子猫のミサは奇跡を起こすのか
これは一週間前にアデリーナと別れた後の話(続き)その4とミサの続きです。
ここに出てくる宗教観は個人的な意見で特に特定宗教に関して何か意図するものではありません。
子猫は悩んでいた。
村の猫と森猫そして犬達を”好奇心の女神”の信者にすることができ、当初の目標である100人の信者を集めることは出来た。
後は女神を讃えるミサを行えばアレが戻ってくるはずなのだが、日本人の俺にはミサで何をするか全く思いつかないのだ。
村の猫に信者って何をすれば良いのって聞かれた時に適当に答えてしまったが、実は俺は宗教行事にあまり詳しくない。
ここが日本であればちょっとググれば何でも調べれるのだが、この世界ではそんなことは不可能だ。
誰かに聞いてみる...人間の言葉を話せない子猫が誰に聞こうというのだ。
筆談で...字はなんとか書けると思うが、猫が筆談してきたら俺だったら自分の頭を疑ってしまうな。
落ち着け、まずなけなしの自分の知識をもう一度総動員するんだ。
ミサ...ミサと聞いて俺が最初に連想したのは黒ミサだ。
魔女がやる悪魔を讃えるのがサバトで黒ミサはサタンを讃える儀式だ....真逆じゃん。
いやでもミサには違いない。
確かサタンの像の前で生贄を捧げて悪魔を呼び出すんだっけ。
って生贄なんか捧げたら逆に神罰を喰らってしまうだろう。
うーん、知っている宗教を全部あげて考えてみよう
仏教って仏像を拝みながらお経を唱えるんだっけ。うん全然ミサじゃ無いし猫にお経は無いだろ。
神道って神社だと確か神器を祭ってあった気がするが”好奇心の女神”の神器って想像ももつかないな~。
キリスト教はドラマの結婚式シーンとかで教会が出てくるけどそれだけで、後のイメージが全くわからない。
イスラム教....色々あるので触れるのはやめておこう。
いかん俺の知識じゃ参考にすらならん。
悩んでいると、そういえばジム村には教会があることを思い出した。
極彩色の彫刻だらけで俺には教会とは認識できてなかったので忘れていたが、確か豊穣の女神が祀られているはず。
同じ世界の神様だからあの教会のミサを参考にすれば良いのではないか。
ということで俺はジム村にお出かけすることにした。
◇
村に着くとカリンが出迎えてくれた。
なんで俺が村に来ることが分かったのだろう。
「カリンさん、こんにちは。」
「こんにちは坊や、森猫を信者にしてついでに犬達も手なづけたんだって。流石あたしが見込んだ猫だね~。」
カリンは森での出来事を知っているようだ。
誰から聞いたんだろう。
クロスケ辺りから聞いたんだろうか?
「いえ、みんな女神様のお陰です。」
自分で言っていて鳥肌が立つぐらいうそ臭いセリフだ...orz。
「はん、女神様の力だけじゃそんなうまくいくわけ無いだろ。坊やが頑張ったからさ。」
カリンは俺を持ち上げてくるのがちょっとこそばゆい。
「ところで少しお伺いしたことがあり今日はカリンさんに会いに来ました。」
「なにさ、あたいと坊やの中だなんでも聞いておくれ。」
なんかカリンさんこの前の集会で信者になるって言ってからすごく馴れ馴れしくなった。
すぐに顔をスリスリしてくるのがこそばゆい。
「この村に教会がありますよね。実はそこで行われるミサについて聞きたいのですが...カリンさん知っておられますか?」
「教会でミサ? ああ子猫はミサをやりたいとか言っていたね。 ミサってのがあたしにはよくわからないが時々教会に人が大勢集まって何かしているのは知ってるよ。」
「多分それがミサだと思います。カリンさん集まった人がどんなことをやっているか知っておられますか?」
「知ってるよ。ときどきご相伴に預かるしね。」
猫のくせにカリンは難しい言葉を良く知ってるね。
ん?ご相伴ってミサで何を貰っているんだ。
「ご相伴ってミサで食べ物が出るのですか?」
「ああ、血の滴るような肉をいっぱいもらえるから猫達には大人気さね。」
ミサで血の滴るお肉が出る?
あれ、それってもしかして黒いミサじゃありませんか?
