのだ。

俺は湖の周り森猫に教わった忍び歩きで気配を消して移動する。

猫として基本がなっていないとクロスケに言われ、彼に特訓してもらったのだ。

努力のかいあって、子猫(おれ)は忍び歩きと気配を察知するスキルを身につけることが出来た。

その御蔭だろうか湖の湖畔に居た多数の魔獣との戦いを全て避ける事が出来た。

二時間ほどで湖から流れ出ている川を見つけそれに沿って俺は森を進んで行った。



川辺も魔獣が多く川岸を歩くことはそいつらと接触する危険性が多い。

俺は水の音を聞きながら暗い森の中を歩いて行くことにした。

しばらく歩いて湖から離れると魔獣の数も減り安心して森の中を歩いていける様になった。

もうしばらく歩いた所で俺は休憩を取ることにした。

俺は手頃な木に登って魔法の手(触手)で体を固定するとそのまま眠りに落ちた。





俺が目を覚ましたのは誰かが争っている声を聞いたからだった。

すでに夜は明けており空は明るい。

最初は魔獣達が争っているのかと思ったがよく聞くとそれは獣と人の声であった。


(こんな森の奥に入ってくる人がいるのか?)


俺が今いる場所は魔獣の数から考えてジム村の猟師ですら入ってこない奥地である。

そこに入ってくる様な人間はかなり腕の立つ人間に違いない。


(もしかして冒険者とかが入ってきてるのか?)


ジム村にはいなかったが、この世界には冒険者という職業の人達がいる。

彼らは冒険者ギルドに属し様々な依頼をこなし、時には森で貴重な素材を出す魔獣を狩ったり薬草を採取することもあるとエーリカの本には書いてあった。

声の方に進めばそういった人に会えるのかもしれないと俺は木を降り駈け出した。




近づいていくとだんだ声の内容が判って来る。


「...もっと早く走るんだ...」


「もうダメ、貴方だけでもこの子と逃げて...」


「そんなことできるか....」


どうやら男女数名...会話の内容から夫婦...いや子供がいるから家族が魔獣に襲われているようだ。

かなり切羽詰まった状態らしい会話が聞き取れる。

俺は全力で声の方に走りだす。


(なんとか間に合ってくれると良いのだが)





俺がたどり着いた時にはすでに家族は魔獣に追いつかれ、子供をかばった父親らしき男性が熊の強烈な一撃を喰らい吹っ飛ぶところであった。

熊は残った子供にもその強烈な爪の一撃を食らわせようとしていた。

俺は立ちすくむ子供を魔法の手(触手)を伸ばして掴み木の上に引っ張りあげた。

目の前から子供が突然消えたことに驚いた熊は辺りを見回し木の上にいる子猫(おれ)に気づいた。


俺のいる樹の下で吠える熊は地球のヒグマにそっくりだがそのサイズは一回り大きく体長三メートルはある。

魔獣の住む森で暮らしていくにはこれぐらいの力が必要なのだろう。

子供は助けたが弾き飛ばされた父親や姿の見えない母親も心配なので俺はこの熊を即効で倒すことにした。


「お前に恨みは無いけど人を襲った獣は狩らなきゃいけないんだよ。」


相手の手の届かない木の上から不可視の矢インビジブル・ボルトを連発して俺は熊を倒した。


(十発食らわせてようやく倒れるか。さすがにコボルトとは違うな。)


魔法の手(触手)を伸ばして熊が完全に死んでいるのを確認して俺は木から降りた。

子供は気絶していたので木の上にロープで縛って落ちないようにしておく。



木を降りて父親の様子を探ってみたが熊の一撃は彼の首の骨を折っており既に息をしていなかった。

辺りを探すと同じように母親らしき女性の遺体も見つかった。


(両親とも亡くなってしまったのか。あの子はこれからどうするんだろう....俺が面倒見るしか無いのか?)


