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猫は争いとなる原因を知る

エルフ(・・・)の血ですか?」


ちまたではそう噂されておる。というか、儂がエーリカ先生から聞いた話によると、どうも本当らしいのじゃ」


「それが真実とすると…。なるほど、エルフの血を引くと噂されるラフトル伯爵家から嫁いでくる令嬢を暗殺しようとしたとなると、バーノル伯爵がムノー教を進行しているということが真実味を帯びてきますね」


「うむ。それともう一つ、今のラフトル伯爵の奥方…ハンナ様は、コーズウェル公爵家から嫁いできた方なのじゃ」


 暗殺されそうになったニーナは、正妻であるハンナの実子である。


「そうなのですか。つまりバーノル伯爵は、コーズウェル公爵家の血筋…この場合は孫に当たる人物を暗殺しようとしたことになりますね」


「そうじゃ。コーズウェル公爵としては、他家に嫁いだとはいえ自分の孫に当たる娘が暗殺されそうになったのじゃ。真実を知れば、放ってはおけなくなるじゃろう」


 この世界に限らず、貴族にとって自分の娘を政略結婚させることは当然のことである。いわば道具扱いと行っても良い。

 しかし、そんな風潮があるからと言って、自分の子供である娘を大事に思わない訳がない。


「コーズウェル公爵は怒りますか?」


「もちろん怒るのじゃ。何しろコーズウェル公爵はハンナ様を溺愛しておったからの~」


 トビアスは困ったように顎髭を撫でていた。


(そうなると、コーズウェル公爵家とバーノル伯爵家が対立することになるか。あれ、メグはラフトル伯爵家とバーノル伯爵家の間で争いが起こると言っていたな?)


 子猫(おれ)は、ラフトル伯爵はバーノル伯爵家と対立することを望んでいないことを知っている。だから、破談になった真相が伏せられているのだ。


「その話の流れだと、バーノル伯爵家と対立するのはコーズウェル公爵家ではありませんか?」


 不思議に思った子猫(おれ)はトビアスに尋ねる。


「…コーズウェル公爵家が表だってバーノル伯爵家と対立はできぬ。何しろラフトル伯爵が真相を隠しておるからの。そのため、コーズウェル公爵家が真相を知れば、怒りの矛先はラフトル伯爵に向かうことになるじゃろう」


「ラフトル伯爵にですか?」


「うむ。コーズウェル公爵としてみれば、嫁がせようとした娘が暗殺されかけて破談になったというのに、それに対して報復もせずに黙りを決め込んでいるラフトル伯爵の方に怒りを覚えるじゃろうて。何せ、ハンナ様がラフトル伯爵家に嫁ぐのをコーズウェル公爵は反対しておったからの」


「えっ、そうなのですか?」


「そうなのじゃ。ハンナ様を見初めたラフトル伯爵じゃったが、コーズウェル公爵はハンナ様を溺愛しておられての。最初は『貴様のような軟弱な者にハンナはやれぬ』と断られたのじゃ」


「それなのに、ハンナ様は現在ラフトル伯爵の奥方ですが?」


「どうしたわけか、コーズウェル公爵の奥方はラフトル伯爵を気に入ったらしくての~。そこでまあ奥方様が一計を案じて、『ハンナをめとりたいなら、ドラゴンの卵をってくるぐらいの勇気が必要ですわね』と条件を出してくださったのじゃ」


 トビアスは感心したようにそう言ったが、


(ドラゴンの卵って…。普通は不可能だろう?)