「そのミサって夜中に開かれたりします?」
「いんや、夜に人は寝るもんだよ。昼間に決まってるじゃん。」
昼間に黒ミサをやることはありえないよな。
だんだん俺は混乱してきた。
「村人はみんなそのミサに参加するのですか?」
「そうだね、村長を始めたいていの人は集まっている気がするよ。猫は教会には入れないから外から見てるしか無いけどみんな集まってワイワイ言いながら楽しそうにしているよ。」
....なんかこの世界の宗教は俺の考えている地球の宗教とは根本が違っているのかもしれない。
俺はこの村の教会のミサを参考にすることは諦めることにした。
「そうですか、カリンさんの話は大変参考になりました。ありがとうございます。」
「坊やのやりたいミサもアレならあたしも大賛成だよ。」
「僕がやるミサには食べ物は出ませんよ。」
「そうかい、それは残念だね。ああ、でも坊のミサにはちゃんと参加するよ。何時やるか決まったら知らせておくれ。」
「はい、決まりましたらお知らせします。」
俺はカリンと分かれて村をとぼとぼと歩き回りながら考え続けた。
(この村の教会のミサはあまり参考にはならない、やっぱり自分で考えるしか無いな。)
歩いているうちに村の中央の創立者ジムさんの石像のところまで来てしまった。
ジムさんの石像は日本でいうところの二宮金次郎さん的なものでなく地蔵に近い出来栄えで、誰が置いたのかしらないがお供え物まで置いてあった。
それを見た瞬間俺の中に閃くものあった。
(お地蔵様の祠って田舎にあったな~。時々集まって祠の前でみんなで拝んだ事があったけど、あれで良いんじゃね。)
◇
森猫の洞窟を訪れるのはエーリカが眠ってしまった深夜にしている。
この前の出来事以来、子猫が森に一人で入るとエーリカが怒るからである。
俺が洞窟に入ると何故か子猫と子犬の軍団にやってきて取り囲まれスキンシップの嵐に見舞われる。
このもふもふとした萌えの壁を越えなければ洞窟の奥に進めないのだがこんな可愛い集団を蹴散らして進むことができるワケがない。。
男には絶対不可能とわかっていても挑まなければ行けないこともあるがこれは絶対に無理、ミッションインポシブルだ。
30分ほどしてから気力と体力をほとんど失った子猫はサミーの元にたどり着く。
サミーにミサをやる為に良い場所がないかと尋ねたら洞窟の奥の部屋を使えば良いと連れて行かれた。
「この洞窟の奥はいくつかの部屋に別れててね、そのうち一番大きな部屋は使ってない。ここなら100匹は楽に入れると思うがね。」
「そうですねここなら魔獣に襲われる心配もないし最適ですね。」
洞窟は森猫の祖先が魔獣から奪ったもので、猫達が使ってなかった部屋にはその当時のまま放置されており、魔獣が残した色々なものが残ってたりする。
何に使うのかわからない木切れや石ころなどが残っており祠と女神像を作るに資材としては十分ある。
「手始めにこの石を積み上げたいと思うのですが、誰か手を貸してもらえませんか。」
「....無理でしょ。」
「?」
「坊やも猫ならわかるでしょ。猫に石なんて運べないよ。」
サミーが呆れた声で俺に言う。
俺はそこで自分の考えがいかに浅はかだったかに気がついた。
猫の手、かわいい肉球がある前足だが、この猫の手では物を器用につかむことは出来ない。
某ネコ型ロボットが物を持てるのは手にものが吸い付くからだったっけと下らないことを考えてしまったが、猫が物を持てないのはかなり致命的だ。
「前に坊やが魔法で作ったホケンにやらせたらどうだい?」
「ホケン? ああゴーレムのことですか。力は十分だと思うのですが、ゴーレムの手は指が無いのでやっぱり物を持つのは難しいです。」
「ホケンでも無理とするとどうするかね~。犬にお願いしてもあいつら猫よりぶきっちょだろ。」
「そうですね。犬もこんな作業は無理でしょう。」
場所と資材の目処が立ったが、猫と犬では物が掴めず物が作れないという致命的な欠陥が判明してしまった。
さて、どうやって解決すれば良いのか....解決の目処が立たないまま俺は洞窟ウロウロする。
「...でさ、あの部屋に小さな人影を見かけたのにお母さんは信じてくれないニャ。」
「だって、あの奥の部屋は誰も使ってないし、人がこの洞窟にいるわけないニャ。」