二人の遺体を埋める為にポケットからスコップを取り出し穴を掘りながら俺はこれからのことを考えると憂鬱な気持ちになるのだった。





二人の遺体を埋葬し終える頃、木の上で子供が目を覚ましたらしくじたばたする気配がした。

俺はどうやってこの状況を説明したものか困ったがとりあえず子供のいるところまで登っていった。



子供はロープから抜けだそうとじたばたしていたが、子猫(おれ)が木に登って『ニャ~』と鳴いて手をぺろぺろ舐めてやると落ち着いたのかおとなしくなった。


ニャ~(落ち着いてね)


「猫さんありがとう」


驚いたことに子供は子猫(おれ)の言葉に返事をする。

子猫(おれ)は驚愕の表示のまま固まってしまった。

子供は頭の上の猫耳を可愛らしく動かしながら子猫(おれ)の頭を撫でている。


ニャ~(僕の言葉が)ニャミャ(理解るのですか?)


「うん、猫さんの言葉わかるよ。私は他にもいろんな動物の言葉理解るんだよ。」


猫耳を持つその子供、いや彼女は動物の言葉が理解る貴重(レア)なスキルを持つ少女だった。




木の上で話していては居心地が悪いので魔法の手(触手)を使ってロープを解き、俺は彼女と木から降りた。

魔法の手(触手)を見た彼女は目を丸くして驚いていたが俺が秘密にしておいてくれとお願いしたら可愛く頷いて秘密にすることを約束してくれた。


「ところで猫さんお父さんとお母さんが何所に行ったか知らない?」


俺は少女から一番聴きたくない質問、しかし絶対に教えてあげなけれならない事を聞かれ心が重くなった。

俺は両親が埋まっている場所、簡単な土饅頭に石を載せただけのお墓の前に彼女を連れて行き、俺が彼女たち家族と出会った後の事を説明した。


彼女は一頻り泣いた後子猫(おれ)にお礼を言ってまた泣いた。


「離れるのが嫌なのはわかるけど、そろそろここを移動しないと....」


「....うん。」


泣きじゃくる猫耳少女を子猫(おれ)は必死になだめ続け、ようやく両親の墓の前から去ることを了解させた。

この辺りを縄張りにしていた熊を退治したのでしばらくは安心だと思うが、別な魔獣が何時やってくるかわかないのだ。

それにこのままここにいても食料や水と言った物が付きてしまえばそれまでだ。

何とかして人のいるところまで彼女を送り届けなければならない。

なりは子猫だが俺は元三十歳の男だ、間違っても獣耳属性とかロリ属性はないがこんな猫耳少女を魔獣の闊歩する森に放置なぞ出来ない。

誰に言っているのかわからない言い訳をしながら俺は猫耳少女を保護することを誓う。





歩きながら俺は彼女の身の上話を聞くことにする。

状況がわからないとジム村に連れて行ってよいか判らないからな。


まず彼女の名前はクラリッサと言い、十歳の女の子である。

補足すると、目も髪の毛も黒色で色白な和風な顔立ちの美少女である。

両親は普通の人間だがその二人から生まれた彼女はネコミミと尻尾を持った獣人であった。

この世界では親の不義が疑われるだろうが、遺伝を知っている俺なら彼女の親のどちらかに獣人の血が流れていたのだろうと予測が付く。


そのクラリッサの両親だがカーン聖王国でかなり上流の貴族だったらしい。

カーン聖王国はこの魔獣の森を国境として俺が住んでいるラフタール王国と接している隣国だ。

カーン聖王国は亜人に人権があるラフタール王国と違い亜人の人権を認めず、亜人を排斥している国らしい。

これはカーン聖王国の国教であるムノー教の教義が関係しているのだが彼女は詳しい内容を知らない。

クラリッサの両親の一族は彼女が生まれると自分たちが背教徒の烙印を押されると思い最初は彼女を殺そうとしたらしい。

しかし両親はそれに反対し耳と尻尾を隠して普通の子どもとして育てることを押し通した。