 子猫(おれ)は逆にあきれてしまった。


 ドラゴンはこの世界でも最強の魔獣の代名詞である。俺達が取りに行った冬虫夏草などとは比べものにならない。ドラゴンの卵を取ってくるとなれば、特級クラスの冒険者…いや伝説の勇者レベルの力が必要だろう。

 

「それで本当にラフトル伯爵…ディルク様はドラゴンの卵を獲ってこられたのですか?」


 以前会った時のたたずまいから、ラフトル伯爵は武芸に秀でているとは思えなかった。しかし、ハンナをめとっていると言うことはその難問をクリアしたはずだ。


 少し脱線してしまうが、どうやって条件をクリアしたのか、子猫(おれ)は興味をそそられてしまった。


「いや、ラフトル伯爵はドラゴンの卵を獲ってくることができるほど武芸には秀でておらぬ。また伯爵家の財力に物を言わせるとしてもドラゴンの卵を見つけ出し、獲ってくるという依頼を引き受けるような冒険者などおらんかった」


「では一体どうやって?」


「まあ、ドラゴンの卵というのはとある条件を満たす為の話での。当時、ハンナ様はとある病にかかっておられたのじゃ。その病を治すために必要と言われていたのがドラゴンの卵だったのじゃ。つまりハンナを娶るには、病を治すための(ポーション)を持ってくることが条件だったのじゃ」


「なるほど」


「コーズウェル公爵の力を持ってしても治すことのできない病の治療薬を見つけ出す。まあ、普通は無理な条件じゃった。しかし、それに一役買ったのが、エーリカ先生だったのじゃ」


「…そういうことでしたか」


 ここまでの話を聞いて、子猫(おれ)はラフトル伯爵が奥方であるハンナやエーリカに対して頭の上がらない態度であったことに合点がいくのだった。


「まあ、エーリカ先生の協力でラフトル伯爵はハンナ様をめとることができたのじゃが、もちろんコーズウェル公爵は大反対しておった。しかし約束を破るわけにはいかず結婚を認めたのじゃが、その際にいろいろとラフトル伯爵と約束したようなのじゃ」


 つまりラフトル伯爵は、コーズウェル公爵から「ハンナ()を不幸にしたら分かっておるよな」といったことを言われていたのだろう。


「つまり、コーズウェル公爵から何か言われれば、ラフトル伯爵は従うしかない…ということなのですね」


「そうなるじゃろうな」


 そう言ってトビアスはため息をついた。


(確かに真実を知ればコーズウェル公爵は弱腰のラフトル伯爵に文句を言うだろうな。最悪バーノル伯爵家との戦争をけしかけるかもしれない)


 ニーナ(孫娘)の暗殺の件だけでなく、バーノル伯爵がムノー教を信仰していることもそれに拍車をかけることになるだろう。


 子猫(おれ)も暗殺者を送ってきたバーノル伯爵に対し不信感を持っているし、もしムノー教を信仰して亜人の迫害をしているなら何とか懲らしめたいとは思う。しかし、子猫(おれ)の前世は平和ぼけした日本人なのだ。ムノー教を信じているからと言ってラフトル伯爵とバーノル伯爵を争わせたいとは思ってはいない。何しろ戦争となれば大きな被害を受けるのは一般市民なのだから。


(コーズウェル公爵家に絶対に漏れないようにするべきだな)


 子猫(おれ)は、朝一でクラリッサにドロシーに破談の真相を喋らないように口止めに行くことに決めた。


ご主人様(エーリカ)も僕も争いが起こることは望んでいません。もちろんクラリッサもです」


 子猫(おれ)はトビアスにそう告げたのだが、


「儂も争いは好まぬのじゃが…さてどうしたものかの~。」


 トビアスは困った顔をして顎髭を撫でる。


「クラリッサには、この件に関してドロシーさんに真相を話さないように口止めしますが?」


「うむ、それはまあ当然の処置として、問題はメグ嬢をどうするかじゃな」


 このまま暗殺者として警備兵に突き出すのは簡単だ。そうなればメグの命はどうなるか分からない。まあ、それもありとは思うのだが、彼女を見捨てるようで居心地が悪い。


(メグがクラリッサを狙うのは、クラリッサが嫌いとかじゃなくてそう命令されたからだよな~)


 子猫(おれ)は、メグが親切に女子寮を案内してくれたことを思い出す。あの態度が演技であったとは子猫(おれ)には思えなかったのだ。


(何とかメグにクラリッサの暗殺を思い止まってもらわないと)


 子猫(おれ)はどうすればメグを救えるのか知恵を絞るのだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。



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