「おれ、あの部屋からコツコツと音がするのを聞いたことあるニャ」
「あっ、あたいもその音を聞いたよ。なんか地面を蹴っているみたいな音だったニョ。」
子猫が1歳を過ぎ、そろそろ大人になりかけの猫達の集団の前を通ると猫達が集まって何か噂話をしていた。
聞こえた内容から推測すると怪談っぽい。
俺は怪談が大好きなので、猫がする怪談話にちょっと興味を持ってしまった。
「怪談なら僕も混ぜて下さい。」
「あっ神官様。カイダンってなんニャ。」
「うちらはこの奥の部屋で人影や音がするって噂してるだけニャ。」
「それを怪談というのですが。もしかして森猫さんはお化けとか信じてないのですか?」
「お化けは信じてるニョ。お母さんたちが言うには森の奥にはゾンビがいるから気をつけなさいって言われてるニョ。」
「...ゾンビとかゴーストとかいるんですよね。」
こっちの世界じゃゾンビとかゴーストが当たり前に存在するから怪談って無いのか。
夏にみんなで集まって怪談が出来ないとは残念である。
「では皆さんはその人影や物音がお化けじゃないとすると何だと思っているのでしょうか?」
「そりゃ精霊人じゃないかニャ?」
「精霊人? 精霊じゃなくて?」
「そうニャ。神官様は精霊人を知らないのニャ?」
「すみません、まだ子猫なもので精霊人てどんなものか知りません。」
「精霊人は、小さな精霊の人たちのことニャ。とても恥ずかしがり屋さんで猫前にはめったに出てこないニャ。」
「お母さんは悪い子には見えないって言っていたミャー。」
「悪い子は髭を結ばれちゃうって聞いたニョ。」
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猫達からの話をまとめると、精霊人とは地球でいうコロボックルのような小人らしい。
彼らは恥ずかしがり屋なのかなかなか姿と見せないらしいが、時々いたずらをしたり、貢物と引き換えに何かを手伝ってくれたりする不思議な連中らしい。
人間は彼らを見つけると幸せになれるとか家に住み着いてくれるとその家に富をもたらすとかと言ったことを信じているらしい。
「では、この奥の部屋に精霊人がいるかもということですか?」
「「「そうニャ」」」
ハモらなくても良いのですが...どうやらこの奥に何か居そうということで猫達の意見は一致したらしい。
俺は少し興味がわいたのでその部屋を覗いてみることにした。
目的の音がする部屋はコボルトの寝床だったのか地面が少し盛り上がり枯れ草や枯れ葉の残骸が散らかっていた。
猫の目でも奥まで見通せないほど薄暗く、俺は地面の凸凹に足を引っ掛けないように慎重に歩いている。
「「「神官様、精霊人いるニャ?」」」
「居ませんね~」
部屋の奥までたどり着いたが、噂の精霊人は見つからなかった。
猫達が聞いた音もネズミなんかがたてたのだろう。
俺はUターンして部屋から出ることにした。
ムギュ
俺の足元から何かを踏んづけたような感触が伝わってくる。
足元を見ると俺は体調10cmほどの小人を踏んでいた。
ムギュ
ムギュ、ムギュ、ムギュ、ムギュ、ムギュ
踏むとなかなか愉快な声で鳴くので俺は面白くなって連続で踏んでしまった。
「やめんか~」
じたばたとしながら小人が騒ぐので踏むのをやめ小人を観察することにした。
小人といえばアリエッ○ィとかとんがり帽子の○モルとかコロボックルとか色々期待していたのだが...ちっちゃいドワーフ?...が俺の足元にいた。
この世界にドワーフがいるかはまだ確認していないが俺が踏んづけた小人はまさにドワーフそのものの髭面で小太りだった。
「貴方は精霊人ですか?」
「....」
小人は黙っている。
ムギュ
もう一度踏んでみる。
「儂を踏むんじゃない。この駄猫が.....」
ムギュ、ムギュ、ムギュ、ムギュ、ムギュ、ムギュ、ムギュ、ムギュ、ムギュ
失礼な小人には連続ストンピングをお見舞いする。
ああ、なんか漫画でローラに引かれた奴みたいにペシャンコになってしまった。
「やり過ぎちゃったかな?」
俺が踏むのを止めると、小人はまるで逆転再生したかのように元の姿に戻っていく。
「お願い、もう踏まないで欲しいのじゃ。」