なぜそんなことが通ったかというとクラリッサの母親は元王家の血筋でありクラリッサの家に降嫁してきたこともありそんなわがままが通ったらしい。

両親はクラリッサが生まれた直後に熱湯を浴びて酷い火傷を負ったことにして彼女の耳と尻尾をマントや帽子で隠し育てた。

また両親は王都では秘密が守りきれないと魔獣の森に隣接した僻地の別荘に引きこもことまでやったのだ。

一族としてはクラリッサの母親が降嫁してきた事実さえあれば良かったらしくクラリッサと両親は僻地で家族だけで暮らしていたそうだ。

しかしそんな生活も両親の一族と政敵である貴族の対立が激しくなることで終わりと告げる。

クラリッサの存在が一族に致命的になる可能性が出てきたのだ。

クラリッサと両親は一族からの暗殺者に殺されそうになり魔獣の森に逃げ込んだ。

両親はラフタール王国なら家族で暮らせると信じ魔獣の森を進んできたらしい。

魔獣の森を元貴族の両親と十歳の女の子三人だけで突っ切るなんて無茶を通り越して無謀というものだが、どんな幸運が働いたのか三人はラフタール王国一歩手前まで辿り着いた。

しかし三人の幸運もそこで尽きたのか熊に襲われてしまったというわけだ。


「お父さんもお母さんも私のせいでひどい目にあって、死んじゃった...」


「クラリッサのせいじゃないよ。獣人だから迫害するなんてその神様がおかしいんだよ。君は守ってくれたお父さんとお母さんの分まで生きるんだ。」


子猫(おれ)はまた泣き始めたクラリッサをよしよしと撫でて慰める。

クラリッサの悲惨な状況を聞き俺は地球でもあったような宗教と人種差別が入り混じったような迫害を行うカーン聖王国に酷い怒りを感じていた。


(亜人を迫害している神についても女神(あいつ)に聞かないとな。)





クラリッサを守りながら子猫(おれ)は森を歩いて行く事になるのだが、俺は気配察知を行い気配を断って忍び歩きをすることで今まで魔獣を避けてきた。

当然そんな事(忍び歩き)はクラリッサに不可能なので、俺は魔獣を倒しながら進むことを覚悟していた。

しかし彼女は俺より早く魔獣の気配を感じ取り、俺より上手に気配を断って森を進んで行く。

いくら獣人であっても人間しかも貴族として生きてきた彼女がなぜそんなスキルを持っているのか疑問に思い彼女に聞いてみた。


「クラリッサは誰かに森の歩き方を習った?」


「ん?耳を澄まして音を立てないように歩いているだけだよ?」


どうやら彼女は生まれつき隠形や気配察知の素質があり、子猫(おれ)が努力して会得したスキルを生まれ持った素質だけで越えていったらしい。

何たるチート、この状況だと子猫(おれ)が少女に守ってもらう形じゃないかと俺は落ち込んでしまった。



クラリッサには色々びっくりさせられたが、さすがに十歳の少女の体力だけは隠し様が無くしばしば休憩を取る必要があった。

俺は彼女の両親が持っていた荷物をポケットに入れており、そこから水や食料を彼女に渡していた。


「プルートそろそろ夜だね。」


「うん、夜は木の上で過ごそうかと思ってるんだけどどう?」


「それでいい。」


クラリッサを連れて夜の森を歩くことはさすがに難しい。

なので夜は木の上に魔法の手(触手)でよじ登り眠ることにする。

木の上ではクラリッサは子猫(おれ)を抱きかかえ、俺は魔法の手(触手)で彼女と木をしっかりと固定する。

子猫(おれ)はクラリッサの良い匂いにドキドキしながら眠りに落ちていくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


とりあえず本作品のメインヒロイン(予定)の猫娘の登場です。


お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。

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