なんかいきなり腰が低くなったので俺は小人と話をすることにした。
「で、貴方は精霊人ですか?」
「そうじゃ、精霊人、小神族、小人族などと色々言われているのじゃ。」
「で、その精霊人がなんでこんなところで騒いでいるのでしょうか?」
「もともとこの洞窟は儂らが住むために掘ったものじゃ。それをコボルトやらゴブリンやら挙句に猫達に占領されて迷惑しているのはこっちじゃ。」
どうやらこの洞窟は儂ら精霊人が住んでいたものをコボルトを始め色々な魔獣に占領された挙句今は猫が占領しているらしい。
「自分たちの洞窟ならそういえば良いのに。」
「バカを言うな。魔獣に言葉なんぞ通じるか。通じたとしても殺されるか追い出されるかじゃ。猫も儂らを見たらネズミのように儂らを襲って食べてしまうだろう。」
あっちの世界の猫ならそうかもしれないけどこっちの猫はかなり頭がいいからいきなり襲って食べちゃうとかはないと思うけどな~。
「精霊人て美味しいのでしょうか?」
可愛らしく舌なめずりしながら子猫は聞いてみた。
「ひげ面のオッサンを食べても喉に髭が刺さるだけだぞ。」
精霊人はかなりビビっているみたいだ。
「しかし、猫共に見つからないように姿隠しの魔法を使っていたのになぜお前は儂に気づいたんじゃ?」
「いえ、気づいたというか踏んづけてしまったので。」
「姿隠しの魔法中は踏んづけても気が付かないのじゃ。それともお前は魔法を見破る力でも持っているのか?」
「魔法を見破る力があるかどうかは知りませんが、僕は魔女の使い魔なのでそのせいかもしれません。」
「使い魔ならありるかもじゃ。しかし魔女の使い魔がこんなところで何をしてるのじゃ。」
「使い魔じゃなくて猫と犬達をとある神様の信者にするためにここにいるんですけどね。」
「猫を神の信者にするじゃと。バカも休み休み言え...」
ムギュ
「うむ、猫が信者になっても不思議ではないのじゃ。」
物分かりのいい精霊人で助かる。
「ところでこの洞窟を掘ったということは、精霊人は穴掘りが得意なんですね。」
まあ、まんまドワーフの外見だし穴掘りが得意でも不思議ではない。
「そうじゃ、精霊人は穴掘りも得意だし器用だから道具作りもかなり得意じゃぞ。親切にしてくれた人にはお返しに靴を作ってやったり布を織ってやったり家計簿も付けてやったするのじゃ。まあ、俺等は計算は苦手だから家計簿はいい加減じゃったがな。」
小人さんが靴を作ってくれる話は向こうの世界でもあったが、こっちじゃ本当にあるわけか。
しかしいい加減な家計簿はお礼じゃなくて嫌がらせな気がするが....。
「もしかして石像とか祠とか作れます?」
「どれぐらいの大きさの石像じゃ?お前さんぐらいの大きさなら寝ている間に作れるぞ。」
「おお、それはすごいですね。」
「じゃが、作ってはやらんぞ。」
「えっ?」
「言ったじゃろ、親切にしてくれた人にはお返しする。お前さんは先程から儂を踏んづけてばかりでとても親切とは言えんじゃろ。」
どうやら精霊人は俺が踏んづけたことを怒っているらしい。
せっかく女神像と祠を作る道が見えてきたのに精霊人にすねを曲げられてはどうしようもない。
俺はなんとか精霊人を宥めて祠を作ってもらう術を考える。
「ところで貴方は今まで猫達に気づかれることなくこの洞窟で暮らしていたのにどうしていまさら見つかるようなことを始めたのですか?」
「それは、猫達だけじゃなく犬達までこの洞窟に来てしまったので儂らの住む場所が騒がしくなりすぎたからじゃ。このままじゃ見つかって洞窟には住めなくなりそうなので別な場所に移動するつもりだったのじゃ。」
どうやら精霊人はこの洞窟から引っ越す準備を始めていたらしい。
「このままここに居てはダメなのですか?」
「お前さんにも見つかったしこのままここに居ては猫や犬に見つかりいつ襲われるかわからんじゃろ。儂らはここから出て行くのじゃ。」
きっと精霊人達はこうやって見つかる度に引っ越しを続けてきたのだろう。
俺は少し精霊人が可哀想になってきた。
「猫も犬もあなた方を襲うことはないと思います。」
「それを信じろと?」
「僕はここにいる猫や犬達を女神の信者にすることが出来ました。そして僕はその女神の神官です。神官の言うことなら猫や犬達は聞いてくれると思います。」
「....」
「信じれないと言われるなら僕に付いて来て猫や犬達の状況を見てくれませんか?」
子猫は精霊人を咥え背中に乗せ部屋を出た。
咥えられた精霊人は食べられるかと思ったのか暴れたが背中に乗せて歩き始めるとおとなしくなった。
俺は猫や犬達の間を歩きまわりサミーやカールといったそれぞれの長と話をしていった。
「サミーさん子猫たちが奥の部屋に精霊人が居ると言っていますが、みなさんはもし精霊人がいたらどうするおつもりですか?」
「精霊人?あたしゃ見たものしか信じないからね~」
「もし見つけたら?」
「別にどうもしないよ。そりゃ喧嘩でもふっかけてくるなら戦うかもしれないけど、魔獣でもないネズミでもない奴らに興味はあまりないね。それとも女神様は精霊人がお嫌いなのかい?」
「いえいえ、女神様は精霊人と仲良くされたいと思っておられますよ。」
「なら猫達も仲良くするさ。」
「カールさん、犬達はどうでしょうか?」
「リーダーが仲良くしろというなら仲良くするぞ。」
俺は子猫や子犬といった子どもたちにも話を聞き、精霊人と争う意思が無いことの確認を取っていった。
話を聞き終えると部屋に戻り精霊人を降ろした。
「どうでしょうか。これで僕の言っていることを信じてもらえますか。」
「お前さんの言うことは信じれると思うのじゃ。」
「信じてもらえて良かったです。そういえばお互い自己紹介もまだでしたね。僕はプルート、森の魔女の使い魔兼”好奇心の女神”の神官をやっています。」
「儂の名前はアントン・ハンメルトじゃ。この洞窟の精霊人達の長をやっておるのじゃ。」
「精霊人達って事はこの洞窟にはあなた以外に精霊人が居るのでしょうか?」
「当たり前じゃ、みんな出てこい。こいつは信用できる猫じゃ。」
「ミャっ!」
アントンが部屋の隅に声をかけると物陰のあちこちから多数の精霊人が顔をのぞかせたので俺はびっくりしてしまった。
大半がアントンにそっくりな髭面の小太りだが、何人か女性らしい髭のない顔も見えた。
ざっと見た感じ総勢100名以上居るのではなかろうか。
「この子猫が言うにはこの洞窟にこのまま住んでも問題が無いということじゃ。」
「猫や犬は?」
「大丈夫じゃ、儂が見たところ奴らは儂らに興味が無いし、儂らと仲良くしたい女神の信者らしいから害を成すことはないと思うのじゃ。」
「猫や犬が信者?」
「本当なのか?」
「ありえないだろう」
どうやら精霊人は猫や犬が女神の信者になったことを信じれないらしい。
「皆さんが猫や犬が信者になったことを信じれないのは分かります。けどこれを見てください。」
子猫は爪を出して自分の前足を引っ掻いてわざと傷をつけた。
そして回復の奇跡を唱えその傷が治ったことを見せる。
「傷が治った!」
「本当に回復の奇跡なのか?」
「精霊魔法じゃないの。」
「いや、精霊は動いてなかったぞ。」
「本当に女神の加護があるのか。」
「お前たち、今のは本当に回復の奇跡じゃ。子猫は本当に女神の神官じゃ。だから猫や犬も信者になっても不思議はないじゃろ。」
トクトクとアントンが猫や犬、そして俺のことを話し仲間を説得していく。
長く住み慣れた洞窟を離れたい者は居ない為最終的に彼らは猫や犬達を信じてくれた。
「よって、儂等はここに住むことを継続することに決定するのじゃ。」
「「「賛成!」」」
精霊人達はアントンの言葉に頷くと物陰に引っ込んでいった。
ここで一緒に暮らすことに合意はしても結局隠れてしまうのかと思ってしまったが、長年そうやって生きていたのだからしょうがないのであろう。
「ありがとうなのじゃ。これで儂らも安心して暮らせるのじゃ。」
「良かったですね。そこでお願いなんですが...」
「石像と祠じゃったかな。なんとかしてやるのじゃ。」
俺が見た精霊人のモノづくりの能力はすごいの一言であった。
木切れや石ころからあっという間に祠や石像を作り出していく。
あの小人たちがどうやって物を作っていくのか作業風景を見たかったのだが、彼らは絶対に作業風景を見せてくれなかった。
なんでも物を作る姿を精霊人以外に見られた者は物作りの能力をなくしてしまうらしい。
俺は誰も居ないのに勝手に出来上がっていく祠について猫や犬達には女神の奇跡と言ってごまかしておいた。
これによってますます信仰心が上がるというものだ。
数日後、女神像+祠が完成し子猫はミサを始める為に村猫に森の洞窟までやってきてもらう日を決めた。
昼に集まれれば良かったのだが、さすがに猫達がぞろぞろと村を出て行くのは不審がられるのでミサは夜に行うこととなった。
「本当に祠を作ってしまうなんてさすがだね~」
カリンさんに祠を見せたところすごく感心してもらえた。
後、村猫と森猫の間には村から捨てられた猫とのうのうと村で暮らす猫というある種の軋轢が会ったのだが、森猫の生活も犬と共同体となることで安定し、双方とも女神の信者となったことでそういったわだかまりをなくし今後は頻繁に交流してくこととなった。
◇
ミサ当日、100匹の信者の前で子猫はお願いのポーズをとって女神に念じた。
『女神よ信者を規定の数集めたぞ。今からミサを行うから奇跡を起こす準備をしておけ』
『えっ?もう信者が集まったのですか?どうやって...100人以上は必要なんですが本当に集まったのですか?』
すぐさま女神から返事が帰ってくる。
子猫が短期間で信者を集めたことをすごく怪しんでいる。
『ちゃんと信者は集めた。お前が言ったとおり100人いるぞ。』
『100匹? って全部猫や犬じゃないですか。』
『子猫が神官をやれるぐらいだからこいつらも信者になるはずだろ?』
『そんな屁理屈を...このお馬鹿~~~~』
女神が叫ぶが俺は知ったこっちゃない。
「猫と犬の皆さん今からミサを始めます。」
ということでミサを始めました。
賛美歌とか歌えば良いのだろうけど祠&女神像の前でそれはないので全員で女神像を拝んでいます。
「「「「ありがたや~」」」」
「ナンマンダブ~」
俺だけ何か違う気がするが気にせずに一心に祈る事数分、女神から通信が来ました。
『非常に不本意ですがかなりの信仰心が溜まってきています。』
女神の言い方だと信仰心て何かエネルギーっぽいですね。
今に充填率120%とか言い出しそうで怖い。
『そろそろ奇跡が起こせると思います。信者の皆さんに願い事をお祈りするように伝えてください。』
そろそろ信仰心が溜まったみたいだ。
俺はアレが戻ってくるように必死にお祈りを行う。
しばらくすると女神像が眩しく輝き洞窟を眩しく包み込んだ。
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:
光が収まると辺りは静かになった。
猫と犬達は女神が起こした奇跡にびっくりした様子で辺りをキョロキョロ見回している。
俺もあまりの眩しさに瞑っていた目を開きアレを確認した....アレ?
『女神よ何も変わってないのだが....』
『おかしいですね、ちゃんと奇跡は発動したはずですが。発動しすぎで因果地平にでも飛んで言ったのでしょうか。』
『女神の奇跡はイ○なのか?なぜ女神が昭和のアニメに詳しいのか置いとくとして、100人集めてミサを行えば治ると言っただろうが?説明と謝罪と倍賞を要求するぞ。』
『ちゃんと願い事をお祈りしましたか?』
『アレが戻ってくるように必死に願ったわ。』
『貴方だけじゃなく、他の信者は?』
『へっ?』
『奇跡は一人の願いではなく、信者達が願うことが実現するものですよ?』
神官の俺の願いでは無く、信者達の願いが実現するという女神の言葉に俺は愕然とした。
つまり俺がアレを取り戻すには信者全員にそのことを願って貰う必要があったわけだ。
『女神はそんなこと言わなかったじゃないか。』
『聞かれなかったし、普通に知っているものとばかり...』
『知っている理由があるか~』
その後女神は奇跡を起こしたから疲れたと言って俺からの問いかけに答えなくなった。
(女神め逃げやがったな)
結局猫や犬のうち何人かが回復の奇跡を使えるようになっていた。
まあ信者になる動機から考えると当たり前の結果である。
カリン、サリー、カールからはすごく感謝されたが、俺は仏頂面でそれに頷くだけであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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